入込いりこ)” の例文
めかけに囲った今更になっては実のところ唯一人たったひとり以前のお客が入込いりこんだからとて、腹立まぎれに綺麗さっぱりと暇をやる勇気はない。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やがて黒羽町に入込いりこむと、なるほど、遊廓と背中合せに、木賃宿に毛の生えたような宿屋が一軒、のき先には△△屋と記してある。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
八月二十日は千束せんぞく神社のまつりとて、山車屋台だしやたいに町々の見得をはりて土手をのぼりて廓内なかまでも入込いりこまんづ勢ひ、若者が気組み思ひやるべし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「土地の繁昌は結構だが、銀山の鉱夫などが大勢入込いりこんで来たので、怪しげな料理屋などが追々おいおい殖えて来るのはちっと困る。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
美くしいたちばな湾が目の下に見え、対岸の西彼杵にしそのき北高来きたたかぎの陸地を越したむこうにはまた、湖水のように入込いりこんでいる大村湾が瑠璃るり色をたたえている。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
わっしは日暮前に、その天幕張テントばりの郵便局の前を通って来たんでございますよ。……ちょうど狼の温泉へ入込いりこみます途中でな。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地中海へ日本の艦隊が出征するにつけて、西伯利シベリアの奥深く日本の陸軍が入込いりこむにつけて、何よりも困るのは日本人に附き物の食糧品の輸送である。
居室等を過ぎ小広こびろ寝室ねまへと入込いりこみぬ、見ればこゝには早や両人の紳士ありて共に小棚の横手に立てり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
と段々山深く入込いりこんで、彼方あちら此方こちらを尋ね廻りますると、高き樹の上に一筋の矢が刺さって居りまする。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
余は此老人を見て空知川の沿岸の既に多少いくらかの開墾者の入込いりこんで居ることを事実の上に知つた。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ただ、たそがれかけた空までも一面の雪にめられているので、ちょっとこの門の見わけがつかなかったのである。入込いりこんだ妻飾つまかざりのあたりが黒々と残っているだけである。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
さながら五人のポウルが五つの入口から一時に入込いりこんだかのように、薄気味悪く思われた。
それ以来アパート内に私服刑事が入込いりこんで、警戒を厳重にしたので、二度とその様なことは起らなかったけれど、往来に面した窓から、ソッと覗いて見ると、夜など、異様な人影が
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いち(総領の一太郎いちたろう氏なり)とすて(次男の捨次郎すてじろう氏なり)、家内と子供を連れて其処そこへ行こうと云う覚悟をして居た所が、ソレ程心配にも及ばず、追々官軍が入込いりこんで来た所が存外優しい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何か他に相当な理屈が無ければならぬ。が、う考えても夢のようで、何の為に悪所絶所を越えてんな処へ入込いりこんだのか、その理屈は一切判らぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十歳とおばかりの頃なりけん、加賀国石川ごおり松任まっとうの駅より、畦路あぜみちを半町ばかり小村こむら入込いりこみたる片辺かたほとりに、里寺あり、寺号は覚えず、摩耶夫人おわします。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だんだん田舎深く入込いりこめば、この道中一行の呆れ返らざるを得なかったのは、この地方住民の懶惰らんだ極まる事である。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
茶屋ちやゝ廻女まわし雪駄せつたのおとにひゞかよへる歌舞音曲かぶおんぎよくうかれうかれて入込いりこひとなに目當めあて言問ことゝはゞ、あかゑり赭熊しやぐま裲襠うちかけすそながく、につとわら口元くちもともと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ただ、たそがれかけた空までも一面の雪にめられてゐるので、ちよつとこの門の見わけがつかなかつたのである。入込いりこんだ妻飾つまかざりのあたりが黒々と残つてゐるだけである。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
宿所しゅくしょ姓名を書付けて別れて帰ったのが縁となり、渡邊織江方へ松蔭大藏が入込いりこみ、遂に粂野美作守様へ取入って、どうか侍に成りたい念があってたくんで致した罠にかゝり
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
奥平の世話で山本のいえ食客しょっかく入込いりこみました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
討手どやどやと入込いりこみ、と見てわっと一度退く時、夫人も母衣に隠る。ただ一頭青面の獅子猛然として舞台にあり。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みちびかるゝまゝに入込いりこんだのは、階上にかい南端なんたん一室ひとまで、十じやうぐらいの部室へや中央ちうわうゆかには圓形えんけいのテーブルがへられ、卓上たくじやうには、地球儀ちきゆうぎ磁石じしやくるゐ配置はいちされ
谷中あたりの職人ていこしらえ、印半纏しるしばんてんを着まして、日の暮々くれ/″\に屋敷へ入込いりこんで、灯火あかりかん前にお稲荷様のそばに設けた囃子屋台はやしやたいの下に隠れている内に、段々日が暮れましたから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
障れば絶ゆるくもの糸のはかない処を知る人はなかりき、七月十六日のは何処の店にも客人きやくじん入込いりこみて都々一どどいつ端歌はうたの景気よく、菊の井のした座敷にはお店者たなもの五六人寄集まりて調子の外れし紀伊きいくに
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
七兵衛は引返ひっかえしてくと報告すると、の人々もどやどや入込いりこんで来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人形使 されば、この土地の人たちはじめ、諸国から入込いりこんだ講中こうじゅうがな、ばば媽々かかあじい、孫、真黒まっくろで、とんとはや護摩ごまの煙が渦を巻いているような騒ぎだ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此の密書をられてはと先頃按摩に姿をやつし、当家へ入込いりこみ、一夜あるよ拙者の寝室ねまへ忍び込み、此の密書を盗まんと致しましたところを取押えて棒縛りになし翌朝よくあさ取調ぶる所存にて
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
町付まちつき村から、山道はようやく深くなり、初めは諸所ところどころに風流な水車小屋なども見えたが、八溝川やみぞがわの草茂き岸に沿うてさかのぼり、急流に懸けたる独木まるき橋を渡ること五、六回、だんだん山深く入込いりこめば
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
さわればゆるくもいとのはかないところひとはなかりき、七月十六日の何處どこみせにも客人きやくじん入込いりこみて都々どゝ端歌はうた景氣けいきよく、きく下座敷したざしきにはお店者たなもの五六人寄集よりあつまりて調子てうしはづれし紀伊きいくに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
上の鷲頭山わしずやまに包まれて、この海岸は、これから先、小海こうみ重寺しげでら、口野などとなりますと、御覧の通り不穏な駿河湾が、山の根を奥へ奥へと深く入込いりこんでおりますから
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この山へ入込いりこむのも容易にゃア出来ませんが、定蓮寺の海禪坊主がうから小兼に惚れて居ることを知ってるから、小兼と馴合い、二人ですっかりだまかして彼奴あいつ紹介ひきつけの手紙を書かせ
うかれうかれて入込いりこむ人の何を目当と言問こととはば、赤ゑり赭熊しやぐま裲襠うちかけすそながく、につと笑ふ口元目もと、何処がいとも申がたけれど華魁衆おいらんしゆとて此処にての敬ひ、立はなれては知るによしなし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかもその池を見ようと思って、今庄いまじょう駅から五里ばかり、わざわざここまで入込いりこんだのじゃ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われは旅稼ぎの按摩で、枕探しで旅を稼いで居たのが、処を離れて頭髪つむりはやして黒の羽織を着て、藪医者然たる扮装なりして素人をおどかし、大寺などへ入込いりこんで勝手は少し心得て居るだろうが
ぐわつ廿日はつか千束神社せんぞくじんじやのまつりとて、山車屋臺だしやたい町々まち/\見得みえをはりて土手どてをのぼりて廓内なかまでも入込いりこまんづいきほひ、若者わかもの氣組きぐおもひやるべし、きゝかぢりに子供こどもとて由斷ゆだんのなりがたきこのあたりのなれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
各自おの/\でうつゑたづさへ、續々ぞく/\市街しがい入込いりこみて、軒毎のきごとしよくもとめ、あたへざればあへらず。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
泰助も続いて入込いりこみ、突然いきなり帳場に坐りたる主人にむかいて、「今の御客は。と問えば、いぶかしげに泰助の顔を凝視みつめしが、頬の三日月を見て慇懃いんぎんに会釈して、二階を教え、低声こごえにて、「三番室。」
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これあらば赤城家へ入込いりこむに便たよりあり造化至造妙しあわせよし莞爾にっこうなずき、たもとに納めて後をも見ず比企ひきやつの森を過ぎ、大町通って小町を越し、坐禅川を打渡って——急ぎ候ほどに、雪の下にぞ着きにける。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銀平は八蔵にきっ目注めくばせしておのれはつかつかと入込いりこめば
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんなのが、ごろ、のさ/\とみやこ入込いりこむ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)