餘裕よゆう)” の例文
新字:余裕
不意を打たれた則重は、煙の中から突然現れた怪しい男が何者であるかを見定める餘裕よゆうもなく、夢中で身をもがくばかりであったが
どうして、手前なんぞ足もとへだつて寄りつけるこつちやないぞ! ただ、それだけ懷ろに餘裕よゆうのないのが不仕合せといふものさ。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
さうときにはかれきふおもしたやうまちる。其上そのうへふところ多少たせう餘裕よゆうでもあると、これひと豪遊がういうでもして見樣みやうかとかんがへることもある。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれとほはたけつち潜伏せんぷくしてそのにくむべき害蟲がいちうさがしてその丈夫ぢやうぶからだをひしぎつぶしてだけ餘裕よゆう身體からだにもこゝろにもつてない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「まア、そらとぼけるなんて卑怯ひけふだわ。そ、そんな贅澤ぜいたく壁掛かべかけなんかをまぐれにおひになる餘裕よゆうがあるんならつてふのよ」
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
此所こゝ餘裕よゆうると、これひらくのをこばんで、一狂言ひときやうげんするのであるが、そんな却々なか/\ぬ。ぶる/\ふるへさうで、いやアな氣持きもちがしてた。
何しろ周三は、其のさいがせきゝてゐて、失敗の製作までも回護かはふだけ心に餘裕よゆうがなかツた。雖然奈何なる道を行くにしても盲者めくらつえを持ツことを忘れない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
地震ぢしんともな火災かさい大抵たいてい地震ぢしんのちおこるから、其等それらたいしては注意ちゆうい行屆ゆきとゞき、小火ぼやうち消止けしとめる餘裕よゆうもあるけれども、潰家かいかしたから徐々じよ/″\がるものは
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
内證ないしようでそのみち達者たつしやにたゞすと、いはく、なべ一杯いつぱいやるくらゐの餘裕よゆうがあれば、土手どて大門おほもんとやらへ引返ひきかへす。第一だいいちかへりはしない、とつた。格言かくげんださうである。みなわかかつた。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その結果けつか從來じゆうらいたゞ食物しよくもつ材料ざいりようあつめるために、一日中いちにちじゆうほねつてはたらいてゐた人間にんげんが、あつめた食料しよくりよう貯藏ちよぞう出來できるようになり、食料しよくりようゆたかになつたのではたらちから餘裕よゆう出來でき
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
勿躰もつたいなやといふ可愛かはゆきもあり、此子これためため不自由ふじいうあらせじことのなかれ、すこしは餘裕よゆうもあれかしとてあさひとよりはやき、此通このとほけてのしもさむさをこらへて
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雨水うすいとゞめためておく餘裕よゆうがなくなり、つただけの雨水うすいいちどにながくだつて、やまにあるつちすな河底かはぞこながうづめるために、みづながれかたがきゆうかはつて、あふれひろがるからです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
が、急に立ち止まつて、男らしい餘裕よゆうを見せるかのやうに
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
「まあ御金持おかねもちね。わたし一所いつしよれてつて頂戴ちやうだい」とつた。宗助そうすけあいすべき細君さいくんのこの冗談じようだんあぢは餘裕よゆうたなかつた。眞面目まじめかほをして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ふところには小錢こぜにたくはへてくことも出來できるのであつたがかれくコツプざけかたむけたのでかれふところけつして餘裕よゆうそんしてはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかしそのうちに城の外廓が攻め落され、寄手の軍勢が三の丸へ這入って来たので、それ迄は餘裕よゆうのあったひろい城内も、だん/\狭隘きょうあいを告げるようになった。
ところで、一せんたりとも茶代ちやだいいてなんぞ、やす餘裕よゆうかつたわたしですが、……うやつて賣藥ばいやく行商ぎやうしやう歩行あるきます時分じぶんは、兩親りやうしんへせめてもの供養くやうのため、とおもつて
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不幸ふかうにしていま小六ころくは、このあによめ態度たいどたいしてほど調子てうしだけ餘裕よゆう分別ふんべつあたまうち發見はつけんなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそれも依然いぜんとして金錢きんせんいくらでも餘裕よゆうのあるひとにのみ便利べんりなのであつて、貧乏びんばふ百姓ひやくしやうにはうしうま馬塞棒ませぼうさへぎられたやうなかたちでなければならぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いままでは、春雨はるさめに、春雨はるさめにしよぼとれたもよいものを、なつはなほと、はら/\はらとりかゝるを、われながらサテ情知なさけしがほそでにうけて、綽々しやく/\として餘裕よゆうありしからかさとともにかたをすぼめ
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)