ところ)” の例文
旧字:
が、道行みちゆきにしろ、喧嘩けんくわにしろ、ところが、げるにもしのんでるにも、背後うしろに、むらさと松並木まつなみきなはていへるのではない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大体の構想に痕跡のぬぐうことのできないものはあるが、その他は間然かんぜんするところのない独立した創作であり、また有数な傑作でもあって
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
傘をさして散歩に出ると、到るところの桑畑は青い波のように雨に烟っている。妙義みょうぎの山も西に見えない、赤城あかぎ榛名はるなも東北にくもっている。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
広々ひろ/″\したかまへの外には大きな庭石にはいし据並すゑならべた植木屋うゑきやもあれば、いかにも田舎ゐなからしい茅葺かやぶき人家じんかのまばらに立ちつゞいてゐるところもある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ほとりの樹木など沢山たくさん枯死こししているのはその熱泥ねつでいを吹き上げたところである。赤い泥の沸々ふつふつと煮え立っている光景は相変らず物すごい。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あんな暗いところを自分はよく通って来たものだと思われる。恐らくあの暗闇を歩いた折には自分は魂ばかりになって居たかも分らない。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あれでございますか、文部省もんぶせうちましたの、空気くうきところでなければならんとおつしやいまして、森大臣もりだいじんさまがらツしやいまして。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
就中なかんずく、木村摂津守の名は今なお米国において記録きろくに存し、また古老ころう記憶きおくするところにして、我海軍の歴史に堙没いんぼつすべからざるものなり。
そんな風に、日光の差し込んでいるところの空気は、黄いろに染まり掛かった青葉のような色をして、その中には細かいちりが躍っている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ぼろぼろになった恋愛を、今さらそんなところまで持ち廻るのも恥ずかしいことだったし、子供たちから遠く離れているのも不安だった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家は農業でお父さんは村長でしたが平太はお父さんの賛成によって、家の門のところに建築図案設計工事請負うけおひといふ看板をかけました。
革トランク (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
遠浅とおあさの砂浜が多く、短距離を航海しながら船を陸に上げて宿をとり、話がつけばしばらくの間、あがったところに滞在することもできた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
更に高きところに一地区あり、ここには武士中高等なる階級の者繁栄し、軍隊の将軍と、日常生活に於ける思想行為の指導者とを有す。
武士道の山 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
同日は室堂むろどうより別山をえ、別山の北麓で渓をへだたる一里半ばかりの劍沢を称するところで幕営し、翌十三日午前四時同地を出発しましたが
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
○○○○○○○○○○○○○○ものを左下に見た時、彼は、何故か来てはならないところへ来たような気がした。そして思わず足を止めた。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
さかなの食べたがる物ですよ、それを針の先へつけて、水の中へ入れて置くと、さかなが来て食ひつく、食ひつくところひきあげるの。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
留置場でもストーヴの側の監房は少しはよかったが、そうでないところは坐ってその上に毛布をかけていても、膝がシン/\と冷たくなる。
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
真面目まじめで男の顔を見ていた。男はかつて、かの女のところへは逸作の画業にいての用事で、る雑誌社から使いに来た人だった。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして嫁の寝ている胸の真上とおぼしきところまで、その足音が来たかと思う時、その死にひんした病人がはねえるように苦悶くもんし始めた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
またその点では彼はもともと第一流の才があったから、そういう時とところを発見し、それを利用するのにてまひまはかからなかった。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それではあなた、アルフレットさんのところへはおいでなさらなかったのですね。あの方でなくてはほんとの事は分かりゃしませんわ。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
が、罠は到るところに用意されておりました。ふすまの蔭、縁の闇、およそ物のくまのあるところには、ことごとく人を配置したといってもいいほどで——
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その馬場という人物は一種非凡なところがあって、碁以外に父はその人物を尊敬して居たということです。その一子がすなわち僕であったのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
が、その代り「何ういうところで」初枝さんを殺そうとしているか? その「処の」暗示だけは、ゆくりなくも知ることが出来ました。
フランセ・ママイといってね、時々私のところ夜噺よばなしに来る笛吹きの爺さんが、ああドーデーと云う方は金に困らぬ小説家なのであろう。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
壁には幾つもの絵がところせまく乱雑に懸けてあって、どこかの戦争の絵らしく、大きな太鼓だの、三角帽をかぶって喚いている兵隊だの
西洋の大学では、どこへ行っても、男子の学生と肩を並べて教授の講義を熱心に聴き入っている女子の学生を見ないところほとんどありません。
キュリー夫人 (新字新仮名) / 石原純(著)
やがて枝々の先きが柔かくふくれて来て、すーツと新芽が延び出した。そしてその根元のところへ小さな淡褐色たんかつしよくつぼみが幾つも群がつて現はれた。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
しかし第四日目の夕景、二人の男のところへまた六人の男がやって来て、ラマルチン公園の薄暗い処で何かひそひそ語り合っていた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
大原張合はりあいなく「困りましたね、そうおっしゃっては。僕のような者のところへ嫁に来てくれる人がありません」とひそかに先方の気を引いてみる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
柏に似た葉のボオビイス・アウスが到るところに明るい緑の若葉を着けて居るのも快い。赤い粗末な瓦屋根も天然と調和して見える。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ベッキイはすっかり小間使こまづかいになりすまして、いそいそ若い御主人に従い、膝掛や手提を持って、馬車のところまで見送りに出て来たのでした。
文麻呂 なよたけ、お前はそんなところから僕の涙が見えるの?……(彼女の傍に走り寄り)なよたけ!……僕はずいぶん苦しい目にった。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「就職口と言つたところで、何処にも椅子をけて君なぞ待つてるところは無いんだから、自分にもせつせと捜さんければかん。」
源氏の藤の裏葉を七枚程書いたところへ、画報社から写真をうつしに来た。七瀬と八峰が厭がつたから私とりんとだけで撮つて貰つた。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
其処そこへこう陣取りまして、五六けん離れたところに、その女郎屋の主人が居る。矢張やはり同じように釣棹つりざおを沢山やって、角行燈かくあんどうをつけてたそうです。
夜釣の怪 (新字新仮名) / 池田輝方(著)
濛々もうもうと煙る砂塵さじんのむこうに青い空間が見え、つづいてその空間の数が増えた。壁の脱落したところや、思いがけない方向から明りがして来る。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
てんで人のところでないらしく考えられるので、移民がすくないらしい、甲州の野呂川谷などから見ると非常に美事みごとな処である
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
『じゃあ君。これから一つ機械油の——あの被害者の背中に引ッこすッた様に着いていたどろりとした黒い油のこぼれているところを探そう。』
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ほらざれば家の用ふさ人家じんかうづめて人のいづべきところもなく、力強ちからつよき家も幾万斤いくまんきんの雪の重量おもさ推砕おしくだかれんをおそるゝゆゑ、家として雪をほらざるはなし。
しかもこの関係はつかむことのできぬ偶然の集合である。我々の存在は無数の眼に見えぬ偶然の糸によって何処どことも知れぬところつながれている。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
太子を仰ぎ、太子の生涯を究めながら、知性はそこに帰依することを妨げ、何かもっといいものが別のところにたくさんあるように絶えず誘う。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
玄関を上ったところは、広間だった。その広間の左の壁には、ゴヤの描いた『踊り子』の絵の、可なり精緻せいちな模写が掲げてあった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あだかの字の形とでも言おうか、その中央なかの棒が廊下ともつかず座敷ともつかぬ、細長い部屋になっていて、妙にるく陰気で暗いところだった。
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
で、よくよく座敷の中をしらべてみると、その座敷の隅々すみずみ四隅よすみところに、素麪そうめんとお茶が少しずつ、こぼしたように置いてあった。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
ところが、今日の禅宗には段々に古いところがなくなって、どこに禅宗の禅宗たるところがあるのか分からなくなって仕舞った。
僧堂教育論 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
紀州高野山きしゅうこうやさんの道中で、椎出しいでから神谷かみやの中間に、餓鬼坂がきざかと云うがある、霊山を前に迎えて風光明媚ふうこうめいびところに、こんな忌々いまいましい名の坂のあるのは
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
津の人と、和泉の人ははるかに基経のいるところから遠ざかって行き、やっと橘の姿も見えるほどだった。ほとんど、顔を打合わせるようにはしりに馳った。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうしてこれにもとるものは工藝たるの意義を失うであろう。法則なきところにはいかなる世界もあり得ないからである。何が工藝の法則であるか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
北固山はそう韓世忠かんせいちゅう兵を伏せて、おおいきん兀朮ごつじゅつを破るのところたり。其詩またおもう可きなり劉文りゅうぶん貞公ていこうの墓を詠ずるの詩は、ただちに自己の胸臆きょうおくぶ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)