皮肉ひにく)” の例文
ちょっと皮肉ひにくなところがありますが、やさしい微笑びしょうをたたえた皮肉で、世の中の不正やみにくさに、それとなくするど鋒先ほこさきを向けています。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
私には一ことも、なんにも、おっしゃいませんでした。いままでは私が、あなたに何か世話でもすると、あとで必ず、ちょっとした皮肉ひにく
故郷 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あまり、その調子ちょうしがくだけていて、自分じぶんたいする皮肉ひにくとはとれなかったので、おたけは、まえにいた女中じょちゅうのことだけに、ついつりこまれて
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
喉を紋められたというよりも、三枚の長い鋭い爪で頸の左右を強く刺されたような形で、爪のあとが皮肉ひにくのなかに深く喰い込んでいた。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と帆村は皮肉ひにくを云ったが、でも私が入ってきたときよりもずっと朗かさを加えたのだった。彼は今、話し相手が欲しくてたまらないのだ。
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
A いよ/\馬鹿ばかだなア此奴こいつは。およそ、洒落しやれ皮肉ひにく諷刺ふうしるゐ説明せつめいしてなんになる。刺身さしみにワサビをけてやうなもんぢやないか。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
人の力でどうにもならないのは、皮肉ひにく運命うんめいで、その運命をえて案外あんがいにくるわすものは、これまた人力の自由にならぬ時間というものである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私がはいって行くと、笹川は例のあわれむようなまた皮肉ひにくな眼つきして「今日はたいそうおめかしでいらっしゃいますね」
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
卓連俊 (よろよろしながら)卜い者に自分の運命がわからねえように、あんたにゃあ民族の運命がわからねえ、皮肉ひにくだね。お互いに無駄なこった。
やがて井口警部いぐちけいぶは、だい三の容疑者ようぎしゃしたが、それは皮肉ひにくなことに、あのんでいたランチュウを、刈谷老人かりやろうじんうちつてきたという金魚屋きんぎょやである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
萬之助は負け惜しみが強くて皮肉ひにくで、お銀の樣子がしやくに觸つてたまらなかつたんだらう。——美い女は大抵高慢かうまんで人を人とも思はない。お銀もさうだつた。
あれは徳川氏が自分の政策上から、あんな料理法を拵へ上げたので、一体吾々の食べる魚肉といふものは、皮肉ひにくあひだあぶらが乗つて一番うまいものなんです。
僕はあながち勝者をねたんで皮肉ひにくく考えもなければ、誰がどうと具体的に指さすことをくせぬが、かくのごとき人が世にありそうであり、またありと聞いている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「どうせらあ、佳味うめえつたつてさうだにほどでもふべぢやなし、かまやしねえが」卯平うへい皮肉ひにくらしい口調くてうでいつた。勘次かんじたゞだまつてむしや/\と不味相まづさうんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「それは普通ふつう無智むちおんなたいしてのことさ。IならS、Hくんでもきつとおとなしくするよ。」わたし自家じかけん遜の意味いみつたが、いくらかの皮肉ひにくもないとはへなかつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
はち眞劍しんけんさが、その子供こどもたいする用意周到よういしうたうさがなに皮肉ひにくむねびかけてゐるやうな氣持きもちだつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
彼の言葉は平生から皮肉ひにくたくさんに自分の耳を襲った。しかしそれは彼の智力が我々よりも鋭敏に働き過ぎる結果で、その他に悪気のない事は、自分によく呑み込めていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
滝田くんぼくにその小説しょうせつのことを「ちょっと皮肉ひにくなものですな」といった。
滝田哲太郎君 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とある隅の壁の方に肩を小さくしてさがし手を待つてゐる間に、しばしば埋もれた鶩の卵を見つけ出し、さうして棟木のかげからぬるぬると匍ひ下る青大將のあの凄い皮肉ひにくな晝の眼つきを恐れた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
浮雲の筆はれきって、ぱっちり眼を開いた五十男の皮肉ひにく鋭利えいりと、めきった人のさびしさが犇々ひしひしと胸にせまるものがあった。朝日から露西亜へ派遣はけんされた時、余は其通信の一ぎょうも見落さなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかしいくぶんかの皮肉ひにくをまじえていった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
皮肉ひにくつたやうな聲が云つた。
抱せ海老ゑびに掛らるゝ事既に十三度に及び皮肉ひにく切破きれやぶほねくだくるばかりの苦痛くつう堪兼たへがね是非なく無實の罪におちし所此度是なるさい節恐れ多くも松平縫殿頭樣へ御駕籠訴かごそ仕つりしより江戸おもてへ召出され再應さいおうの御吟味ぎんみあづかること有難仕合に私し風情ふぜいの女房が願を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
皮肉ひにくをいふ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
と、金博士は謙遜とも皮肉ひにくとも分からない笑い方をして、大統領をはじめ、建艦委員たちを案内して、驚異軍艦ホノルル号についていった。
そして、そのなか幸吉こうきちっていると、おじさんの、そのずるそうなつきは幸吉こうきちかおうえまりました。おじさんは、幸吉こうきちにさも皮肉ひにくそうに
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのいわれのある古戦場こせんじょうで、その信玄のまごが、わずかふたりの従者じゅうしゃとともに、錆刀さびがたなで首を落とされるとは、なんと、あわれにもまた皮肉ひにく因縁いんねんよ!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はツイ合槌あひづちを打ちました。才八といふのは、さう言つた、物の考への皮肉ひにくな男だつたのです。
事実また、それを揶揄やゆ皮肉ひにくるのは、いい気持のものさ。けれども、その皮肉は、どんなに安易な、危険な遊戯であるか知らなければならぬ。なんの責任も無いんだからね。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
よし皮肉ひにくをもって一時勝利を得るにしても、その実は敵にけたものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
B ぼく又折々またをり/\葉書はがき友人いうじん論戰ろんせんすることがある。十まいづつも葉書はがき往復わうふくするとなり面白おもしろ論戰ろんせん出來できる。まじめな論戰ろんせんをやることもあれば、惡口あくこうきあひや皮肉ひにくひあひをすることもある。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
成程なるほどながれない、をとこ立派りつぱきてゐる、——しかしそれでもころしたのです。つみふかさをかんがへてれば、あなたがたわるいか、わたしがわるいか、どちらがわるいかわかりません。(皮肉ひにくなる微笑びせう
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「相変らず皮肉ひにくるな」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あなた、このひろ東京とうきょうですもの……。」といって、おとこは、きつねのようなかおつきをして、皮肉ひにくわらかたをしたのです。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あんた、なんか業病ごうびょうがあるんじゃない。だって指先に一向力がはいらないじゃないの」責任者のおもんというのに、光枝はたっぷり皮肉ひにくをいわれた。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これまた何たる皮肉ひにく! 空から中庭のまん中へ、ズシーンとばかり飛び降りてきた、雷獣らいじゅうのような一個の奇童きどうがある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たつたそれだけだが、ちよいと變ぢやありませんか親分。神田から番町へかけて、並ぶ者のないと言はれた上總屋音次郎が、死んで一文もないなんざ、皮肉ひにく過ぎますよ」
その一弾が皮肉ひにくにも棺桶かんおけならぬ此のタンクの中へ残ったわけなんです。本当に恐ろしいことですね。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おまえさんはわるくなってあのふねえないからだろう。」と、なかには皮肉ひにくをいって、いままで自慢じまんをしていた老人ろうじんはなってやろうとおもったものもありました。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
がそれも、友達に抗議されて不本意ながら重大な変更を余儀なくされ、同時に作曲した「あらし」が、異邦フランスのパリ博覧会で演奏され、熱狂的な喝采を博したことも皮肉ひにくである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ピシリッ、ピシリッと皮肉ひにくを破るむちの苦痛を万吉じっとこらえている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに、上役うわやくは、冷然れいぜんとして、皮肉ひにくつきで、そのおとこ見下みくだして、命令めいれいします。この場合ばあい、だれがいても無理むりおもわれるようなことでも、おとこは、服従ふくじゅうしなければなりませんでした。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
藤三郎の顏には、皮肉ひにくな薄笑ひが浮びました。土藏の海鼠壁なまこかべは、あの通り見事に切り拔かれて居るのに、泥棒が鍵を盜んで入りはしないかと言ふ問が、あまりに迂濶うくわつだと思つたのでせう。
帆村は、課長の勇猛心に顔負けがして、ちょっと皮肉ひにくを飛ばした。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「貴方はよくお調べですね」と警部が皮肉ひにくのつもりで云った。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そばの人々ひとびとは、皮肉ひにくにも、彼女かのじょをそんなようにいいました。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、皮肉ひにくのようになぐさめるように、いったのでした。
すみれとうぐいすの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それだけだって。ふふン」と頭目は皮肉ひにくに笑って
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕は、いささか皮肉ひにくなもののいい方をした。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ラルサンは皮肉ひにくをとばす。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)