)” の例文
娘は何か物をべかけていたらしく、片袖かたそでの裏で口の中のものを仕末して、自分の忍び笑いで、自然に私からも笑顔を誘い出しながら
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ゆっくりべなさいって」とりつ子が心配そうに云った、「少しずつ、ゆっくりって、お医者さんからよく云いつけられてるのよ」
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
馬「うちでせえありゃア化物屋敷でもなんでもい、有難い、何かべられましょうか、腹が減って居るから何でもい早く喰いたい」
子供たちは綿菓子わたがしべながら、稚児ちごさんが二つの扇を、眼にもとまらぬ速さでまわしながら、舞台の上で舞うのを見ていました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
『じゃ、おじさんが代を払ってやるから、そばを喰いねえ』と、申しますと、商売物のそばをべると、冥利みょうりがつきると申します。
奉行と人相学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
なかいてたら早う薬まわりますさかい、なるだけ余計べとことして、孰方どっちも相手の御飯の数勘定して競争で詰め込みますのんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
飯をべながら、そんな話をしているうちに、銀子は気分がほぐれ、それほど悲観したことでもないと、希望を取り返すのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
御馳走ごちそうがでて、みんながにぎやかに、面白くべたり、飲んだりして、話してゐるまつ最中、そこへあたふたと飛びこんで来たのはつばめでした。
虹猫の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
アッチもコッチもとお菓子を慾張よくばってべこぼすのを野枝さんが一々拾って世話する処はやはり世間なみのお母さんであった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
見得みえかまはずまめなりくりなりつたをべてせておれ、いつでも父樣とゝさんうわさすること、出世しゆつせ出世しゆつせ相違さうゐなく、ひと立派りつぱなほど
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
豚はべたくなかったが助手が向うに直立して何とも云えない恐い眼で上からじっと待っている、ほんとうにもう仕方なく
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
蟻はすつかりべ酔つたが、それでも人間のやうに片手をひとの鼻先で拡げて金を貸せとも言はないで、唯もう蹣跚よろ/\と、其辺そこらを這ひ廻つてゐた。
ばん年中ねんぢう臟腑ざうふ砂拂すなはらひだといふ冬至とうじ蒟蒻こんにやくみんなべた。おしな明日あすからでもきられるやうにおもつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
物をべさせるのも、薬を飲ませるのもみんなわたしの手でするのでしょう。わたしの本を読んで聞かせる声にすかされて、寝る時は寝るでしょう。
自分の実の子(もっとも彼はかに妖精ようせいゆえ、一度に無数の子供を卵からかえすのだが)を二、三人、むしゃむしゃべてしまったのを見て、仰天ぎょうてんした。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わたくしは星野ニャン子ともうします 地球のねこをんなの子であります 仕事はわるねずみべたり 追つたりいたします
「皆んな其處で御膳ごぜんべてえ——。」と、京子は自分の枕から見えるところに、一同の膳を持ち出さして、可味うまさうに喰べるのを喜ばし氣に見てゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
即ち極少量注射したら瀕死ひんしの病人が生き返るというようなものではなくて、実際は米かパンのようなもので、毎日べていて栄養のとれるものなのである。
科学と文化 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
脚を開いて少し前かがみになったなり、落ち着き払って大きなカステラの一片をべながら、粉を受けるために掌をくぼませて、顎の下にあてがっている。
はしにはかならず精霊様の麻稈おがらを折って用い、めいめいがべる前にまず辻々で無縁ぼとけを祭り、または少しずつ近所の家に配ってまわるという例も多い。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あの位好きな先生を苦しめたかと思うと僕は本当に悪いことをしてしまったと思いました。葡萄ぶどうなどはとてべる気になれないでいつまでも泣いていました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大名華族からは又うどんかけの振舞いがあり、駄菓子屋と仕立屋と彼はべたが、隣人は固く拒み、結局駄菓子屋と仕立屋がそれを半分ずつ分けてたいらげた。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
そして飾窓の大きな白い婚礼菓子は見る人に何となく縁の遠いようにも見えまた自分に満足を与えるようにも見えた。ちょうど北極はすべてべるにいいように。
禁盃きんぱいの寺内に於いて、御酒ごしゅ頂戴ちょうだいいたしては如何と思いますが、せっかくの御芳志ごほうし、又、この中には嫌いが少い事でもあれば、お志に甘えて、存分にべ申す』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前さんの好きな作者の書いた小説ばかり読ませられている。お前さんの好きなおかずばかりべさせられている。お前さんの好きな飲みものばかり飲ませられている。
きると、密林みつりんうへたか気侭きままぶのがきで、またその飛行振ひかうぶりが自慢じまんたねでもあつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
「だってねエ、理想はべられませんものを!」と言った上村の顔はうさぎのようであった。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
先刻さっき、君は私の手料理になる栄螺さざえを、鱈腹たらふくべてくれたね。ことに君は、×××××、はし尖端さきに摘みあげて、こいつは甘味うまいといって、嬉しそうに食べたことを覚えているだろうね。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大いに感謝してむしゃむしゃべながら、またゴルフをつづける。僕は、たった六回で穴にいれた。きょうのレコードだった。浜の子供が四人、いつのまにやら、僕たちについて歩いている。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この有様を家畜となった牛に比すればどうであろう。乳牛の如き各自の小舎にわれあるいは牧場で草をべる時の有様は、怪しげなる者が来ても更に怖るるのふうなく安んじてその所を得ている。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
わが家の熟睡にある同人連はおびただしい迷惑をこうむり、翌朝それがために寝坊を余儀なくされ、そして僕は朝飯が待ち切れずに停車場の待合室へおもむいて汽車売の弁当をべなければならなくなったりする。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
「娘さんの後ろ姿を伏し拝むようにしてべてましたよ」
父親ちゃんは何事もないが、何故なぜ魚をべないのだろう。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ろ。帰ちびい」
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
いちご初熟はつなりべたいと
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
石のかまどに備えつけのなべで持って来たほしいいをもどし、干味噌をまぜた雑炊を作ってべた。そしてひと休みするとすぐにまた出発した。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
母「べんと云ったら喰べん、文五右衞門ぶんごえもん殿の亡いのちわし親父様おとっさまの代りでございます、武士に二言はない、決して勧めるときかんぞ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、西洋料理をおごらせて、たらふくべて帰ったり、そうかと思うと雨の降る晩に遅くやって来て、寝室の戸をトントンとたたいて
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一年間も何もべずにゐたのだから、虫が死ぬのは当りまへだと思つて、武士は虱の死骸しがいを掌にのせた。そしてじつと眺めた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
すでに同一感情と生活意識の上に立って生きて居るとしますれば一つのものをべ、同じ所を、なるべく同じ所に居たいのはあたりまえです。
仕方なく/\御飯の代りに西瓜をべて、孫から言ひつけられるとほりに歌を唄ひ、あぢきない日を送つてをりました。
漁師の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
緑雨が一日私の下宿で暮す時は下宿の不味まずいお膳を平気でべていた。シカモいなだの味噌煮というような下宿屋料理を小言い云い奇麗に平らげた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ずうっと下の方の野原でたった一人野葡萄のぶどうべていましたら馬番の理助が欝金うこんの切れを首に巻いて木炭すみの空俵をしょって大股おおまたに通りかかったのでした。
(新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
午餐ひるうちものからもどつてめしべた。ちつとはどうだとおふくろすゝめられても勘次かんじたゞ俯伏うつぶしつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だが、べ馴れて来ると、そんな臭味でさへたまらなく懐しくなつて来るさうで、ヅリヤンが市場に出盛る頃には、女郎屋町ぢよろやまちでさへが不景気になるといふ事だ。
新吉と差向さしむかいで晩飯をべ、日がかげるとにわかに涼しくなる頃の縁側で、虫の声の外には何の物音もしない広い庭から、崖の下の町に灯のともる景色を見ていると
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
親子おやこ三人くちおも滿足まんぞくにはまれぬなかさけへとはくおまへ無茶助むちやすけになりなさんした、おぼんだといふに昨日きのふらも小僧こぞうには白玉しらたま一つこしらへてもべさせず
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もっとも日本人が脂肪質を沢山べ、毛織物を一般に用いるようになったためかとも考えられる。
雪の話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
、一たる開けてみたところ、よい色に漬かっているわの。じゃが、其方そなたはしをつけぬうちは、誰にも、べさす事ができぬによって、一箸、喰べてみておくれ。——余りそう精を
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをべろというので、なかを見ると、うまそうな中華そばが入っていた。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)