戸外おもて)” の例文
さつそく帽子を掴んで戸外おもてへ飛び出さずにゐられないといつた、あんな手合とは、てんで比べものにもなんにもなつたものぢやない。
戸外おもての物音は車の響、人の聲から木の葉のそよぎまでが自由につたはつて來るし、家人は何時でも勝手に、何の會釋もなく襖を引開ける。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「誰?」と言いかけて走り出で、障子の隙間すきまより戸外おもてを見しが、彼は早や町の彼方かなたく、その後姿は、隣なる広岡の家の下婢かひなりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頷首いた彦兵衛の姿が、台所の薄暗がりを通して戸外おもての方へ消えてしまうと、置場へ引っ返して来た藤吉は、検視の役人へ声を掛けた。
急度きつと相違のない樣に直に調達致して來ようとつかと戸外おもてへ出たるは其日も已に暮合くれあひすぎなりも此家には妻子もなく一個住ひとりずみにて玄關番げんくわんばん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
僕はそこで、そっと雨戸に近よって節穴から戸外おもてを見ると、はるか向こうに寺の屋根が見え、眼のまん前に寺の門が見えました。
塵埃は語る (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
……あなたは、落したときめこんで、しきりに戸外おもてばかり探すが、私にすれば、どうも家の中にあるように思われてならないんですがねえ
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
んみりと云う。じっと泥舟を見つめる。そしてを曳く人の如く、遅々と、名残惜しそうに、道場の裏戸から静山は戸外おもてへ立ち去る——
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はすぐってそこの廊下の雨戸を一枚けて、立って待っておると戸外おもておぼろの夜で庭のおもにはもう薄雪の一面に降っていた。
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
余りの事に振向いて見た、が、此時は既に此等革命の健児の半数以上は生徒昇降口から嵐に狂ふ木の葉の如く戸外おもてへ飛び出した所であつた。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
友もやゝ酔つた様子で、やうや戸外おもてくらくなつて行くのを見送つて居たが、不意に、かうたづねられて、われに返つたといふ風で
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「五味多四郎様! 五味多四郎様! どうぞお返しくださりませ、宗介天狗の黄金こがね甲冑かっちゅう、どうぞお返しくださりませ!」戸外おもての声はなお叫ぶ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
就いてはこれといふ証拠が無くちや口が出ませんから、何とか其処そこを突止めたいのだけれど、私のからだぢや戸外おもての様子が全然さつぱり解らないのですものね
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのお祖母樣に連れられて戸外おもてに出ると、自分が生れた時、お祖母樣の懷に抱かれて、お宮詣に來たといふ神社の前で
貝殻追放:016 女人崇拝 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
そして、むつまじく飲んでいるうちに、何だか戸外おもてが騒々しくなって来た。日が沈むと、村の往還は人通りも絶える。
田舎風なヒューモレスク (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と立上りながら振切って百度のくじをぽんと投付けると、柳田典藏の顔へあたったからいとうございます。はっとつらを押えて居るうち戸外おもてへ駈出しました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
両人ふたりは酔って、戸外おもてへ出た。酒の勢で変な議論をしたものだから、肝心の一身上の話はまだ少しも発展せずにいる。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨日やって来た男が、わたしの見ている目の前で、わたしの毛皮外套をいとも悠々と外套掛からはずして、小脇にかかえ込み、ぷいと戸外おもてへ飛び出した。
『もう澤山たくさんよ——もうびたかないわ——このとほり、戸外おもてられなくなつてしまつてよ——眞箇ほんとにあんなにまなければかつた!』と獨語ひとりごとひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そして三四郎の書斎にてられた別室へ陣取ると、戸外おもての美木も呼び込んで、ひと通り事情を聴取しはじめた。
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
彼が戸外おもてへ出ると、外はもう宵よりも混乱の度を加えていた。そのうえ時々、タウベが落す爆弾の炸裂する声が、激しい騒擾そうじょうに更に恐怖と不安とを加えた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私はすっかり服装を改めて、ついの大島の上にゴム引きの外套がいとうまとい、ざぶん、ざぶんと、甲斐絹張りの洋傘に、たきごとくたたきつける雨の中を戸外おもてへ出た。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
顔を洗ひに戸外おもてに出ようとその障子を引きあけて、またわたしは驚いた。丁度真正面に、広々しい野原の末の中空に、富士山が白麗朗と聳えてゐたのである。
木枯紀行 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
まゆしわむる折も折、戸外おもてを通る納豆売りのふるえ声に覚えある奴が、ちェッ忌々いまいましい草鞋わらじが切れた、と打ち独語つぶやきて行き過ぐるに女房ますます気色をしくし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、おばあさんはいいました。辰吉たつきちは、それをほんとうだとしんじました。それからは、毎晩まいばんのように、戸外おもてて、青黒あおぐろい、よるそらかがやほしひかり見上みあげました。
木に上った子供 (新字新仮名) / 小川未明(著)
戸外おもてでは生活の営みがいろいろな物音を立てているのに、清逸の部屋の中は秋らしくもの静かだった。清逸は自分の心の澄むのを部屋の空気に感ずるように思った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこの窓際まで来て、雨戸を開けて、あだか戸外おもての人とはなしをしているかの様子であった、暫時しばらくして、老爺おやじはまた戸を閉めて、手に何か持ちながら其処そこの座に戻って来たが
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
或人が不斗ふと尋ねると、都々逸どどいつ端唄はうたから甚句じんくカッポレのチリカラカッポウ大陽気おおようきだったので、必定てっきりお客を呼んでの大酒宴おおさかもり真最中まっさいちゅうと、しばらく戸外おもて佇立たちどまって躊躇ちゅうちょしていたが
お神さんとあわただしく台所先で小女が呼んだので、何だねと談話はなし半分で女房が立って行ったを幸いに、逃げるように貞之進は戸外おもてへ出て、巻煙草を置忘れたことに気が附いたが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
『こんなことでは本当ほんとう修行しゅぎょうにもなんにもなりはしない。気晴きばらしにすこ戸外おもてましょう……。』とうとうわたくし単身ひとりたき修行場しゅぎょうばかけ、あしのまにまに、谷川たにがわつたって
文三は狼狽あわてて告別わかれの挨拶を做直しなおして匇々そこそこ戸外おもてへ立出で、ホッと一息溜息ためいきいた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「ああ、」とマリちゃんがった。「わたしは、戸外おもてるまでは、かなしかったが、もうすっかりむねかるくなった! あれは気前きまえのいいとりだわ、わたしにあかくつをくれたりして。」
彼は大聲で下僕を呼び、すぐに此奴を戸外おもてへ掴み出せと怒鳴るのである。彼は自殺用のピストルをいぢりながら、昨夜の馬鹿氣た行爲を後悔し、毒蛇のやうな自己嫌忌に惱まされる。
酒に就いて (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ある最早もういえの人も寝鎮ねしずまって、夜も大分けた頃に、不図ふと戸外おもてで「お母さん、お母さん、」と呼ぶ従兄の声がするので、伯母もその男も、共に眼を覚して、一緒に玄関まで出て、そこの扉を開けて
感応 (新字新仮名) / 岩村透(著)
「やいやい待て。そして戸外おもてへ出ろ。喧嘩をしてやるから——」
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
刻一刻にこらへ性がなくなつて、なん度となく戸外おもてへ出ては木立の影が少しでも長くならないかと、そればかり眺め眺めしたものぢや。
同時に、戸外おもて山手やまてかたへ、からこん/\と引摺ひきずつて行く婦人おんな跫音あしおと、私はお辻の亡骸なきがらを見まいとして掻巻かいまきかぶつたが、案外かな。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其の時戸外おもてには余程よほど前から雨が降つてゐたと見えて、点滴の響のみか、夜風が屋根の上にと梢から払ひ落すまばらな雫の音をも耳にした。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
竹童ちくどう蚕婆かいこばばあ問答もんどうをよそにべっついの火にむかって煙草たばこをくゆらしていた脚絆きゃはんわらじの男が、ふいに戸外おもてへ飛びだしてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五時になると、四人がいっせいに起き出す。朝飯あさはんを喰べている間にサッサと寝床を片づけ、寝袋スリーピング・バッグをよくたたいて戸外おもてす。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
両人ふたりつて、戸外おもてた。さけの勢で変な議論をしたものだから、肝心の一身上の話はまだ少しも発展せずにゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
友だちはそこそこに帰って行く清三の後ろ姿を怪訝けげんそうに見送った。後ろで石川の笑う声がした。清三は不愉快な気がした。戸外おもてに出るとほっとした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
と床を敷く間新吉は煙草をんでいると、戸外おもての処は細い土手に成って下に生垣いけがきが有り、土手下のよしあしが茂っております小溝こみぞの処をバリ/\/\という音。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うちの中よりは戸外おもての方が未だ可いので、もうと歩いてゐる中にはをさまりますよ。ああ、此方こちらがお宅ですか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何方どつちも其時半紙何帖かを水引で結んだ御褒賞を貰つたので、私は流石に子供心にもなさけない樣な氣がして、其授與式の日は、學校から歸ると、いつもの樣に戸外おもてに出もせず
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
突然、戸外おもてにあわただしい跫音がして、がらりと格子があいた。一拍子に飛び込んで来た異様な男。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
扨ものつそりは気に働らきの無い男と呆れ果つゝ、これ棟梁殿、此暴風雨あらしに左様して居られては済むまい、瓦が飛ぶ樹が折れる、戸外おもて全然まるで戦争のやうな騒ぎの中に
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その時、はる戸外おもてに当たってむせぶがような泣くがような哀々あいあいたる声が聞こえて来た。それは大勢の声であり、あたかも合唱でもするかのように声を合わせて叫んでいるらしい。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は身震いを一つすると一緒に、前後も見ずに裸足はだしのまま、戸外おもてへ飛び出してしまった。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
病気と云って学校へもゆかず打臥して居たが、点燈頃ひともしごろむっくりおき戸外おもてへ出で、やがて小さな鉄鍋に何やら盛って帰って来て、また床に這入って夜の一時とも思う頃徐々そろそろ頭を挙げ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)