革鞄かばん)” の例文
来る途中とちゅう小間物屋で買って来た歯磨はみがき楊子ようじ手拭てぬぐいをズックの革鞄かばんに入れてくれた。そんな物は入らないと云ってもなかなか承知しない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
荷物のかたづけもそこそこにして、僕の革鞄かばんは二人に託し井筒屋の主人と住職とにステーションまで送られて、その夜東京へ帰って来た。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
さびしい一室ひとまに、ひとり革鞄かばんにらめくらをした沢は、しきり音訪おとなふ、さっ……颯と云ふ秋風あきかぜそぞ可懐なつかしさに、窓をける、とひややかな峰がひたいを圧した。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そののち、同じ二日市で榊屋さかきやの隠宅というのに引越した時に、父が私に羊羹ようかんを三キレ新聞紙に包んだのをドンゴロス(ズックの事)の革鞄かばんから出してくれた。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
机の上をザット片付けて革鞄かばんへ入れるものは入れ、これでよしとヴァイオリンを出して second position のところを開けてヘ調の「アンダンテ」をやる。
高知がえり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
荷物を卸して、座りながら、革鞄かばんの中からビスケットを取り出して食っていると
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
おれは、筒っぽうを着た男から、おれの革鞄かばんを二つ引きたくって、のそのそあるき出した。宿屋のものは変な顔をしていた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
革鞄かばんもござりますれば、貴女、煙草たばこ盆、枕、こりゃ慌てて抱えて出たものがあると見えます。葛籠つづら、風呂敷包、申上げます迄もござりません。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一緒に行つたといふ技手が君の革鞄かばんを持つて來て、君は帶廣の方へまはつたが、もう、直き歸るだらうと云つたので——
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
向うの子供づれは須田町すだちょうで下りた。その跡へは大きな革鞄かばんを抱えた爺と美術学校の生徒が乗ってその前へは満員の客が立ち塞がってしまう。窮屈さとされた人の気息とで苦しくなった。
障子の落書 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
向うの手荷物を停車場ステーションへ運び出す際に、余の奇麗きれい革鞄かばんを橋本のものだと思い込んで、宿屋の小僧がずんずん停車場まで持って行ってしまった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さまで重荷ではないそうで、唐草模様の天鵝絨びろうど革鞄かばんに信玄袋を引搦ひきからめて、こいつを片手。片手に蝙蝠傘こうもりがさきながら
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人は急いで二階を降りて行つたが、義雄も手早く革鞄かばんに手荷物を纒めた。押し入れには、アブサントの舶來瓶の明いたのが二本ころがつたばかりになつた。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
いつの間にか船首をめぐらせる端艇小さくなりて人の顔も分き難くなれば甲板かんぱんに長居は船暈ふなよいの元と窮屈なる船室にい込み用意の葡萄酒一杯に喉をうるおして革鞄かばん枕に横になれば甲板にまたもや汽笛の音。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
安東県の宿屋の番頭がどう云う不料簡ふりょうけんか、橋本博士御手荷物のうちと云う札を余の革鞄かばんにぴたぴたいわいつけてしまった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どっと立上る多人数たにんずの影で、月の前を黒雲が走るような電車の中。大事に革鞄かばんを抱きながら、車掌が甲走った早口で
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこへ荷物——と云つても、づツくの革鞄かばんだけだ——を運んでから、前の病院へ春雄を見舞つて見た。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
第一、五紋いつつもんの羽織で、おはかまで、革鞄かばんをぶら下げて出稽古でげいこ歩行あるくなんぞ、いい図じゃあないよ。いつかもね。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なに彼奴あいつが今夜中に立つものか、今頃は革鞄かばんの前へ坐って考え込んでいる位のものだ。明日になってみろ、放って置いても遣って来るからって、おれが姉さんを
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あなたの革鞄かばんも、とても、持つて行けますまいから、おあづけになつたら——?」
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
その親たちの位牌いはいを、……上野の展覧会の今最中、故郷の寺の位牌堂から移して来たのが、あの、おおき革鞄かばんの中に据えてあります。その前で、謹んで言うのです。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大連を立つとき、手荷物を悉皆しっかい革鞄かばんの中へ詰め込んでしまって、さあ大丈夫だと立ち上った時、ふと気がついて見ると、化粧台の鏡の下に、細長い紙包があった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然し、枚數の倍になつた原稿がそのままにしてあり、革鞄かばんにも手をつけた樣子がないので安心し、顏を洗つて、病院に歸つたと、かのぢよが再びやつて來た時にこちらへ笑ひながら打ち明けた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
一足は穿く、二足は革鞄かばんにつまるだろう、しかし余る一足は手にさげる訳には行かんな、裸で馬車の中へほうり込むか、しかし引越す前には一足はたしかに破れるだろう。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一生懸命いつしやうけんめい學校用がくかうよう革鞄かばんひとひざいて、少女せうぢよのおとぎ繪本ゑほんけて、「なんです。こんなところで。」と、しかられて、おとなしくたゝんで、ほろりとさせたのも、よひで。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
義雄はズツクの革鞄かばん一つを提げて、一と足さきにそとへ出た。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
三四郎は此男に見られた時、何となくきまりがわるかつた。ほんでも読んで気を紛らかさうと思つて、革鞄かばんけて見ると、昨夜ゆふべ西洋手拭タウエルが、うへの所にぎつしりつまつてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この錠前だと言うのを一見に及ぶと、片隅に立掛けた奴だが、大蝦蟆おおがまの干物とも、河馬かば木乃伊みいらともたとえようのねえ、しなびて突張つっぱって、兀斑はげまだらの、大古物のでっかい革鞄かばんで。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おれが東京へ着いて下宿へも行かず、革鞄かばんを提げたまま、清や帰ったよと飛び込んだら、あら坊っちゃん、よくまあ、早く帰って来て下さったとなみだをぽたぽたと落した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのために東京から故郷くにに帰る途中だったのでありますが、汚れくさった白絣しろがすりを一枚きて、頭陀袋ずだぶくろのような革鞄かばん一つ掛けたのを、玄関さきで断られる処を、泊めてくれたのも
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
代助は其夜そのよすぐたうと思つて、グラツドストーンのなか門野かどのに掃さして、携帯品をすこんだ。門野かどのすくなからざる好奇心を以て、代助の革鞄かばんながめてゐたが
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
のために東京とうきやうから故郷くにかへ途中とちうだつたのでありますが、よごれくさつた白絣しろがすりを一まいきて、頭陀袋づだぶくろのやうな革鞄かばんひとけたのを、玄關げんくわんさきでことわられるところを、めてくれたのも
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
革鞄かばんの怪。」後に「片袖。」と改題して、小集のうちに編んだ一篇を草した事がある。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なに彼奴あいつ今夜中こんやぢうつものか、今頃いまごろ革鞄かばんの前へすはつて考へ込んでゐるぐらゐのものだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しずかに炭火を移させながら、捻平は膝をずらすと、革鞄かばんなどは次のへ……それだけ床の間に差置いた……車の上でもうなじに掛けた風呂敷包を、重いもののように両手でやわらかに取って
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三四郎はついと立つて、革鞄かばんなかから、キヤラコの襯衣しやつ洋袴下づぼんしたを出して、それを素肌すはだへ着けて、其上から紺の兵児帯へこおびめた。それから西洋手拭タウエル二筋ふたすぢ持つたまゝ蚊帳かやなかへ這入つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
左手ゆんでひさげたる革鞄かばんうちより、ちいさき旗を取出とりいだして、臆面もなくお貞の前に差出しつ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三四郎は革鞄かばんなかから帳面を取り出して日記をつけ出した。書く事も何にもない。女がゐなければ書く事が沢山ある様に思はれた。すると女は「一寸ちよいと出て参ります」と云つて部屋を出て行つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
雨戸のうちは、相州西鎌倉乱橋みだればし妙長寺みょうちょうじという、法華ほっけ宗の寺の、本堂にとなった八畳の、横に長い置床おきどこの附いた座敷で、向って左手ゆんでに、葛籠つづら革鞄かばんなどを置いたきわに、山科やましなという医学生が
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
門野は少なからざる好奇心をもって、代助の革鞄かばんを眺めていたが
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雨戸あまどうちは、相州さうしう西鎌倉にしかまくら亂橋みだればし妙長寺めうちやうじといふ、法華宗ほつけしうてらの、本堂ほんだうとなつた八でふの、よこなが置床おきどこいた座敷ざしきで、むかつて左手ゆんでに、葛籠つゞら革鞄かばんなどをいたきはに、山科やましなといふ醫學生いがくせい
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お休みなさりまし、おまんま上りまし、お饂飩うどんもござりますと、なまめかしく呼ぶ中を、頬冠ほっかむりやら、高帽やら、菅笠すげがさかぶったのもあり、脚絆きゃはんがけに借下駄かりげたで、革鞄かばんを提げたものもあり、五人づれやら
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅客りよきやくまゆあつするやままたやままゆおほはれたさまに、俯目ふしめたなさぐつたが、ふえとき角形かくがた革鞄かばん洋傘かうもり持添もちそへると、決然けつぜんとした態度たいどで、つか/\とりた。しなに、かへりみてかれ會釋ゑしやくした。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やっと夫婦で、を拾うだけで、済んでるから、どうにか能役者の真似も出来る。……この上でも出来て御覧、すぐその日から革鞄かばんを提げた謡の師匠だ。勿論謡の師匠なら謡の師匠専門は結構だ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私がね、小さい時、万はもう大きなからだをして、良い処の息子の癖に、万金丹売のね、能書のうがきを絵びらに刷ったのが貰いたいって、革鞄かばんを持って、お供をして、嬉しがって、威張って歩行あるいただものを。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
革鞄かばんそでで抱いて帰つて来たのが、打傾うちかたむいて優しく聞く。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)