黄金色こがねいろ)” の例文
ひかりが十ぶんたり、それに、ほどこした肥料ひりょうがよくきいたとみえて、山吹やまぶきは、なつのはじめに、黄金色こがねいろはなを三つばかりつけました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其方そちもある夏の夕まぐれ、黄金色こがねいろに輝く空気のうちに、の一ひらひらめき落ちるのを見た時に、わしの戦ぎを感じた事があるであろう。
箱の頂きには土が盛られ、そこに植えられた十本の薬草、花開いて黄金色こがねいろ向日葵ひまわりのような形であったが、ユラユラと風に靡いている。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分は成るたけ早く男の側から遠ざかろうと思って、黄金色こがねいろに輝いている朝の空気の中を、次第に遠く遠くせ去るのであろう。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
横に落した紫の傘には、あの紫苑しおんに来る、黄金色こがねいろの昆虫のつばさの如き、煌々きらきらした日の光が射込いこんで、草に輝くばかりに見える。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
楽屋から演技場に出て来る通路は黄金色こがねいろの霧に籠められて、そこいらを動きまわる人間が皆、顕微鏡の中の生物いきもののように美しく光って見える。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから黄金色こがねいろに黄ばんだ初冬の街路樹の銀杏いちょうを、彼はその時々の思いで楽しく眺めるのだったが、今その下蔭したかげを通ってそういう時の快い感じも
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
浮んだ雲のちぎれの白く薄いものは全く黄金色こがねいろきらめき、黒く長く棚曳くものは濃い紫色になつた。中には其の一面だけ薔薇色に染められたのもある。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
善鸞 (杯を手に持ちて)このなみなみとあふれるように盛りあがった黄金色こがねいろの液体の豊醇ほうじゅんなことはどうだろう。歓楽の精をとかして流したようだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
部屋をる時、振り返つたら、紺青こんじやうなみくだけて、白く吹きかへす所だけが、くらなか判然はつきり見えた。代助は此大濤おほなみうへ黄金色こがねいろくもみねを一面にかした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
黄金色こがねいろに藻の花の咲く入江いりえを出ると、広々とした沼のおも、絶えて久しい赤禿あかはげの駒が岳が忽眼前におどり出た。東の肩からあるか無いかのけぶり立上のぼって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
礼拝の人々は絶えないほどになって行った。緑の林の中に、赤、白、青、黄、紫の五色の旗がひるがえり、祠の屋根に黄金色こがねいろ擬宝珠ぎほうじゅが夕陽をうけて光り出した。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
旅のかわきをいやすため、ステファアヌ・マラルメがでた果実、「理想のにがみに味つけられた黄金色こがねいろのシトロン」
深藍色はなだいろの大空にかかる月はまんまろの黄金色こがねいろであった。下は海辺の砂地に作られた西瓜すいか畑で、果てしもなき碧緑の中に十一二歳の少年がぽつりと一人立っている。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
けれどもその顔は決して恐くはなくつて、かへつて美しく、愛嬌あいけうがあつて、黄金色こがねいろの髪をしてゐました。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
日の西に入りてよりほどたり。箱根足柄あしがらの上を包むと見えし雲は黄金色こがねいろにそまりぬ。小坪こつぼうらに帰る漁船の、風落ちて陸近ければにや、を下ろし漕ぎゆくもあり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
少しは得意に思ふやうな事ぢやあなくつて。あゝ、美しい、何とも云へぬ程仕合せな生涯を、うるはしい、黄金色こがねいろの生活を、二人で楽むのね。さうして、何時立つの。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
それは田舎いなかなつのいいお天気てんきことでした。もう黄金色こがねいろになった小麦こむぎや、まだあお燕麦からすむぎや、牧場ぼくじょうげられた乾草堆ほしくさづみなど、みんなきれいなながめにえるでした。
タクマ少年が、僕の袖をひいて立ちどまらせたのは、上品な店舗てんぽの前だった。白と緑の人造大理石じんぞうだいりせきりめぐらし、黄金色こがねいろまばゆきパイプを窓わくや手すりに使ってあった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さしもの黄金色こがねいろのウワバミも、勇士どもの攻撃にズタズタに切られ天守閣の上から石垣へ、武者がこいへ、バラバラバラと散りおちましたが、大地におちたところを見ると
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
すぐ裏の冬田一面には黄金色こがねいろの日光がみなぎりわたっている。そうかと思うと、村はずれのうすら寒い竹やぶの曲がりかどを鳥刺し竿ざおをもった子供が二三人そろそろ歩いて行く。
病院の夜明けの物音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こう見るものが昔話のように、黄金色こがねいろに見えたっけ。が温かに、重いようで。背景が。そしてその前にあるものが、光って、輪廓りんかくがはっきりして、恐ろしく単純に見えたっけ。
薄手うすでのコップにあわを立てて盛られた黄金色こがねいろの酒は葉子の手の中で細かいさざ波を立てた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すっかり黄金色こがねいろに染って、夕風が立ったら、散るさまが、さぞ綺麗きれいだろうと思われる大銀杏いちょうの下の、御水下みたらしで、うがい手水ちょうず祠前ほこらまえにぬかずいて、しばし黙祷もくとうをつづけるのだったが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その数には入らない者でも、それらの者の黄金色こがねいろな世界を挙げて羨望せんぼうした。武士すらその風潮にそまり、それと妥協しそれと音物いんもつのやりとりすることを、公然と表門からしていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄金色こがねいろのものではしなのきんばい、みやまきんぽうげ、しろくておほきな、うめはなたものにははくさんいちげ、淡紅色うすあかいろのいはかゞみ、かわいらしいみやまをだまきなど澤山たくさん種類しゆるいがあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
これは乙りきでげすな、黄金色こがねいろなす洋酒のきっすいを、コップになみなみと独酌の、ひそかに隠し飲み、舶来のしんねこなんぞはよくありませんな、金公にも一つそれ、口塞ぎというやつを
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
四つの目は黄金色こがねいろに輝いて歯は雪のごとく白く、赤と鹿毛の毛波はきらきらと輝いた。八つの足はたがいに大地にしっかりとくいこみ双方の尾は棒のごとく屹立きつりつした。尾は犬の聯隊旗である。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
見渡すかぎり路の左右にうちつづいた、その黄金色こがねいろのほのかな反射の明るみは、密雲にとざされたこの日の太陽が、はや空の高みを渡り了つて、吊瓶つるべ落しに落ちてゆく午後の時刻を示してゐる。
艸千里 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
言語には晴々しい北国ほっこくの音響があって、異様に聞える。人種も異様である。驚く程純血で、髪の毛はのような色か、または黄金色こがねいろに光り、肌は雪のように白く、体はむちのようにすらりとしている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
と、その時不意に、一人の女がうちの中から現らわれて、ランプの黄金色こがねいろの光を背にして立った。その女の顔は暗くて見えなかったけれど、何か哀願するらしく、両手でおがんでいるのが分かった。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
自分の運命の黒い糸をあの黄金色こがねいろの美しい糸に結び合わせることができたであろう。しかるにその美しい糸口は、彼の目の前にちょっと浮かび出たばかりで、また再び断ち切れてしまったのである。
あをぞらのなかに 黄金色こがねいろぬのもてめかくしをされた薔薇の花。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
ばかな! 違うよ! ——その虫がさ。ぴかぴかした黄金色こがねいろ
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
茎は緑に、弔鐘形つりがねがたの花黄金色こがねいろ
おお黄金色こがねいろした穀物畠の幻想
むすめは、この黄金色こがねいろをしたはなをじっとていますうちに、いつしか、そのはな自分じぶんおなじようなおもいできていることをかんじました。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この木彫きぼり金彫かねぼりの様々なは、かめもあれば天使もある。羊の足の神、羽根のあるけもの、不思議な鳥、または黄金色こがねいろ堆高うずたかい果物。
部屋を出る時、振り返ったら、紺青こんじょうの波がくだけて、白く吹き返す所だけが、暗い中に判然はっきり見えた。代助はこの大濤おおなみの上に黄金色こがねいろの雲の峰を一面にかした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝の縁先えんさきに福寿草のあの黄金色こがねいろの花が開いているのを見ると、私達はなんとなく新春の気分にひたって来ます。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それは夥しい、美しい黄金色こがねいろ渦巻毛カールを、大きな白麻しろあさの西洋枕の上に横たえている西洋人の女の児であった。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うしろの黒い常磐木ときわぎの間からは四阿屋あずまやわら屋根と花畠はなばたけに枯れ死した秋草の黄色きばみ際立きわだって見えます。縁先の置石おきいしのかげには黄金色こがねいろの小菊が星のように咲き出しました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かつて庸三が丘に黄金色こがねいろ蜜柑みかんが実るころに、弟子たちを引き連れた友人とともに、一ト月足らずも滞在していたころの面影おもかげはなくなって、位置も奥の方を切り開いて
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
遠くにはお城の角櫓すみやぐらが見え、その向こうには大内山おおうちやまの木立ちが地平線を柔らかにぼかしている。左のほうには小豆色あずきいろの東京駅が横たわり、そのはずれに黄金色こがねいろの富士が見える。
Liber Studiorum (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四方の岩壁には無数の絵画が、黄金色こがねいろの額縁にはめられて、壁画のように懸けられていたが、龕灯の光に照らされて、絵面が朦朧と浮かび出ていた。両性秘戯の画面であった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黄金色こがねいろの夕陽を浴びた山々、その先に碧をたたえた海、すべてが此世このよとも覚えぬ美しさの裏に、次第に明るさを失って、東の空から、薄紫の夕陽を破って、大きな名月が、ツ、ツ
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
朝日の黄金色こがねいろの火花が水のおもてにちらばっている。その時女はふいときょうだけ沖の方へ出て見たくなった。暫くいでいる内に、手が慣れていないので、次第に骨が折れて来た。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
くらおくから、黄金色こがねいろ赤味あかみしたくもが、むく/\と湧出わきだす、太陽たいやう其処そこまでのぼつた——みぎはあしれたにも、さすがにうすひかりがかゝつて、つのぐむ芽生めばえもやゝけぶりかけた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
毎日、その葉は、太陽の初めと終りの光線をび、黄金色こがねいろに輝く。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
こうちゃんのいえ垣根かきねのところに、山吹やまぶきがしげっていました。ふさふさとして、えだはたわんで黄金色こがねいろはなをつけていました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)