はなし)” の例文
関白が政宗に佩刀はいとうを預けて山へ上って小田原攻の手配りを見せたはなしなどは今しばらく。さて政宗は米沢三十万石に削られて帰国した。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
先般ある会社の重役が検挙せられたときのはなしを聞くに、部下の者は始めて日ごろよりいだいていた重役に対する不満を述べたという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
婦人は間もなく健康になって、かの一せきはなし土産みやげに都に帰られた。逗子の秋は寂しくなる。話の印象はいつまでも消えない。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
鶴子はマダム、シュールのはなしをきいている中、突然何物かに誘惑せられたように、唯ふらふらと遠いところへ往きたくなったのである。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この縁談が、結納を交換とりかわすまでに運ぶには、彼女は一通りならぬ苦心を重ねた。随分長い間かかった。一旦いったんはなしが絶えた。復た結ばれた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はなしを附けて、手を切らして、綺麗にさばいてやろうと思って、お前のとこへ行くつもりで、百と、二百は、懐中ふところに心得て出て来たんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある冬の事、この老爺おやじというのが、元来はなし上手なので、近所の子供だちが夜になると必ず皆寄って来て、老爺おやじはなしをせがむのが例であったが
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
その他のはおはなしにならず、ただ名のみを今も昔のままに看板だけで通している為体ていたらく、して見ると食道楽の数も大分減ったのが判るようだ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
と云うようなはなしになって、それでは、帰国した上で、双方の主君の許可ゆるしを得て、改めて、日もきめよう、結納ゆいのうも交そうとなった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
函館発行の『北海新聞』に、およそ十年前、幽霊に関する滑稽こっけい談が載せてあった。それは一書生の幽霊に悩まされたるはなしである。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「少しはなし突然だしぬけですがね、まず僕の不思議の願というのを話すにはこの辺から初めましょう。その少女むすめはなかなかの美人でした」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
唐の豊干禅師が虎に騎って松門に入ったは名高いはなしで後趙の竺仏調は山で大雪に会うと虎が窟を譲ってその内に臥さしめ自分は下山した
はなしがトンとはずまない。特に女中をつかまへてキヤツ/\騒ぎ立てる支那人の傍若無人ばうじやくぶじんさに、湯村は眉をひそめてたゞガブ/\酒を呷上あふりあげて居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
そんな物を着ることをお島が拒んだので、着せる着せないではなしがその日ももつれていたが、到頭かぶせられることになってしまった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
長「お礼ッたって、それはわっちにはいけねえから、若旦那のお気に入りの幇間たいこ正孝しょうこうはなしをして見ますから、待っておいでなさい」
お絹にめられること、そうして、その日の晩餐も、むつまじく、お絹の待構えた手料理とお給仕で快く済ましてから、食卓のはなしがはずむ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
友人にも同じくそのよしをいって無理やりに、その晩はうちへ帰って来たというが、青楼せいろうなどでは、往々にして、こういうはなしを聞くようである。
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
『おたすくださいませ』と帽子屋ばうしやつゞけて、『なんだか澤山たくさんうしろにちら/\してます——はなしをしたのは三月兎ぐわつうさぎだけです——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
馬政局長官浅川中将のはなしによると、陸軍当局では、先年の失敗しくじりに懲りずに、今度また馬券を売出さうと計画中だといふ事だ。
幕末に村上新五郎と云ふ奇傑がゐたが同一人どういちにんかと尋ねられた人もある。しかしあの小説は架空のはなしだから、ふ所のモデルを用ゐたのではない。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一週間のくさくさする思いをば、土曜日にしんみりこの人とはなしが出来るという希望で僅かに慰めているのであった。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
そこで自分は、此の螢狩に就いて一つのはなしを持ツてゐる。それは不思議な事柄として、永い間……大人おとなになツてもだ譯のわからぬ疑となツてゐたので。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ドイツ機の空襲が頻繁ひんぱんなので、いつどこで停車するかわからず、ひょっとすると、ロンドン入りは、翌朝になるかもしれないという車掌しゃしょうはなしであった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで古典のはなしをしてみると、その応答は響のようであった。朱は陸に進士の試験に必要な文章のことを聞いた。
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一躰いったい自分の以前には如何どんな人が住んでおったかと訊ねたが、初めの内はげんを左右にして中々なかなかに真相を云わなかったがついにこう白状した、そのはなしによると
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
暫くはなしを聞いているうちに、飾磨屋さんがいなくなったので聞いて見ると、太郎を連れて二階へ上がって、蚊屋かやらせて寐たと云うじゃありませんか。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その時、現今いま医科大学生の私の弟が、よく見舞に来てくれて、その時は種々しゅじゅはなしの末、弟から聴いたはなしです。
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
汽車がくると、どれが叔父だか一寸ちょっと見分みわけがつかない位の人々が、汽車の窓から首を出していた。逸早いちはやく見つけた叔母は、窓にしがみついて、叔父とはなししていた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
もうはなしがすっかりひろがって居りますからどうしても二三人の犠牲者はいたし方ありますまい。もっとも私に関するさまざまのことはこれは決して公にいたしません。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
俳優やくしゃというものは、如何どういうものか、こういうはなしを沢山に持っている、これもある俳優やくしゃ実見じっけんしたはなしだ。
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
ええ那様そんな事なら訳はないです。それじゃ明朝あしたかく行って、しらべてみて直しますが、そう云う事は長念寺の和尚おしょうところへも行って、次手ついでにおはなしなすったらいでしよう。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
議論ぎろん上下じやうげするも大きいが、おたがひはなし数年前すうねんまえよりは真面目まじめつた、さて話をして見ると、山田やまだは文章をつて立たうと精神せいしんわたし同断どうだんだ、わたしこのこゝろざしいだいたのは
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おしまひに昨夜、いい清元のはなしを聞いて来た、「清心」と「三千歳」との清元の談を。
下町歳事記 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
一時喧伝けんでんされた奥州佐久間の孝女お竹なる者が生仏として霊験をあらわすというはなしを前篇四冊後篇三冊に編んだもので、三馬としては当て込みを狙ったちょっと得意の作であった。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
此処ここで聞いたはなしに、ある時その近在のさる豪家ごうかの娘が病気で、最早もう危篤という時に、そのの若者が、其処そこから十町ばかりもある遠野町へ薬を買いに行った、時はもう夜の九時頃のことで
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
前に云うのを忘れたがこの母に比して父という人は評判の好人物であったのだ、婢女じょちゅうはなしかく気になるからみんな立合たちあった蒲団ふとんの下を見ると、はたせるかな、二通の遺言状が出た
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
住職の老人には私は平時いつ顔馴染かおなじみなので、この時談はなしついでに、先夜見たはなしをすると、老僧は莞爾にっこり笑いながら、恐怖こわかったろうと、いうから、私は別にそんな感もおこらなかったと答えると
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
「冬子さんから電報を打ったと云うはなしは聞いたが、よく早く帰って来られたね。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は一般の例に従って、法要の済んだあと、寺の近くにある或る料理屋へ招待された。その食事中に、彼女の父に当る人や、母に当る女が、彼に対してはなしをするうちに妙に引っ掛って来た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
国府津で一緒になつた新聞記者が二人向側むかふがはに腰を掛けて居るので、この人にはやまひのためにはなしが出来ないと断つてあるのであるから、急に元気いたらいやな気持をおこさせるに違ひないと思つて
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
之れ即ち恋愛の本性と相背反する第一点なり、すべて恋愛はかくの如き者ならず、粋道は恋愛道に対する躓石しせきならんかし。近く人口に鱠炙くわいしやする文里のはなしの如き、尤も此説を固からしむるに足る可し。
ところが、この馬の手綱をとってくれた男が、不思議と画のはなしのできる人物で、すでに私の名前なども知っていまして、京都や東京の先生方の名なども、誰彼と言ってはいろいろ話をするのでした。
一方の川のはしは材木の置場である、何でも人の噂によると、その当時取払とりはらいになった、伝馬町でんまちょうの牢屋敷の木口きくち此処ここへ持って来たとの事で、中には血痕のある木片きぎれなども見た人があるとのはなしであった
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
勿論見た事もなければ、詳しいはなしを聞いていたのでもない。ただその名に憧れて、大した名物だということを知っていたに過ぎない。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此の類焼やけの中で又しても/\そう/\内所ないしょはなしをした処が、おまはんが年季を増したのも幾度いくたびだか知れない、亭主のためとは云いながら
これも、私が逗子に居た時分に、つい近所の婦人から聞いたはなし、その婦人がまだ娘の時分に、自分のうちにあったと云うのだ。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのことを、同じ村から出ている友達に相談してから、新吉はようやくはなしを進めた。見合いは近間の寄席よせですることにした。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
例えば他人ひとから預っておいた彫刻品が、気候のめに欠損きずが出来たとかいう様な、人力じんりょくでは、如何どうにも致方しかたの無い事が起るのである、このはなしをすると
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
馬鹿げたはなしだが、昔は、東西ともに大人が今の小児ほどな了簡の所為多く、欧州でも中世まで、動物と人と同様の権利も義務もありとし、証人に引き
「君とこうしてはなしするのも他生たしょうの縁であろう。君が親もとに帰る考えがあるなら失敬ながら旅費は僕が手伝おう」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)