身内みうち)” の例文
おばあさんには、べつに身内みうちのものというほどのものもなかった。病気びょうきになるとむらひとたちが、しんせつに世話せわをしてやりました。
おばあさんと黒ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
いたずらに、もてあそんでいた三味線みせんの、いとがぽつんとれたように、おせんは身内みうちつもさびしさをおぼえて、おもわずまぶたあつくなった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかしイエス様でさえそうであったのだから、私どもの信仰が身内みうちの者から容易に受けられなくても、失望するには及びません。
剛槍ごうそうみずから誇る彼は、北ノ庄の身内みうちに佐久間玄蕃げんばありと聞ゆる程なその男に、きょうこそ会ってみたいと、駈け廻るのだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のまづしい身内みうちの、堅実な一兵卒になつて、努めて、それからでなければ、どんな、ささやかな野望でも、現実は、絶対に、ゆるさない。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
長三郎は直ぐにその死骸をひきおこして身内みうちをあらためたが、どこにも斬り傷または打ち傷らしい痕も見いだされなかった。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「でも、わたし身内みうちといったら、樺太に店を持っている弟のほかないんだものね」と、矢口家のおかみさんは心細くいった。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
硬玉こうぎょくの頸飾を着けた鬚深ひげぶかい有力者達が、よりより相談をした。身内みうちの無いシャクのために弁じようとする者は一人も無い。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
……久保本の自分の真打しばやのとき、毎晩同じ噺を演っては困らせたことをおもいだして圓朝は、ふっと身内みうちが寂しくなった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
(彼女はさながら自分がまのあたり見たもののように、感激にふるえて身内みうちをぞくぞくさせながら、声高く読み上げた。)
ひめ身内みうちよごしたおそろしい殺人者ひとごろしおもうてはゐやらぬか? 何處どこにぢゃ? なんとしてぢゃ? わしの内密妻ないしょづまやぶれたたがひの誓文せいもんなんうてぢゃ?
五六 上郷村の何某の家にても川童らしき物の子をみたることあり。たしかなる証とてはなけれど、身内みうち真赤まっかにして口大きく、まことにいやな子なりき。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なるべくなら動かずにおってやりたいと思ったが、さっきから小便が催うしている。身内みうちの筋肉はむずむずする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「花前は保証人ほしょうにんがあるでしょうか、なんでも大島おおじま若衆わかしゅうの話では、親類しんるい身内みうちもないひとりものだということですから、保証人はないかもしれませんよ」
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
少焉しばしありてさきのアヌンチヤタに似たる少女は此室に入り、將に進みて我が居る亭に入らんとす。われは心にいたく驚きて、身内みうちの血の湧き立つを覺えき。
法務大臣たる私や検事総長たる佐藤藤佐氏を差しおいて庁内のある有力者を吉田首相の身内みうちの一人に近づかせ
そのあつせゐだつたのだらう、にぎつてゐるてのひらから身内みうちに浸み透つてゆくやうなそのつめたさはこころよいものだつた。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
といってうわかぶりで、妻の身内みうちの方から何かと助けてもらうような状態になることなどは好ましくない。
幾回いくくわいものカンフル注射ちうしやほどこされて、みな彼女かのぢよ身内みうちものが、一人ひとりでもてくれることのぞんでゐたが、電報でんぱうつたにもかゝはらず、誰一人たれひとり、たうとうなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
そういうわけですからね、私はこの品物をすっかり売って、お金にして、あの方の身内みうちとか、しんるいとかいう人でもあったら、お渡ししたいと思っているのです。
彼はきっと唇をかみしめて、何物にとも分らない漠然とした反抗の気勢に、心の底迄身内みうちを戦かせた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そして、そのおわびのしるしに、一ぴきの白いぬにぬのを着せ、すずかざりをつけて、それを身内みうちの者の一人の、腰佩こしはきという者につなで引かせて、天皇に献上けんじょういたしました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
をんなまど障子しやうじひらきて外面そともわたせば、むかひののきばにつきのぼりて、此處こゝにさしかげはいとしろく、しもひき身内みうちもふるへて、寒氣かんきはだはりさすやうなるを
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
エエ、わたくし詳しいことは存じませんが、何でも、誰かから送って来た品物に毒薬が仕掛けてあって、それが三笠先生の身内みうちに入ったのだそうでございます。早く手当を
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
勘次かんじ唐鍬たうぐはつて自分じぶん活力くわつりよく恢復くわいふくたやうに、それからまたにち仕事しごとおこたれば身内みうちがみり/\してなんだからぬが仕事しごと催促さいそくされてらぬやうな心持こゝろもちがした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
喧嘩屋の身内みうち、どもりの勘太こと吃勘どもかんと来たら、名前の示すごとく猛烈などもりなのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お末はよくこの不景気と云ふ事と、四月から九月までに四人も身内みうちが死んだと云ふ事を云ひふらしたが、実際お末を困らしたのは、不景気につけて母や兄の気分の荒くなる事だつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
だが、畜生! フリントのことを思うと身内みうちがぞくぞくするぞ。これも奴さんの洒落に違えねえ。やっこさんとあの六人の奴だけがここへ来て、奴さんが其奴らを一人残らず殺しちまった。
身内みうち拭ひる時、前の窓より外なる波に月光のひたひたと宿れるさまを見さふらふては、さすがに今あるさかひの面白からざるにもあらず、絵の中のおのれかなど月並なる事をも思ふ程にてさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
足から身内みうちにあがってくる冷気が、しぜんに三人にいわせるのであった。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
……ねえ、兄さん、このごろのあなたのなさることは、すこし偏頗へんぱだと思うんですがね。ひとのお嬢さんをちやほやするのもいいが、それならそれで、身内みうちのものも、もっとだいじにしたらどう?
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
夏の眞盛りの今でさへ、泥濘ぬかつて、水がぴちや/\搖れてゐた。こゝで私は二度倒れた、けれどもまたその都度つど立ち上つては身内みうちの力を掻き集めた。この燈火ともしびは私のたつた一つの頼りない希望なのだ。
瞬間、クルミさんはそう思って、みるみる身内みうちが熱くなった。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
聽かされた身内みうちもの、とりわけ母親はたまるまいと思つたのだ
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
それには賢造の先妻が、叔母の身内みうちだと云う理由もある。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、娘は身内みうちの痛みを抑えて、強いて微笑ほゝえんだ。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
帯の色、身内みうちのほてり。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一益はついに、身内みうち津田藤三郎つだとうざぶろうを使いとし、旧縁きゅうえんをたよりに、織田長益おだながます(後の有楽斎うらくさい)の許へやり、長益の口ききで、降伏を申し入れた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のまずしい身内みうちの、堅実な一兵卒になって、努めて、それからでなければ、どんな、ささやかな野望でも、現実は、絶対に、ゆるさない。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
硬玉の頸飾をけた鬚深い有力者達が、より/\相談をした。身内みうちの無いシャクの爲に辯じようとする者は一人も無い。
狐憑 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
代って彼の意中の男を新たに検事総長に据えると同時に、法務大臣の後任には首相の身内みうちと最も親しいある衆議院議員を持って来ようという遠大な筋書で
これには身内みうちや出入の者だけでなく、組合または部落総体から、一戸一人ずつがでて千度詣せんどまいりをする風習が、しばしばこの千垢離をともなっているのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私の父兼松の弟の中島鉄五郎という人の家内の里が八丁堀の水谷町みずたにちょうに大工をやっておったので、他を探すよりも、身内みうちのことでもあるし、これが好かろうと、いよいよ、明日あすは、おばさんが
茂った樹々の下陰には、もう夜の闇が、陰気なくまを作っていた。私は何となく身内みうちがゾクゾクして来た。私の前にたっている青白い青年が、普通の人間でなくて、魔法使まほうつかいかなんかの様に思われて来た。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
身内みうちいたからん筒袖つゝそで處々ところ/″\ひきさかれて背中せなかこしすなまぶれ、めるにもめかねていきほひのすさまじさにたゞおど/\とまれし、ふでやの女房にようぼうはしりてきおこし、背中せなかをなですなはらひ、堪忍かんにんをし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「お父さんの方のお身内みうちもないのですか。」
黒装束くろしょうぞくはみなおどしだににいた若い女子おなご源氏閣げんじかくりこんだ者は、武田伊那丸たけだいなまる身内みうち木隠こがくれたつみ両人りょうにんとあとでわかった。おお、それから鞍馬くらま竹童ちくどう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恐怖王身内みうちの猿類より
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「鎌倉の剛の者、江馬殿の身内みうち酒匂さかわ十太じゅうたこそ、仁王堂口を一番に乗っ取ったぞ」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あいや、それへおいであるのは、武田伊那丸君たけだいなまるぎみのお身内みうちでござらぬか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)