裏手うらて)” の例文
きました。ぼうさんはこわごわって、をあけて、裏手うらてをながめますと、そこにふか出来できていて、みずがいっぱいあふれていました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
方角はいへ裏手うらての様にも思へるが、遠いのでしつかりとはわからなかつた。また方角を聞きけるひまもないうちにんで仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
惡者共は七八人裏手うらてへ廻り立はさみ前後より追迫るにぞ半四郎は彌々いよ/\絶體絶命ぜつたいぜつめいはたふちなるはんの木をヤツと聲かけ根限ねこぎになしサア來れと身構へたり之を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
町の裏手うらてに山がありまして、その山のおくに、さびしい神社おみやが一つありました。甚兵衛は毎日、そこにおまいりをしました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かんがへ、かんがへつゝ、雨戸あまどつて、裏窓うらまどをあけると、裏手うらて某邸ぼうていひろ地尻ぢじりから、ドスぐろいけむりがうづいて、もう/\とちのぼる。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
午頃ひるごろまで長吉ちやうきち東照宮とうせうぐう裏手うらての森の中で、捨石すていしの上によこたはりながら、こんな事を考へつゞけたあとは、つゝみの中にかくした小説本を取出とりだして読みふけつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ふといきをついたが、ふと気がついてみると、そこは奉行ぶぎょう小屋の裏手うらてらしく、すぐ向こうから十数間すうけんのあいだには、ズッと鯨幕くじらまくがはりめぐらしてあって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、小屋の裏手うらての小さなテントの中で、何十人という曲馬団員だんいん御飯ごはんのしたくをしなければなりません。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
おじいさんは、うろうろしているうちに、またさびしいところへてしまいました。そこは、先刻さっきそのぐちまえぎた、おな公園こうえん裏手うらてになっていました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこいらにはもうだれひとないころで、木戸きどちかいお稻荷いなりさまのちひさなやしろから、おうち裏手うらてにあるふか竹籔たけやぶはうへかけて、なにもかも、ひつそりとしてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
どもりながら話すのを聞くと、甚右衛門店じんえもんだな裏手うらての井戸に若い女が身を投げているのを今顔を洗いに行って発見みつけたが、長屋じゅうまだ寝ているからとりあえず迎えに来たのだという。
今日けふ天氣てんきいからとて、幻花子げんくわし先導せんだうで、狹衣さごろも活東くわつとう望蜀ばうしよくの三が、くわかついで權現臺ごんげんだい先發せんぱつした。あとからつてると、養鷄所やうけいじよ裏手うらて萱原かやはらなかを、四にんしきりに掘散ほりちらしてる。
瓦屋根かはらやねの高くそびえてるのは古寺ふるでらであつた。古寺ふるでら大概たいがい荒れ果てゝ、やぶれたへいから裏手うらて乱塔場らんたふばがすつかり見える。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あちらで、しきりにいぬとおぼえをするこえがしていました。犬殺いぬころしがちかづいてきたのを警戒けいかいして、仲間なかまらせているのです。幸吉こうきちは、すぐに裏手うらてへまわりました。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ハイ外に證據しようことても御座りませねど吾儕わたくし營業あきなひよりの歸りみち元益方の裏手うらてとほると箇樣々々の話しをば。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小広い平地があって、竹林ちくりんのしげったすみに、一けん茅葺屋根かやぶきやねがみえ、裏手うらてをながるる水勢のしぶきのうちに、ゴットン、ゴットン……水車みずぐるま悠長ゆうちょう諧調かいちょうがきこえる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗助そうすけ文庫ぶんことゞけた午後ごごに、坂井さかゐつたとほり、刑事けいじ宗助そうすけいへ裏手うらてから崖下がけしたしらべにたが、其時そのとき坂井さかゐ一所いつしよだつたので、御米およねはじめてうはさいた家主やぬしかほた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
林太郎の家の裏手うらておかから北の方を見ると、霞ガ浦が入江いりえになっていて、そのむこうに一つの村があり、その村におっかさんのおさとがあるので、それで「むこうの家」といっているのでした。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
やしろ裏手うらてほうへ、用水池ようすいいけがつくられたのは、こののち、二百ねんくらいも、たってからのことでした。
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのほかお小姓こしょうとんぼの連中れんじゅうまでが、総立そうだちになって、裏手うらてへまわってきそうなぶり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このあたりで女達をんなたち客引きやくひき場所ばしよは、目下もくか足場あしばかゝつてゐる観音堂くわんおんだう裏手うらてから三社権現じやごんげんまへ空地あきち、二天門てんもんあたりから鐘撞堂かねつきだうのある辨天山べんてんやましたで、こゝは昼間ひるまから客引きやくひきをんながゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
致させ裏手うらてあき長屋ながやへ入られおよ二時ふたときあまり過て又白洲しらすへ呼出されいまだ考へ出ずば又明日出よ尤も其方のたくは終日客も入來り騷々さう/″\しからんにより日々奉行所へいで明長屋にて思ひ出すまでかんがふべしと申わたされ一同さげられしかば三郎兵衞は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふたたびどこからともなくからすがあつまってきて、おばあさんのいえ裏手うらての、いつかくろねこがいぬわれて、げてきてがった、たかいすぎのえだつくりはじめたのでした。
おばあさんと黒ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
歩いてうちいつか浅草公園の裏手うらてへ出た。細いとほりの片側かたがはには深いどぶがあつて、それを越した鉄柵てつさくむかうには、処々ところ/″\冬枯ふゆがれして立つ大木たいぼくしたに、五区ごく揚弓店やうきゆうてんきたならしい裏手うらてがつゞいて見える。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)