)” の例文
それに、野村と二川とは性格が正反対といっていゝほどで野村はく陽気な性質たちだったし、二川は煮え切らない引込思案の男だった。
私は乱暴書生ではない。く気の小さい大人しい者である。杉浦さんに出会ってどうしたと思います。私は急に下駄から飛び降りた。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あっても、く僅かしかない。濁って、なまでのめるようなしろものじゃなかった。のんだら、胃と腸が、雷のように鳴り出すだろう。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
お宅は下根岸しもねぎしもズッと末の方でく閑静な処、屋敷の周囲まわりひくい生垣になって居まして、其の外は田甫たんぼ、其のむこう道灌山どうかんやまが見える。
それはく上等の純白の模造紙にペンで書いたもので(○ツエイ ハ ヨ○八時三十分 ヨリ行ウ ○ショップ ○ンセン同伴ス)
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「大将、ちょっとちょっと、他人ひとにいっちゃあいけませんよ、ないですよ、これです、素敵に面白いのです、五十銭奮発して下さい」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
く沈んだ憂えを帯んだ額に八の字を寄せて、よもぎのように蓬々ほうほうとした半白の頭を両手でむしるようにもだえることもあるかと思えば
(新字新仮名) / 小川未明(著)
もって、く最近のことですが、大学の理科主任教授里見さとみ先生立会たちあいの上、例の容疑者三名について興奮曲線を取り直してみたのです
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「へい。一時二時のこともございます。今晩なぞも、もう一段お始めになりますと、く早く仕舞っても二時でございましょうな」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『もうないから、萬望どうぞはなして頂戴ちやうだいな』とあいちやんは謙遜けんそんして、『二くちれないわ。屹度きつとそんな井戸ゐどひとくらゐあつてよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
これはまあく/\秘密なんだが——君だから話すが——』と青年は声を低くして、『君の学校に居る瀬川先生は調里ださうだねえ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
山へ登るのもくいいことであります。深山しんざんに入り、高山、嶮山けんざんなんぞへ登るということになると、一種の神秘的な興味も多いことです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それよりももっと重大なことは、この霜柱が、寒地の土木工学上大切な問題として、く最近に、低温科学の表面に浮き出たことである。
ブリスケを買う時は脂身あぶらみの附いている処でないと美味おいしくありません。それを二斤も買ってく強い塩水へ一晩漬けておきます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かの子 ここの所一寸ちょっとそういうふうな状態ですね。繊細せんさいな感覚的な拾物ひろいもの程度のものは一部の人の中に入って来てはいるけど。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは十年も前からの友人に、ふと道できあった時のような、く自然な言葉であった。すくなくとも、私にはそう感じられた。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
く少量の、アルコールを交ぜて使っても、サラサラとして描きやすいのです、絵具はガラス面で直ちに固定し、すぐ乾燥してしまいます。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
手紙の初めにも申上げたよう私のうちいち監獄署の裏手で御在ございます。五、六年前私が旅立する時分じぶんにはこの辺はく閑静な田舎でした。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たまたま季題が役に立つ場合があるかも知れないがそれはすくない。季題に頓着とんじゃくなく詠う方が深刻でかつ自由であろうと思う。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
たとへばすみ別室べつしつ藥局やくきよくてやうとふには、わたくしかんがへでは、少額せうがく見積みつもつても五百ゑんりませう、しかあま不生産的ふせいさんてき費用ひようです。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「いえ、ちょいと帯を直しただけ、なんにもなさいません。平常ふだんから綺麗すぎるほど綺麗なお嬢さんで、お化粧もく手軽な方でしたが——」
「術」の字を冠するに足る画は、く少数に過ぎないのであります。仮りにここに職工的な画の的があったとします。
く単純な、好奇的なものではあるが、しかしそれがへんな、醜いことだということを感じつつ、それに注意が向くのだ。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その時炎の上にそそがれて居た彼の瞳に、ふと何の関聯もなしに、妻の後姿が、く小さく——あのフェアリイほど小さく見えるやうな気がした。
実に著者の悲しむことは、自分の過去のあらゆる詩が——く少数の作を除いて——一も真の音律的魅力を持たず、朗吟に堪えないことである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
イヤ、今言つたのはく些細の例を取つたのだが、萬事がさうだ。どんな事でも皆失策おちどといつたら細君が背負ふんだぜ。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
校長先生の御高徳を、く極く詰まらない事までも一つ一つ挙げて、説明して行かれた時の満場の厳粛でしたこと……。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さうして、さういふ不快の原因もとと言へば、いつも、母ならぬ人には毛ほども悟られたくない、く小さい詰らない事の失望やら怒りやらであつた。——
不穏 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お前は知らないが、おれ真面目まじめな話をしたのだ。己はどうしても本当の事を言ってもらわなくてはならないといって、ベルナルドさんに迫ったのだ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
その両方に迫って来ている森の間を、まばゆい春の日光に照らされた川は、くゆるくうねって流れているのである。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それは至極しごくありふれた部屋であった。というのは、第一、旅館そのものが、くありふれたものであったからだ。
ことにくおしつまつて、もう門松かどまつがたつてゐるさういふ町を歩いてゐると、ちよつと久保田万太郎くぼたまんたらう君の小説のなかを歩いてゐるやうな気持でいい気持だ。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
両国の川開きであるなどと、自分は興じて良人をつとに言つて居た。九時半頃に、それはく小さい煙花はなびの一つがノオトル・ダムのお寺の上かと思ふ空にあがつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あり来たりの色恋をしたってつまらないよ、そんなこたあ、素人しろうとの箱入さんか、くましなところで、意気がった櫓下やぐらした羽織衆はおりしゅうにでもまかしておくんだね。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
この点から見ると、私は少年時代の目を、純一無雑な、く軟らかなものであると思う。どんなちょっとした物を見ても、その印象が長く記憶に止まっている。
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この三度の腹下しのうちで、二度はく軽微なものでしたからお休みになるほどではなかったようですが、一度は少し重くって一日二日伏せっていらしった。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は朝く早くたなくてはならないのであつた。ダイアナとメァリーは彼に接吻をして部屋を出た——思ふに、彼からそつと云はれた言葉に從つてだらう。
く冷淡に事務に従事する人でも、親切に愛嬌あいきょうまたは好意を持つと持たぬのでおのずからその務めのはかどりも違う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
其爲そのため亞尼アンニー一人ひとりさびしくいへのこされて、つひわたくしいへ奉公ほうこうやうになつたのですが、御存ごぞんじのとうり、正直しやうじきをんなですから、私共わたくしどもをかけて使つかつてうち
まれに自力で問題が解ける場合に出遇であうと、狂喜のあまり不思議な音声を発したりするのである。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
それを残念さに、私の宅の第三回目というのをく限られた少数で、しかも女ばかりを集めてやった。
怪談 (新字新仮名) / 平山蘆江(著)
そんでてえもんだから他人ひとにも面倒めんどうられてくれえだからぜにつてんでさ、さうしたら何處どこいたかだましてれてつてね、えゝわしらあねせお内儀かみさん
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
く内密におはなししたいが、お召使の出入りなきよう、しばらく人を遠ざけていただけまいか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は頭にはフェルトのきたない帽子をかぶり、身には一枚のく薄い綿入れを着て、体はすっかりちゞこまっていた。手には一つの紙包と一本の長い煙管キセルとを持っていた。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
鷹揚おうような、見た眼にも温良そうな男であるが……変ったのはかれや私の頭髪ばかりではない、それの店の内部も外観も、ほとんど昔のおもかげを止めない位に変ってしまった。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
く早いお茶の水の卒業生だった彼女が学校を出て、大丸横町の岡田学校というのへ月俸金四円也で奉職したのは、私なぞの知らないころだったが、わからずやの私の母は
出来た当時は、三十銭か四十銭のく簡単なものであつたが、今日では非常に凝つたものが出来るやうになり、値も張つて二十円や三十円といふ高いものさへあるくらゐである。
駒台の発案者 (新字旧仮名) / 関根金次郎(著)
く内輪に見て、一日平均三合宛飲んだとすれば、この歳になるまで一体どの位の量になったろう。かりに三十年間飲んだとして、一万九百五十日、計三十二石八斗五升となる。
酒渇記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「大」の字は元より「悟」の字「覚」の字等は青幇から師爺しやとして尊敬される。又昔はやかましかった入幇方法も今は容易たやすく、わずかに一人の紹介者位で入れるようになった。
そんならやって見ようかといってそろ/\こころみると、塾中の者が烟草を呉れたり、烟管キセルを貸したり、中にはれはく軽い烟草だと云て態々わざわざかって来て呉れる者もあると云うような騒ぎは
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)