いきおい)” の例文
「お京さん、いきなり内の祖母ばあさんの背中を一つトンとたたいたと思うと、鉄鍋てつなべふたを取ってのぞいたっけ、いきおいのよくない湯気が上る。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あのいきおいで下ったなら恐らく十分ならずして劒沢に達するであろう。後で聞くと雪渓を上下したのは今度の旅行が初めてであるという。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
幾頭の獅子ししける車の上に、いきおいよく突立ちたる、女神にょしんバワリアの像は、先王ルウドヰヒ第一世がこの凱旋門がいせんもんゑさせしなりといふ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
俄然がぜん鉱山の敷地が陥落をはじめて、建物も人も恐ろしいいきおいもっまたたく間に総崩れにち込んでしまった、ということが書いてある。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
勝氏は真実しんじつの攘夷論者に非ざるべしといえども、当時とうじいきおいむを得ずして攘夷論をよそおいたるものならん。その事情じじょうもって知るべし。
その時分のいきおいからいうと、日本的なもの、伝統的なもの、と説くことが因循姑息こそくなものとして、嘲笑ちょうしょう軽蔑けいべつされやすい立場にあった。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
黒紋付の羽織に山高帽をかぶった立派な紳士が綱曳つなひきで飛んで行く。車へ乗るものはいきおいがいい。あるくものは突き飛ばされても仕方がない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
之にいきおいづいた山田は感激に満ちて滔々とうとうと述べた、如何に無道徳で、如何に残酷で、如何に悲惨であるかを、実例を引き引き巨細こさいに訴えた。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
これなりとは聞召きこしめしたりけれど、いきおい既に定まりて、削奪の議を取る者のみ充満みちみちたりければ、高巍こうぎの説も用いられてみぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その同年(千八百四十六年)米国は南墨西哥メキシコを攻め、その明年西部カリホルニヤにおいて、金鉱を発見す。西漸せいぜんいきおい日一日よりも急なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
周囲まわりにあるものを蹴ちらすようないきおいで入って来て、瓶子とくりの傍へ往くなりいきなり瓶子をって、それを口からぐいぐいと飲んだ。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
で、そっちを見ないようにして、上の土人が網を受取っているひまねらって、鋏をあげ、えらいいきおいでそいつを目がけて飛びついて行きました。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
大蛇おろちは人形を見ると、それを生きた人間と思ったのでしょう、いきなり大きな鎌首かまくびをもたげて、おそろしいいきおいってきました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その隙である、例の給仕ボーイは影のように身を退らすとまるでつるを放れた矢のようないきおいで地下室の方へ逃げだした。と見た博士が
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
コツコツという沢山たくさん跫音あしおとが、それから、あらい息使いが、広間の天井に響き渡る程も、いきおいよく踊り出したものであります。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
草木の葉が、素晴らしいいきおいで、一度に新芽を吹くと同時に、己の体にも何だか生き生きとした気力がみなぎり溢れて来るようだ。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
向うは二男のいきおいなれば喧嘩はまけとなったのみならず、弓の折にて打擲ちょうちゃくされ、額に残る此のきずも其の時打たれた疵でございます
後ではもうよそうとも思いましたれどいわゆる騎虎きこいきおいにわかに改めるわけにもゆかず、そのままに推し通しましたが今となって考えて見ると
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あれあれうす鼠色ねずみいろおとこ竜神りゅうじんさんが、おおきなくちけて、二ほんつのてて、くもなかをひどいいきおいけてかれる……。
三十分置きに拍子木を叩いて廻る合間にピュウ/\と吹きすさんでいる嵐にも負けないようないきおいで議論を闘わすのであった。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
インクびんをぶら下げて歩くのは、若い娘達の一つの見得で、東京の山の手から、田舎の進歩的な娘の間に、恐ろしいいきおいで流行していたものです。
「あの、今日、牛乳がぼく※とこへ来なかったので、もらいにあがったんです。」ジョバンニが一生けん命いきおいよく云いました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
雨は、ひとしきり降ると、やがて見る見るいきおいを失っていった。そしてあたりはだんだん明るさが恢復かいふくしていった。風もどこかへ行ってしまった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
以前の阿Qのいきおいを見ると小Dなど問題にもならないが、近頃彼は飢餓のため痩せ衰えているので五分々々の取組となった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
検非違使というのは、丁度警察署長と裁判所長とを兼ねたような、大層いきおいの強いえらい役で、盗賊や悪者を捕えて裁判するのが仕事でありました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
似而非えせ賢者何程なにほどのことやあらんと、蓬頭突鬢ほうとうとつびん垂冠すいかん短後たんこうの衣という服装いでたちで、左手に雄雞おんどり、右手に牡豚おすぶたを引提げ、いきおいもうに、孔丘が家を指して出掛でかける。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この様子を見ると王は益々いきおい込んで青眼の前に一歩ひとあし進み寄りながら、一層厳格な顔をしてにらみ付けて申しました——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
海がその蔵する無限のエネルギーに押し立てられて、沖天ちゅうてんいきおいを以て陸に向って押しよせる時は、あたかも陸を一呑ひとのみにするかと思わるるほどである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かくのごとくいきおい強き恐ろしき歌はまたと有之間敷これあるまじく、八大竜王を叱咤しったするところ竜王も懾伏しょうふく致すべき勢あい現れもうし候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
母子の如く往きふひろ子との縁のつながり始まりを今もなほ若蔦のいきおいよき芽立ちに楽しくかえりみる為めであらうか。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
私は再び手玉にとられながらも、ただ滅茶々々に相手を撲り、いきおいが外れて自分の顔にも幾つかの傷をつくってしまった。私は何回となくたたきつけられた。
いきおいを得た山名やまな方は九月朔日ついたちついに土御門万里つちみかどまでの小路の三宝院に火をかけて、ここの陣所を奪いとり、愈々いよいよ戦火は内裏だいりにも室町殿にも及ぼう勢となりました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
勿論白がいや白くなれば、鼠色ねずみいろ純黒まっくろいきおいなる様なもので、故先生があまりに物的ぶってき自我じがを捨てようとせられた為
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
両様並び行われてあいもとらず、たがいに依頼して事をなすといえども、その地位はおのずから両立のいきおいをなせるものなれば、政治の囲範いはんに文学をつなぐべからず。
竹杖は忽ち竜のように、いきおいよく大空へ舞い上って、晴れ渡った春の夕空を峨眉山の方角へ飛んで行きました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だから自然でいきおいがあって、確かさや強さが一段と加わってくる。飛騨のものは大体朝鮮ものにいたく近いが、作る気持ちや作り方がたがいに非常に似ているのだと思う。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
惟うに、新主義の学を講ずる、ひとりその通般の事を知るに止るべからず、必らずやその蘊奥を極め、た事に触れ、いきおいに応じてこれが細故を講究すべきの事多うし。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
出た時のいきおいに引替えて、すごすご帰宅したは八時ごろの事で有ッたろう。まず眼を配ッてお勢を探す。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一同はこれにいきおいを得て、歌ったも歌ったり、「春爛漫らんまん」から「都の西北」「春は春は」のボート歌
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
いきおいよく燃える薪の音が、戸外の激しい風の叫びをわずかに押えて、生命の営みを辛うじて表象しているというような夜が、毎晩つづいた。電燈でんとうはもちろんうす暗かった。
第二号乾船渠ドライ・ドック扉門ともんの注水孔は、バルブを開いて、恐しいいきおいで海水を船渠ドックの中へ吸い込み始める。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
従来の尋常一様な生活記録の小説を駆逐してくるに至ることは必然のいきおいといってよかろう。
石油がしみたのか、むしろがかわいていたのか、今度こんどは、いきおいよく一時にパッともえついた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
全く物すさまじいいきおいのもので、三、四丁も吹いて行く間に、ぶっつかる所の大きなうちでも、小さなのでも、どんな家でも殆どくつがえしたり、破壊したり、破損したりしたものであった。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
橋が無ければ徒歩じゃ徒歩じゃと、一同ジャブジャブ水を漕いで渡るに、深さは腰にも及ばぬ程であるが、水流は石をもまろばすいきおいなので、下手をすれば足すくわれて転びそうになる。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
先日はからずも、ある人から、君がいよいよ明日結婚するという手紙を貰い、それがため、下積みにされた記憶が、非常ないきおいうかみ上り、遂に今回の贈り物を計画するに至ったのである。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そこは恐ろしいほど切り立った崖で、下を見下みおろすと約百米突メートルばかりの深い絶壁で、その下には大きないわに波が恐ろしいいきおいで打ちつけている。たぶんそこへ投げ捨てたものと思われる。
鷲尾はいろいろと酒のいきおいも加わって、社会情勢や、近頃の出来事について語った。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
爺さんはそう言いながら、そばに置いてある箱から長い綱の大きな玉になったのを取り出しました。それから、その玉をほどくと、綱の一つのはじを持って、それをいきおいよく空へ投げ上げました。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
大奥様はまるで電気にでもかけられたように足がすくみ、身動きも出来なくなり、弟様のいきおいにすっかり威圧されておしまいになりました、昔の人のいう魔がさしたとでも申すのでしょうか。
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)