邪慳じやけん)” の例文
何時間も、何時間も、私は人の顏さへ見れば噛みつくやうに邪慳じやけんな事を言つてやりたいやうな氣持を抱きながら、死人のやうに穩しく寢てゐた。
病室より (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
女のかりそめの娯楽をも邪慳じやけんに罪するやうな態度に出て、二人は絶間なく野獣同士のごといがみ合つた。凡てが悔恨といふのも言ひ足りなかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ひとおもひですわ、眞暗まつくらだからわからないつておうたぐンなさるのは、そりや、あなたが邪慳じやけんだから、邪慳じやけんかたにやわかりません。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お秋 (振切る様に、少し邪慳じやけんに)そんな、そんな、私が神様ぢやあるまいし、私にだつてわかりやしないのよ。
疵だらけのお秋 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
邪慳じやけんしうとめのこと、意地くね曲つたヒステリーのあによめのこと、相変らず愚図で気のきかぬ頼りない亭主のこと、それから今度のごた/\についてのことだつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
どうかすると弟達が邪慳じやけんにしてつたり蹴つたりもしかねないので、私は中に立つてはら/\してるのだよ。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
勘次かんじもそれをらないのではないが、いまところ自分じぶんには餘裕よゆうがないのでおつぎがさういふたびかれこゝろへずくるしむのでわざ邪慳じやけんにいつてしまふのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私はくらやみの谷へ突落されたやうに暖かい日の影といふを見た事が御座りませぬ、はじめの中は何か串談じようだんわざとらしく邪慳じやけんに遊ばすのと思ふてをりましたけれど
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何か思ひごとのある時のお父さんから、邪慳じやけんな口のきき方で叱られるといつも栄蔵は、情けない気がするのだつた。そしてお父さんが恨めしくさへなるのだつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
翌日あくるひの新聞は、その話を伝へて、自分の崇拝者をこんなに邪慳じやけんに取扱つたゴリキイには、お行儀作法の端くれでも教へ込まなければなるまいと、ひやかしを言つてゐたが
あるひは姑が邪慳じやけんで嫁をくびり殺さうとしても、婦にはいつも自ら去るの義なしとて、夫の家を動かなかつたとか申す様な事を、この上もなき婦人の美徳と心得ておりました。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
さうして又その鎖の端を邪慳じやけんにぐいと引きましたからたまりません。弟子の体ははづみを食つて、勢よくゆかを鳴らしながら、ごろりとそこへ横倒しに倒れてしまつたのでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「うるさい、女は黙つとれ」と、彼は邪慳じやけんに唸つた。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
仰ぎつ「ぢや、今から阿母おつかさんと言つてもう御座んすか——何だかまるで夢の様ですのねネ——昨日までの邪慳じやけんな心が、何処へかつて仕舞つたの——わたしヤ、すつかり生れ変はりましたわねエ——阿母さん、——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
先生の態度の邪慳じやけんさがみんなの反抗心を強めた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「まア、何て、邪慳じやけんなんでせう」
近所合壁がつぺきから邪慳じやけんに。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
少ない白髮を茶筅髮ちやせんがみにした紫の被布を着た氣丈な婆さんに顏をしかめ手を振つて邪慳じやけんに斷られての歸途、圭一郎は幾年前の父の言葉をはたと思ひ出し
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
邪慳じやけんに、胸先むなさきつて片手かたて引立ひつたてざまに、かれ棒立ぼうだちにぬつくりつ。可憐あはれ艶麗あでやかをんな姿すがたは、背筋せすぢ弓形ゆみなりもすそちうに、くびられたごとくぶらりとる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしはくらやみたに突落つきおとされたやうにあたゝかいかげといふをこと御座ござりませぬ、はじめのうちなに串談じようだんわざとらしく邪慳じやけんあそばすのとおもふてりましたけれど
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
悄然せうぜんとしてあといて勘次かんじえうはないからと巡査じゆんさ邪慳じやけんしかつてひやつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
邪慳じやけんに繩尻を引くと
彼女は産みの兩親の顏も知らぬ薄命の孤兒であつて、伯父や伯母の家に轉々と引き取られて育てられたが、身内の人達は皆な揃ひも揃つて貪婪どんらん邪慳じやけんであつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
いえぢやあござんせぬ、それ、それ、お法衣ころもそでひたるではありませんか、)といふと突然いきなり背後うしろからおびをかけて、身悶みもだえをしてちゞむのを、邪慳じやけんらしくすつぱりいでつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これほど邪慳じやけんの人ではなかりしをと女房あきれて、女に魂を奪はるればこれほどまでも浅ましくなる物か、女房が歎きは更なり、ひには可愛かわゆき子をも餓へ死させるかも知れぬ人
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
嬌瞋きやうしんはつしては屹度きつといことはあるまい、いま婦人をんな邪慳じやけんにされてはからちたさる同然どうぜんぢやと、おつかなびつくりで、おづ/\ひかへてたが、いやあんずるよりうむやすい。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これほど邪慳じやけんひとではなかりしをと女房にようぼうあきれて、をんなたましひうばはるればれほどまでもあさましくなるものか、女房にようぼうなげきはさらなり、ひには可愛かわゆをもじにさせるかもれぬひと
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
邪慳じやけんはら退けて、きツにらむでせると、そのまゝがつくりとかうべれた、すべての光景くわうけい行燈あんどうかすかにまぼろしのやうにえたが、にくべたしばがひら/\と炎先ほさきてたので、婦人をんなはしつてはいる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とても/\旦那樣だんなさまのやうな邪慳じやけんかたのおではない、これはわたし一人ひとりものだとめてまするに、旦那だんなさまが他處よそからでもおかへりになつて、不愉快ふゆくわいさうなおかほつきで此子これまくらもとへおすわあそばして
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
邪慳じやけんだねえ。」
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
抱持はうぢ不十分ふじふぶん甲斐かひなきうらめしくなりててたしとおもひしは咋日きのふ今日けふならず我々われ/\二人ふたりくとかば流石さすが運平うんぺい邪慳じやけんつのれるこゝろになるはぢやうなりおやとてもとほ一徹いつてつこゝろやはらぎらば兩家りやうけ幸福かうふくこのうへやある我々われ/\二人ふたりにありては如何いか千辛萬苦せんしんばんくするとも運平うんぺい後悔こうくわいねんまじくしてや
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)