土産みやげ)” の例文
ひざの上に乗せた土産みやげのおもちゃや小さな帽子などをやきもきしながらひねり回したり、膝掛ひざかけの厚いをぎゅっと握り締めたりして
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その晩、通禧らは何よりの土産みやげを持参した。来たる十八日を期して各国公使に上京参内せよと京都から通知のあったことが、それだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「もうたくさんたくさん——そんなに風を貰っても、江戸のお土産みやげに持ってゆかれるわけでもなし、さアみんなも少し涼んでおくれ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高安王たかやすのおおきみが鮒の土産みやげ娘子おとめに呉れたときの歌である。高安王は天平十四年正四位下で卒した人で、十一年大原真人おおはらのまひとの姓を賜わっている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ひとを訪問する時にほとんど土産みやげものを持参したためしのない健三は、それでもまだ不審そうに細君の膝の上にあるめりんすを見詰めていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
食終くひをはりし後九助は金二兩土産みやげに出し九郎右衞門が遺言ゆゐごん并びに伯父をぢ樣の分米ぶんまい田地でんぢ十二石手を付ずに今以て村あづけに成て居ますと話すを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婦人は間もなく健康になって、かの一せきはなし土産みやげに都に帰られた。逗子の秋は寂しくなる。話の印象はいつまでも消えない。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ふところはいっている財布さいふや、こしにつけている子供こどもらへの土産みやげとしてはならないと、っていながら、かれいくたびもこころなかおもいました。
百姓の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
西村さんがお土産みやげをさし出すと、両手を合わせて泣きながら受け取っているのを見た……と……これは村の子守こもりたちの話であった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お前を喜ばせようと思って、これこの通り和歌山の御城下から、お土産みやげを買い込んで来たわい、さあ、早く一緒に帰りましょう」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そら、向こうの机の上に黒百合くろゆりの花束がのっているでしょう? あれもゆうべクラバックが土産みやげに持ってきてくれたものです。……
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それはわしほうからいふ言葉ことばでさあ。こうして此處こゝうまれて此處こゝでまた俺等わしらです。一つたび土産みやげはなしでもきかせてくれませんか」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
路端みちばた飯屋めしやは昼前の大繁昌おほはんじやうで、ビスケットを袋に詰める者もあれば、土産みやげにウォットカを買ふ者もあり、又は其場で飲んでしまふ者もある。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
私の家にも、美事な鮎を、お土産みやげに持って来てくれた。伊豆のさかなやから買って来たという事を、かれは、卑怯ひきょうな言いかたで告白した。
令嬢アユ (新字新仮名) / 太宰治(著)
それを想ひ出したので、歳子はやはり寝間着の上へ兄が洋行土産みやげに買つて来て呉れた編糸あみいとのシヤーレで肩を包んで外へ出て見た。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
土産みやげなどを買って……手間と元手も実はもうそのお土産になってしまうこともあるが、それでも老人は万と儲けたような気分
古尾谷こをたにさんが私の出たあとへ来て下すつたさうである。某々二氏の土産みやげのお菓子を桃が見せた。ひかる今日けふいて来たのは男雛をとこひなであつた。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「私、お腹一ぱいだから、お父さんと小母おばさんに、お土産みやげを届けてもらいたいわ、鰻を二人前ね、車夫くるまやさんに頼んでくださいよ」
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「それではこれから三名にでかけてもらおう。なにかお土産みやげを持っていってあげたがいいね。新聞と雑誌と、それから果物をいく種類か」
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
宰相は京から携えて来た心をこめた土産みやげを源氏に贈った。源氏からはかたじけない客を送らせるためにと言って、黒馬を贈った。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これも荻生君のお土産みやげである。清三は、「これはご馳走ちそうですな」と言いながら、一つ、二つ、三つまでつまんで、むしゃむしゃと食った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
明神樣の下で名物の煎餅せんべいを買つて、それをお靜が小風呂敷に包んでくれたのを土産みやげに、平次が向柳原に向つたのは、もう辰刻いつゝ近い頃でした。
事の起りは、エルアフイ夫人がアムステルダムの良人をつとから託送して来たオランダ土産みやげ刺繍ししうのある布地をジッド夫人に届けた事からである。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
町の非常な人気者で、四、五年まえ或る老婦人は遺産一千フランをそっくりしょうべん小僧の維持費に寄附して死んだ。両側とも土産みやげものの店。
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
妻君大原の様子がおかしきにえねど笑うにも笑われず「お登和さん、折角せっかくのお土産みやげですから」と大原のために言葉を添ゆる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
土産みやげを弟に出してやつた時、どんなに喜ぶであらう、などゝ考えて腰かけて居る内に今の女の大声に破られたのであつた。
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
荷物にもつといふは大八だいはちたゞひとくるまきたりしばかり、兩隣りやうどなりにおさだめの土産みやげくばりけれども、いへうち引越ひつこしらしきさわぎもなく至極しごく寂寞ひつそりとせしものなり。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
英夫君に東京へお土産みやげにしたまえと勧めたが、帰るのはもう一日延ばして、こっちでそれを皆と一緒に食べて行きたいと云って聞かなかった。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
つかまへてお濱さんへの土産みやげにする気で、縁側えんがはづたひに書院へ足音を忍ばせて行つたが、戸袋とぶくろに手を掛けてかきの樹を見上げた途端はずみに蝉は逃げた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「民さん、僕は水をんで来ますから、留守番を頼みます。帰りに『えびづる』や『あけび』をうんと土産みやげに採って来ます」
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
布団頼母子ふとんたのもしを落して、いね自身長い間の倹約の末、ようやくの思いで買いととのえた客用の新しい麻の蚊帳かやと、一組の布団を土産みやげにもたせた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
君香は、金五郎が帰ったら、すぐ連絡してくれるようにと、若松の住所を書き、土産みやげのウニを置いて、いそいそした足どりで、帰って行った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そこであっしも何かお土産みやげをと、いろいろ考案つかまつりましたが、何せ草深いこのような田舎、これと申して珍しい物も、粋な物もござりませぬ。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こぶにしても、かつおぶしにしても、土産みやげ物にもらったとか、あり合わせのというのでは、どうもおもしろくありません。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
これから土産みやげつてく、西片町にしかたまち友染いうぜんたちには、どちらがいかわからぬが、しかず、おのこのところつてせんには、と其處そこあんのをあつらへた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宿の浴衣ゆかたを着たままで行く人もあるが、行儀の好い人は衣服をあらためて行く。単に言葉の挨拶ばかりでなく、なにかの土産みやげを持参するのもある。
温泉雑記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これでおさらばだ、二三日うちにひと騒ぎ起るだろう、おれの置き土産みやげだ、ちょっとしたみものだから悠くり見て呉れ。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
階下では、ハイキングに行った中の叔母の菅子が、野菊や赤い実のついた木の枝を土産みやげにして、寛子と話しこんでいる。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
なお因縁深ければ戯談じょうだんのやりとり親切の受授うけさずけ男は一寸ちょっとゆくにも新著百種の一冊も土産みやげにやれば女は、夏の夕陽ゆうひの憎やはげしくて御暑う御座りましたろと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでそち母人ははびとは、今日きょうここついでわし本体ほんたい見物けんぶつして、それを土産みやげってかえりたいということのようであるが、これは少々しょうしょうこまった註文ちゅうもんじゃ。
畳紙に挟んだのを、小僧がうやうやしく取り出して来て、客に見せていた。一隅では、勤番者らしい侍が二、三人、江戸の土産みやげにというのであろう。
あの顔 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……倉敷くらしきめいたちへの土産みやげものを買いながら、彼は何となく心がはずんだ。少女の好みそうなものをえらんでいると、やさしい交流が遠くに感じられた。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
箱入り一閑張りの、細長い柱かけの、瓢箪ひょうたんの花入れのお土産みやげを取出して見せながら、母は言い憎そうにいうのだった。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
帰途かえりには電車で迂廻まわりみちして肴町さかなちょうの川鉄に寄って鳥をたぺたりして加藤の家へ土産みやげなど持って二人俥を連ねて戻って来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それで仕方なく立派でもない髯がその時に残りまして今まで存して居るので、此髯これがすなわちチベット土産みやげなんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
まさか罐詰やパンを国への土産みやげにする奴もなかろう。それとも彼女は逮捕を恐れる余り、人里離れた山の中へ、たてこもる積りででもあったのだろうか。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何か江戸土産みやげになりそうな、珍らしい面白い遊戯あそびを娘にさせて帰したい,が何がよかろうと二人が相談を始めた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
あま美味おいしくはございませんが、東京見物とうきやうけんぶつ他県たけん方々かた/″\が、故郷くに土産みやげつてつたものと見えまする。
表に人が立つと引っ張りの男がたちまち暖簾の陰から現われて「一枚お土産みやげにいかがさま、硝子うつし十五銭からお安く致しておきます。如何いかがさま如何さま」
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「信子が寄宿舎へ持って帰るお土産みやげです。一升ほど持って帰っても、じきにぺろっと失くなるのやそうで……」
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)