“間:うち” の例文
“間:うち”を含む作品の著者(上位)作品数
石川啄木13
泉鏡花7
江見水蔭6
正宗白鳥4
三島霜川4
“間:うち”を含む作品のジャンル比率
芸術・美術 > 演劇 > 大衆演芸4.8%
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.5%
文学 > 日本文学 > 評論 エッセイ 随筆0.5%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
嘔吐もどしたら、また食べる迄の事さ。食べては吐き、食べては吐きしてるうちに船も仏蘭西の港へ着かうといふものだ。」
「いかゞでございませう、このお品では。それからお洗濯せんだくなさいますうち別のがお入用いりようだと存じますが。」
銀さんと私とは姉の家から同じ小學校へ通ひましたが一年ばかり經つうちに銀さんの方は學校を退いてしまひました。
『七日八日見ねえでるうちに、お定ツ子アぐつ女子をなごになつたなあ。』と、四辺構はず高い声で笑つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
どんな画家ゑかきでも、自分が物忘れをしてゐるうちに、稚児輪ちごわが高島田になつたと聞くと、流石に一寸変な気持もする。
そうして過ぎ行く月日のうちに、M子の母は午後になると倦怠と発熱を覚え、夜は冷たい寝汗に苦しむような病人となった。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
國には尚だ七十八にもなる生みの母が活きてゐるのでお互に達者でゐるうちに一度顔を合はせて來たいといふのであツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
『さうぢや無いんですけど。』と繰返して、『どう貴兄あなたの居るうちに、何とか決めなけやならない事よ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
文学の方で最近の傾向はシンボリズムとか、ミスチシズムとか云うのだが、イズムのうち彷徨うろついてるうちや未だ駄目だね。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
塊まらぬうちに吹かるるときには三つの煙りが三つの輪をえがいて、黒塗に蒔絵まきえを散らした筒の周囲まわりめぐる。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『七日八日見ねえでるうちに、お定ツ子アぐつ女子をなごになつたなあ。』と四邊あたり構はず高い聲で笑つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
急場の間に合ふのは、大抵藪医者ときまつてゐるが、亡くなつたあとでの名医よりは、息があるうちの藪医者の方が有難かつた。
人崩ひとなだれが狭い出口の方へと押合ううちに幕がすっかり引かれて、シャギリの太鼓が何処どこか分らぬ舞台の奥から鳴り出す。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いや、大した事でも無い。少しのうち、休息致しておれば、じき平癒致そうで……どうか身に構わず行って下さい」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
立つたり蹲んだりしてるうちに、何がなしに腹部はらが脹つて来て、一二度軽く嘔吐を催すやうな気分にもなつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……この鐘をうちに、盟誓をお破り遊ばすと、諸神、諸仏が即座のおたたり、それを何となされます!
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其のうちに娘はなまめかしいきぬてながら、しづかに私のはたを通ツて行ツた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
——結婚の世話になって以来、碌にしみじみ話をする機会も無いうちに、今井は杳然ようぜんとしてしんだ。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
「私は歳を取らぬうちに身に藝をつけて置かうと思ひますから、半日だけ學校へやつて下さい。」と、先日こなひだおつゆは熱心に云つた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
たちまちのうち評判ひやうばん大評判おほひやうばん『お穴樣あなさま』とび『岩窟神社がんくつじんじや』ととな
忠朝は生きてゐるうちは、鉄の棒をりまはすほかには何の能も無かつた男に相違ないが、死んでからは面白い内職にありついてゐる。
念を押して、買って与えたが、半里はんみちと歩かないうちに、それもぼりぼり食べ終ってしまい、ややともすると、なにか物欲しそうな顔をする。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒲田も無言のうちに他の一通を取りてひらけば、妻はいよいよちかづきて差覗さしのぞきつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こいつ今のうちにどうにかふせいで置かなきゃいかんわい……それにはロシア語が一番に必要だ。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
人間といふものは、金銭かねが手に入らないうちは、いろんないことを考へつくものだから。
一体俳人仲間には悪い癖があつて、男のくせによく女にた雅号をつけるのがあるが、せん女さんも初めのうちは、さう見違へられて、虚子氏なども、
「あっしがいるうちは、棟梁もその人も、黙りあっておりました。もっとも、女のほうが、だいぶ水を呑んでいたので、その手当てにも追われていたんで」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを、微笑をふくみながら見ているうちに、内蔵助の膳の前には、又幾つも杯がたまるのであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大野氏おほのし一々いち/\るといふ役目やくめで、うしてうちに、あたましり衝突しやうとつする。
さても飯島様のおやしきかたにては、お妾お國が腹一杯の我儘わがまゝを働くうち、今度かゝえ入れた草履取ぞうりとり孝助こうすけ
偉い他人でも其の真心には及びませんよ、——くどいと思ふだろが、お前の嫁の顔見ぬうち
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
というから粥河はこれを飲んでは大変と顔色がんしょくが変りまする。其のうち海の方に月は追々昇って来ますると、庭のえのきに縛られて居る小兼が、
さうしてるうちに、一時脱れてゐた重い責任が、否応いやおうなしに再び私の肩に懸つて来た。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
たゞさうしてうち舊暦きうれき年末ねんまつちかづいて何處どこうちでも小麥こむぎ蕎麥そばいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こんな考へを永い間胸の中で上下しながら来るうちに、いつの間にか家の前まで来てゐた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
はい、お前様、うちの息子は皆正直ものでなし、けれど、此村のふうで、自分の持ち畑とか田がなけりゃあ、働けるうち、働くのがあたり前になっとるでない。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
はげしい睡眠に襲われて家内一同眠っているうちにいろいろの事がおこるのであった。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
然るに隣家の若主人が相続すると、先代の初七日も済まぬうちに、半分は俺のものだといって、お寺への通行人の迷惑をもかえりみず、自分の持分だけを崩し始めた。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
そのうちも、縁台に掛けたり、立ったり、若い紳士は気が気ではなさそうであった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう説明しているうちに、早や船は岸のスレスレに青蘆あおあしを分けて着いた。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
其のうち不圖ふとまた考がれた。今度は砂漠さばくに就いて考へた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「そりや晴れますよ。ま、飮むでゐるうちア、眞箇何も彼も忘れて了ひますね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そこで激しい薬を使つて、それをたちまちのうちに雪のやうに白くする。
「なにネ、若い方は兎角とかく耻づかしいもんですよ、まア其のうちが人も花ですからねエ——松島さん、たまには、老婆おばあさんのお酌もお珍らしくてう御座んせう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
人崩ひとなだれがせまい出口のはうへと押合おしあうちまくがすつかり引かれて、シヤギリの太鼓たいこ何処どこわからぬ舞台の奥から鳴り出す。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
二人ふたりが問答のうちに、一りょうの車は別荘の門に近づきぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
——どうぞ、神さま、仏さま、舞台の上にいるうちは、このわしを、役に生きさせて下さりませ。さもなくて、心が散り、とんでもないことをしだしますと、第一、師匠にすみませぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
願くは、今自分の見て居るうちに、早く何處かの内儀おかみさんが來て、全體みんなでは餘計だらうが、アノ一番長い足一本だけでも買つて行つて呉れゝばいゝに、と思つた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
氷店は春のうちひツそりとして、滅多と人の入ツてゐることがなかツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
初めのうちは腹のへって来るのが楽みで、一日に五回ずつ食ってやった。
出かけない主義が、何も為出かさぬうちに活力を消耗して了つた立見君の半生を語る如く、後藤君の常に計画し常に秘密にしてゐるのが、矢張またその半生の戦ひの勝敗を語つてゐた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
願くは、今自分の見て居るうちに、早く何処かの内儀おかみさんが来て、全体みんなでは余計だらうが、アノ一番長い足一本だけでも買つて行つて呉れればいいに、と思つた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
けだし昼のうちるだけに一間のなかばを借り受けて、情事いろごとで工面の悪い、荷物なしの新造しんぞが、京町あたりから路地づたいに今頃戻って来るとのこと。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出かけない主義が、何も爲出かさぬうちに、活力を消耗して了つた立見君の半生を語る如く、後藤君の常に計畫し常に祕密にしてゐるのが、矢張またその半生の戰ひの勝敗を語つてゐた。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
親しい人の顔が、時として、凝乎ぢつと見てゐるうちに見る見るても肖つかぬ顔——顔を組立ててゐる線と線とが離れ/\になつた様な、唯不釣合な醜い形に見えて来る事がある。
氷屋の旗 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
デカがうちは、此犬もピンに通うて来た犬の一つであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
『これだ!』と、呆れた様な顔をしながら、それでも急いで吸殻を膝から払ひ落して、『先生、出したつても今日の事だがら、まだ校長の手許にあるベアハンテ、今のうちに戻してござれ。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そこでかれこれするうちに、ごく下等な女に出会った事がある。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
『これだ!』と、呆れたやうな顏をしながら、それでも急いで吸殼を膝から拂ひ落して、『先生、出したつても今日の事だから、まだ校長の手許にあるベアハンテ、今のうちに戻してござれ。』
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
汽車がまだとまらないうち早業はやわざでしてなあ。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下男はまた三皿目を持つて来た。歴史家が羅馬ローマ大帝国の事に頭をつかつてゐるうちに、二皿目のビフテキはもう冷えきつてゐたので、下男はそれをも下げて、次ので食べてしまつた。
うんや、そうやすやすとはれねえだ。旦那様のいいつけで三原伝内が番するうちは、敷居もまたがすこっちゃあねえ。たって入るならおれを殺せ。さあ、すっぱりとえぐらっしゃい。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「逆さま事か知らんけれど、私はお母さんの生きてゐるうちに死にたいと思つてゐますよ。あなたの手にすがつてゐなければ、私は死ぬるにも死なれないと思ひます。」と、ある日眞顏で母に云ふと、
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
れるだらうから、此方こつちはいつたらからうとすゝめ、菓子くわしなどをあたへてうちに、あめ小歇こやみとなり、また正午ひるちかくなつた。
一月余のうちに、新しい信者が十一軒も増えた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(雑作はがあせん、煙草三服飲むうちだ。)
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは確かに七面鳥であった。こいつあ自分の脚で立とうとしても立てなかったろうよ、この鳥は。(立ったところで、)一分も経たないうちに、その脚は、封蝋の棒のように、中途からぽきと折れてしまうだろうよ。
そこへ家臣清三郎(虚心)が駈付けて来るので、それに後事を託し、蒲地は切腹して落入るといふ愁嘆場。笛入しのいりの合方あひかたで、好い気持に芝居をしてゐるうちに、フト自分は切られた肩先に心づいた。
硯友社と文士劇 (新字旧仮名) / 江見水蔭(著)
心ゆくばかり半日を語り尽して酒亭を出でしが表通は相撲の打出し間際にて電車の雑沓はなはだしかりければ、しばしがうちとて再びわが隠家かくれがの二階にしょうじて初夜過ぐる頃までも語りつづけぬ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「そうしていらッしゃるうちに、お顔を洗ッていらッしゃいまし。そのうちにお掃除をして、じきにお酒にするようにしておきますよ。花魁、お連れ申して下さい。はい」と、お熊は善吉の前に楊枝箱ようじばこを出した。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
はじめうちは蟲けらが多うて氣味が惡かつたけれど、この頃は草を刈つたり燃したりして綺麗になりました。私の家から見る村の眺めはまた格別ぢや。今に雪でも降つて御覽じませ。島の景色は風雅なものでせうぜ。」
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
あなたのおっしゃるとおりですよ、人間にんげんはいつまでもきていられるものではありませんから、せめてきているうちだけでも、おもしろいめや、きなことをしなくては、きているかいはありません。
おかしいまちがい (新字新仮名) / 小川未明(著)
汽笛の鳴らぬうち
須賀爺 (新字新仮名) / 根岸正吉(著)
飯「孝助あゝ仰しゃるものだから一寸お嬢様にお目通りして参れ、まだ此方こちらへ来ないうちは、手前は飯島の家来孝助だ、相川のお嬢様の所へ御病気見舞にくのだ、何をうじ/\している、お嬢様の御病気をうかゞって参れ」
その後小笠原兵右衛門さんは仔細あって浪人。その伜で届けてある金三郎様も御浪人。大阪表へ出て手習並びに謡曲うたいの師匠。そのうちに兵右衛門さまは御病死、後は金三郎様が矢張謡曲と手習の師匠、阿母おふくろ様の鶴江様が琴曲の師匠。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「さうですとも。私の目の黒いうちは、東京で教育して立派に大學まで修業させて見せるから。五年や十年はまだ/″\大丈夫なつもりなんだよ。大隈さんのことを考へて御覽な。私ぐらゐの年齡としでまだ耄碌もうろくして溜るものぢやない。」
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
可愛い兒供こどもの生れた時、この兒も或は年をつてから悲慘みじめ死樣しにざまをしないとも限らないから、いつそ今斯うスヤ/\と眠つてるうちに殺した方がいゝかも知れぬ、などと考へるのは、實に天下無類の不所存と云はねばならぬ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
遊び納めもまたお前さんのとこなんだ。そのうちにはいろいろなことを考えたこともあッた、馬鹿なことを考えたこともあッた、いろいろなことを思ッたこともあッたが、もう今——明日はどうなるんだか自分の身の置場にも迷ッてる今になッて、今朝になッて……。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
つい眼の前をのろ/\と横切つて行く雫を垂らした馬鹿氣て大きな電車を遣り過ごすうち、今まで何所かへ押やられてゐた二人の間の親しみの義務を、このにお互の中に取り戻しておかなくてはならないといふ樣な顏付きで、みのるは男の顏を見詰めてわざと笑つた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
さりながらはじめの内は十幾人じふいくたりの塾生ありて、教場けうぢやういたく賑ひしも、二人ふたり三人みたりと去りて、はて一人いちにんもあらずなりて、のちにはたゞひるうち通学生の来るのみにて、塾生はわれ一人いちにんなりき。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
初めのうちは、でも、人並みに色々の道楽にふけった時代もありましたけれど、それが何一つ私の生れつきの退屈をなぐさめては呉れないで、かえって、もうこれで世の中の面白いことというものはお仕舞なのか、なあんだつまらないという失望ばかりが残るのでした。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そりやうですけれども、うちにゐらツしツて見れば、豈夫まさかお先へ戴くことも出來ないぢやありませんか。加之しかもビフテキを燒かせてあるのですから、あつたかうち召喫めしあがツて頂戴な。ね、貴方あなた。」と少し押へた調子でせつくやうにいふ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
もとよりこの後のいかに成り行くべきを知らず、よしこのやまいゆとも一たび絶えし縁は再びつなぐ時なかるべきを感ぜざるにあらざるも、なお二人が心は冥々めいめいうちに通いて、この愛をば何人なんびともつんざくあたわじと心にいて、ひそかに自ら慰めけるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
今時分は奈良も京都も寒くつて駄目だらうな。わしが行つた時は暑くつて弱つたが、今度は花盛りに一度大和巡りをしたいな。初瀬はせの方から多武たふみねへ廻つて、それから山越しで吉野へ出て、高野山へも登つて見たいよ。足の丈夫なうちは歩けるだけ方々歩いとかなきや損だ。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
口が早いばかりぢやない、何か知らん忙しさうでゴタゴタした所ぢや。わかうちはあんな町で好きなことをして暮すのもよからうが、歳を取つたら居れる所ぢやない。田地まで賣つて大阪や神戸へ行つた者が、よく見い。大抵たいてい失敗しくじつてヒヨコ/\戻つて來るぢやないか。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
昨日きのふこそ誰乎彼たそがれ黯黮くらがりにて、分明さやか面貌かほかたちを弁ぜざりしが、今の一目は、みづからも奇なりと思ふばかりくしくも、彼の不用意のうちに速写機の如き力を以てして、その映じきたりし形をすべのがさずとらへ得たりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
初発患者が発見みつかつてから、二月足らずのうちに、隔離病舎は狭隘を告げて、更に一軒山蔭の孤家ひとつやを借り上げ、それも満員といふ形勢すがたで、総人口四百内外の中、初発以来の患者百二名、死亡者二十五名、全癒者四十一名、現患者三十六名、それに今日の診断の結果でまた二名増えた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「いずれそのうちにはさ、もっとも、それにはまだ大分時日があるだろうがね。しかし何日いつどう云う風にして各自めいめいが別れ別れになるにしても、きっとうちの者は誰一人あのちびのティムのことを——うん、私達家族の間に起った最初のこの別れを決して忘れないだろうよ——忘れるだろうかね。」
んな事が有るだろうと思って、お前さんが身支度をしているうち乾漢こぶんを走らして道筋々々へ、先廻りして、身内の者に網を張らして置いたのよ。然うして後から私も化け込んで、見え隠れに附けているとも知らず、此女こいつとお前さんは道連れに成って仲好くして、縺れぬばかりに田圃路を歩きなすった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「何んだって先生、逃げ掛ったのです。一寸私が油断してるうちに……それも他の用で私は出たのでは有りませんよ。須賀津すがつたまりから胡麻鰻ごまうなぎを取って来て、丸煮で先生に差上げて、少しでも根気を附けて上げましょうと、それは私の一心からで、人手にも掛けずりに行ったのですよ。それをまあ何事です」
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
うわさかな、恐しく手間が取れた、いや、何しろ三挺頂いて帰りましょう。薄気味は悪いけれど、名にし負う捨どんがお使者でさ、しかも身替みがわりを立てるうち奥の一間で長ッちりと来ていらあ。手ぶらでも帰られまい。五助さん、ともかくも貰ってくよ。途中で自然おのずからこのふたが取れて手が切れるなんざ、おっと禁句、」とこの際
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)