土産物みやげもの)” の例文
土産物みやげものは木村が例の銀行切手をくずしてあり余るほど買って持たしてよこしたし、手もとには哀れなほどより金は残っていなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
主人も不審に思い「何か妹に用でもあるのか」大原「イイヤそうではないが僕は昨日のお礼にお登和さんの所へ土産物みやげものを持って来た」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
刳盆くりぼんや糸捲きのような土産物みやげものを、こてこて持ち込んで、湯治から帰って来た叔母は、行った時から見ると、血色が多少よくなっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
子供こどもは、たくさんの土産物みやげものと、おかねとをって、はるばると故郷こきょうかえってきたのであります。そして、むら人々ひとびとあつくおれいもうしました。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
などと云っては、奥州の土産物みやげものなど持って来た。つい取っておくと翌年も来た。また、今年もやって来た。そして三年目に、本音をはいた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さうして下男げなんには、菱形ひしがたの四かくへ『』の合印あひじるしのいた法被はつぴせてくれた。兩掛りやうがけの一ぱうには藥箱くすりばこをさめ、の一ぱうには土産物みやげものはひつてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
っくり返った箱の中から、駄菓子を二三十文り出させて、観音詣りの土産物みやげものといった体裁に包ませながら
子供らへの土産物みやげものなども整えてくれた。私は例の切抜きと手帳と万年筆くらい持ちだして、無断で下宿を出た。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
「まあ来なさるたんびにこないな結構な物を……。」と老母は土産物みやげものを押し頂いて仏壇の前へ先づ飾つた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
この男は定期市へ出かけて行って、何か必要な取り引きを済ますとすぐに帰って来てその金を耳をそろえて中佐に返したうえ、定期市の土産物みやげものまで持って来るのだ。
結婚をしようなぞと思いもしない男に、家庭的な女としてびてゆくいわれはないのだ。こうしたきんに向って来る男は、きんの為に、いろいろな土産物みやげものを持って来た。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
土産物みやげもの女中ぢよちゆうむすめ分配ぶんぱいしてしまつた。彼等かれらたしかによろこんだ、しかぼくうれしくもなんともない。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わが画嚢がのうに従来なかった土産物みやげものを以て充たしめざるはないに相違ない——が、前途、路は遥かだ。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このかなしみはおいと土産物みやげものを買ふ仁王門にわうもんを過ぎて仲店なかみせへ出た時さらまたへがたいものとなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
若夫婦へ贈る為に、わざわざ老人が東京から買ってげて来たのである。これは母から、これは名倉の姉から、これは※の姉から、と種々な土産物みやげものがそこへ取出された。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
翌日辰刻頃たつどきごろ出立古郷水呑村へぞ歸りける土産物みやげもの飛脚ひきやくにて先へ送りし事故伯父をぢ九郎兵衞女房お里も待居たる處なれば皆々出迎でむかひ悦びあふに九助は其足にて名主なぬし惣左衞門是は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この小さい男がもどってると、思いがけなくなにもらえるので、子供たちはうれしがった。彼は貧乏びんぼうだったけれど、どうにか工面くめんして一人一人ひとりびとり土産物みやげものを持っててくれた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
田舎から持って来た土産物みやげものなども、うなりでもするかのように、「これ」とか「ほら」というようなことを口の中で言っただけで、別段それに就いて説明などはしなかったものだから
秋草の顆 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
長崎人ノ木村モ鱲子ハ好キダガ、鮒鮨ハ御免ダト云ッテイタ。———木村ハ土産物みやげものナンカゲテ来タヿハナイノダガ、今日ハ始メカラ晩ノ食事ヲトモニスル底意ガアッタノデアロウ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
をつと蓑笠みのかさ稿脚衣わらはゞきすんべを穿はき晴天せいてんにもみのきるは雪中農夫のうふの常也)土産物みやげもの軽荷かるきにになひ、両親ふたおや暇乞いとまごひをなし夫婦ふうふたもとをつらね喜躍よろこびいさみ立出たちいでけり。正是これぞ親子おやこ一世いつせわかれ、のち悲歎なげきとはなりけり。
主人が渋い顔をして居るので、丸髷の婦人は急いで風呂敷包の土産物みやげものを取出し主人夫妻しゅじんふさいの前にならべた。葡萄液一瓶ひとびん、「醗酵はっこうしない真の葡萄汁ぶどうしるです」と男が註を入れた。あんずの缶詰が二個。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いずれゆるゆる詮議するとして、せっかくくれた土産物みやげもの、俺の居間へ運ぶがいい
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大藤村おほふぢむらにおさくゆめものどかなるべし、四月の十五日歸國きこくまりて土産物みやげものなど折柄をりから日清につしん戰爭畫せんさうぐわ大勝利だいしようりふくろもの、ぱちん羽織はをりひも白粉をしろいかんざし櫻香さくらかあぶら縁類ゑんるいひろければとり/″\に香水かうすい
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「それがいいなあ。とりあえず僕は、ミミ族におくる土産物みやげものを用意するよ」
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
如才じょさいなく、お袋に土産物みやげものを渡すが否や、いっぱしの馴染なじみでもあるかのように、早くも三畳のへ上り込んでしまったが、それでもさすがに気が差したのであろう、ふところから手拭を取出して
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ある年の夏、わたしが房州の旅から帰って、かたばかりの土産物みやげものをたずさえて半七老人を訪問すると、若いときから避暑旅行などをしたことの無いという老人は、喜んで海水浴場の話などを聴いた。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
圭介は修一の入学宣誓式に京都まで出向いて、上機嫌で帰つて来たが、土産物みやげもの聖護院しやうごゐん八ツ橋をガツガツ食べてゐる楢雄を見ると、にはかに渋い顔になり、改めて楢雄の落第について小言を言つた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
母親の言ったつくりごとを真に受けて、あの十二月の初め寒い日に、山科やましな在所ざいしょという在所を、一日重い土産物みやげものなどを両手にさげて探し廻ったこと、それから去年の暮のしかも二十九日に押し迫って
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
やがてはねるころになって、瀬川は土産物みやげものなどを棧敷へ持ちこみ、銀子が独りでいるところを見て、にやにやしながら私語ささやいた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旅のあかを落して、涼衣すずぎに着代えるまも惜しむように、さっそく都の土産物みやげものなど持って、街端まちはずれの紫石街しせきがいへ出向いて行った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じつは金もできているのだ。三十円ばかり貯蓄しているから、往復の旅費と土産物みやげものとで二十円あったらよかろうと思う。三十円みんなつかってしまうと後で困るからね」
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして叔母おばさんは、きっと土産物みやげもの正吉しょうきちってきてくださるばかりでなく、またかえってこられたら、正吉しょうきち着物きものってくださるであろうとおもったばかりでも、父親ちちおや
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
幾年振かで生家さとの方へ行ったお雪は、多くの親戚から送られた種々な土産物みやげものを持って帰って来た。これは名倉の姉から、これは※の姉から、これは※の妹から、とそこへ取出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのお礼としてはいざ汽車へ乗って帰ろうという間際なぞにきまってりもせぬ見掛みかけばかり大きな土産物みやげものをば、まさか見る前で捨てられもせず、帰りの道中の荷厄介にと背負しょこませられる。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
斯て九助は五ヶ年の間辛抱しんばうをなし殊に今度このたび奉行所よりたまはりし金を合すれば百六七十兩の金子にも成しゆゑ古郷こきやうかへりかねての望みの如く先祖せんぞの跡を立んと出立の支度したくして伯父をぢ始めへの土産物みやげもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
えりの掛った黄八丈きはちじょう、妙に地味な繻子しゅすの帯を狭く締めて、髪形もひどく世帯染みてますが、美しさはかえって一入ひとしおで、土産物みやげものの小風呂敷を、後ろの方へ慎ましく隠して、平次の前へ心持俯向うつむいた姿は
土産物みやげものを買いに出るといっては、私を道案内にしました。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「見届けて土産物みやげものにしようかなア」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大原も土産物みやげもの饒多じょうたなるに一驚いっきょう
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
などとお増は、そこへ土産物みやげもの最中もなかの袋を出しながら、訊ねた。そこからは、芝居の木の音や、鳴物なりものの音がよく聞えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「伊吹のよもぎを、春に刈って、夏に干して、秋から冬にもぐさにして、それから垂井たるいの宿場で、土産物みやげものにして売るのです」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天気てんきぐあいはいいようだが、たんぼのものは、いまごろどんなになったろう?」と、故郷こきょうのことがかんがえられました。おじいさんは、土産物みやげものなどをって、かえりをいそいだのでありました。
銅像と老人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なし土産物みやげものは先達て便船にたのみ置路用金等迄長兵衞につかはたがひに暇乞いとまごひに及びて讃州を出立なし三人は道中とゞこほりなく江戸馬喰町なる武藏屋の見世へ到着しければ家内は一同に出迎いでむかへ道中つゝがなく歸りしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
出前でさきらしい容子に気づいて、環は、急に長座を詫び、たずさえて来た土産物みやげものの山繭織まゆおり一反と、山芋のつととを、奥へ渡して
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
来るたびに土産物みやげものを持ち込み、銀子の言いなり放題に、そこらの料亭を遊び歩いていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「異な土産物みやげものと、おわらいでございましょうが、軽舸はやぶねで持ちまいれば露のひぬまにお目にかけられようかと、わざと、畑からいで持参いたしました」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その辺の森に添うて、土産物みやげものの店をならべている里人たちに訊ねてみると、その編笠の浪人らしい者は、大宮へは下らずに、間道をとって、あし久保くぼへ抜けたらしいという話。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城下へ出てくる時には、いつも陣笠じんがさに馬乗りで、馬の背には、自分の菜園で作ったいも人参にんじん牛蒡ごぼうをくくりつけて来て、それはいつも泊ると極めている内蔵助の家への土産物みやげものとする。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)