煙草盆たばこぼん)” の例文
が、あかたすきで、色白な娘が運んだ、煎茶せんちゃ煙草盆たばこぼんを袖に控えて、さまでたしなむともない、その、伊達だてに持った煙草入を手にした時、——
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は煙草盆たばこぼんを引寄せて落着き、一服煙草をつけました。お勝手の方ではコトコトと女房のお靜がお茶の仕度をしてゐる樣子です。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
屏風びょうぶそう手燭てしょくちょう、燭台何挺、火鉢ひばち何個、煙草盆たばこぼん何個、草履ぞうり何足、幕何張、それに供の衆何十人前の膳飯ぜんぱんの用意をも忘れてはならない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
以て歸らんことは思ひもよら如何いかゞはせんと座中を見廻すに是幸ひかたはらに文右衞門の煙草盆たばこぼんありしかば其の中へ右の金子二十五兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
物はこの煙草盆たばこぼんであれば、同時にこの薬瓶であることはできない。人は王であれば比丘びくであることはできない。じつに不自由なものである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
一度は煙草盆たばこぼんの火を入れえて、僕の足の下に置いて行った。二返目には近所から取り寄せた氷菓子アイスクリームを盆にせて持って来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『……いけねえ、煙草盆たばこぼんの火が消えていやがる、おい、誰かそこにいるらしいが、行燈の火を、ちょっとここへ貸してくれ』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女中は煙草盆たばこぼんや、お茶を運んでから、電話をかけていたが、商売屋なので、上がった以上、そうやってもいられなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その画室がしつなかほどに、煙草盆たばこぼんをはさんで、春信はるのぶとおせんとが対座たいざしていた。おせんのうぶこころは、春信はるのぶ言葉ことばにためらいをせているのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
爺さんは「一寸ちょっと御免なさい」と云って、勝手へ往ったが、外套がいとうと靴とを置いて、座布団と煙草盆たばこぼんとを持って出て来た。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
寝すごしたのだろうと思い、わしは自分で煙草盆たばこぼんを引き寄せ、マッチで煙管キセルに火をけ一二服吸い、き入ったが、その音でも奈世は起きて来ない。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
これが恐ろしく小笠原流おがさわらりゅうで——それで何をするのかと思うと、枕頭まくらもと蒔絵まきえ煙草盆たばこぼんを置きに来たに過ぎなかった。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そういいながら倉地は自分を抑制しようとするようにしいて落ち着いて、葉巻を取り上げて煙草盆たばこぼんを引き寄せた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
前以て電話が掛けてあったものと見えて、煙草盆たばこぼん座布団ざぶとんも人の数だけ敷いてあって、煉香ねりこうにおいがしている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
青年わかものの入り来たれるを見て軽くいやなしつ、孫屋の縁先に置かれし煙草盆たばこぼんよりは煙真直ますぐにたちのぼれり。君が今朝けさ装衣いでたちはと翁まず口を開きてやや驚けるようなり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
母親の煙草盆たばこぼんに火を入れてゐた鶴子は、自分を振り返つたあによめに、「すぐよ」かう云つて離の方につた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
ちぎりはふか祖先そせんえんかれてかし一人子同志ひとりこどうし、いひなづけのやく成立なりたちしはおたかがみどりの振分髮ふりわけがみをお煙草盆たばこぼんにゆひむるころなりしとか、さりとてはながかりし年月としつき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
春見はもと侍だから刄物三昧はものざんまいでもされて、重二郎に怪我けがでもあってはならんと思いまして、煙草盆たばこぼんの火入れを火の入ったまゝ片手にうしろへ隠して蔵の中へ入りましたから
むかしの行灯あんどんだとか、煙草盆たばこぼんだとか、いろいろな形の掛け時計、置き時計、むかしのやぐら時計、花びんや置きもの、本棚もあれば、洋酒のびんをならべる飾り棚もあります。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『かしわに致しまへうか。……御酒ごしゆは。』と、煙草盆たばこぼんを運んで來た女が問ふたので、鷄肉けいにくとサイダーとを命じて、小池は疲れ切つた風でインバネスのまゝゴロリと横になつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
母は、ちょっと笑いを浮べたまま黙って、煙草盆たばこぼんを箱から出しては一つ一ついていた。
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
私は髪もお煙草盆たばこぼんで、しまの着物に水色のえりを重ねて黒繻子くろじゆすの帯をさせられて居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その瞬間に、いながらにして跳ね返った左膳は、煙草盆たばこぼんを蹴倒しながら後ろの壁にすり立って濛々もうもうたる灰神楽はいかぐらのなかに左腕の乾雲を振りかぶった左膳の姿が生き不動のように見えた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
上からはあり合すもの、衣裳葛籠いしょうつづら煙草盆たばこぼん煙管きせる、茶碗、湯呑、香箱こうばこの類、太鼓、鼓、笛や三味線までも投げ尽したが、もう立臼のような投げて投げ甲斐のあるものがありませんでした。
それが年の始めのいちばんだいじな元旦の朝となると、きまってきげんが悪くなって、どうかすると煙草盆たばこぼんの灰吹きを煙管きせる雁首がんくびで、いつもよりは耳だって強くたたくこともしばしばあった。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
煙草盆たばこぼんが来た、改めてお茶が出た。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
掃除した煙草盆たばこぼん
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
が、あかたすきで、色白いろじろな娘が運んだ、煎茶せんちゃ煙草盆たばこぼんそでに控へて、までたしなむともない、其の、伊達だてに持つた煙草入たばこいれを手にした時、——
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
娘は噂されてゐるのを知つてか、知らいでか、お茶と煙草盆たばこぼんを二三度に運んで來てチヨロチヨロとお勝手の方へ姿を隱すのです。
忌部焼いんべやき布袋ほていの置物にこんなのがよくある。布袋の前に異様の煙草盆たばこぼんを置く。呉祥瑞ごしょんずいの銘のある染付そめつけには山がある、柳がある、人物がいる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寒がりの吉左衛門ですら、その日は炬燵こたつ火鉢ひばちでなしに、煙草盆たばこぼんの火だけで済ませるくらいだ。この陽気は本陣の慶事を一層楽しく思わせた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
啓之助が使用している机の側から、煙草盆たばこぼん煙管きせるの首で引ッかけて、その縁側に腰をすえこんでいた甲比丹かぴたんの三次。顔をみるとれッこい態度で
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
申せしゆゑ早々さう/\かへりしと見えたりさぞかし本意ほいなく思ひしなるべしと云ひながら文右衞門煙草たばこのまんと煙草盆たばこぼん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
禁酒禁煙の運動に良家の児女までが狂奔するような時代にあって毎朝煙草盆たばこぼん灰吹はいふきの清きを欲し煎茶せんちゃの渋味と酒のかんほどよきを思うが如きはの至りであろう。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は最初赤いしぶと花をいくつもいくつも取つてお煙草盆たばこぼんつた髪へ挿しました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
髪を引っ詰めのお煙草盆たばこぼんに結い、涕汁はなみずを垂らしながら、竹馬にも乗って歩いた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
洋風家具がなくて、座蒲団ざぶとん煙草盆たばこぼんに変っているが、部屋は同じあの部屋だ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かぶっていた桐油とうゆを、見世みせすみへかなぐりてて、ふところから取出とりだした鉈豆煙管なたまめぎせるへ、かます粉煙草こなたばこ器用きようめたまつろうは、にゅッと煙草盆たばこぼんばしながら、ニヤリとわらって暖簾口のれんぐち見詰みつめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
煙草盆たばこぼんには埃及煙草エジプトの吸いがらがくしゃくしゃに突きこんである。
疲労 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ぢやアおかねどんお蒲団ふとんとお煙草盆たばこぼんをヘイつていらつしやいまし
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして、机の前に煙草盆たばこぼんを置いて、それに線香が立ててある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
煙草盆たばこぼんかうかをりのみして、にいまだ人影ひとかげなきとき瀧君たきくん光景くわうけいは、眞田さなだ六文錢ろくもんせん伏勢ふせぜいごとく、諸葛亮しよかつりやう八門遁甲はちもんとんかふそなへる。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
持つて來た煙草盆たばこぼんを、敷居際に押しやると、自分は朱羅宇しゆらうの長いのを取上げて、靜かに一服吸ひ付けました。恐ろしく落着き拂つた態度です。
幸兵衛も手さげのついた煙草盆たばこぼんを引き寄せて、一服吸い付けながらその話を引き取った。「十一屋さん、江戸もずいぶん不景気のようですね。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人は黙然もくねんとして相対した。僕は手持無沙汰てもちぶさた煙草盆たばこぼん灰吹はいふきを叩いた。市蔵はうつむいてはかまひざを見つめていた。やがて彼はさみしい顔を上げた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
に致すによりかたく相斷り候て受取申さゞるを市之丞は本意ほいなく存じたるにや私し儀質物流れの掛合に參り候留守に煙草盆たばこぼんうちへ人知れず入れ置て歸りしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おばこか、お煙草盆たばこぼんみたいな髪にって、母の手にひかれているお綱がそのまま目にうかぶ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前挿まえざしかんざし落掛おちかかるのをさし直しながら、「お煙草盆たばこぼんのお火はよろしゅう御ざりますか。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は兎も角、人を呼んで聞いて見ようと思い、その方へ手を伸しかけて、ふと気がつくと、そこの煙草盆たばこぼんわきに、一束の半紙が置かれ、その一番上の紙に何か鉛筆の走り書きがしてあるのです。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
藏庫くら河岸かしそろつて、揚下あげおろしはふねぐに取引とりひきがむから、店口みせぐちはしもたおなこと煙草盆たばこぼんにほこりもかぬ。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)