仰向あをむ)” の例文
一廻ひとまはりくるりとにまはつて前足まへあしをついて、棒杭ばうぐひうへつて、お天気てんきるのであらう、仰向あをむいてそらた。れるといまにくよ。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
滝は、椅子におちて仰向あをむいてゐた。蜜柑の樹蔭の芝生だつた。滝の椅子の片肘には編物に没頭してゐる細君が凭つてゐた。此方側の肘にはFが凭つて、空を仰いでゐた。
籔のほとり (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
死骸しがいはなだ水干すゐかんに、都風みやこふうのさび烏帽子ゑばうしをかぶつたまま仰向あをむけにたふれてりました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
平次は仰向あをむけに寢たまゝ、面白さうに笑つて居ります。
仰向あをむいてゐるときあなたは楽しさうだ
按摩あんまその仰向あをむいて打傾うちかたむいた、みゝかゆいのをきさうなつきで、右手めて持添もちそへたつゑさきを、かるく、コト/\コト/\とはじきながら
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鼻筋はなすぢ象牙彫ざうげぼりのやうにつんとしたのがなんへば強過つよすぎる……かはりには恍惚うつとりと、なに物思ものおもてい仰向あをむいた、細面ほそおも引緊ひきしまつて
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まぶしさうに仰向あをむいた。つきとき川浪かはなみうへ打傾うちかたむき、左右さいう薄雲うすぐもべては、おもふまゝにひかりげ、みづくだいて、十日とをかかげ澄渡すみわたる。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しづんでふ。はたせるかな殿しんがり痩按摩やせあんまで、くちをきくときもやぐ、つゑかいに、なゝめににぎつて、さかの二三ひくところに、伸上のびあがるらしく仰向あをむいてた。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はだおほうたともえないで、うつくしをんなかほがはらはらと黒髮くろかみを、矢張やつぱり、おなきぬまくらにひつたりとけて、此方こちらむきにすこ仰向あをむけにつてます。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わつといつたかほ一波ひとなみかぶつて、呼吸いきをひいて仰向あをむけにしづむだから、めんくらつてたうとするとまたたふれてがくらむで、アツとまたいきをひいて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あんまりですから、主人あるじ引返ひつかへさうとしたときです……藥賣くすりうり坊主ばうずは、のない提灯ちやうちん高々たか/″\げて、しひ梢越こずゑごしに、大屋根おほやねでもるらしく、仰向あをむいて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふ。其處そこ花籠はなかごから、一本ひともと白百合しらゆりがはらりと仰向あをむけにこぼれてちた……ちよろ/\ながれにかげ宿やどる……百合ゆりはまた鹿も、ひめも、ばら/\とつゞいてこぼれた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところところへ、ひとのからだをつてつて、仰向あをむけにも、俯向うつむかせにもたゝきつけるのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あ、」とはなすと、つめ袖口そでくちすがりながら、胸毛むなげさかさ仰向あをむきかゝつた、鸚鵡あうむつばさに、垂々たら/\鮮血からくれなゐ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それ貴方あなた……へんことには、病室びやうしつで、わたし寢臺ねだいうへに、うやつて仰向あをむけにますんでせう。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
したくと學士がくし背廣せびろあかるいくらゐ、いまさかりそらく。えだこずゑたわゝ滿ちて、仰向あをむいて見上みあげると屋根やねよりはたけびたが、つゐならんで二株ふたかぶあつた。すもゝ時節じせつでなし、卯木うつぎあらず。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まい、まいの逆上うはずつて、もののえるはのあるため、となんとかまをくすりを、まくらをかいもの、仰向あをむけに、かみしばつたなか點滴したゝらして、兩眼りやうがんを、めくらにした、とふのであります。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
椰子やし檳榔子びんらうじしげつたやまつて、しろのやうに築上つきあげた、煉瓦造れんぐわづくりがづらりとならんで、矢間やざまつたくろまどから、いしびやくちがづん、とて、いくつもいくつも仰向あをむけに、ほしまうとしてるのよ……
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あれ! おき、」と涙聲なみだごゑで、まくらあがらぬ寢床ねどこうへ露草つゆくさの、がツくりとして仰向あをむけのさびし素顏すがほべにふくんだ、しろほゝに、あをみのさした、うつくしい、いもうとの、ばさ/\した天神髷てんじんまげくづれたのに
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)