みず)” の例文
小なる者は長添ながそえ山と為す、松倉伊賀の廃址はいしなり。山川の間人戸一千、士農あり、工商ありと。これ彼がみずから語れる故郷の光景なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その好敵手こうてきしゅと思う者がしゅとしてみずから門閥の陋習ろうしゅうを脱したるが故に、下士はあたかも戦わんと欲してたちまち敵の所在をうしなうたる者のごとし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
西洋の学者に往々みずから伝記を記すの例あるをもって、兼てより福澤先生自伝の著述を希望して、親しくこれを勧めたるものありしかども
みずから大怪我をしたと称して頭から顔いっぱいに繃帯を巻き、絶対安静を要する意味でいつも部屋の中で仰向きに寝てばかりいた。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
事ここに至った縁起えんぎを述べ、その悦びを仏天に感謝し、かつは上人彼みずからの徳に帰すことをねがい、ここに短き筆をきたく思います。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
世には有りもせぬ失恋を製造して、みずからいて煩悶はんもんして、愉快をむさぼるものがある。常人じょうにんはこれを評してだと云う、気違だと云う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
著者みずから書中に記す如き大苦難に会わずとするも、すくなくもこれに似たる苦難に逢いてその実験の上にこの書を著したものと見ねばならぬ。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
当時、諭吉はきゅう中津藩なかつはんの士族にして、つと洋学ようがくに志し江戸に来て藩邸内はんていないに在りしが、軍艦の遠洋航海えんようこうかいを聞き、外行がいこうねんみずから禁ずるあたわず。
からかわれながら、彼等は、おたがいに、その渾名が決していつわりではないことを、みずから認めない訳には行かなかったのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しこうして異日学生諸君が卒業の後、政党に加入せんと欲せば、一にな諸君が本校に得たる真正の学識に依てみずからこれを決すべし(謹聴、大喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
私は、この世の中に「妖怪」の存在を否定する何ものもみずから有しないかわりに、また、「妖怪」の存在を肯定するに足る程の実験にも触れて見ないのだ。
貸間を探がしたとき (新字新仮名) / 小川未明(著)
みずから信ぜずして、いづくんぞ他を信ずることを得んである。また自からをも信ずることを得ずして、いづくんぞ他をして我を信ぜしむることを得んである。
解脱非解脱 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
貴様がにをようと僕が何をようと、それが他人ひとに害を及ぼさぬ限りはお互の自由です。貴様あなたに秘密があるならみずからず秘密にたらいでしょう。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかし年はわかいし勢いは強い時分だったからすぐにまた思い返して、なんのなんの、心さえたしかなら決してそんなことがあろうはずはないと、ひそかにみずから慰めていた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
看護婦が一々みずから食物調理の任に当らないまでも、こういう病人にはこういう料理法が良い
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その何のためにせしやを知らず、血気に任せてふるまいたりし事どもは、今に到りてみずからその意をりょうするにくるしむなり。昼間黒壁にいたりしことは両三回なるが故に、地理はそらんじ得たり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
匹夫ひっぷ下郎げろうという者はおのれの悪い事を余所よそにして、主人をうらみ、むごい分らんとを張ってみずから舌なぞを噛み切り、あるいは首をくゝって死ぬ者があるが、手前は武士のたねだという事だから
みずからの気持がそのままにおいにもなるのだろう
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
西洋の学者に往々みずから伝記を記すの例あるをもって、兼てより福澤先生自伝の著述を希望して、親しくこれを勧めたるものありしかども
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼はあたかも難産したる母の如し。みずから死せりといえども、その赤児は成育せり、長大となれり。彼れに伝うべからざらんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この書一度ひとたび世にでてより、天下てんか後世こうせい史家しかをしてそのるところを確実かくじつにし、みずからあやまりまた人を誤るのうれいまぬかれしむるにるべし。
これに反してみずから活動しているものはその活動の形式が明かに自分の頭に纏って出て来ないかも知れない代りに
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おもうに、し隈公にしてわれのこれにあずかるを許さず、諸君にして余を擯斥ひんせきするあるも、余はみずから請うてこの事に従い、微力ながらも余が力を尽し
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
何ものを求めるのか、彼等みずからにさえ分らないことであったろう。しかし、これを押しつめて言えば、真実を求めたのだ。もっと美しいものを求めたのだ。
彼等流浪す (新字新仮名) / 小川未明(著)
幼時より老後に至る経歴の概略を速記者に口授して筆記せしめ、みずから校正を加え、福翁自伝と題して、昨年七月より本年二月までの時事新報に掲載したり。
後年、江川蘭子が、世間の冷淡をいきどおり、みずから当時の状況を調査して、父母の敵討かたきうちをでも目論もくろまぬ限り、犯人は永久にその処刑を免れたかに見えたのである。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
内典を知るも、りょうの武帝の如く淫溺いんできせず、又老子ろうしを愛し、恬静てんせいを喜び、みずから道徳経註どうとくけいちゅう二巻をせんし、解縉かいしんをして、上疏じょうその中に、学の純ならざるをそしらしむるに至りたるも
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自然への従順な態度がこの恩寵おんちょうを受けるのである。もし作者たちにみずからをたの傲慢ごうまんがあったなら、恩愛を受ける機縁は来なかったであろう。美の法則は彼らの所有ではない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
□去年、それもまだ昨日、ついに世のかくてかかるよと思ひ定めては、またも胸の乱れて口やかましくなさけとくすべも知らず。草深き里に一人住み、一人みずから高うせんにかじ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
わたくしどもとても、堅く申せば思想界は大維新だいいしんさいで、中には神を見た、まのあたりぶつに接した、あるいはみずから救世主であるなどと言う、当時の熊本の神風連じんぷうれんの如き、一揆いっきの起りましたような事も
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これから災難で此の罪が友之助に係りまして、たちまちにお役所へ引かれますのを見て、文治郎みずから名告なのって出て、徒罪とざい仰付おおせつけられ、遂に小笠原島へ漂着致し、七ヶ年の間、無人島むにんとうに居りまして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
我れみずから彼を見たてまつらん
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
第十六条 人はみずから従事する所の業務に忠実ならざる可らず。其大小軽重に論なく、いやしくも責任を怠るものは、独立自尊の人に非ざるなり。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
それ海内かいだいの文章は布衣ほいに落ち、布衣の文章は復古的、革命的思想を鼓吹こすいす。彼らのある者はみずからその然るを覚えずして然りしものあらん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
愛は堅きものをむ。すべての硬性を溶化ようかせねばやまぬ。女の眼に耀かがやく光りは、光りそれみずからのけた姿である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もうもう彼女かれのことは思い切っているのにとみずから心をはげますけれど、熱い涙が知らずにぽたぽたと落ちる。物の哀れはこれよりぞ知るとよく言ったものだ。
そこで、最も嫌疑の重い野本氏を最後に残して、先ず、井上、松村の両氏に、北川氏みずから名案と信ずる、このメダルのトリックを試みることにしたのだった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
らに第二の徳川政府を見るにぎざるべしと一般に予想よそうしたるも無理むりなき次第しだいにして、維新後いしんご変化へんかあるいは当局者においてはみずから意外いがいに思うところならんに
余が本校の議員に列し、熱心と勉強とを以て、事にここに従わんと欲せしものは、ひとり隈公と諸君との知遇に感ぜしのみにあらず、けだし又別にみずからふるう所ありて然るなり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
腸窒扶斯ちょうチフスかかりたるとき、先生、とくまげられ、枕辺まくらべにて厚く家人に看護かんご心得こころえさとされ、その上、予がみずからきたる精米せいまいあり、これは極古米ごくこまいにして味軽く滋養じようも多ければ
みずからをささげて日々の用を務むるもの、むことなく現実の世に働くもの、健康と満足とのうちにその日を暮すもの、誰もの生活に幸福を贈ろうと志すもの、それらの慎ましい器の一生に
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
間が悪い時は仕方のないもので、のお隅にぞっこん惚れて口説いてはじかれた、安田一角やすだいっかくという横曾根村の剣術家、みずから道場を建てゝ近村きんそんの人達が稽古に参る、腕前は鈍くも田舎者をおどかしている
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
みずからづ 駑蹇どけんの姿
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるを勝氏はあらかじめ必敗を期し、その未だ実際に敗れざるに先んじてみずから自家の大権たいけん投棄とうきし、ひたすら平和を買わんとてつとめたる者なれば
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
みずからも、わがる所ではないか知らんと思う。懐に抱く夢は、抱くまじき罪を、人目を包む風呂敷にかくしてなおさらにうたがいを路上に受くるような気がする。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鳥井青年変死の顛末てんまつを聞くと、友人の不幸を嘆いたばかりでなく、一歩進んで、この奇怪なる犯罪事件をみずから探偵して見たいという野心を抱いているらしく
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
真実しんじつ外国干渉のうれいあるを恐れてかかる処置しょちに及びたりとすれば、ひとみずから架空かくう想像そうぞうたくましうしてこれがために無益むえき挙動きょどうを演じたるものというの外なけれども
私は気味が悪かったが、眼をふさいで口の中でいちッ、ッとかけ声を出して、みずから勇気をはげまして駆け出した。私の下駄の力の入った踏み音のみが、四境あたりの寂しさを破って響いた。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
勿論上の者に向て威張りたくも威張ることが出来ない、出来ないからただモウさわらぬように相手にならぬようと、独りみずから安心決定あんじんけつじょうして居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
健三をほんの小供だと思って気を許していた彼女は、その裏面をすっかり彼に曝露ばくろしてみずから知らなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)