“穿(うが)” の例文
故意にあさ子を外出せしめたのだろうという穿(うが)った解釈をするものもあるが、果してそうであったかどうかは誰にもわかる筈がない。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
また殿下自身、じつはフランス密偵部の同志で、自発的にああしてドロテイン街の家を探検したのだという、穿(うが)ったような説もある。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
かくて三個からなる闕門(けつもん)を中に穿(うが)ち、巨大な堅固な花崗岩を高く築造し、その上によく伝統を守った広大な重層の建物を聳(そび)えさせた。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
聡明な眼識を持っていたがやはり江戸作者の系統を引いてシャレや小唄の粋を拾って練りに練り上げた文章上の「穿(うが)ち」を得意とし
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
強い羽搏きとつよい線と、しかも微に入り細を穿(うが)った諸現象の具象性をとらえ描きたい、そのために腕が足りないとそういう意味で。
蒼鸇(たか)の飛ぶ時他所視(よそみ)はなさず、鶴なら鶴の一点張りに雲をも穿(うが)ち風にも逆(むか)つて目ざす獲物の、咽喉仏把攫(ひつつか)までは合点せざるものなり。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
帶し段織(だんおり)小倉の大縞(おほじま)なる馬乘袴(うまのりばかま)を穿(うが)ち鐵骨の扇を持て腕捲(うでまく)りなしたる勢ひ仁王の如き有樣ゆゑ番頭久八アツと云て奧(おく)へ逃入(にげいら)んとするを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
只屋根の真上に星が一つ光つてゐる。それもどうしてこの濃い霧を穿(うが)つてこゝまで照らしてゐるかと、不思議に思はれる位である。
之は少し穿(うが)ち過ぎた推測で恐縮ですが、私の所にあんなに度々脅かしの手紙をよこしたのは小夜子一人の智恵ではないかも知れません。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
路は暫し松林(しようりん)の間を穿(うが)ちて、茅屋(ばうおく)村舍の上に靡(なび)ける細き烟のさながら縷(る)の如くなるを微見(ほのみ)つゝ、次第に翠嵐(すゐらん)深き處へとのぼり行きしが
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
或日の夕ぐれ、いつもの如く夢ごゝろになりてゐたるが、ふと思ひ付きて、鍼(はり)もて穿(うが)ちたる紙片を目にあて、太陽を覗きはじめつ。
が、彼女が夫則重を不具にしようと企てた動機に関しては、「見し夜の夢」に記すところがいかにも自然で、機微を穿(うが)っていると思う。
文士は自己の建築したものの下に、坑道を穿(うが)って、基礎を危(あやう)くしていると云っても好(い)い。蒲団や煤烟には、無論事実問題も伴っていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
微に入り細を穿(うが)って研究する人は少なくないが、おそらくアントロジイ・ソノールの曲目の三分の一も記憶している人はあるまい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂、野村あらえびす(著)
もう少し穿(うが)った言いかたをすれば、久之進は粗忽者だから、ということによって、いくらか明敬の負担を軽くしている傾きさえあるのだ。
粗忽評判記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
道の道とすべきは常の道にあらずとやら、武士の道を武士道と名付ける間はまだ武士の守るべき常道を穿(うが)ったものではあるまい。
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「能」という名前の由来、もしくは「能」の神髄に関する説明で、これ位穿(うが)った要領を得た話はない。東洋哲学式に徹底していると思う。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし、季がなくって独立した詩となると、それは川柳の如く、人情の機微を穿(うが)つという点で独立した詩となる力を持っているのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
警察署での自白は尽く虚偽なる旨(むね)恐るゝ所なく申述べた。裁判長はうなずきながら微に入り細を穿(うが)って訊問を試み、一先ず閉廷を宣した。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
実にバビロンの町の胃腸であり、洞窟(どうくつ)であり、墓穴であり、街路が穿(うが)たれている深淵(しんえん)であり、かつては華麗であった醜汚の中に
人々は、今は石のように身動きもせず、ジットリと汗ばむ手を握りしめて、微(び)に入(い)り細(さい)を穿(うが)って鮮かな、名探偵の推理に聴き入っていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
然(しか)し卯平(うへい)は其(そ)の僅少(きんせう)な厚意(こうい)に對(たい)して窪(くぼ)んだ茶色(ちやいろ)の眼(め)を蹙(しが)める樣(やう)にして、洗(あら)ひもせぬ殼(から)の兩端(りやうはし)に小(ちひ)さな穴(あな)を穿(うが)つて啜(すゝ)るのであつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
元禄より享保に至るまで人各(おの/\)、自己独創の見識を立てんことを競へり。斯の如くにして人心中に伏蔵する思想の礦脈は悉(こと/″\)く穿(うが)ち出されたり。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
赤い火はとこんとこんと厚い鉄の戸口の隙間から見えて、ドドー、ドーンという車の廻るたびに地底を穿(うが)っている機械の響(ひびき)が聞き取られる。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
是(これ)にて罪(つみ)は成立(せいりつ)し、第(だい)八囘(くわい)以後(いご)はその罪(つみ)によりていかなる「罰(ばつ)」精神的(せいしんてき)の罰(ばつ)心中(しんちう)の鬼(おに)を穿(うが)ち出(い)でゝ益(ます/\)精(せい)に益(ます/\)妙(めう)なり。余(よ)は多言(たげん)するを好(この)まず。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
金銀(きんぎん)珠玉(しゆぎよく)巧(たくみ)を極(きは)め、喬木(けうぼく)高樓(かうろう)は家々(かゝ)に築(きづ)き、花林曲池(くわりんきよくち)は戸々(こゝ)に穿(うが)つ。さるほどに桃李(たうり)夏(なつ)緑(みどり)にして竹柏(ちくはく)冬(ふゆ)青(あを)く、霧(きり)芳(かんば)しく風(かぜ)薫(かを)る。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
そして現在は園芸手の葛岡を愛している。たゞ先生のプライドが葛岡と結婚させないまでだ。こんな穿(うが)った評判もありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
雪の固い粒は梨の肉のような白い片々となって、汁でも迸(ほとばし)りそうに、あたりに散らばる、鉈の穿(うが)った痕の雪道を、足溜まりにして、渡った。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
これは吉野の國栖(くず)の祖先です。それから山坂を蹈み穿(うが)つて越えてウダにおいでになりました。依つて宇陀(うだ)のウガチと言います。
「スフィンクスなら僕だって彫刻の方で知っているよ。流石(さすが)にスフィンクスだ。足の多いほど弱いというところが穿(うが)っている」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その短い時間のあいだに、鋼鉄のような弾力をもったこの大岩盤に、どうして穴を穿(うが)つか? ほとんど見込が立たなかった。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この鉄道は六十三の隧道をアンデスの山中に穿(うが)ち、数多の橋梁を渓壑(けいがく)の間に架け、その高道にしてかつ峻嶮なる多く世界に見ざるところなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いくらでもお辞儀をしろ。いくらでも世辞笑いをしろ。そんなことで、おれがへこたれるものか。もっと穿(うが)ったことをやってやる、堂々とな。
この名は君主が長靴穿(うが)った一脚を新婦の臥牀(ねどこ)に入れ、手鎗を以て疲るるまで坐り込み、君主去るまで夫が新婦の寝室に入り得なんだから出た。
「招いても、縁のない衆生(しゅじょう)さえあるに、この伽藍(がらん)の造営に、柱の穴一つ穿(うが)った者でも、わしの眼から見ると、まことに浅からぬ仏縁のある者」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柱の根元を横に穿(うが)った穴にボルトを差込むとそれが土台の金具を貫通して、それで柱の浮上がるのを止めるという仕掛になっていたものらしい。
静岡地震被害見学記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私共長年教育の事業に従事した者が見ますと、現今の細目は実に立派なもので、精に入り微を穿(うが)つ、とでも云ひませうか。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
間(けん)にあまる壁を切りて、高く穿(うが)てる細き窓から薄暗き曙光(しょこう)が漏れて、物の色の定かに見えぬ中に幻影の盾のみが闇に懸る大蜘蛛(おおぐも)の眼(まなこ)の如く光る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
扨(さ)て其他(そのた)には、彼(か)の第(だい)一の穴(あな)にもある如(ごと)く、周圍(しうゐ)と中央(ちうわう)とに、幅(はゞ)四五寸(すん)の溝(みぞ)が穿(うが)つてあるが、彼(か)の如(ごど)く床壇(ゆかだん)は設(もう)けて無(な)い。
途で一人の老婆が麺麭の実の頭に穴を穿(うが)ち、八(や)つ手(で)に似た麺麭の葉を漏斗(じょうご)代りに其処(そこ)へ突込み、上からコプラの白い汁を絞って流し込んでいた。
天明調はどこまでも引しめて五分(ぶ)もすかぬやうに折目正しく着物(きもの)着たらんが如く、天保調はのろまが袴(はかま)を横に穿(うが)ちて祭礼の銭(ぜに)集めに廻るが如し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さういふ断崕は、フランスとイギリスの間のイギリス水道に沿ふた処で見る事が出来る。それ等の断崕は絶えずその下の方を海に穿(うが)たれてゐる。
しかし半蔵はそれを穿(うが)ち過ぎた説だとして、伯耆(ほうき)から敦賀を通って近く帰って来た諏訪頼岳寺(すわらいがくじ)の和尚(おしょう)なぞの置いて行った話の方を信じたかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もしこの粗、穿(うが)ち貫(つらぬ)くにいたらずば、必ず一の極限(きはみ)あり、密こゝにこれを阻(はゞ)みてそのさらに進むをゆるさじ 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
支持桿(かん)(1)(1)ノ上端ニ、溝(10)(10)ヲ設ケテ、「ゴム」条ノ両端ヲ挿入シテ、木螺子(ねじ)(9)(9)ニテ締着シ、支持桿ニ穴ヲ穿(うが)チ
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三、佐野昌一(著)
熊笹の径(こみち)を通りぬけると果して、思ひがけない大道が深林を穿(うが)つて一直線に作られてある。其幅は五間以上もあらうか。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
快楽論者のいうように人間が全然自己の快楽を求めているというのは頗(すこぶ)る穿(うが)ち得たる真理のようであるが、かえって事実に遠ざかったものである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
薄い茫々とした八字眉、眉の下の淋し気な皺、少し垂れた魚形の眼、眼の真ん中に瞳があり、そこに穴が穿(うが)たれている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その反対側には、水に穿(うが)たれて穴ぼこだらけの嶮しい岩岸がすっかり照らし出されて、ちらちらと川面に映り、矢のような奔流に千々に砕けている。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
(この間牝猿の等閑になしゐたる鍋煮え越す。大いなる火燄(かえん)燃え立ちて、烟突に向ふ。魔女恐ろしき叫声をなし、烟突より火燄の中を穿(うが)ちて降る。)