面目めんぼく)” の例文
面目めんぼくがあると云うんだがね、どうだろう、近々きんきんの内水島君は博士論文でも呈出して、博士の学位を受けるような運びには行くまいか。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
武田家たけだけからは、世々よよ、あつき社領しゃりょうをたまわり、亡家ぼうかののちも、けっしておろそかには思いませぬものを、なんとも面目めんぼくない大失態だいしったい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねて、どうすかしても、しかつてもはうとしませんので、女官じよかん面目めんぼくなさそうに宮中きゆうちゆうかへつてそのことをまをげました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
人樣に辛抱人しんばうにんほめたのが今となりては面目めんぼくない二階へなりときくされつらみるのも忌々いま/\しいと口では言ど心では何か容子ようすの有事やと手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あれが出ませんと土地の人たちに面目めんぼくがございませんの。もう立つ前に花々しく新聞に書きたててくれたくらいなものですから。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
出入の者へ頼んで置いたから、多分死ぬような事も有るまいと思うよ、大方面目めんぼくないので何処かへ身をかくして居るかも知れないよ
思へば内府の思顧の侍、其數を知らざる内に、世を捨てし瀧口の此期このごに及びて君の御役に立たん事、生前しやうぜん面目めんぼく此上このうへや候べき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
もののかずならぬそれがし大役たいやくおほせつけくだされさふらふこと、一世いつせい面目めんぼくさふらへども、暗愚斗筲あんぐとせうそれがし何事なにごとをか仕出しいだしさふらふべき
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それまで大事を取つてをりながら、かう一も二も無く奇麗にお謝絶ことわりを受けては、私実に面目めんぼく無くて……あんまくやしうございますわ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
四人目には家中の若侍に、新陰流しんかげりゅうの剣術を指南している瀬沼兵衛せぬまひょうえが相手になった。甚太夫は指南番の面目めんぼくを思って、兵衛に勝を譲ろうと思った。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私はその三番目のお孃樣のおともをして、御親類のところへ參りましたが、行方不明になつたと言つて、今更『福屋』へ歸る面目めんぼくも御座いません。
父親は驚いて、どうしたのだと聞くと、彼はただフフンと鼻の先で笑って見せて、少し面目めんぼくないことがあったものだからと答えたばかりだった。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いわんや是がために多くの無邪気なる同胞を誤る場合のごときは、決して名誉とか面目めんぼくとかいうがごとき、小さな個人の問題ではないのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは面目めんぼくがなかったからである。絜矩けっくの道をしんに書していた抽斎をさえ、度々忍びがたき目にわせていたからである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やみでもてえげええるだろうが、おいらァ堅気かたぎ商人しょうにんで、四かくおびを、うしろでむすんでわけじゃねえんだ。面目めんぼくねえが五一三分六ごいちさぶろくのやくざものだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
私も未だ試験慣れのせぬうち、ふと其かねあいを外しておッこちた時には、親の手前、学友の手前、流石さすが面目めんぼくなかったから、少し学校にも厭気が差して
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こんなチビスケがつかまらない面目めんぼくなさに、むしゃくしゃしていました。そこで、ブナの木の下にじっとこしをおろして、ニールスを見はることにしました。
なんの面目めんぼくがあってオメオメ此の現場を去ることができるのか。それに、電車はまだひっきりなしに通る筈だ。終電車までにまだ二時間もあるではないか。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
増山ますやまさん(となりの主人)いやはやまことに面目めんぼくもないしだいで、なんとももうしあげようもありません」
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「ああ、あのとき、きみは、どこかでていたのですか。ぼくは、主人しゅじんたいして、ほんとうに面目めんぼくなかったのだ。」と、いぬは、きゅうに、ずかしそうにしてこたえました。
からすとうさぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
おやしきのご三男様のお学友にほしいとお殿様も奥様もおっしゃる。ぜひともというご懇望こんもうだ。家の子供がこうまで評判がよいとは思わなかったよ。わしは面目めんぼく
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
路地は公然市政によって経営されたものではない。都市の面目めんぼく体裁品格とは全然関係なき別天地である。
「はい」とさる面目めんぼくなさそうにこたえました。「智慧ちえでならたれにもけませんが、力ずくのことはこまってしまいます。甚兵衛さん、どうかその大蛇おろち退治たいじてください」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
これがために時政は面目めんぼくを失うて領地へ帰ったことがあった。政子はこんなことを思い浮べながらじっと考えたのちに、大番所おおばんじょに詰めている畠山六郎はたけやまろくろうを内密に呼ばした。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いわば小姑根生こじゅうとこんじょうだが、当人はそうと気づいてやっているわけではない。自分の面目めんぼくにかかわると考えて、ひいては、役目のおもて天下国家の一大事ともかんじているのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
男一匹なりゃどこにころがり込んだからって、——そんな経験もおもしろいくらいのものですが、これんばかりじゃあなたが足りなかろうと思うと、面目めんぼくもないんです。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
れに邪心じやしんなきものとおぼせばこそ、幼稚えうちきみたくたまひて、こゝろやすく瞑目めいもくたまひけれ、亡主ばうしゆなん面目めんぼくあらん、位牌ゐはい手前てまへもさることなり、いでや一對いつつゐ聟君撰むこぎみえらまゐらせて
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まことに面目めんぼくのないしだいでござりまするが、この子たちの嘆きをまのあたり見聞きいたしまして、いかにもふびんでなりませなんだゆえ、老いぼれの身にくふうもつかず
金があると思ッてしたい放題のことをするやつのことです。留守のうちに亭主を盗んで。イケシャアシャアとしていられちゃア。面目めんぼくなくってくやしくってたまりゃアしない。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
クリストフは面目めんぼくうしなって、答える言葉ことばもなかった。ゴットフリートはあわれむようにいった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
慎九郎は、男の面目めんぼくとして、殊に一人の女を争って勝利に誇る日が、目前に近づいている慎九郎だ、恋争いに敗れた宮内から、一本うち込まれて、閉口し放しでいられなかった。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
且つ面目めんぼくにもなることであるが、同時に、他の一面から考えるとこれは又、予測することの出来ない恐しい、危険千万な運命に、自分の運命が接近しかけていることになる……。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『それはみなわたくしの不心得ふこころえめでございます。』と香織かおり面目めんぼくなげにかたるのでした。
大河無門は、二十六日の読書会と研究会で発言したきり、事変中も事変後も沈黙ちんもくを守りつづけたが、それは田川の場合とはちがって、むしろ本来のかれの面目めんぼくにかえった姿だった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「たしかにそうだとは思ったが、何しろ様子が変っているだろう。おとなし作りのお嬢さん、迂闊うっかり呼び掛けて人ちがいだったら、こいつ面目めんぼくがねえからな。それでここまでつけて来たのさ」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
でも公事にかれてはそのままには済まされぬので、保胤の面目めんぼくさ、人々の厄介千万さも、御用の進行の大切だいじに押流されて了って人々に世話を焼かれて、御くらの小舎人こどねりとかに帯を借りて
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「いや、いただきますまい。わしがボーイを呼ぶ。そういう事なら、一倍お恨み申す。わしの面目めんぼくが丸つぶれじゃ。先生、御用心さっしゃれじゃ。今度こそはどえらい仕返しをし申すで。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
どうも、面目めんぼくありません。タマツキの賭なんかに夢中になっちゃって、まったく、失敗しましたよ。しかし、なんです。犯人は逃しゃしません。何ですって? ああ、八月九日、宿命の日か。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
試みに男子の胸裡きょうりにその次第の図面をえがき、我が妻女がまさしく我にならい、我が花柳にふけると同時に彼らは緑陰に戯れ、昨夜自分は深更しんこう家に帰りて面目めんぼくなかりしが、今夜は妻女何処いずくに行きしや
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ルージンは香水のぷんぷんにおう麻のハンケチを悠々ゆうゆうと取り出して、君子然とした品位を保ちながらも、傷つけられた自分の面目めんぼくに対して、十分説明を求めようとかたく決心したような態度で
「ううん、それをいわれると面目めんぼくないが……」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
無い智慧ちえ出されぬ 面目めんぼくござらぬ
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
げて、御苦労には存じますが、京都までお運び下さいますよう。長政の面目めんぼくも立ちまする。かくの通り、おねがい申しあげます
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万一……もしそんな事があると……岡本の叔父に対しても……叔母に対しても……面目めんぼくなくて、合わす顔がなくなるんです。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
万一甚太夫に遅れては、主親しゅうおやをも捨てて一行に加わった、武士たる自分の面目めんぼくが立たぬ。——彼はこう心の内に、堅く思いつめていたのであった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幼君えうくんこれを御覽ごらうじて、うれしげにえたまへば、かのすゝめたる何某なにがし面目めんぼくほどこして、くだんかご左瞻右瞻とみかうみ、「よくこそしたれ」と賞美しやうびして、御喜悦おんよろこび申上まをしあぐる。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なししてまたこよひの事がらは如何なるわけ問懸とひかくるに吉之助は面目めんぼく無氣なげこたふる樣此程父吉右衞門國元くにもとより來り我等二千七八百兩のあなあけしを大いにいかり終に勘當かんだう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
き人常に言ひけるは、いやしくも侍の家に生れながら、何の面目めんぼくありて我子貫一をも人にあなどらすべきや。彼は学士となして、願くは再び四民しみんかみに立たしめん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
省作のいえにしろうちにしろ、深田への手前秋葉への手前、お前たちの淫奔いたずらを許しては第一家の面目めんぼくが立たない。今度の斎藤に対しても実に面目もない事でないか。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「どうもこの野菜をこのまま持って帰っては、村の人民どもに対して、わたくしの面目めんぼくが立ちませぬ。」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)