同胞はらから)” の例文
ひげある者、腕車くるまを走らす者、外套がいとうを着たものなどを、同一おなじ世に住むとは思わず、同胞はらからであることなどは忘れてしまって、憂きことを
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
未知の同胞はらからを探していると公表したけれど、こう後から後へと妾によく似た人物が出て来たのでは、気味がわるくて仕方がない。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のちに同胞はらからを捜しに出た、山椒大夫一家の討手が、この坂の下の沼のはたで、小さい藁履わらぐつを一そく拾った。それは安寿のくつであった。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
故院がこの御同胞はらからがたを懇切にお扱いになったことによって、今もそうした方々と源氏には親しい交際が残っているのである。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
たくさんの同胞はらからたち、おもとの身にかかり候ては、朝夕は楽しかるびょうとも、何ぞにつけ、御奉公の足でまといにこそ候わめ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛する同胞はらからの顔——あまりに年若くてなめた労苦や心労のためにあおざめてるその顔——が輝き出すのを見て楽しかった。
母の同胞はらからの西班牙の磴にあるを訪はざるならん。そちも我手に接吻せしことあり。そちも我宿の一束の藁を敷寢せしことあり。昔をわすれなせそ。
若しや此の婆が虎井夫人の母では有るまいか、猶能く考えると穴川甚蔵も此の婆の子で夫人と同胞はらからではあるまいか
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そこでいよいよマハツブの話になるが、昔の昔の大昔、酸漿ほおずきとマハツブとは姉と妹、二人の同胞はらからであったという。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あねいもと數多かずおほ同胞はらからをこしてかたぬひげのをさなだちより、いで若紫わかむらさきゆくすゑはとするこヽろ人々ひと/″\おほかりしが、むなしく二八のはるもすぎて今歳ことし廿はたちのいたづらぶし
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さあれ日は過ぎ月は逝き、なれ等血もなく涙なく、よくぞ鬩めげる数千年、さても殺生はての死の、よくぞ好きなる、おゝ永遠の闘争よ、おゝ恩怨の同胞はらからよ!
海の詩:――人と海―― (新字旧仮名) / 中原中也(著)
重二郎の姉おまきを嫁にって、鉄砲洲新湊町へ材木みせひらかせ、両家ともに富み栄え、目出たい事のみ打続うちつゞきましたが、是というも重二郎同胞はらからが孝行の徳により
その日の彼等は又同胞はらからにも得べからざるしたしみて、ひざをもまじへ心をも語りしにあらずや。その日の彼等は多少の転変を覚悟せし一生の中に、今日の奇遇をかぞへざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
太夫だゆう姿に仕立てたのを見てもわかるであろうが、それとても、そもじがいとおしく、同胞はらからとはいえねたましく、私の小娘のようにもだえ、またあるときは、鬼神のような形相ぎょうそうにもなって
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
地上の罪の同胞はらからに、代る犠牲の小羊と、神の御前みまへに献げたる、堅きちかひの我なるを
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ふと眼をひらくと、肌の温みに氷河の衣がいつかけている、また一瞬間、葛城、金剛、生駒、信貴山などいう大和河内あたりの同胞はらからが、人間に早く知られる、汚される、夭死わかじにをしてしまう
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
みじめっぽく小さい同胞はらからたちがごたついている小さい貧相なわが家なんかを友達に見せたくない職場の娘さんたちは、いろいろうるさい家のそとで友達と会っている他の社会層の娘さんたちと
若い娘の倫理 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
必ず救ひまゐらすべしとて、あるじとはかりて、薬をえらみ、一七みづかはうを案じ、みづから一八煮てあたへつも、なほかゆをすすめて、病をること同胞はらからのごとく、まことに捨てがたきありさまなり。
どんな見すぼらしい初対面の人にでも、同胞はらからのような気持を
ジョホールの宮殿きゆうでんのまへに佇みしわれ等同胞はらから十人とたりあまりは
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
パリスの同胞はらからに、類のない体刑を加えたのを、もう
誰かまた思ひあがりて、同胞はらからを凌ぎえせむや。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
すべて死したる同胞はらから
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
水の都の同胞はらから
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことに家出をした妾たちの母が曲馬団の舞台にいる真一に声をかけたらしいことから考えると、真一もまた、真実に妾の同胞はらかららしい気がした。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それに四十ぐらいの女中が一人ついて、くたびれた同胞はらから二人を、「もうじきにお宿にお着きなさいます」と言って励まして歩かせようとする。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひとつ同胞はらから、あらそいなき世をつくらせ給え。ふたたびこの国の山野にあえなき無数の白骨をかしめ給うことなかれと
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さる程に友なるおうなみまかり、その同胞はらからも續きてあらずなり、私は形影相てうすとも申すべき身となり候ひぬ。
れにても同胞はらからかとおもふばかりの相違さうゐなるに、あやしきは母君はヽぎみ仕向しむけにて、流石さすがかるがるしき下々しも/″\たちへだてはけれども、おな物言ものいひの何處どこやらがく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
同胞はらからもあらず、情夫つきものとてもあらざれば、一切いっさいの収入はことごとくこれをわが身ひとつに費やすべく、加うるに、豁達豪放かったつごうほうの気は、この余裕あるがためにますます膨張ぼうちょうして
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よしさりとも、ひとたび同胞はらから睦合むつみあへりし身の、弊衣へいいひるがへして道にひ、流車を駆りて富におごれる高下こうげ差別しやべつおのづかしゆ有りてせるに似たる如此かくのごときを、彼等は更に更にゆめみざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まづ一〇四信頼のぶよりが高きくらゐを望む驕慢おごりの心をさそうて一〇五義朝よしともをかたらはしむ。かの義朝こそにくあたなれ。父の一〇六為義ためよしをはじめ、同胞はらから武士もののべは皆がためにいのちを捨てしに、他一人かれひとりわれに弓をく。
誰かまた思ひあがりて、同胞はらからしのぎえせむや。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
おゝ、恩怨の同胞はらからよ! 恩怨の同胞よ!
海の詩:――人と海―― (新字旧仮名) / 中原中也(著)
昔のままの節博士ふしはかせで、同胞はらからの星の群と
同胞はらからとはほとんど疑はるゝばかり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かくてかなしき同胞はらから
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
まだ聞きたいことが沢山あったがあまり尋ねては折角せっかく巡逢めぐりあった同胞はらからのことを変に疑うようで悪いと思ったので、もう一つだけ重大なことを尋ねた。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、彼らの潔癖にとって、最もいまわしく感じられることなので、それを是認することは、自分たちのり同胞はらからの醜悪を認めるような気がするからだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この二人の同胞はらからの間におさむという人があって、亡くなって、その子が終吉さんである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ヂドは夫のわすれたる武器を取りて立てり。その歌は沈みてその聲は重く、忽ちにして又激越悲壯なり。同胞はらからなるアンナアが彼を焚かんとて積みかさねたる薪は今燃え上れり。幕は下りぬ。
折ふしは我が家をも訪ひ又下宿にも伴なひて、おもしろき物がたりの中に様々教へを含くめつ、さながら妹の如くもてなし給へば、同胞はらからなき身の我れも嬉しく、学校にての肩身も広かりしが
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
同胞はらからは、セツの兒等こら、エノスの兒等を
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ジオスコロイの同胞はらからの火です。
御国のためのあなた方の御苦労は、きっときっと、万倍、億倍にもなって、同胞はらからの上にかがやきましょう。大君もおくみとり下さいましょう。神々もみそなわしましょう。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ一途に、愛すべきたった一人の同胞はらからであるお里を救うの外、なんの余念もなかった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
同胞はらからは、セツの児等こら、エノスの児等を
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ふく姿すがた高下かうげなくこゝろへだてなくかきにせめぐ同胞はらからはづかしきまでおもへばおもはるゝみづうをきみさまくはなんとせんイヤわれこそは大事だいじなれとたのみにしつたのまれつまつこずゑふぢ花房はなぶさかゝる主從しゆうじうなかまたとりや梨本なしもと何某なにがしといふ富家ふうかむすめ優子いうこばるゝ容貌きりやうよし色白いろじろほそおもてにしてまゆかすみ遠山とほやまがたはなといはゞと比喩たとへ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、ってわが子を引っ張って、偏殿へんでんの陰へ伴い、どうか同胞はらからの情をもって、植の一命は助けてあげておくれと、老いの眼もつぶれんばかり泣き濡れて曹丕へ頼んだ。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにぞにつけてこひしければでは如何いかばかりこゝろぼそくもかなしくもらうなれどおよばずながらわたしはちからになるこゝろあねおもふてよとたのむは可笑をかしけれど歳上としうへなれば其約束そのやくそく何時いつも/\ふことながらわたしは眞實ほん同胞はらからおもひますとなぐさめられてうれしげに御縁ごえんあればこそおやどもばかりかわたしまでめぐりめぐつてまた御恩ごをんうみともやまともくちには
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)