うち)” の例文
というから粥河はこれを飲んでは大変と顔色がんしょくが変りまする。其のうち海の方に月は追々昇って来ますると、庭のえのきに縛られて居る小兼が
念を押して、買って与えたが、半里はんみちと歩かないうちに、それもぼりぼり食べ終ってしまい、ややともすると、なにか物欲しそうな顔をする。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私は歳を取らぬうちに身に藝をつけて置かうと思ひますから、半日だけ學校へやつて下さい。」と、先日こなひだおつゆは熱心に云つた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
そのうちにはいろいろなことを考えたこともあッた、馬鹿なことを考えたこともあッた、いろいろなことを思ッたこともあッたが
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
暫くするうちに貰ひ手は屹度きつと出来て来る。その折こそ成金が住み馴れた古家と古女房を初めて身分相応だつたと気のく時である。
「宗匠は、なんでもくわしいが、チト当社のつうでも並べて聞かしたら如何どうかの。そのうちには市助いちすけも、なにかさかなを見附けて参るであろうで……」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
かくせざればうちしみつきてふみへしたる処そのまゝ岩のごとくになるゆゑ也。晒場さらしばには一てんちりもあらせざれば、白砂しろすな塩浜しほばまのごとし。
初めのうちは、でも、人並みに色々の道楽にふけった時代もありましたけれど、それが何一つ私の生れつきの退屈をなぐさめては呉れないで、かえって
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこでかれこれするうちに、ごく下等な女に出会った事がある。私とは正反対に、非常な快活な奴で、鼻唄で世の中を渡ってるような女だった。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
けだし昼のうちるだけに一間のなかばを借り受けて、情事いろごとで工面の悪い、荷物なしの新造しんぞが、京町あたりから路地づたいに今頃戻って来るとのこと。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして過ぎ行く月日のうちに、M子の母は午後になると倦怠と発熱を覚え、夜は冷たい寝汗に苦しむような病人となった。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
國には尚だ七十八にもなる生みの母が活きてゐるのでお互に達者でゐるうちに一度顔を合はせて來たいといふのであツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ああ余は余が佗人たにんをさばきしごとくさばかれたり(馬太マタイ七章一、二)、余も教会にありしうちは余の教会外の人を議するにあたってかくありしなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
立つたり蹲んだりしてるうちに、何がなしに腹部はらが脹つて来て、一二度軽く嘔吐を催すやうな気分にもなつた。早く帰つて寝よう、と幾度いくたびか思つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
偉い他人でも其の真心には及びませんよ、——くどいと思ふだろが、お前の嫁の顔見ぬうちは、わしは死にたくも死なれないよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
つい眼の前をのろ/\と横切つて行く雫を垂らした馬鹿氣て大きな電車を遣り過ごすうち、今まで何所かへ押やられてゐた二人の間の親しみの義務を
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
(立ったところで、)一分も経たないうちに、その脚は、封蝋の棒のように、中途からぽきと折れてしまうだろうよ。
二人は蒲田が案外の物持てるにおどろかされて、おのおの息をこらしてみはれるまなこを動さず。蒲田も無言のうちに他の一通を取りてひらけば、妻はいよいよちかづきて差覗さしのぞきつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
はい、お前様、うちの息子は皆正直ものでなし、けれど、此村のふうで、自分の持ち畑とか田がなけりゃあ、働けるうち、働くのがあたり前になっとるでない。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
銀さんと私とは姉の家から同じ小學校へ通ひましたが一年ばかり經つうちに銀さんの方は學校を退いてしまひました。
然るに隣家の若主人が相続すると、先代の初七日も済まぬうちに、半分は俺のものだといって、お寺への通行人の迷惑をもかえりみず、自分の持分だけを崩し始めた。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
人間にんげんはいつまでもきていられるものではありませんから、せめてきているうちだけでも、おもしろいめや、きなことをしなくては、きているかいはありません。
おかしいまちがい (新字新仮名) / 小川未明(著)
種彦はとこに先祖のよろいを飾った遠山が書院に対座して話をしているうちから何時いつとなく苦しいような切ないような気恥しいような何ともいえない心持になったのである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
よしこのやまいゆとも一たび絶えし縁は再びつなぐ時なかるべきを感ぜざるにあらざるも、なお二人が心は冥々めいめいうちに通いて、この愛をば何人なんびともつんざくあたわじと心にいて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
勘次かんじには卯平うへい村落むらみせくのは贅澤ぜいたく老人としよりであるやうひがんでえるかどもあつた。たゞさうしてうち舊暦きうれき年末ねんまつちかづいて何處どこうちでも小麥こむぎ蕎麥そばいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
どうぞ、神さま、仏さま、舞台の上にいるうちは、このわしを、役に生きさせて下さりませ。さもなくて、心が散り、とんでもないことをしだしますと、第一、師匠にすみませぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こんな考へを永い間胸の中で上下しながら来るうちに、いつの間にか家の前まで来てゐた。ふと気がついて顔を上げると、反対の方向から恰度ちやうど父が帰つて来て、門を這入はいる所であつた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
はげしい睡眠に襲われて家内一同眠っているうちにいろいろの事がおこるのであった。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此の石鹸の泡のやうなものは灰色だが、それをこんどは白くしなければならない。そこで激しい薬を使つて、それをたちまちのうちに雪のやうに白くする。それで泡はすつかり清められたのだ。
白の主人の彼は此犬をにくんで、打殺そうとしば/\思った。デカがうちは、此犬もピンに通うて来た犬の一つであった。其犬すら雌犬めいぬのピン故に、ピンの主人の彼に斯くびるのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
半月の遠い路を、妻の父の死と妻子に逢ふためとに帰つて来た形は面白いと私は思つた。私は一度弟のゐるうちに、朝鮮に行つて見たいと思つた。安州から江界まで六日かゝるといふことである。
初冬の記事 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
塊まらぬうちに吹かるるときには三つの煙りが三つの輪をえがいて、黒塗に蒔絵まきえを散らした筒の周囲まわりめぐる。あるものはゆるく、あるものはく遶る。またある時は輪さえ描くひまなきに乱れてしまう。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
汽笛の鳴らぬうち
須賀爺 (新字新仮名) / 根岸正吉(著)
うしてほとん毎日まいにちごとつてうちに、萱原かやはらを三げんはゞで十けんばかり、みなみからきたまで掘進ほりすゝんで、はたはうまで突拔つきぬけてしまつた。
先日こなひだ職をやめて書肆ほんやを開業したさうだが、図書館に居るうちは、朝から晩まで、この書物の消毒にひどく頭を使つたものだ。
さても飯島様のおやしきかたにては、お妾お國が腹一杯の我儘わがまゝを働くうち、今度かゝえ入れた草履取ぞうりとり孝助こうすけは、年頃二十一二にて色白の綺麗な男ぶりで
初瀬はせの方から多武たふみねへ廻つて、それから山越しで吉野へ出て、高野山へも登つて見たいよ。足の丈夫なうちは歩けるだけ方々歩いとかなきや損だ。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
不可也いや/\二人とまりなば両親おやたちあんじ給はん、われはかへるべしなど、はなしのうちなく乳房ちぶさくゝませつゝうちつれて道をいそぎ美佐嶋みさしまといふ原中にいたりし時
初めのうちは腹のへって来るのが楽みで、一日に五回ずつ食ってやった。出掛けて行って食って来て、煙草でもんでるとまた直ぐ食いたくなるんだ。
彼らは我ら日光に歩むうちは我らと共なれども暗所に至れば我らを離るるものなり、貧より来る苦痛のうちに世の友人に冷遇さるるこれ悲歎の第一とす。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
昨日きのふこそ誰乎彼たそがれ黯黮くらがりにて、分明さやか面貌かほかたちを弁ぜざりしが、今の一目は、みづからも奇なりと思ふばかりくしくも、彼の不用意のうちに速写機の如き力を以てして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「あっしがいるうちは、棟梁もその人も、黙りあっておりました。もっとも、女のほうが、だいぶ水を呑んでいたので、その手当てにも追われていたんで」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう思っているうちに、今井は再び上京して、玉川電車沿線の三軒家に借家して、相変らず専売局に勤めていた。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
「なにネ、若い方は兎角とかく耻づかしいもんですよ、まア其のうちが人も花ですからねエ——松島さん、たまには、老婆おばあさんのお酌もお珍らしくてう御座んせう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
こいつ今のうちにどうにかふせいで置かなきゃいかんわい……それにはロシア語が一番に必要だ。と、まあ、こんな考からして外国語学校の露語科に入学することとなった。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「そうしていらッしゃるうちに、お顔を洗ッていらッしゃいまし。そのうちにお掃除をして、じきにお酒にするようにしておきますよ。花魁、お連れ申して下さい。はい」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
白襯衣君がパッとうけて、血の点滴したたるばかりに腕へめて抱きましたが、色の道には、あの、スパルタの勇士のおもむきがありましたよ。汽車がまだとまらないうち早業はやわざでしてなあ。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幕が動く。立見の人中ひとなかから例の「変るよーウ」と叫ぶ声。人崩ひとなだれが狭い出口の方へと押合ううちに幕がすっかり引かれて、シャギリの太鼓が何処どこか分らぬ舞台の奥から鳴り出す。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人ふたりが問答のうちに、一りょうの車は別荘の門に近づきぬ。車は加藤子爵夫人を載せたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そりやうですけれども、うちにゐらツしツて見れば、豈夫まさかお先へ戴くことも出來ないぢやありませんか。加之しかもビフテキを燒かせてあるのですから、あつたかうち召喫めしあがツて頂戴な。ね、貴方あなた
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)