中旬なかば)” の例文
生計くらしはますます困って来る。八月の中旬なかばとなった。或日万作が識人しりびとで同じ島の勘太郎という男が尋ねて来て、斯ういう話をした。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「そうだなあ、ついでの事に、この月の中旬なかばには、八幡宮のお棟上むねあげがあるそうだから、それを見物してから帰ろうではないか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の不思議なことのあつたのは五月中旬なかば、私が八歳やっつの時、紙谷町かみやまちに住んだ向うの平家ひらやの、おつじといふ、十八の娘、やもめの母親と二人ぐらし。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
頃は長月ながつき中旬なかばすぎ、入日の影は雲にのみ殘りて野も出も薄墨うすずみを流せしが如く、つきいまのぼらざれば、星影さへもと稀なり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
八月の中旬なかばに倉持が神経痛が持病の母について、遠い青森の温泉へ行っている間に、銀子もちょっと小手術を受けるために、産婦人科へ入院した。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
九月中旬なかばになりましては田舎でも余り蛇は出ぬものでございますが、二度程出ましたので、墓場で驚きましたから何が出ても蛇と思い只今申す神経病
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
暑い/\八月も中旬なかばになつた。螢の季節ときも過ぎた。明日あすは陰暦の盂蘭盆うらぼんといふ日、夕方近くなつて、門口からはしやいだ声を立てながら神山富江が訪ねて来た。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
暑いといっても九月の中旬なかば故、大通りをはずれたそのあたりは、宵にみえるあかりの数さえめっきり減ったが、今夜はしかし観音さまの命日なので、半分だけ戸を入れた暗い軒に
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
不思議なことに、高力左近太夫に化けた、志賀内匠は、陸路何のさわりもなく、広島の城下も、萩の城下も、大手を振って通り抜け、夏の中旬なかば頃には、本国の島原に着いておりました。
十一月中旬なかばの夜は既にけ行きぬれど、梅子はいまだ枕にもかざるなり、乳母なる老婆はかたはら近く座を占めて、我がかしらにも似たらん火鉢の白灰はひかきならしつゝ、梅子をうらみつかき口説くどきつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
さて家人が其処そこへ転居してから一週間ばかりは何の変事も無かった、が偶然ふとある夜の事——それは恰度ちょうど八月の中旬なかばのことであったが——十二時少し過ぎた頃、急にその男が便通を催したので
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
いまから丁度ちやうどねんまへ季節せつさくら五月ごぐわつ中旬なかばある晴朗うらゝか正午せうご時分じぶんであつた。
俄かに暑氣つよく成し八月の中旬なかばより狂亂いたく募りて人をも物をも見分ちがたく、泣く聲は晝夜に絶えず、眠るといふ事ふつに無ければ落入たる眼に形相すさまじく此世の人とも覺えず成ぬ
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
尋ねしかど未だ天運てんうんさだまらざるにや一向に手懸りさへもなくむなしく其年もくれて明れば享保五年となり春も中旬なかば過て彌生やよひの始となり日和ひより長閑のどかに打續き上野飛鳥山あすかやま或ひは隅田川すみだがはなどの櫻見物さくらけんぶつに人々の群集ぐんじゆしければ今ぞかたき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もう秋も深い十月の中旬なかば
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
十一月も中旬なかばになった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この師走中旬なかばを超え
織田方の総兵力三万八千が、七月から攻撃を始めて、八月中旬なかばに至ったのを見ても、いかに敵もまたよく抗戦したかがわかる。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「看護婦に聞きました。ちょうど十日間ばかり、まるッきり人事不省で、驚きました。いつの間にか、もう、七月の中旬なかばだそうで。」とねむったままで云う。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日を経ての五助街道へ掛りましたのが十月中旬なかば過ぎた頃もう日暮れ近く空合そらあいはドンヨリと曇っておりまする。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
日をうて空の模様怪しゅうなって、月の中旬なかばに入ると、それはそれは天の戸一時に破れたかと思うばかり大雨大風となって、それからというものは、毎日毎日降り明し降りくらし
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
不思議なことに、高力左近太夫に化けた、志賀内匠は、陸路何のさはりもなく、廣島の城下も、萩の城下も、大手を振つて通り拔け、夏の中旬なかば頃には、本國の島原に着いて居りました。
にはかに暑気つよく成し八月の中旬なかばより狂乱いたく募りて人をも物をも見分ちがたく、泣く声は昼夜に絶えず、ねぶるといふ事ふつに無ければ落入たるまなこ形相ぎやうさうすさまじくこの世の人とも覚えず成ぬ
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すぐる十有餘日いうよにちあひだ、よく吾等われら運命うんめい守護しゆごしてれた端艇たんていをば、波打際なみうちぎわにとゞめてこのしま上陸じやうりくしてると、いまは五ぐわつ中旬なかばすぎ、みどりしたゝらんばかりなる樹木じもくしま全面ぜんめんおほふて、はるむかふは、やら
あらそひ入り來る故實に松葉屋の大黒柱だいこくばしら金箱かねばこもてはやされ全盛ぜんせいならぶ方なく時めきけるうちはや其年も暮て享保七年四月中旬なかば上方かみがたの客仲の町の桐屋きりやと云ふ茶屋より松葉屋へあがりけるに三人連にて歴々れき/\と見え歌浦うたうら八重咲やへざき幾世いくよとて何も晝三ちうさん名題なだい遊女を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
吉良様を守ることは、上杉家の社稷しゃしょくを護ることなのだ。その旨をよく説いて、八月中旬なかばまでに、是非とも、確かな剣客共を連れて来て欲しいのじゃ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私よりおくわしいと存じますが、浅草の観世音に、旧、九月九日、大抵十月の中旬なかば過ぎになりますが、その重陽ちょうようせつ、菊の日に、菊供養というのがあります。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
最早十二月の中旬なかば、妻は何処どこうしている事やら、定めし今頃は雪中にうずもれて死んだであろう、さなくば色里に売られて難儀をしてるか、救いたきは山々なれども
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
にはかに暑氣しよきつよくなりし八月はちぐわつ中旬なかばより狂亂きやうらんいたくつのりてひとをもものをも見分みわかちがたく、こゑ晝夜ちうやえず、ねぶるといふことふつにければ落入おちいりたるまなこ形相ぎやうさうすさまじく此世このよひとともおぼえずなりぬ
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
甲板かんぱんると、弦月丸げんげつまる昨夜ゆふべあひだにカプリとうおきぎ、いまはリコシアのみさきなゝめ進航しんかうしてる、季節せつは五ぐわつ中旬なかばあつからずさむからぬ時※じこうくはふるに此邊このへんたい風光ふうくわう宛然えんぜんたる畫中ぐわちゆうけい
盡せども全快の樣子やうすは見えず彼是する中に享保四年も早十二月の中旬なかばと成しに長々なが/\の病人にて入費ものいり等も多く勿々なか/\女の手一ツにては三度の食事しよくじさへ成難く諸方の借方かりかたは段々と言延したれ共最早もはや此暮にはせめて半金づつ成共拂はねば濟ずさればとて外に詮術せんすべもなく相談相手になる筈の人は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あれは、去年こぞの十月中旬なかばでした。浪華なにわの御合戦の際、暗夜とはいえ、不覚にも、私は楠木勢のために、擒人とりことなりました。けれど、恥とは一時の思いでした。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春は過ぎても、初夏はつなつの日の長い、五月中旬なかば午頃ひるごろの郵便局はかんなもの。受附にもどの口にも他に立集たちつどう人は一人もなかった。が、為替は直ぐ手取早てっとりばやくは受取うけとれなかった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の年も暮れ、翌年になり、安永九年二月の中旬なかばに、文治郎の母が成田山なりたさんへ参詣に参りますにき、おかやと云う実のめい清助せいすけと云う近所の使早間つかいはやまをする者を供に連れて出立しゅったつしました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
寄手の者から世上にまで、こんな落首らくしゅさえうたいはやされていた。当然、村重についてここに至った将兵の士気はひどく腐りきってしまった。九月の中旬なかば頃である。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大「大きな声をしては云えんが、来月中旬なかばまでは保つまいと医者が申すのじゃ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……五月の中旬なかばと言うのに、いや、どうも寒かった。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうど十二月の中旬なかばである。朔風さくふうは肌をさし、道はたちまちおおわれ、雪は烈しくなるばかりだった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その二月中旬なかば頃から、五月末までの間、まる百ヵ日、彼は家に寝なかった。また、おびかなかった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時は十二月の中旬なかばで、伊勢は暖いにしても、那古なこうらからこの峠へくる風は相当に肌寒いが、駄賃馬に乗っている客は、奈良晒ならざらしのじゅばんに袷一重あわせひとえ、その上に袖無そでなし羽織をかけてはいるが
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月見も近い八月の中旬なかばというのに今年はこれである。——変化が欲しい。何がな、変化を求めてやまないような意欲が、息ぐるしげな木々の葉にも、みちに這う露草の花のうなじにさえあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虫聴むしきき」だの「千鳥聴き」だの「枯野見かれのみ」などという遊びは、遊びに飽いた江戸人だけが思いついてする遊びであった。月のない真ッ暗な夜で、それに、十月中旬なかばなので、もう海は寒かった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気候もすでに如月きさらぎ中旬なかば、風はぬるく、樹肌きはだは汗ばみ、月は湯気に蒸されたようにおぼろな晩——有情の天地が人に与える感じも、二十日前の霜針を立てていた頃とは、だいぶ違ってまいりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長の代理として、高山長房ながふさが陣中の視察に来た。それが月の中旬なかば頃。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この一月中旬なかば、吉田忠左衛門と近松勘六が、江戸表へ下るについて、萱野三平も同行する事になり、或は、復讐の実を挙げるまで、その儘、江戸へ留まることになるかもしれない話なので、三平は
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて十二月の中旬なかばごろ、於次丸の軍は、功を遂げて凱旋した。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この山国に新緑を見るともう五月の中旬なかばであった。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月も中旬なかばに近づいたが、何の沙汰もないのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『八月中旬なかばに、何事かあるのでござりますか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明和めいわ二年のその年も十一月の中旬なかばを過ぎて。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)