うたがひ)” の例文
「その殺された甚助の後を追つて、出て行つたお前さんにもうたがひが掛からずには濟むまい。もう少し前後の樣子を話して貰へまいか」
信一郎は、青木淳の弟と語つてゐる軍服姿の男を見たときに、それが手記の中の村上大尉であることに、もう何のうたがひもなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
これは、形式の観念が明かになれば何のうたがひもない筈なのである。倫理学上の結果論と同じ立ち場にあるといふことが出来よう。
和歌批判の範疇 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かくもおどろくべき速力そくりよくいうするのはまつたてい形體けいたいと、蒸氣力じようきりよくよりも電氣力でんきりよくよりも數十倍すうじふばい強烈きようれつなる動力どうりよくによることうたがひれぬが
始よりその人を怪まざらんにはこのとがむるに足らぬ瑣細ささいの事も、大いなる糢糊もこの影をして、いよいよ彼がうたがひまなこさへぎきたらんとするなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すでに水も艸木くさきも、虫も土も空も太陽も、皆我々蛙の為にある。森羅万象しんらばんしやうことごとく我々の為にあると云ふ事実は、最早もはや何等なんらうたがひをもれる余地がない。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
聞けば聞くほど判然とうたがひも無き我が名の山田「山田山田」と呼立つるが、囁く如く近くなり、叫ぶが如くまた遠くなる、南無阿弥陀仏コハたまらじ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれちゝあにあによめ三人さんにんうちで、ちゝの人格に尤もうたがひいた。今度の結婚にしても、結婚其物が必ずしもちゝの唯いつの目的ではあるまいと迄推察した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
四代目お葉は二代目の不思議な横死が富本とみもとの手で行はれたかも知れないといふうたがひ一つで、富本の紋章に縁のある桜の花は生涯家に植ゑさせなかつた程だ。
建物の中にとりこめたるは、あらずもがなと思へど、昔のガリラヤ街道も此辺このへんを通りしと云へば、ゐどそのものは昔より云ひ伝へしヤコブの井たることうたがひなし。
最早や一点のうたがひもない——彼は今度の労働者大会を内部からこはして、其れを結納ゆひなふとして結婚式を挙げるのだ——彼は我々労働者に取つて獅子身中の虫であるツ——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「だからわたしには、うたがひがおきて来たのです。こんな米を搗いたり、托鉢をしたりすることと、求めてゐる誠の道と、何の関係があるのだらう、と思はれ出しました。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
人山きづくが中に忌はしきうたがひを受けつ、口をしや剪兒すりよ盜人と萬人にわめかれし事もありき。
琴の音 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ある時はまた、現在のわが父母は果してわが眞實の親かといふ恐ろしいうたがひかかつて酒桶のかげの蒼じろいかびのうへに素足をつけて、明るい晝の日を寂しい倉のすみに坐つた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして事実になるまで、おれの胸には一度もうたがひきざさなかつた。今度はどうもあの時とは違ふ。それにあの時は己の意図がほしいまゝに動いて、外界げかいの事柄がそれに附随して来た。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
石器時代遺跡ゐせきよりはまた鹿しかつのにて作りたる噐具きぐも出づ。魚骨器のせきに畫きたるは其一例そのいちれいにして、發見地はつけんちは相模三浦郡久比利くびり貝塚なり。やう大魚たいぎよるに在りしことなんうたがひか有らん
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
申者かな伯父夫婦は相果あひはてあとも知れざる由家主いへぬししかおぼえずこれうたがひの一つ又うつせみが實の親なる者越後と申事なり只今たゞいま汝に引合ひきあはする者ありと井戸源次郎を呼出よびいだされ縁側えんがはに控へるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おそろしき「うたがひ」は、ああみづからの身にこそ宿れ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そんなうたがひも充分ありますが、平次はそれよりも、豊年坊主に逢つて、何を言ひ出すか、それを聽くのが樂しみで一杯の樣子です。
が、光は暗かつた。その上、巡査の心にさうしたうたがひは微塵も存在しないらしかつた。彼は、やつと安心して、自分の物でない物を、自分の物にした。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
その張りたるあぎとと、への字に結べる薄唇うすくちびると、尤異けやけ金縁きんぶち目鏡めがねとは彼が尊大の風にすくなからざる光彩を添ふるやうたがひ無し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この魚族ぎよぞくは、きわめて性質せいしつ猛惡まうあくなもので、一時いちじ押寄おしよせてたのは、うたがひもなく、吾等われら餌物えものみとめたのであらう。わたくしそのぐんたちま野心やしんおこつた。
さうしないと、与次郎が広田の食客ゐさうらふだといふ事を知つてゐるものがうたがひを起さないとも限らない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
人山きづくが中にいまはしきうたがひを受けつ、口をしや剪児すりよ盗人と万人にわめかれし事もありき。
琴の音 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
... 僕は全くあざむかれて居ました——」吾妻はハンケチもて眼をおほひつ「僕が諸君の罵詈ばり攻撃をさへ甘んじて敬愛尊信した彼は——諸君、——売節漢であつた、うたがひもなき間諜かんてふであつた」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
一円の切手がざつと二十万枚、うたがひもなく池田氏の財産は二十万円程ある事になる。
さて一応伴天連のうたがひは晴れてぢやが、「さんた・るちや」へ参る人々の間では、容易にとかうの沙汰が絶えさうもござない。されば兄弟同様にして居つた「しめおん」の気がかりは、又人一倍ぢや。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
神経しんけいうたがひふかき凝視ぎようし……
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
以て證據とあそばされ候事一おう御道理ごもつともには候へども私し家内の脇差わきざし出刀庖丁でばばうちやうの類刄物はもの御取寄おとりよせ御吟味下され候へば御うたがひとけ申べし其上憑司は私しの叔父なり昌次郎は從弟いとこなり又つまうめは私の先妻にこれあり叔母は憑司が方に居りかくの如くつながる親類ゆゑ假令たとへたんうらみあり共親身の者いかでか殺さるべきやと義理ぎり分明に辯解いひとくを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
新しく兄を失つた青木と云ふ青年が、彼女が青山墓地で見たその人であることに、もう何のうたがひも残つてゐなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
いよ/\今夜峰右衞門を殺さうとたくらんだが、万一まんいちの未練で、うたがひを喜八郎に向けようとしたのは良くなかつた——が、死に度くない人間の心持といふものは
わたくし武村兵曹たけむらへいそうとは見合みあはせて、はじめてホツと一息ひといきついた。あの大陸たいりくは、うたがひ印度インド大陸たいりくであらう。
「は?」彼は覚えず身をかへして、ちようと立てたる鉄鞭にり、こはこれ白日の夢か、空華くうげの形か、正体見んと為れど、酔眼のむなしく張るのみにて、ますまれざるはうたがひなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
三四郎はあたまの中に、かう云ふうたがひある未来を、ゑがきながら、美禰子と応対をしてゐる。一向に気が乗らない。それを外部の態度丈でも普通の如くつくろふとすると苦痛になつてる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だ篠田の為めに一臂いつぴの労をることを無上の満足として居たのです——しかるに段々彼の内状をつまびらかにすると、実に其の裏面に驚くべき卑劣ひれつの野心を包蔵することがいさゝうたがひないので——御両君
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「氣の弱いことを言ふな、文句を言つたら、お富さん殺しの下手人のうたがひが掛つて居る、と脅かせ」
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
けれども、あには、もし亜米利加のミスの教育を受けたと云ふのが本当なら、もう少しは西洋流にはき/\しさうなものだと云ふうたがひてた。代助は其うたがひにも賛成した。ちゝあによめだまつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たつた三つになつたばかりの十次郎は、一と晩の苦惱に骨と皮になつて、死體には凄まじい紫斑しはんが一杯であつたと言ふのですから、毒殺されたことは、先づうたがひも無いことでせう。
それのみかとこつてからは、いもとだとつて紹介せうかいされた御米およねが、はたして本當ほんたういもとであらうかとかんがはじめた。安井やすゐめないかぎり、このうたがひ解決かいけつ容易よういでなかつたけれども、臆斷おくだんはすぐいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
平次が路地の入口に住んでゐる駒吉にうたがひを向けたのは、自分の動きがあまりによく見張られてゐることに氣が付いたのが最初で、それから茶屋新四郎の手代甚三郎が斬られたのは
「さう」とうたがひのこした様に云つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「この文字は恐ろしい言葉でございます。これが讀めると、御用人樣一日も一刻ひとときも安い心がなくなるばかりでなく、お屋敷の皆樣には恐ろしいうたがひの雲がかゝりますが、それでも——」
うたがひをかけさせない爲に、亭主の金兵衞を四谷の親類に泊らせ、與惣六だけ歸つたところを、庭先の梅の枝から、繩を飛ばして、吊り上げて殺したことだらう、そして一と晩何處かに隱して置き
玉屋金兵衞の調子は、その娘にうたがひをかけ度くない樣子でした。
二人の娘の話を聽くと、平次のうたがひは益々濃くなるばかりです。