見下みおろ)” の例文
と云ううちに燃ゆるような熱情を籠めた眼付で、今一度、吾輩を見上げ見下みおろした。吾輩はその瞬間純色透明になったような気がした。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ちょうど真蔵が窓から見下みおろした時は土竈炭どがまずみたもとに入れ佐倉炭さくらを前掛に包んで左の手でおさえ、更に一個ひとつ取ろうとするところであったが
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おそろしくおほきないぬころが、おほきなまるをしてあいちやんを見下みおろしてました、あいちやんにさわらうとして前足まへあしを一ぽんおそる/\ばして。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
彼は梯子の上にたたずんだまま、本の間に動いてゐる店員や客を見下みおろした。彼等は妙に小さかつた。のみならず如何にも見すぼらしかつた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
雲仙にはあざみ谷、鬼神きじん谷のような、上から見下みおろして美しい渓谷はあるが、渓谷それ自らの内部にこれほどの美を包容する渓谷はない。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
我等すなはちこゝにいたりて見下みおろせるに、濠の中には民ありてふんひたれり、こは人の厠より流れしものゝごとくなりき 一一二—一一四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
Kと私はよく海岸の岩の上にすわって、遠い海の色や、近い水の底をながめました。岩の上から見下みおろす水は、また特別に綺麗きれいなものでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
公子夫婦の我と醫師とを引き連れて舟に上り給ふとき、我は澄み渡れる海水を見下みおろして、忽ち前日の事を憶ひ起し、激しく心を動したり。
しかし中洲なかずの河沿いの二階からでも下を見下みおろしたなら大概のくだり船は反対にこの度は左側なる深川ふかがわ本所ほんじょの岸に近く動いて行く。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
がこのうちの陰険な先祖の仮髪かつらをかぶった蒼白いフフンというような顔が一つ二つ古色蒼然たる画布の中から見下みおろしていた。
そのあくる晩も、三人はまたその泉ばかり見下みおろしてゐました。泉は、ゆうべよりも、なほ一そううつくしく見えました。
星の女 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
自分が姉を見上げた時に、姉の後にたすきを掛けたりのお松が、草箒くさぼうきとごみとりとを両手に持ったまま、立ってて姉の肩先から自分を見下みおろして居た。
守の家 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と思ったが、六条は別にピストルがこっちを向いているのを気にするようでもなく、ゴンドラの中から朝霧のかかった海面をじっと見下みおろしていた。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし客はやはり何とも答えないで、どっしりと畳の上に立ったまま、濃い眉毛の下から黒いセルロイド縁の眼鏡越しに、冷やかに私を見下みおろした。
山本氏は教壇の上から、居並んだ生徒を見下みおろした。生徒は蛙の子のやうにへそなぞ持つて居ないやうな顔をして、几帳面に膝の上に手を置いてゐた。
入側いりがわ付きで折曲おりまがって十二畳敷であります、肱掛窓ひじかけまどで谷川が見下みおろせる様になって、山を前にしてい景色でございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ずつと遙に見下みおろせば、美しい、静な、然し荘厳なホトソンの流が帯の様に見えて、紫の雲、又は(此処彼処にその水晶の胸の上で仮寐うたゝねをして居る様な)
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
川島は、其処の倒れた松に腰かけて一ぷくしながら、あおいゼリーのような、地図に無い沼を見下みおろしていたが、やがて煙草を棄てて水際までおりて行った。
植物人間 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
笠の裏にかゝんとせしが茶店の亭主仔細らしき顏して二人が姿を見上げ見下みおろし小首かたぶけ痛はしやいかなる雲の上人のなど云出ん樣子なればチヤクと其笠に姿を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
とバリストルは新聞を置いて、乃公おれ見下みおろした。荒刻あらぼりの仁王を微笑ませるのもひとえにお春姉さんの威光である。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
高い高い椰子の樹のてっぺんから見下みおろしたのは、深い深い底も知れない海、怪物が住まっている海でした。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
すぐ近くの日比谷公園は、飛行機から見下みおろすように、立樹たちきも建物も押しつぶされたように平ったく見える。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
というわけは、雷の神は空を鳴りはためきながら、どこに落ちてやろうかと見下みおろしているうちに、長者の庭の木に仕掛しかけがしてあるのを気づいてしまったのです。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
僕はいつ来たとも知らぬうちに婆やの側に来て立ったままで八っちゃんの顔を見下みおろしていた。八っちゃんの顔は血が出るほどあかくなっていた。婆やはどもりながら
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
年郎としろうくんのあたらしいりゅうのたこは、たびたび一ばんだことなって、大空おおぞらからみんなのたこを見下みおろろしましたが、まえにたびたび一ばんだことなった六かくだこは、どうしたのか
西洋だこと六角だこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
その時背後で、異様なしゃがれ声が起った。三人が吃驚びっくりして後を振り向くと、そこには、執事の田郷真斎がいつの間にかはいり込んでいて、大風おおふうな微笑をたたえて見下みおろしている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
見下みおろす顔を、斜めに振仰いだ、蒼白あおじろい姉の顔に、血がのぼって、きっとなったが、寂しく笑って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は、うつぶしになつて、村の方を見下みおろしてゐる。谷川の音がさん/\ときこえます。
八の字山 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
そこは恐ろしいほど切り立った崖で、下を見下みおろすと約百米突メートルばかりの深い絶壁で、その下には大きないわに波が恐ろしいいきおいで打ちつけている。たぶんそこへ投げ捨てたものと思われる。
『嘘なもんか。實際だよ。』と松公はひとりで笑つて、『第一おれは金さんに濟まないと云ふ、其も有るからね。が、どつちにしても行く。今夜必然きつと行く。』と胡散うさんくさい目色めつきをして、女を見下みおろす。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そこまで読んで私は、その夕顔日誌を閉じ、木の箱にかえして、それから窓のほうに歩いて行き、窓を一ぱいにひらいて、白い雨に煙っているお庭を見下みおろしながら、あの頃の事を考えた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ジーナとスパセニアと馬を並べて、静かな湖の回りを散歩したり、豪宕ごうとう天草灘あまくさなだ怒濤どとうを脚下に見下みおろして、高原の夏草の間を、思う存分に馬を走らせたり……学校はまだ休暇ではないのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
ジロリと此方こなたの頭の先から足の先まで見下みおろしましたこのやうな問答もんだう行水ゆくみづの流れえずむかしから此河岸このかしかへされるのですがたゞ其時そのときわたくしの面白いと思ひましたのは、見下みおろした人も見下みおろされた人も
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
宮崎氏は、皮肉な微笑を浮べて、この有名な素人探偵の苦境を見下みおろした。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おりかは娘を見下みおろすと、黙って少しあかい顔をして肩からたすきをはずした。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
古川をさしはさむ町々を見下みおろし、雑木ぞうきの多い麻布台あざぶだいと向あっていた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
眼下に陪臣共またものども見下みおろして、一喝の下にこれを撃退してやろうと思って命じたのに、亭主とも見え番頭とも思われるその男はさながらに、主水之介の何者であるかもちゃんと知っているかのごとくに
そを見ると見下みおろせる人々ひとびとみしおもても。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
羅馬ロオマ見下みおろす丘の上の
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
きっと見上げる上から兄は分ったかとやはり見下みおろしている。何事とも知らず「埃及エジプト御代みよしろし召す人の最後ぞ、かくありてこそ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鬼神谷は深くその間に落込んでいるので、しばらくこの落葉樹林に包まれた美くしい渓谷を見下みおろしながら、そば伝いに進んで行く。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
寺は後ろの松林の間にいだ海を見下みおろしている。ふだんは定めし閑静であろう。が、今は門の中は葬列の先に立って来た学校の生徒にうずめられている。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昼寐ひるね夜具やぐきながら墓地ぼちはう見下みおろすと、いつも落葉おちばうづもれたまゝ打棄うちすてゝあるふるびたはか今日けふ奇麗きれい掃除さうぢされて、はな線香せんかうそなへられてゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
玄関は向側むかうがわにあって細長い島の庭を見下みおろしている、二人の訪問者は低いやぐらの下に、ほとんど家の三方を縁どっている小径こみちについて廻って行ったのである。
喧嘩早いKは、いきなり拳をふり揚げていやといふ程相手の頭をどやしつけた。が、相手は蚊の止つた程にも感ぜぬらしく、Kを見下みおろしてにや/\笑つてゐる。
(新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
見上みあぐる山には松にかゝりて藤の花盛りなり見下みおろせば岩をつゝみて山吹咲こぼれたり躑躅つゝぢ石楠花しやくなげ其間に色を交へ木曾川は雪と散り玉と碎け木曾山は雲を吐きけぶり
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
瓦斯器修繕屋ガスなおしや然たる吾輩を二人で、マジリマジリと見上げ見下みおろし初めた。何だか新派悲劇じみて来たようだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ドーレ。と木綿もめんはかまけた御家来ごけらいが出てましたが当今たゞいまとはちがつて其頃そのころはまだお武家ぶけえらけんがあつて町人抔ちやうにんなど眼下がんか見下みおろしたもので「アヽ何所どこからたい。 ...
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
あしよ!(あし見下みおろしたときに、それが何處どことほくのはうつてしまつたとえて、ほとんどえませんでした)。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ずばぬけて背の高い山田は、見下みおろすように一男を眺めていたが、遠慮なしにはっきり答えた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)