いただ)” の例文
「わたしは新羅しらぎくにからはるばるわたって天日矛命あまのひぼこのみことというものです。どうぞこのくにの中で、わたしの土地とちしていただきたい。」
赤い玉 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
どうぞ是非ぜひ一ついていただきたい、とうのは、じつはそうわけであるから、むしろきみ病院びょういんはいられたほう得策とくさくであろうとかんがえたのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「いや、ルーブル紙幣の名を聞いただけで、寒気さむけがしてぶるぶるとふるえが出る。そんなものを紙幣でいただこうなど毛頭もうとう思っとらん」
この建築の全体が、そのいただきにいただくと共に、まさに空に飛び立つかもしれないほど、この建物には重さの感覚がありません。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
折角せっかく御親切ごしんせつでおますが、いったんおかえししょうと、ってさんじましたこのおび、また拝借はいしゃくさせていただくとしましても、今夜こんやはおかえもうします
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「このずっとつづいた山のいただきが、もっと高くて、けわしかったら、キツネものぼれなくて、いい寝場所になるんだけどなあ。」
渓川たにがわに危うく渡せる一本橋を前後して横切った二人の影は、草山の草繁き中を、かろうじて一縷いちるの細き力にいただきへ抜ける小径こみちのなかに隠れた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「卑怯ですわ。あの人は危い命を、あなたの、本当に男らしい、御心持から、助けていただいたのではありませんか。それに……」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
のみならず、一旦恥辱をこうむつて、われわれ同胞の面汚つらよごしをしてゐながら、洒亜しあつくで帰つて来て、感状をいただきは何といふ心得だ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ゆきいただいた、しろやまして、すずめは、温泉おんせんにあこがれてんでいきました。からすのいったことは、うそではなかった。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「何にしろ、これは古い物だ。それに絹地だ。まあ、気に入っても入らなくても、いただいて置け。これも御恩返しの一つだ。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だがそれにしてもその窓々が、薄紅く見えるのはなぜだろう? 時計台がいただきにある。カーン、カーンと二ツ打った。今は午後の二時と見える。
畳まれた町 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それからその山のいただきから直下してほとんど道のない岩と岩との間を猿が樹渡りするような具合に辿たどって行くのですが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そう思えばさばさばして別の事もなく普通の月日に戻り、毎日三時のお茶うけも待遠しいくらい待兼ねていただきます。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ガラス窓の壁口からは、白雪をいただいた老樹が見えていた。——その大きな客間の中に、いつもピアノにすわってるコレットを、クリストフは見出した。
『あの、何ですの、うちがあの阿母樣の肖像を是非吉野さんに書いて頂きたいと申すんで、それで、お書き下さる間、宅に被行つていただきたいんですの。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
祈りによってそのつど新鮮なる力をいただかないから、いかに型どおりわが名を呼んで骨折ってもだめであったのだ。
中途で横取りしてしまふことよう分つてるのですもの、是非共ぜひともあなたに読んでいただかう思ふたらかうするよりほかないのですもの、けれど安心して下さいませ
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あした、Sさんに見ていただけよ」「ええ、今夜見て頂こうと思ったんですけれども」自分は子供の泣きやんだのち、もとのようにぐっすり寝入ってしまった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あるいは、夕方丘のいただきに立って空が落ちてくるのを待っていた——それをいくらか拾いあげようとして。
どうだ! 衛門! 今日の不尽はかつて見たこともない神々こうごうしさだぞ! こんな荘厳な不尽を見るのはわしも初めてだ! 見ろ! あの白銀しろがねきらめくいただきの美しさを
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
また、「母刀自ははとじも玉にもがもやいただきて角髪みづらの中にあへかまくも」(同・四三七七)というのもある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それをうけとるのは胡弓弾きの役目だったので、胡弓弾きがおあしいただいているあいだだけ胡弓の声はとぎれるのであった。たまには二銭の大きい銅貨をくれる家もあった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
(そいじゃいただきますよ。)(はっは、なあに、こごらのご馳走ちそうてばこったなもんでは。そうするどあなだは大学では何のほうで。)(地質ちしつです。もうからない仕事しごとで。)もち
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
無断でそのことを此処ここへ抜くのは悪いと思いながら、楠緒女史がいきて見えますので、ほんの影だけでもうつさせていただきたいと、私は大胆にもその事まで此処へ取りいれました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ふもとの海村には、その村全体の生活を支えている大きな漁場がひかえていた。上に肺病院をいただいた漁場の魚の売れ行きは拡大するより、縮小するのが、より確実な運命にちがいない。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
散り散りに別れて、大きな声で呼びかわしながら、しゃべりながら、はては歌いながら、すそからいただきへ、頂きから山の尾を、そうして私達は、みんな籠一ぱいにぎっしりとつめて帰って来た。
又恐しい崖下の真黒な杉の木立のいただきまでが、枯れた梢のあいだから見通される。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
和尚おしよう如何どうだナなど扶持ふちでもしてくやうにはゞかせて、茶の呑倒のみたふしを、コレハ先生よくこそ御来臨ごらいりんさいはかたより到来たうらい銘酒めいしゆ、これも先生に口をきついただくは、青州せいしう従事じゆうじ好造化かうざうくわなどゝきゝかぢりと
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
すると老母は、あわてて寧子の手を取って、ひたいいただかぬばかりに
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尖り塔のいただきを水浸しにしてしまふまでも
魔女 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
それからは金太郎きんたろうは、毎朝まいあさおかあさんにたくさんおむすびをこしらえていただいて、もりの中へかけて行きました。金太郎きんたろう口笛くちぶえいて
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ねがわくはだ、きみ、どうぞ一つ充分じゅうぶんかれしんじて、療治りょうじせん一にしていただきたい。かれわたしにきっときみ引受ひきうけるとっていたよ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ようやく登り詰めて、余の双眼そうがんが今危巌きがんいただきに達したるとき、余はへびにらまれたひきのごとく、はたりと画筆えふでを取り落した。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
皆さん。この上は誰か一人、この艇からりていただかねばなりません。それで公平のために抽籤ちゅうせんをします。赤い印のあるくじ
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きっとれするようにうつくしくなるであろうと、お世辞せじにほめていただいた、あのゆめのようなのことが、いまだにはっきりのこって……きちちゃん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ターベルイ山の山腹さんぷくには、かなり高くまで森がしげっていますが、山のいただきには木が一本もありません。そこからは四方八方を見わたすことができます。
「すこしいただきましょうか」と節子は答えて、人一倍皮膚の感覚の鋭くなっているような病のある手をんで見せた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
怖しい、暗い夜の翼が、すべての色彩を腐らし、ほろぼして、翼たゆく垂れ下がって、森のいただきと接吻せっぷんしたらしい。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
丘のいただきからながめわたすとそれは空の色を映すが、近よると、それは砂地が見える岸からすぐのところでは黄色味がかった色あいで、それから淡い緑となり
プロシアやドイツ連邦やまっ裸の軍神を引き連れて、旅行外套がいとうを着けとがったかぶといただいた老皇帝を現わしてる、愛国的記念塔の前でも、彼女は不敬にもおかしがった。
が、クリストが十字架くるすにかけられた時に、彼をくるしめたものは、独りこの猶太人ばかりではない。あるものは、彼に荊棘いばらかんむりいただかせた。あるものは、彼に紫のころもまとわせた。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おりから手近かの山のいただきから号笛の音が響き渡った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かしら、おれたちはほめていただきとうございます。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
尖り塔のいただきを水浸しにしてしまふまでも
やっと辿りついた中の峠のいただき。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼光らいこうはさっそくつなにいいつけて、さっき神様かみさまからいただいた「かみ方便ほうべんおに毒酒どくざけ」をして、酒呑童子しゅてんどうじ大杯おおさかずきになみなみとつぎました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
矢部は、紙幣さつをありがたそうにいただいて、ポケットにおさめたが、そのあとで訴えるような目つきでいったことである。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
祖母おばあさんでも出ていらしったら、この部屋に居ていただくんだね。針仕事でもするには静かで好さそうな部屋だね」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、オヤユビくんが見つかっても見つからなくても、ともかく二日さがしたら、北西ほくせいスモーランドのターベルイという山のいただきでおちあうことにきめました。