しの)” の例文
一杯飲んでいる内には、木賊とくさ刈るという歌のまま、みがかれづる秋のの月となるであろうと、その気でしのノ井で汽車を乗替えた。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜなら、らんまんたる桜の咲きさかる春のような、またはしのつく豪雨のカラリと晴れた、夏のような風情ふぜいは彼女にはそぐわなかった。
しのつく雨の中を、消防組の連中が刺子さしこを頭からスポリと被ってバラバラと駈けだしてゆくのが、真青な電光のうちにアリアリと見えた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
と思う間もなく園の周囲にはあられしのつくように降りそそいだ。それがまた見る間に遠ざかっていって、かすかな音ばかりになった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ひとりうなずいた甲賀世阿弥は、ふすまに使っている鹿の毛皮をとりだし、また、瘤山こぶやまくぼみへ下りて、手ごろなしのを切ってきた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最後は薬研堀やげんぼりの不動、植木市というほど盆栽の陳列、初春の床飾り、松竹梅に福寿草、当時はしのづくりの梅が流行で飛ぶように売れた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
陳者のぶれば、今年三月七日、当村百姓与作後家しのと申す者、私宅わたくしたくへ参り、同人娘さと(当年九歳)大病に付き、検脈致し呉れ候様、懇々頼入り候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
女房のおしのと、老番頭の佐助と、殺された梅吉と、幾太郎の妹のお栄と、幾太郎の許嫁いいなずけのお桃と、下女のお仲だけと判りました。
と駒に打ち乗り、濁流めがけて飛び込もうとするので式部もここは必死、しのつく雨の中をみのかさもほうり投げて若殿の駒のくつわに取りすが
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
勘次かんじ村落むら臺地だいちであるのと鬼怒川きぬがは土手どてしの密生みつせいしたちからもつわづかながら崩壤ほうくわいするつちめたので損害そんがいかるんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夜の明け放れる頃には夜来の嵐はしのつくような驟雨しゅううを名残として鳴りをひそめ、ケロリとしたようにすがすがしい朝が一ぱいに訪れていた。
得意の小ツルは、れいのとおりしので切ったような細い目を見はり、見はってもいっこうひろがらない目でみんなを見まわし
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
女軽業の連中を引っ担いで来た折助どもは、闇にまぎれて荒川の土手、よししのの生えたところまで来てしまいました。
「ははあ本郷真砂町ほんごうまさごちょうか。うむこの辺に大金持ち、滝山たきやま源兵衛がいた筈だ。その総領のおしのという娘、ちょいと踏める顔だったよ。よしそれでは例の奴……」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いの一番に傘を奪られた勘弁勘次、続いて何か叫んだが、咆える風、しの突く雨、雲低く轟き渡る雷に消されて、二、三間先を往く藤吉にさえ聞き取れない。が
此の二人たちまをどりたちて、滝に飛び入ると見しが、水は大虚おほぞらきあがりて見えずなるほどに、雲すみをうちこぼしたる如く、雨二七六しのを乱してふり来る。
雨雲そらをおおいしと見る程もなく、山風ざわざわと吹き下し来て草も木も鳴るとひとしく、雨ばらばらと落つるやがて車の幌もかけあえぬまにしのつく如くふり出しぬ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しのつく雨の烈しさで、数十本、数百本の金銀の帯が、へんぽんとして舞台目がけてふりくだった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しのの細道け行けば、虫のこえごえ面白や降りそむる、やれ降りそむる、けさだにもけさだにも所はあともなかりけり西は田のあぜあぶないさ、谷みねしどろに越え行け
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かかすべからずといられてやっと受ける手頭てさきのわけもなくふるえ半ば吸物椀すいものわんの上へしの
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
しのつくばかりの矢だまのなかを、まるで武者押(練兵)でもするもののように面もふらず前進し、やがて指揮者が刀をひと振りするとみるや、脱兎の如く敵の塁壁へと取り付いた。
石ころ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やがてそれがハラハラと四方に飛散するさまは、あたかも線香花火のきえるようであった、雨はしのつかねてなぐる如きドシャ降り、刻限は午前二時だ、僕ならずとも誰でもあまり感心かんしんはしまい。
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
すっかり閉め切ってしまったとき、サーッとしのを乱したような大降りになってきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
小雨は何時の間にか、しのつく雨となり、はしけのなかの数人の客達は、ずつぷり水浸しになつて来た。ゆき子は、富岡の外套を頭からかぶつてゐた。膝から下がしんしんと冷えてくる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
しかるに分娩ぶんべんの際は非常なる難産にして苦悶二昼夜にわたり、医師の手術によらずば、分娩覚束おぼつかなしなど人々立ち騒げる折しも、あたかも陣痛起りて、それと同時に大雨たいうしのを乱しかけ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
しのつく雨に打たれたり、どことも知れぬ所にしたりしながら、大半の道程みちのりを歩かなければならなかった。どろにまみれ、着物は裂け、乞食こじきのようなふうをし、また痛々しいせきをしていた。
そのしの突くような強烈な勢い、あとはすぐ晴れるというような軽快な心持が主として人の心を支配しますから、もとこの家に妖怪ようかいが住んでいたというような陰気な感じは鈍ってしまいます。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それと共に雲は摺墨するすみをうちこぼしたるごとく、雨はしのを乱して降って来た。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二階へ行こうというので、常子もおしのばあさんと一緒に上がって行った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さんざん耳からおびやかされた人は、夜が明けてからは更に目からも脅される。庭一面にみなぎり込んだ水上に水煙を立てて、雨はしのを突いているのである。庭の飛石は一箇ひとつも見えてるのが無いくらいの水だ。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
夏の夜はしの小竹をだけのふししげみそよやほどなく明くるなりけり
短夜の頃 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
美篶みすず吹きしの吹く風の朝東風あさこちは目もすまにして音のさやけさ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
間もなく四辺は、しのつくような雨に煙っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
かねしの
あのけわしい山中にさえ、近頃は、かやの屋根にしのすだれを垂れ、よる見たらむしろおそろしげな遊女の宿が何軒もできているそうである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひく粟幹あはがら屋根やねからそのくゝりつけたかやしのにはえたみゝやつきゝとれるやうなさら/\とかすかになにかをちつけるやうなひゞきまない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ならんだ二だいに、あたまからざつとあびせて、のきあめしのつくのが、たてがみたゝいて、轡頭くつわづらたかげた、二とううま鼻柱はなばしらそゝ風情ふぜいだつたのも、たにふかい。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
下女のおしのです。二十一歳の純情をぶちまけて、自分達には此上もなく良かつた、主人の妻を救ふ氣になつたのでせう。
吉田に着いてからもしのつく雨は、いよいよさかんで、私は駅まで迎えに来てくれていた友人と共に、ころげこむようにして駅の近くの料亭に飛び込んだ。
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、櫓の狭間はざまから、二百人あまりの射手の射る矢が、拳下がりの狙いうちに、しののように射出いいだされた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さて、私申し条も相立ち候へば、即刻下男に薬籠やくろうを担はせ、大雨の中を、しの同道にて、同人宅へ参り候所、至極手狭なる部屋に、さと独り、南を枕にして打臥し居り候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
とたんにどッと降りだしたしのをつくような雨は、風のために横なぐりに落ちて、窓枠まどわくをピシリピシリと叩いた。密林がこの小屋もろとも、ジリジリと流れ出すのではないかと思われた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
それは三之助の位置からも見えた、あけてある障子と、雨戸の隙間越しに、……濁ってふくれあがる水の面を、斜めにしのをなして豪雨が叩くので、いちめんに灰色のしぶきが立っていた。
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
といった時、しの突く雨の音を消して、家の周囲まわりにどっと人声が沸き立った。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
然るに分娩ぶんべんさいは非常なる難産にして苦悶二昼夜にわたり、医師の手術によらずば、分娩ぶんべん覚束おぼつかなしなど人々立騒たちさわげる折しも、あたかも陣痛起りて、それと同時に大雨たいうしのみだしかけ、鳴神なるかみおどろ/\しく
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
銀子が老母のおしのばあさんに言うと、彼女は子供のような笑顔えがお
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
駄馬にもしのむち、というかくで、少しは心に勇みを添えられる。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
美篶みすず吹きしの吹く風の朝東風あさこちは目もすまにして音のさやけさ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこから双子山ふたごやまの間にはいる数十町は、山を忘れる高原の平地で、肩まで没しそうなしのと野草がじょうじょうと秋風に白くなびいている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おつぎはみぎはへおりようとおもつてしのけてると其處そこがけつて爪先つまさきからちたちひさなつちかたまりがぽち/\とみづつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)