せい)” の例文
せいは少し低い方であったが、品位と優美と才気とを備えたりっぱな男であった。その生涯の前半は社交と情事とのうちに費やされた。
「まだ面白い事があります首をくくるとせい一寸いっすんばかり延びるそうです。これはたしかに医者が計って見たのだから間違はありません」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供らは古い時計のかかった茶の間に集まって、そこにある柱のそばへ各自の背丈せたけを比べに行った。次郎のせいの高くなったのにも驚く。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
福間先生は常人よりもむしせいは低かつたであらう。なんでも金縁きんぶち近眼鏡きんがんきやうをかけ、可成かなり長い口髭くちひげたくはへてゐられたやうに覚えてゐる。
二人の友 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
色の浅黒い、眼に剣のある、一見して一癖あるべき面魂つらだましいというのが母の人相。せいは自分とちがってすらりと高い方。言葉に力がある。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
其処そこからりるのだとおもはれる、まつほそくツて度外どはづれにせいたかいひよろ/\したおよそ五六けんうへまでは小枝こえだ一ツもないのがある。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あのせいの高い後ろ姿のいいところが気に入る人もあるよ。またあの背の高いお嫌ひな人が君でなくってはならなかったらどうする。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ギンは一しょうけんめいに二人を見くらべましたが、二人とも顔もせいも着物もかざりも、そっくりおんなじで、ちっとも見わけがつきません。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
あのせいの低い、肥満した体を巴里為立パリイじたてのフロックコオトに包んで、鋭い目の周囲に横着そうな微笑をたたえた新社主誉田ほんだ男爵は
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やはり草ばかり喰って居りました。その大きさが猫の二倍半あるいは三倍位ある。形はちょうど鹿のようであるがあんなにせいが高くない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
玄関のが、内側から無造作に引きあけられて、よく釣り合いのとれた、せいの高い、三十五、六の青年が屈託のないようすで現われて来た。
黒の靴下に高踵靴ハイヒイルだけの着付けだった。すこしせいの低い前列は、それに一様に黒い毛皮の襟巻えりまきをして、つばの広い黒い帽子をかぶっていた。
といいながら、一りますとせいが一しゃくのび、二りますと三じゃくのび、三めには六しゃくちかいりっぱな大男おおおとこになりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
豚吉ぶたきちせいの高さが当り前の半分位しかないのに、その肥り方はまた普通あたりまえの人の二倍の上もあるので、村の人がみんなで豚吉という名をつけたのです。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
ところがそこへ、いつのまにかせいの高い、色の黒いおじいさんがやって来て、じっとアラジンを見つめていました。
スックと——なんていうと、馬鹿にせいが高いようですが、三尺ほどの愚楽老人なんですから、たてになっても横になっても、たいした違いはないんで。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それで、今度は普通のチャボの、つまりせいの低い方のを探したいと思い、御成街道おなりかいどう錺屋かざりやに好いのがいるという話を聞いたので、また出掛けて行きました。
百人前の仕事をしたからとつて褒美ほうびの一つも出やうでは無し朝から晩まで一寸法師のいはれつづけで、それだからと言つて一生立つてもこのせいが延びやうかい
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
中の巻の発端に「かゝる親には似ぬ娘、お夏は深きぬれゆゑに、菩提ごゝろと意地ばりて、嫁入もせいものび/\の」………と書出かきいだして、お夏に既に恋ある事を示せり
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たい日本にほんをんなの足とたら、周三所謂いはゆる大根だいこんで、不恰好ぶかつかうみぢかいけれども、お房の足はすツと長い、したがツてせいたかかツたが、と謂ツて不態ぶざま大柄おほがらではなかツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
スラリと伸び切ったせいや、イギリスのビロードのような深い味のある黒髪や、少し蒼白い細面ほそおもてや、聡明らしい大きい眼や、情熱的な美しいカーヴを持った唇や
せいの高いかれは首をまっすぐに立て、むねを前へつき出して、おもしろそうにふえでワルツをふきながら、手足で拍子ひょうしをとって行った。その後ろにカピがつづいた。
「何しろ懐中電灯の光で眼がくらんでいてよく分りませんでしたが、肥ってせいの高い男のようでした。」
わたしはこはばつた心が急に融ける思ひがして、同じくらゐせいの高い相手の顏に、感動の眼を見張つた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
今一人は年が若くて、色が白くて、せいがすらりと高くて、天国から来た天使のやうな顔をしてゐる。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
美しい着物の坊様ぼうさまが見えたとか、せいの高い武士が歩いて来るとか、詩人がお祝いの詩を声ほがらかに読み上げているとか、むすめの群れがおどりながら現われたとか
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「八か、十九。せいがあるからもう少しにも見える。何しても、今時の娘の度胸のいいにゃ驚くなあ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其切先そのきっさきあやうくも巡査の喉をかすめて、背後うしろの岩に戞然がちりあたると、ぱっと立つ火花に敵は眼がくらんだらしい。其隙そのすきを見て巡査は再び組んだ。せいの低い敵は巡査の足を取った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さぁてみなさん。皆さんは今まで、わたくしを世界一の小男と見て、子供こどもさんまでが私とせいくらべをしたりしまして馬鹿ばかになさいましたが、ただ今は世界一の大男となりました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
せいは中背より少し高目で、捲毛をなして渦まいている黒味がかった濃い髮の毛と、ぐりぐりした、眞向から人を見つめる黒眼とが、彼の容貌のなかでは一際目だっている。
そのお友達は、私よりさらに一寸くらいせいが高くて、語学がとてもよく出来て、赤いベレー帽がよく似合って、お顔もジョコンダみたいだという評判の、美しいひとだった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、画家がかがいうと、くろふくをきたせいたか役人やくにんが、きっと、青年せいねんをにらんで、くちをとがらし、なにかいおうとしました。そのとき、ダイヤをはめたうつくしいおじょうさんふうのおんな
托児所のある村 (新字新仮名) / 小川未明(著)
瓜実顔うりざねがおで富士額、生死いきしにを含む眼元の塩にピンとはねたまゆ力味りきみを付け、壺々口つぼつぼぐち緊笑しめわらいにも愛嬌あいきょうをくくんで無暗むやみにはこぼさぬほどのさび、せいはスラリとして風にゆらめく女郎花おみなえし
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おじさんはせいが低いねえ、おいらと同じぐらいだねえ、どうしてそんなに低いんだろう」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
叔父のあとに続いてともの女中をつれてしとやかに玄関を上ッて来た娘は、なるほど、母の賞めた通り誠に美しい娘だ,せいはすらりと高く、色はくッきりと白く、目はぱッちりとすずしく
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
俺はせいが低い。顔は一見頑丈だが、下膨れの為に愛嬌はあつても、威厳がない。寒さうに肩をすぼめてあの宏壮な建物の入口の石段を踏んだとき、之が高津暢であるとは誰れも思ふまい。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
馬はがばつとはねあがり、ソン将軍はにはかにせいが高くなる、将軍は馬のたづなをとり、弟子とならんでへやを出る。それから庭をよこぎつて厚い土塀どべいの前に来た。小さなくぐりがあいてゐる。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ほんがみつかったので、講堂こうどうはしってかえると、もう生徒せいとらはおいのりの整列せいれつをしていた。せいじゅんなが行列ぎょうれつつくっているので、小さいのは前の方で聖像せいぞうに近く、大きいのはうしろに立っている。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
「まあ、ちょうど同じようね。あら、照彦さん、せいのびしちゃずるいわ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのすぐ外には、人のせいよりは少し高いコンクリートの塀があった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その名刺には警視庁刑事巡査吉田虎蔵よしだとらぞうとある。虎蔵君と並んで立っているのは二十五六のせいの高い、いなせな唐桟とうざんずくめの男である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼等には彼の後で飛んだ——彼よりも幅の狭い所を彼よりも楽に飛び越えた、せいの高い美貌びぼうの若者の方が、はるかに人気があるらしかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この国境では、国と国とが寝ながらお話のできるくらいですから、両国の山々もせいくらべをしては楽しむほど仲がいいところです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
っかさんの方は、私だって知ってるわ。品のい、せいのすらりとした人よ。水菓子屋の御新造ごしんさんって、みんながそう言ったの。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いくらあるいてもいえらしいものもえませんでしたが、そのうちいつどこから出てたか、一じょうせいたかさのある大男おおおとこがのそのそと出てました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
有がたう御座いますと済まして行く顔つきせいさへあれば人串談ぢようだんとてゆるすまじけれど、一寸法師の生意気とつまはぢきして好いなぶりものに烟草たばこ休みの話しの種成き。
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのころ、私の家から三丁ばかり離れて飯塚という家がございましたがそこの娘におさよと申しまして十五ばかりのせいのすらりとして可愛らしい児がいました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
若様の吉弥は十四歳というにしては、せいも智恵も伸び切って、何となくたくましい感じのする少年でした。
が、の一刹那せつなに講師が認めた彼の姿は、極めてせいの低い、殆ど赤裸あかはだかで、皮膚の色は赭土色あかつちいろで……。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたしのいたすぐ向こうのすみには、白いひげを長く生やしたせいの高い老人ろうじんがいた。かれはきみょうな着物を着ていた。わたしはまだこんな様子の人を見たことがなかった。