しろ)” の例文
事実は、城内の藩庫はんこも、軍費に追われて枯渇こかつし、家中の侍たちの生活も、信長自身の朝夕のしろも、切詰めぬいてもまだ窮乏を告げて
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その叔父は人の好さそうな顔で笑いながら、左手の指で輪をこしらえて、なにかをあおるまねをした。——これだよ、みんな飲みしろだよ。
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「百兩のしろもんを、十兩か高々二十兩でせしめるんやさかいなア、證文に物言はして。……あの手にかけたら、あいつ上手なもんや。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
若しこの願かなはゞ、競馬の費、これに勝ちたるものに與ふる賞、天鵞絨の幟のしろ、皆かたの如くわきまへ候はんといふ。議官セナトオレは頷きぬ。
シユウとあわがつて、くろいしるのあふるのをさぢでかきまはすしろものである。以來いらい、ひこつの名古屋通なごやつうを、(かくはま)とふのである。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
即ち蓮華のしろ馬、祖父ガ岳の種蒔き爺さん、妙高の農牛、白峯の農鳥、富士の農男や豆まき小僧などなど、従来よく名の聞えているものだが
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
とはいえ用捨ようしゃなく生活ここうしろは詰るばかりである。それを助けるためにお供の連中は遠州えんしゅう御前崎おまえざき塩田えんでんをつくれとなった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一人二人づつ無理にお宿を申ても此有樣に皆樣が門口よりしてにげゆかれ今日は貴方あなたをお止め申しいさゝか父が藥のしろになさんと存じて御無理にもお宿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
地上十五尺ほどのところで、いちど鶴を離してサッと大空へ舞いあがると、たちまち石のように鶴の上へ落ちかかり同体となってしろのうえへ落ちる。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これはかねて私に帰依きえしてゐる或る町家ちやうかの一人娘が亡くなつたので、その親達から何かのしろにと言つて寄進して参つたから、娘の菩提ぼだいのためと思つて
彼は死にしより以來このかたかくのごとく歩みたり、また歩みてやすらふことなし、凡て世にきものあまりにふとき者かゝる金錢かねを納めてあがなひしろとす。 一二四—一二六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二人は茶菓のしろを置いて、山を下りた。太田君はこれから日野の停車場に出て、汽車で帰京すると云う。日野までは一里強である。山の下で二人は手を分った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と云うので、叔母を呼び相談のうえはなしがつき、其の頃百二十両に身を売ったと云うから、余程別嬪べっぴんでございます。身のしろな叔母に預け、金子かねを持たして帰す。
宿屋では麦は馬に食われるよりうまやの小僧どもの飲みしろになってしまうことを、よく見かけますからな。
住職に対する同情か、或いはこれをかせにして今後の飲みしろをいたぶるつもりか、彼は死骸の始末を自分に任せてくれと云って、佐藤の屋敷から中間の鉄造を呼んで来た。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人を見れば盗坊で有れかし罪人で有れかしと祈るにも至るあり、此人し謀反人ならば吾れ捕えて我手柄にせん者を、此男若し罪人ならば我れ密告して酒のしろ有附ありつかん者を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その頃、鰍押しの網でったものならば、ほんとうの至味という。また、早春奥山の雪解けて、里川の薄にごりの雪しろ水が河原を洗う時、のぼで漁った鰍も決して悪くない。
冬の鰍 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
たった一つ残った——こればかりは真物ほんものの、井戸の茶碗を抱いて江戸に下り、それを売って身を立てるしろにするつもりでしたが、骨董屋は兄妹の頼る者もない薄倖につけ込み
やがて再び帰り来て終日、しろを掻きよく働きてくれしかば、その日に植ゑはてたり。どこの人かは知らぬが、晩には来て物を食ひたまへと誘ひしが、日暮れてまたその影見えず。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
それで人は道路を掃くこともできるしいしにすることもできるし、焚きつけを割ることもできるしろものであり、馭者はそれをたてにしてわが身と積荷とを太陽と風と雨とからかば
春になって田のしろをかく頃に、雪が溶けて露出した岩の部分が周囲の残雪に取り巻かれて馬の形を現わすというので東麓北城村あたりで之を代馬しろうまと称したのが山名となったのである。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
解らなかない、解ってるよ。なれないにきまってるんだ。はばかりながらここまで来るには相当の修業がるんだからね。いかに痴鈍ちどんな僕といえども、現在の自分に対してはこれでしろ
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして泊まり合わせた旅の手品師と同行して、いつのまにか手品を習い覚え、同じ旅の手品師としてわずかに糊口ここう草鞋わらじしろを得ながら、旅に旅を重ねてこんにちにいたったのだという。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その男はうたを作り、それを紙に書いて市で賣つてたつきのしろにかへてゐた。
はるあはれ (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
此日は飜訳のしろに、旅費さへ添へてたまはりしを持て帰りて、飜訳の代をばエリスに預けつ。これにて魯西亜より帰り来んまでのつひえをば支へつべし。彼は医者に見せしに常ならぬ身なりといふ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
だが、何人なんぴとも、この坊主の前身を、ほんとうに気がついているものはすくなかろう——鉄心庵現住の、大坊主、これこそ、その道では名の通った、島抜けの法印ほういんという、兇悪きょうあくしろものなのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
棚霧たなぎらひ雪も降らぬか梅の花咲かぬがしろに添へてだに見む」(巻八・一六四二)、「池のべの小槻をつきが下の細竹しぬな苅りそね其をだに君が形見に見つつ偲ばむ」(巻七・一二七六)等の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
久美子の顔を見るには、それ相当の飲みしろが必要だという訳でした。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
又は瘋癲ふうてん、脳病院じゃと。四角四面の看板ひろげて。意匠らした玄関構えじゃ。高価たかい診察、治療のしろだよ。入院、看護の料金取り立て。肩で風切る精神病医は。どんな仕事をしているものかや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
七〇みちしろ、身にまとふ物も、誰が七一はかりごとしてあたへん。
大葉栗夏はこずゑの房花ふさはなのさやかにあかり田毎しろ掻く
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
われを賣りし日——百頭の牛はわが身のしろなりき。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
箪笥のしろにせよと五十円の金子かねを送つて呉れた。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
親爺は丁度田のしろ掻きから上つて來た處だ。
芋掘り (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しろにて昼食ちうじき。士民官軍を喜び迎ふ。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
自分の迎え酒のしろにしたのでがす。
明日あす朝飯あさはんしろを持たぬ無職者も
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しろかき馬がたのくろで
(旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
夜目よめなればこそだしもなれひるはづかしき古毛布ふるげつと乘客のりてしなさぞぞとられておほくはれぬやせづくこめしろほどりやしや九尺二間くしやくにけんけぶりつなあはれ手中しゆちゆうにかゝる此人このひと腕力ちからおぼつかなき細作ほそづくりに車夫しやふめかぬ人柄ひとがら華奢きやしやといふてめもせられぬ力役りきえき社會しやくわいつたとは請取うけとれず履歴りれき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
 ●清水川原しみづかはら村(人家二軒あり、しかれども村の名によぶ) ●三倉みくら村(人家三軒) ●なかたひら村(二軒) ●大赤沢おほあかさは村(九軒) ●天酒あまさけ村(二軒) ▲小赤沢こあかさは村(二十八軒) ▲上の原(十三軒) ▲和山わやま(五軒) 西にある村 ●下結東しもけつとう村 ●逆巻さかまき村(四軒) ●上結東かみけつとう村(二十九軒) ●前倉まへくら村(九軒) ▲大秋山村(人家八軒ありて此地根元の村にて相伝の武器など持しものもありしが、天明卯年の凶年にしろなしてかてにかえ、猶たらずして一村のこらず餓死して今は ...
首尾よく、かちりとくわえてな、スポンと中庭を抜けたはかったが、虹の目玉と云うくだんしろものはどうだ、歯も立たぬ。や、堅いのそうろうの。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっと彼女の胸に入って云えば、なぜ、馬のしろの調達を、自分へ相談してくれるなり、自分の父良橋りょうはし太郎入道へなり申しってくれなかったか。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはそれとして、烏丸はかてしろに姫を売りかし、そうばかりして、食いつないできたといううわさがある。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「ではなにを用心したらいいんだ」と折之助が云った、「私が誘拐されて身のしろきんを取られるとでもいうのか」
雪と泥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なし夜は終夜よもすがら糸繰いとくりなどして藥のしろより口に適ふ物等を調とゝのへ二年餘りの其間を只一日の如く看病かんびやうに手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
商売とは、昔者むかしものの言葉でいえば、世渡りの綱で、心にもない事も言って生活のしろを得る——というふうに、そうした言葉で、その折にもそうした意味に用いられました。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それが因果で自分は二百両というかねしろにここへ売られて来たのである。ゆうべは初めての店出しでお前さまに逢った。今夜も逢った。そうして、ほんとうの客になって貰った。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて再び帰りきて終日、しろきよくはたらきてくれしかば、その日に植えはてたり。どこの人かは知らぬが、晩にはきて物をいたまえとさそいしが、日暮れてまたそのかげ見えず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私の身体を此方こちらさまへ、何年でも御奉公致しますから、親父をお呼びなすって私の身のしろって、借財のかたが付いて、両親交情好なかよく暮しの附きますように為てやりとうございます
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それを賣つて身を立てるしろにするつもりでしたが、骨董屋は兄妹の頼る者もない薄倖につけ込み、その足許を見て恐ろしく踏み倒し、仲間が連絡して兄妹を屈伏させにかゝつたのです。