ついで)” の例文
病後の保養かた/″\加賀の山中温泉へ、妾と二人連れでやつて来たついでに、自分だけその弟なる私の父の許へ立ち寄つたのであつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
お咲が下町へ買物に来たついでだと云って見廻って来た。みやげの菓子袋を前に置いていつもの通り蓑吉の小さい耳のほとりで挨拶した。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
課長は今日俺の顔を見るとから笑つて居て、何かの話のついでにアノ事——三四日前に共立病院の看護婦に催眠術をけた事を揶揄からかつた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのついでにニッコリと笑って平炉の広い板張のデッキへ帰りかけたが、そのニコニコわらいが突然に、金縁眼鏡の下で氷り付いてしまった。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と節子は祖母さんの部屋の方から熱い茶なぞを運んで来るついでに、自分の掛けている半襟はんえり一寸ちょっと岸本に見せるようにすることも有った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで、更におおいにすすめたのであるが間もなく、一度上京して、いろいろな人に逢って決したい。そのついでに立ち寄るという手紙が来た。
江戸川氏と私 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ついでと申しては、恐れ入りますが、以来、御無沙汰いたしております。常々兄の真雄さねおが又、一方ひとかたならぬ御庇護ごひごに預かっております由で』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さいはひお前の文身ほりものを洗ひ落すついでに、一皮いでやらうぢやないか、石原の利助を三助にするなんざア、お前に取つちや一代のほまれだ
彼は、またどうして、事のついでに、弟の居所をたしかめておく気にならなかつたか、それが今になつてたゞひとつ後悔の種となつた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
開いて見ると、別段の品物も入っていなかったが、中に銀の懐中鏡があったので、ついでにそれをとり出して、自分の顔を写して見た。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
其内御近所へまゐるついで御坐候まゝ、其時参上申承るべく候。又御主人様へも御目にかゝり、面白き御咄しも承度うけたまわりたく候。右御返事まで。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「さういふみじかいのは端布片はしぎれふにかぎるのさ、いくらにもつかないもんだよ、わたし近頃ちかごろついでもあるからつてつてもいよ」
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
以上で巻十二の選は終ったが、従属的にして味ってもいいものが若干首あるからついで書記かきしるしておこう。たいして優れた歌ではない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
三四郎はひとの文章と、ひとの葬式を余所よそから見た。もしだれて、ついでに美禰子を余所よそから見ろと注意したら、三四郎は驚ろいたにちがひない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
旧藩の平穏は自から原因あり私の経済話から段々えだがさいて長くなりましたが、ついでながら中津藩の事について、モ少し云う事があります。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
選名術の先生に私のことを見て貰うたついでに聞いてやつたら、福島福造といふ名と四十四といふ年を言うただけで、先生は直きに
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
泥坊に這入るには、ふんをして置いて這入るものだといふことを聞いたことがある。そこでついでにして見ようかと思つたが、したくなかつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ついでに水源地の林相をべて見ると、この地方では秩父などで見るように喬木帯が闊葉、針闊混淆、針葉という順序に判然と認められない。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「そのハルクも、ついでに片づけておきましたよ。万事ばんじ片づいてしまいました。あとは、一意、われわれの計画の実行にとりかかるだけです」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
注意して調査すると感興あり利益ある種々の学術材料を見出し得るてふ事を摩訶薩埵王子虎に血を施した話のついでに長々しく述べた訳じゃ。
烟草たばこゆらし居たる週報主筆行徳秋香かうとくあきか「渡部さん、恐れ入りますが、おついでにおみ下ださいませんか」「其れがい」「どうぞ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「それが僕の直観だよ。待ち給え。吉報だから、お父さんお母さんにも君から話して貰おう。ついでに少し刺戟して置いてくれ給え」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こういうついででないと、もう皆さんがくこともあるまいと思うから話して置くが、まだこの以外にいくつかの変った名前がある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
親戚のなにがしが用事が有って上京したついでに、私を連れて帰ろうとしたが、私は頑として動かなかった。そこで学資の仕送りは絶えた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
今、事のついでなれば、わが「じゃぼ」に会いし次第、南蛮のことばにては「あぼくりは」とも云うべきを、あらあらしもに記し置かん。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ついでだからつてくが、わたくしはじこのふね乘組のりくんだときから一見いつけんしてこの船長せんちやうはどうも正直しようじき人物じんぶつではいとおもつてつたがはたしてしかり、かれいま
それはとにかくあなたのような立派なお方が何のとがで、ご勘当など受けなされたか、差し支えなければおついでにそれもお話しくださいますよう
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
良人おっととの再会さいかい模様もよう物語ものがたりましたついでに、おなころわたくしがこちらで面会めんかいげた二三の人達ひとたちのおはなしをつづけることにいたしましょう。
ついでに斯う教へて来なされ。このやうなひどい目にあうて、何悪いことしたむくいぢゃと、恨むやうなことがあってはならぬ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
比叡坂本側の花摘はなつみやしろは、色々の伝えのあるところだが、里の女たちがここまで登って花を摘み、ついでにこのほこらにも奉ったことは、確かである。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ブランドリーで思い出したからついでに書いておくが、彼はもし我々が八月末までに帰って来ない場合には伴船ともぶねを後からよこすことになっている。
拝啓益々御清適の段奉賀がしたてまつり候、その後『三田文学』御経営の事如何いかがに相成候や過日大倉書店番頭はらより他の事にて二回ほど書面これあり候ついで
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
千賀菊は数年前請け出されて人の妾となり、既に二、三人の子持であるという事を寸紅堂の主人が何時か上京のついでに話した。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
岩石の上に落ちたので顔や額が滅茶滅茶に裂けた。ついでに女の飛行家は巴里パリイに十人程しか無い。ただし飛行機に同乗して遊ぶ女は無数である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかし此の思い出も亦自画像のためのスケッチの一つだと考えている私は、ついでに醜い側をも書き添えて置かねばなるまい。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ついでにいうが人夫の賃金はこんなに多忙の中でも一日七十五銭であった、しかし閑暇の時だというて安いかどうかは談判して見ないから知らない。
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
大分面白くない議論めいた事が続くが、事のついでにもう少し述べさして貰おう。でないと後に起る複雑な事件に正確な判断が下せないからである。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
小便にでも行くとひじの処から水をかけて手を洗うてえ大変なものでえへゝゝどうせついででげすから遠慮するにア及びやせんよ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其時越前守殿かさねて彌吉夫婦に向はれ汝等いまだ菊を疑ふ樣子ある故つぶさに申聞すべし我菊がしうとめの死骸を檢査あらためさするついで家探やさがしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「助役さん。あの親爺、とうとう毎土曜日の午後にB町へ行く事を白状したんですから、何故ついでに捕えちまわんです」
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
それから、彼はそのついでにあのみぞの上へ冠さつて居る猫楊ねこやなぎの枝ぶりをつくろうても見た。その夕方、彼は珍らしく大食した。夜は夜で快い熟睡をむさぼり得た。
尼が狗をけしかけやせぬかと思ったから、阿Qは大根を拾うついでに小石を掻き集めたが、狗は追いかけても来なかった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
江戸に下り余が家の(京橋南街第一衖)むかひの裏屋うらやに住しに、一日あるひ事のついでによりて余が家に来りしより常に出入でいりして家僕かぼくのやうに使つかひなどさせけるに
ついでに今少しく頭に余裕があつたら、大久保大阪府知事の相婿あひむこである事も記憶してゐて貰ひ度い。尤も近藤氏の娘だからと言つて、別段変つた事はない。
それに要する金銭の上に道庵は、若干の小遣銭こづかいせんを米友に与えて、お前も江戸は久しぶりだからそのついでに、幾らでも見物をして来るがよいと言いました。
しも読者が、今後銀座の大通りを散歩する折があったら、二階の窓のお嬢さんを拝むついでに、店先の帳場の椅子いすに腰かけて居る、色の黒い、眼の窪んだ
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ついでながらその来泊したる当時の風俗を申せば、木綿藍縞の袷衣あわせに小倉の帯を締め無地木綿のぶっ割き羽織を着し
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
自棄やけだからついでに言うが、……私は、はじめて逢った時、二十三の年、……高等学校を出ると、祝だと云って連出して、村田屋で御飯をおごったものがある。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついでに頭の機能はたらきめて欲しいが、こればかりは如何どうする事も出来ず、千々ちぢに思乱れ種々さまざま思佗おもいわびて頭にいささかの隙も無いけれど、よしこれとてもちッとのの辛抱。
マーキュ いや、ついでいのしてよう。……(呪文の口眞似にて)ローミオーよ! 浮氣うはきよ! 狂人きゃうじんよ! 煩惱ぼんなうよ! 戀人こひびとよ! 溜息ためいき姿すがたにて出現しゅつげんめされ。