もと)” の例文
薄暗い電燈の光のもとで、なまずの血のような色をした西瓜をかじりながら、はじめは、犯罪や幽霊に関するとりとめもない話を致しました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しかしこの数字は、カドミウム元素から或る発光条件のもとに出る或る光の波長を基準として、それとの比較値を示しているのである。
地球の円い話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そういう声のもとに、佐々は顔面に急にほの暖いものを感じた。と同時に、何とも云いあらわしにくいような厭な気持に襲われてきた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
サンテ監獄に囚われ、殺人犯の名のもとに検事の峻酷しゅんこくな取調べを受けつつあるジルベールの母親であったのだ!ルパンはなおつづけた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「普天のもと、われに怪をなすものはない。いま汝を伐って、わが建始殿の棟梁とする。汝、精あらば後生ごしょうの冥加を歓んでよかろうぞ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門人録横田氏のもとには十の字内藤と註してある。十の字内藤とは信濃国高遠の城主たる内藤氏で、当時の当主は大和守頼寧よりやすであつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一つはクレオパトラと思はるる女王ぢよわうと男とが一じゆもとに空を仰ぎ居る図、もとより木の上には鳥形とりがた星形ほしがたの形象字あまたあるものにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかるに、少しく外交的の、形式の変った、ほとんど悦びのもとに会長に推薦されたというようなことであったのは、甚だ恐縮千万である。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
そして勧善懲悪の名のもとに一篇の結末に至つて此等の人物が惨殺しくは所刑せられるのに対して、英雄的悲壮美を経験するのである。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
入口の石の鳥居の左に、とりわけ暗くそびえた杉のもとに、形はつい通りでありますが、雪難之碑と刻んだ、一基の石碑が見えました。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっと悪い条件のもとにパンを求めているものがあり、それが「おもてのならずもの」どもであることを知らねばならないはずであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
天運我にあったと見え、さっと突いた突きの一手に夏彦は胸の真ん中を刺され帆柱のもとに倒れたが、そのまま呼吸いきは絶えてしまった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此筆を燒き此塚をあばき一葉の舟を江河に流せば、舟は斷崖のもとを流れて舟中に二人の影あるべし。御かへりごとこそ待たるれ。かしこ
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
吾人は進歩主義を奉じ、人道的に云為うんゐし、西欧諸国の人士のもとに立たざらんと欲するものにして、これ世人のつとに認むる所ならん。
「お前さん、博識ぶって、燈台もと暗しのことを言いなさんな、神主が、高山に登らないなんてタワ言を言うと、お里が知れますぞ」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人の賓客を次の室にやすませて、瀧口は孤燈のもとに只〻一人もやらず、つら/\思𢌞おもひめぐらせば、痛はしきは維盛卿が身の上なり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
愕然びつくりし山水をすてて此娘を視るに一揖おじぎしてり、もとの草にしてあしをなげだし、きせるの火をうつしてむすめ三人ひとしく吹烟たばこのむ
殊に尾花がようやく開いて、朝風の前になびき、夕月のもとにみだれている姿は、あらゆる草花のうちで他にたぐいなき眺めである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
北川氏は、鼻の頭に一杯汗の玉を溜めて、炎天のもとを飽きずまに歩き続けていた。彼にとっては、暑さなどは問題ではなかった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかるにその後自由民権論が盛に行われ、殊に明治十年前後には民権党、自由党などいう看板のもとにこれらの主張が世に弘まった。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかもその停車場スタンドには前述のように道路の上に遮断機が下りていて番人の厳重な看視のもとに切符なしでは一般に通行を許さない。
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
勇将のもと弱卒なしである。が、敵は近寄らずに、鉄砲で打ちすくめようとするのである。一条右衛門大夫来って退軍をすすめた。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
われよく汝等の顏をみれども、一だにしれるはなし、されど汝等の心にかなひわが爲すをうる事あらば、良日よきひもとに生れし靈よ 五八—六〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
燈台もと暗しにも何にも、吾輩はその親友と前の晩に千芳閣で痛飲したばかりのところだったから、言句ことばも出ずに赤面させられてしまった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
俊助は高い天窓てんまどの光のもとに、これらの狂人の一団を見渡した時、またさっきの不快な感じが、力強く蘇生よみがえって来るのを意識した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そういう生半可なまはんかのものを引連れて、吉良邸へ乗りこむということは仇討の美名のもとに、一種の悪事を行うようなものではないか。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
紀元二千六百年の今日、祝典は氾濫する。熱閙ねつたうは光とあがる。進め一億、とどろく皇禮砲のもとより進め。大政翼贊の大行進を始め。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
あなたは衷心ちゅうしんに確にソレを知ってお出です。夫人、あなたは其深い深い愛のもとに頭をれて下さることは出来ないのでしょう乎。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それどころか、一般いっぱんの塾生たちと同じように、それぞれどの班かに割り当ててもらって、班長の指揮のもとに働くようにしていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
田川夫人やそのほかの船客たちのいわゆる「監視」のもと苦々にがにがしい思いをするのもきょう限りだ。そう葉子は平気で考えていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ぢや、ある状況のもとに、ある人間が、どんな所作をしても自然だと云ふ事になりますね」とむかふの小説家が質問した。広田先生は、すぐ
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しばらくして二人は船着場をあとにして例の屍のもとに来た。そして朝初めて着いた時の様に一つの窓から室内をのぞいてみた。
謙作は昨日きのうと同じ状態のもとに体を置いていた。謙作は今日こそ車に乗って会社に往こうと思った。彼はまた起きて洋服を着た。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ト思いながら文三が力無さそうに、とある桜の樹のもとに据え付けてあッたペンキ塗りの腰掛へ腰を掛ける、と云うよりはむし尻餅しりもちいた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
読み返しくに、はづかしきことのみ多き心の跡なれば、あきらかにやはらぎたるあら御光みひかりもとには、ひときはだしぐるしき心地ぞする。晶子
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
五丁町ごちょうまちはじなり、吉原よしわらの名折れなり」という動機のもとに、吉原の遊女は「野暮な大尽だいじんなどは幾度もはねつけ」たのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
かつては非人と言われた唱門師しょうもんじ支配のもとにおったという履歴を有していても、それが幾分でもその子孫にわずらいをなしているでありましょうか。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
乞としばしえんもとやすらひぬ餠屋もちやの店には亭主ていしゆと思しき男の居たりしかば寶澤其男にむかひ申けるは私しは腹痛ふくつう致し甚だ難澁なんじふ致せばくすり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
細君が聲をしぼつたと同時に、足駄の足もとのしつかりしない三田は友達を支へ兼て二人は一緒に玄關の三和土たゝきの上へ倒れた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
車は月桂ラウレオ街樾なみきを過ぎて客舍の門にいたりぬ。薦巾セルヰエツトひぢにしたる房奴カメリエリは客を迎へて、盆栽花卉くわきもて飾れるひろきざはしもとに立てり。
唯うっとりと、塔のもとから近々と仰ぐ、二上山の山肌に、うつの目からは見えぬ姿をおもようとして居るのであろう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
されば川島家はつねに戒厳令のもとにありて、家族は避雷針なき大木の下に夏住むごとく、戦々兢々きょうきょうとして明かし暮らしぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
左門さきにすすみて、八九南のまどもとにむかへ、座につかしめ、兄長このかみ来り給ふことの遅かりしに、老母も待ちわびて、あすこそと臥所ふしどに入らせ給ふ。
最早もはやうたがこと出來できぬ、海蛇丸かいだまるいま立浪たつなみをどつて海水かいすいあさき、この海上かいじやう弦月丸げんげつまる一撃いちげきもと撃沈げきちんせんと企圖くわだてゝるのだ。
きのふ新宮より七里の松原を海に添ひてもとまで行かむと日くれぬれば花の窟といふところのほとりにやどりて、つとめておきいでゝ窟を拜む
長塚節歌集:1 上 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かれは何方どちらかと言へば狭い一室のテイブルかたはらにある椅子に腰をおろして、さう大した明るいとは言へない光線のもとに、寝床ベツトの上に敷かれた白いシイトや
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
その夜二人で薄い布団ふとんにいっしょに寝て、夜のけるのも知らず、小さな豆ランプのおぼつかない光のもとで、故郷くにのことやほかの友の上のことや
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
或日黄金丸は、用事ありて里に出でし帰途かえるさ、独り畠径はたみち辿たどくに、見れば彼方かなたの山岸の、野菊あまた咲き乱れたるもとに、黄なるけものねぶりをれり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
月光のもと、ひとり深夜の裏町を通る人は、だれしも皆こうした詩情に浸るであろう。しかも人々はいまだかつてこの情景をとらえ表現し得なかった。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
案外にも青き薄様うすように「蘭省花時錦帳下」[蘭省らんしょう花時かじ錦帳きんちょうもと]という白楽天の句を書いて、「末はいかに」とある。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)