)” の例文
日あたりのいいヴェランダに小鳥のかごるすとかして、台所の用事や、き掃除をさせるために女中の一人も置いたらどうだろう。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「まだある、下手人の着物なら、血が飛沫しぶいているはずだ、あれだけひどく殴ったんだもの、——ところがあれは血をいたんだぜ」
何の気無しに唐紙の傍に立って、御部屋を覗きながら聞耳を立てました。旦那様は御羽織を脱捨てて、額の汗を御きなさるところ。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
紅屋へ行ってソーダ水を飲んで汗をき、それからまたゆっくり出直したら、こんどはちょうどよかった。古い大きいお屋敷である。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
女の顔を伝わって、涙が止所とめどもなく流れる。とうとう女は声を立てた。その時病人が動いた。女は急いでハンカチイフでほおいた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
九時半ごろ新しく借りた居間に帰り、体をき、足を洗ひ、小さい方のトランクから日用品やら文房具やら書物やらを取出して調へた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
くしゃみ出損でそこなった顔をしたが、半間はんまに手を留めて、はらわたのごとく手拭てぬぐいを手繰り出して、蝦蟇口がまぐちの紐にからむので、よじってうつむけに額をいた。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かなり大きく薄眼をあけて、よく寝てゐる様子です。口も半びらきになつて、よだれが出てゐます。そつとガーゼでいてやりました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
するととほくのはうでパタ/\とちひさな跫音あしおとのするのがきこえました、あいちやんはいそいでいてなにたのだらうかとてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
というと、若僧は手拭てぬぐいを出して、此処ここでしょう、といいながら顔をいた。蚯蚓脹みみずばれの少し大きいの位で、大した事ではなかった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「な、伊藤、俺等一つでやめよう。後でおふくろにうらまれると困るから」と須山は笑った。伊藤は分からないように眼をいていた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
いつ見てもきたないといわれ、それが大々的にお化粧けしょうをした時でさえそうなのだから、彼は一番よごれたところだけけばいいのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
かれはどつかりすわつた、よこになつたがまた起直おきなほる。さうしてそでひたひながれる冷汗ひやあせいたが顏中かほぢゆう燒魚やきざかな腥膻なまぐさにほひがしてた。かれまたあるす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
らおめえ、手洟てばなはかまねえよ」といつたりがら/\とさわぎながら、わら私語さゝやきつゝ、れた前掛まへかけいてふたゝめしつぎをかゝへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それをニヤニヤ笑ってながめながら、秀吉、足をいてたての上にあがった。加藤孫一まごいち、すがたは見せないが、向こうの楯のかげで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荷車きの爺さんは、薄ぎたない手拭てぬぐひで、額の汗をき拭き、かう言つて、前に立つた婦人の顔を敵意のある眼で見返しました。
黒猫 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
紺三郎なんかまるで立派な燕尾服えんびふくを着て水仙すゐせんの花を胸につけてまっ白なはんけちでしきりにそのとがったお口をいてゐるのです。
雪渡り (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
若者はようやく立上って体をいて行ってしまおうとするのをお婆様がたって頼んだので、黙ったまま私たちのあとからいて来ました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
クリストフは少し心が静まると、眼をいて、ゴットフリートを眺めた。ゴットフリートは彼が何か尋ねたがってるのをさとった。
可愛らしい鼓村は、大きな、入道にゅうどうのような体で恐縮し、間違えると子供が石盤せきばんの字を消すように、箏のいとの上をてのひらき消すようにする。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ゆい子は家事に慣れないようすで、めしのきかたもうまくないし、き掃除や洗濯せんたくなども、時間ばかりかかってとんと片づかなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お神はそう言って涙をいたが、昏睡こんすい中熱に浮かされた銀子は、しばしばのろいの譫言うわごとを口走り、春次や福太郎がそばではらはらするような
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「僕は禿にはならずにすんだが、その代りにこの通りその時から近眼きんがんになりました」と金縁の眼鏡をとってハンケチで叮嚀ていねいいている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妻は「死んだ」と言う語に驚いたらしく、前掛まえかけで手をき拭き一寸ちょっとせないらしく、「兵さん?」と言って、そのまま黙った。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
涙と寝垢ねあかをリスリンできれいにき取ってそのあとの顔へ彼女は「娘」を一人絵取えどり出した。それは実際にはありそうも無い「娘」だった。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は頬をふくらませて、何も云わずに、汗をいていた。どうも、さっきから、あの夾竹桃の薄紅うすあかい花が目ざわりでいけない。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「馬鹿になるのもいい加減におしよ。お前、そんなふうだと、次郎にどこまでも甘く見られて、今にお尻までかされるよ。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
見ると、彼は漫然と雑巾がけをしているのではなくて、その扉へ誰かが白墨はくぼくでいたずら書きをしたのを、きとっていたのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
狭い道ですから、人力車が通る時は、傍の垣根にぴったり附いていないでは危いくらいです。門灯の下で車夫は汗をき拭き笑っています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
農婦は性急な泣き声でそういううちに、早や泣き出した。が、涙もかず、往還おうかんの中央に突き立っていてから、街の方へすたすたと歩き始めた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
何か言うのかと思うと、手を口のところへ持って行って、口びるをでた。言葉をったような具合だ。黙り込んで曖昧あいまいなお低頭じぎをした。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すてはそのまぶたを優しく閉じてやってやはり其処そこから動かずに、芝のうえに坐ってまた冷たい汗をいて、貝ノ馬介の死体を茫然と打眺うちながめていた。
この部屋に入るものとては、たゞ女中が、土曜日ごとにやつて來て、一週間の靜かなほこりを、鏡や家具からき取るだけだ。
自分で洗って自分でいて、それで一切の後片附あとかたづけを終って、その膳を拭いたという事を最後の名残なごりとして——いよいよ出て行くというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
マッサージ師が入つて来て、身体をき終へたエルアフイを隣の調整室の寝台へ案内した。記者はエルアフイの運動着と靴をかゝへて後に従つた。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
やがて雁首がんくびを奇麗にいて一服すつてポンとはたき、又すいつけてお高に渡しながら気をつけておくれ店先で言はれると人聞きが悪いではないか
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
振り向くと、隣の係長室から出てきたのであろう、制服姿の小西が酒太りのした赤い顔をタオルできながら、ばかに元気な様子で近づいてきた。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
僕は薄縁うすべりの上に胡坐あぐらいて、麦藁むぎわら帽子を脱いで、ハンケチを出して額の汗をきながら、舟の中の人の顔を見渡した。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
胡蝶 (涙をき拭き)……あたし……あたし、……蝶々のはねで、……髪かざりを作ったの。(またおいおい泣き出す)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
そこでパーシウスは涙をいて、出来るだけ勇ましい顔になって、その見知らぬ人に向ってなり元気に答えました。
わたくしは一しょう懸命けんめいるべくなみだせぬようにつとめましたが、それはははほうでも同様どうようで、そっとなみだいては笑顔えがおでかれこれと談話はなしをつづけるのでした。
懷中くわいちうして何國ともなく立去けり左仲は跡に大汗おほあせき偖々危ふきめに逢しとつぶやきながら道玄次郎がなげ出したる一分の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
姉をおせいと言ッて、その頃はまだ十二のつぼみおとといさみと言ッて、これもまた袖で鼻汁はな湾泊盛わんぱくざかり(これは当今は某校に入舎していて宅には居らぬので)
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
主人公が、膳を買つて來て、それを、自分で、丁寧にいたり、疊の上において眺めたり、寢る時には枕もとに置いて、目をさますごとに眺めたり、する。
「鱧の皮 他五篇」解説 (旧字旧仮名) / 宇野浩二(著)
手に取って息を吹きかけてこうとする時、私の心臓は一時に止まり、わたしの細胞という細胞が嬉しいような、怖ろしいような感激におののき出した。
帰りしな、林檎りんごはよくよくふきんでいてつやを出すこと、水密桃すいみつとうには手を触れぬこと、果物はほこりをきらうゆえ始終掃塵はたきをかけることなど念押して行った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
やがて、その時間じかんになると、としちゃんは、上衣うわぎのかくしから、よごれたハンカチをして、自分じぶんのハーモニカをいてちゃんとラジオのまえにすわりました。
年ちゃんとハーモニカ (新字新仮名) / 小川未明(著)
おまけに私のムシャぶり付いた相手がフガ英語の達人ときているから今や大苦しみで、私はポタポタと汗を垂らすやら額をくやら大車輪の奮闘であった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
実に美々びびしい打扮いでたちでこの時ばかりはいかに不潔なチベットの者でもその前夜から湯を沸かして身体をきます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「血が少し附いていますが、わざといてありません。衝突の時に、腕環うでわ止金とめがねが肉に喰い入ったのです。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)