きも)” の例文
私はきものつぶれるほどに驚倒し、それから、不愉快になりました。「自惚うぬぼれちゃいけない。誰が君なんかに本気で恋をするものか。」
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
と屏風を開けて入り、其の人を見ると、秋月喜一郎という重役ゆえ、源兵衞はきもつぶし、胸にぎっくりとこたえたが、素知そしらぬていにて。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
十五、この日の夜半、霜は夢に打手うつてのかかるを見、きもを冷やし候よし、大声に何か呼ばはりながら、お廊下を四五間走りまはり候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「手前も……だろう——って言われた時にゃあ、あたいもきもっ玉がふっとんじゃったぞ。活動写真たあまるっきり違うんだからな」
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
じぶんと富五郎が請人うけにんにたって本所法恩寺橋まえの五百石お旗本鈴川源十郎様方へ下女にあげ、娘のお艶には、これも自分がきもいりで
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
北八きたはちは、にやり/\、中流ちうりういたころほ一錢蒸汽いつせんじようき餘波よはきたる、ぴツたり突伏つツぷしてしまふ。あぶねえといふは船頭せんどうこゑ、ヒヤアときもひやす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いかんせん昔おもえば見ず知らずとこれもまた寝心わるくあきらめていつぞや聞き流した誰やらの異見をその時初めてきものなかから探りいだしぬ
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
そうれまんだきもべ焼けるか。こう可愛めんこがられても肝べ焼けるか。可愛めんこ獣物けだものぞいわれは。見ずに。いんまになら汝に絹の衣装べ着せてこすぞ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
きもに銘じて分って来るに従い、自分のようなものがこれだけの人を独占している罪の深さを、反省しないではいられなくなった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
此処にまゆひそめて語るは児島惟謙こじまゐけん氏なり。顔も太く、腹も太く、きも太く、のそり/\と眼をあげて見廻すは大倉喜八郎氏なり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
私は溝に落ちたときにはきもつぶしたが、その驚きもしずまると、こうして助ちゃんといっしょに湯に入ったことが珍らしくて
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
おじいさんはきもをつぶして、またうろの中へくびめてしまいました。そしてぶるぶるふるえながら、ちいさくなっていきころしていました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
……娘は、いつかの私のいたずらに、よほどきもをツブしたのらしく、一度だって前のように歌いながら下宿の窓の下を過ぎたことはなかった。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
小さなきもね。こういうこと書くと、ユリ、又宵っぱりしたな、とお思いになるでしょうが、それは断然そうではないのです。
その色は今日こんにちまでのように酸の作用をこうむった不明暸ふめいりょうなものではなかった。白い底に大きな動物のきものごとくどろりと固まっていたように思う。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少しも騒がず手箪笥てだんすの中から一つつみの金(百円包のよし)を取出し与えますと、泥坊はこれほどまでとは思いもよらずきもをつぶした様子なりしが
蓮月焼 (新字新仮名) / 服部之総(著)
米や野菜や布団ふとんなどはもちろんのこと、病気にくというほととぎすの黒焼くろやきやうなぎのきもなど、めいめい何かしら見舞の品を持っていきました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
このときばかりはさすがの机博士も、よっぽどきもをひやしたと見えて、青菜あおなしおのようにげんなりしていたが、それでも、いうことだけはいい。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
以て當寺の檀家だんか一同へ御目見を仰付らるべし此旨村中むらぢうへ申達すべしとの事なり下男共げなんども何事も知らざれば是を聞てきもつぶし此頃迄臺所だいどころで一つに食事しよくじ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ハラムはイヨイヨきもを潰したらしかった。眼の玉を血のニジムほど剥き出した。唇をわななかして何か云おうとした。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
工匠らの出現によってきもを消す皇子、喜び勇む姫、あるいは工匠らを血の流るるまで打擲ちょうちゃくして山に隠るる皇子などの姿は、決して涙なき滑稽でない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「道義きもを貫き、忠義骨髄にち、ただちにすべからく死生の間に談笑すべし」と悠然として饑餲きかつに対せし蘇軾そしょくを思え、エレミヤを思え、ダニエルを思え
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
吉村右京は血気盛んの壮者わかものであったから、素手すででこの曲者くせものに立ち向ったが、肝腎かんじんの主人の刀を持った金輪勇は、きもつぶしてやみくもに逃げてしまう。
重いおけをになっているから自由もきかない。私が半分泣声になって叫ぶと、とたんに犬はきもをつぶすようなえ声をあげて、猛然と跳びかかってきた。
こんにゃく売り (新字新仮名) / 徳永直(著)
いや、面白いぞ、面白いぞ。島津が対手ならば、久方ぶりにきもならしも出来ると申すものじゃ。街道の釣男、飛んだところで思わぬ大漁に会うたわい。
かれらも最初は強情を張っていたのであるが、舶来の人形の首——この一句にきもをひしがれて、もろくも一切の秘密を吐き出してしまったのであった。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
入れ代りに従者らしき男が一のう沙金さきんをおいて風の如くぷッと去ってしまった。なんたる大人たいじんぶり、いやきもッ玉だろう。てんで歯の立つ相手ではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前さんは入口の格子を開けて入って、廊下から唐紙を開けて、中の死骸を見、きもをつぶして元の入口に戻った。
これは紛れもなく海神わたつみの宮の口女くちめであり、また猿のきもの昔話の竜宮りゅうぐう海月くらげであって、こういう者が出てこないと、やはり話にはなりにくかったのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お前になんのさかえをも与えることもできないで。恥とわずらいとのみ負わせた。お前がわしの妻子に最後までつくしてくれたことは、わしのきもめいじている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
奈落の暗闇くらやみで、男に抱きつかれたといったら、も一度此処ここでも、きもを冷されるほどしかられるにきまっているから、弟子でし娘は乳房ちぶさかかえて、息を殺している。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
奇っ怪に思って、一人の武士がそれを棒で掻き出し、眼を近よせて見ると、狸のきもらしい。庭下駄で蹴った。
純情狸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
うっかりと夜道を戻って来た酔払いなどが突然狐や赤鬼におどかされてきもつぶしたり娘たちがひょっとこに追いかけられたりする騒ぎが頻繁ひんぱんに起ったりするので
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
欺て河豚を喰わせるれから又一度やっあとで怖いとおもったのは人をだまして河豚ふぐわせた事だ。私は大阪に居るとき颯々さっさと河豚も喰えば河豚のきもくって居た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
万寿寺に往って寺の中を見ていると、の女が出て来て奥の方へれて往ったので、荻原のしもべきもつぶして逃げ帰り、家の者に知らしたので皆で往ってみると
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
魔術師のような女賊の手なみのほどは、Kホテルの事件できもに銘じている。岩瀬庄兵衛氏ならずとも、これほどの用心をしないではいられなかったに違いない。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
豊太閤ほうたいこう朝鮮ちょうせんを攻めてから、朝鮮と日本との間には往来が全く絶えていたのに、宗対馬守義智そうつしまのかみよしとし徳川とくがわ家のむねけてきもいりをして、慶長けいちょう九年のれに、松雲孫しょううんそん文※ぶんいく
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すっぽんはどうだといってみても問題がちがう。フランスの鵞鳥がちょうきもだろうが、蝸牛かたつむりだろうが、比較にならない。もとよりてんぷら、うなぎ、すしなど問題ではない。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
出てきた人形が口をあいて、見たな、といきなり不気味な声で叫んだので、登勢はきもをつぶした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
「おい、きもを喰うとよいぞ。もう蒸れたろうからな。あの病いにはそれが一番ええそうなんじゃ」
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それは第一回のときにこの地方に旅行に来て、清水青年団のきもいりで一泊いっぱくして以来、たびたび厄介やっかいをかけ、住職の伊藤老師ともすっかり仲よしになっていたからである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かしらかみあらば一三〇ふとるべきばかりにすざましく一三一きもたましひそらにかへるここちして、ふるふ振ふ、一三二頭陀嚢づだぶくろより清き紙取りでて、筆も一三三しどろに書きつけてさし出すを
小腰をひくめて「ちょいとお湯へ」と云ッてから、ふと何か思い出して、きもつぶした顔をして周章あわてて、「それから、あの、若し御新造ごしんぞさまがおかえんなすって御膳ごぜん召上めしやがるとおッしゃッたら、 ...
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
松島氏がピストルを打ったのである。実験とはいいながら、さすがに人々はきもを冷したが、程なく再び電燈がついて、首相にもI警視総監にも何の異常もなかったのでホッとした。
外務大臣の死 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
火が燃え上がって廊は焼けていく。人々は心もきもも皆失ったようになっていた。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ジウラさん、御免なさいね。もう、きもためしだなんて、あんな危ない目に貴方あなた
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
きもの太いもんだなとつくづく舌をきましたが、娘二人は慣れ切ったもので、何の物じするところもなく、私に電蓄をかけて——父親がこしらえたとかいう、電気代りの回転装置をかけて
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
此兄弟剛気がうきなるものゆゑかの光り物を見きはめ、もし妖怪ばけものならば退治たいぢして村のものどもがきもをひしがんとて、ある夜兄弟かしこにいたりしに、をりしも秋の頃水もまさりし川づらをみるに
かの君のきも太きことよ、直ちに二郎に向かって、少し賜わずやと求めたもう。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
田舎でも野原のらへなど出る必要もない身分であったが、かなりな製糸場などを持って、土地の物持ちの数に入っているある家の嫁に、お今をくれることに、きもってくれる人のあるのを幸い
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)