其方そなた)” の例文
中指を切られた者が既に幾人いくたり有ったか知れん、誠に何とも、ハヤ面目次第もない、權六其方そなたが無ければ末世末代東山の家名はもとより
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三人かくはたちならびしが、いまだものいわむとする心も出でず。呆れて茫然と其方そなたを見たる、楓の枝ゆらゆらと動きて、大男の姿あり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「殿様が、ふいに、其方そなたのことをお訊ねなされて、呼んで来いという仰せ。——何か貴様、お叱りでも受けるような覚えはないのか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾等われら喫驚びつくりして其方そなた振向ふりむくと、此時このとき吾等われらてるところより、大約およそ二百ヤードばかりはなれたもりなかから、突然とつぜんあらはれて二個ふたりひとがある。
むすめよ! むすめどころかい、わが靈魂たましひよ! 其方そなたにゃった! あゝ、あゝ! むすめんでしまうた、むすめねばおれたのしみも最早もうえたわ。
生憎あいにく其方そなたよろめける酔客すいかくよわごしあたり一衝撞ひとあてあてたりければ、彼は郤含はずみを打つて二間も彼方そなた撥飛はねとばさるるとひとしく、大地に横面擦よこづらすつてたふれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「軽業の一座で、その赤い髪の中に銀色の角を植え、裸体になって、鬼の真似まねをして居た其方そなたを、引取ってやったのは誰の恩だ」
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「成程これは無調法……十年前なら其方そなたはまだ子供でござったろう——やあ、思わぬ罪を作るところ何卒なにとぞひらにゆるして下され人違いじゃ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
今日我々が彼方あなた其方そなたというのはまったくこれと同じ用い方であります。したがって殿や様は君ということばとは非常に意味が違うのであります。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
其方そなたはけたたましう何を呼ばうのぢや。(額に手をかざして、下手の方を眺めやり、また此方こなたを向きて。)何が起つたのぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
... シテ其方そなたが見定め置きし女子とは、何れの御内みうちか、但しは御一門にてもあるや、どうぢや』。『小子それがしが申せし女子は、る門地ある者ならず』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
跫音を聞たばかりで姿を見ずとも文三にはそれと解ッた者か、先刻飲込んだニッコリを改めて顔へ現わして其方そなたを振向く。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
よもや今更いまさらわすれもしめへと云ふと長庵落付おちつきはらひ夫は其方そなたが殺した話し此長庵は知らぬ事御奉行樣宜敷御推察すゐさつ願ひますと申立れば越前守殿かねて目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「兎に角、人家のある方へ廻って、其方そなたの濡れた着物も乾そう、拙者の紛失物も人手を加えて探して見よう。誰か盗人の姿を見た者が有るかも知れぬで」
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
が、そういうお身の上の方は、何事につけても執着がなくて、女子などにも薄情なものだ。で、其方そなたに予言して置く、間もなく小四郎に捨られるであろうぞ
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
文角もななめならず喜び、今は時節もよかるべしと、或時黄金丸をひざ近くまねき、さて其方そなたまことの児にあらず、斯様々々云々かようかようしかじかなりと、一伍一什いちぶしじゅうを語り聞かせば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「いや、蠱でも何でもない、其方そなたが拵へて呉れた雑炊が余り美味うまいものだから、つい障子のほこりを嘗めたのだ。」
かまれて暖簾のれんはぢれゆゑぞもとたゞせば根分ねわけのきく親子おやこなからぬといふ道理だうりはなしよしらぬにせよるにせよそれは其方そなた御勝手ごかつてなり仇敵かたき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
山県の家は何でもその大杉の陰と聞いて居たので、自分は眼を放つてじつと其方そなたを打見やつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
声の在所ありかもとむる如く、キヨロ/\と落着かぬ様に目を働かせて、径もなき木蔭地こさぢの湿りを、智恵子は樹々の間を其方そなたに抜け此方こなたに潜る。夢見る人の足調あしどりとは是であらう。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其方そなたは、何が悲しうて涙をうかめてゐるのぢや。云へ! 仔細を。はて! さて氣がかりな。
袈裟の良人 (旧字旧仮名) / 菊池寛(著)
「余りと申せば御情無い。其品を御持になったればとて其方そなたさまには何の利得のあるでも無く、此方こなたには人の生命いのちにもかかわるものを……。相済みませぬが御恨めしゅう存じまする。」
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
(今は伊豆美といふ。)ここに日子國夫玖ひこくにぶくの命、「其方そなたの人まづ忌矢いはひやを放て」と乞ひいひき。ここにその建波邇安の王射つれどもえ中てず。ここに國夫玖くにぶくの命の放つ矢は、建波邇安の王を射てころしき。
扉の開かれし音に、ギロリとせる眼を其方そなたに転じつ「ヤア、吾妻」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
萱の根に鼠あらはれ小走りを此方こなた見しとふ我も其方そなた見る
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一たび母衣ほろの中なる車上の姿に、つと引寄せられたかと足を其方そなたに向けたのが、駆け寄るお夏の身じろぎに、乱れてゆらぐ襦袢のくれない
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえの、もういつまで其方そなたどもをかもうてはおられぬ。さ新九郎、猶予することはないぞ、わらわの駕に早う乗って邸へ帰ったがよい」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かく言争ひつつ、行くにもあらねど留るにもあらぬ貫一に引添ひて、不知不識しらずしらず其方そなたに歩ませられし満枝は、やにはに立竦たちすくみて声を揚げつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其方そなたに恋ひこがれた、あの時の心がいとしいわい、あの時あの恋がかなうたなら、何も不可思議は欲しうは無かつたのぢや。(長順瞑目す)
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
ヂュリ わし骨々ほね/″\其方そなたっても、はやその消息しらせ此方こっちしい。これ、どうぞかしてたも。なう、乳母うばや、乳母うばいなう、如何どうぢゃぞいの?
手前が乱暴を働くのを見てるのが辛いからしょくとゞめて死ぬのじゃによって、仮令たとえ手を下さずとも其方そなたが親をし殺すも同じじゃによって左様心得ろ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あはれみ給ふ故ならんこゝは一番二人が力をつくしてはたらかにやならぬ其方そなたなんと思ふと問けるに助十ももとより正直者しやうぢきものにて勘太とはだいの不和なればいふにや及ぶ力を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
言葉付きさえ暴々あらあらしく、「其方そなたは私の身の上を、何やかやと悪く言うが、その悪口に相当した、卑しい私と成ったのも、もとはと言えば其方のせいじゃ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さるに今其方そなたが、徒らに猛り狂ふて、金眸が洞に駆入り、かれと雌雄を争ふて、万一誤つて其方負けなば、当の仇敵の狐も殺さず、その身は虎のえじきとならん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
いそ其方そなたると少年せうねんは、いまこゑおどろ目醒めざめ、むつときて、半身はんしん端艇たんていそとしたが、たちまおどろよろこびこゑ
「猪之松乾児の幾人かが、拙者と其方そなたとがこの農家に、ひそみ居ること知りましたと見え、この頃あたりを立ち廻ります。他所よそへ参ろうではござりませぬか」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
じみなることふやうなれどもいゑつぎのまらざるはなにかにつけて心細こゝろぼそく、このほどちう其方そなたのやうに、さびしいさびしいのひづめもではられぬやうなことあるべし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「武家の妻も同様の其方そなたが、若い男を引入れて、庭の木蔭に囁き交すとは何事だ」
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
伯母もチヨと其方そなたを見やりつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
まめで其方そなたも居やるかと
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
『ば! ばかっ! ……。安兵衛にその声を聞かせたら、愛想あいそをつかされるぞよ。——いや其方そなたより、このしゅうとが気まりが悪いわえ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とその中を、すらりと抜けて、つまも包ましいが、ちらちらと小刻こきざみに、土手へ出て、巨石おおいし其方そなたの隅に、松の根に立った娘がある。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
色を失へる貫一はその堪へかぬる驚愕おどろきに駆れて、たちまち身をひるがへして其方そなたを見向かんとせしが、ほとんど同時に又枕して、つひに動かず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
カピ妻 あれ、父御ちゝごがわせた。自身じしんうて、父御ちゝごがそれを其方そなたからいて、なんおもはしゃるかをたがよい。
千代 空の、空の、大空の、夜摩やまの国といふところに、ぢぢ様も、父様も、また死んだ其方そなたの妹も、みんな仲ようくらいておぢやると、最勝寺様が申された。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
して廻り場へ出行いでゆきけりあとには七助お梅にむか所詮しよせん其方そなたも旦那はいやなるべしわれ取持とりもちせん事も骨折損ほねをりぞん出來ぬ時はかへつて首尾しゆびわろし然らば其方には少しも早く此處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
長「權六、あゝー誠に面目次第もない、中々其方そなたを殺すどころじゃアない、わしが生きてはられん、お千代親子の者へ対しても面目ないから、私が死にます」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
只今ただいまではこの事ようやく公けに聞え、上ではよりより詮議の最中——此の事を聞いた時拙者は其方そなたを思い出した。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「だが、座敷牢へは入れたものの、其方の考え一つによって命助ける術もある。お八重、強情は張らぬがよい、この頼母の云うことを聞け! 頼母其方そなたの命を助ける!」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
原来其方そなたが親の仇敵かたき、ただに彼の金眸のみならず。かれが配下に聴水ちょうすいとて、いと獰悪はらぐろき狐あり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)