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跡方
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あとかた
ふりがな文庫
“
跡方
(
あとかた
)” の例文
そのほの暗い車室の中に、私達二人丈けを取り残して、全世界が、あらゆる生き物が、
跡方
(
あとかた
)
もなく消え
失
(
う
)
せてしまった感じであった。
押絵と旅する男
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
しかし
其処
(
そこ
)
まで出ることは出られたが、数年前まで其処にごとごとと音立てながら
廻
(
まわ
)
っていた古い水車はもう
跡方
(
あとかた
)
もなくなっていた。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
片足でケンケンしているような危なッかしさに、自分自身に腹たてながら、その
癖
(
くせ
)
、昨日たてたプランも今日は
跡方
(
あとかた
)
もなく見失ってしまう。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
名物の
煎餅屋
(
せんべいや
)
の娘はどうしたか知ら。一時
跡方
(
あとかた
)
もなく
消失
(
きえう
)
せてしまった
二十歳時分
(
はたちじぶん
)
の記憶を呼び返そうと、自分はきょろきょろしながら歩く。
深川の唄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
あんな
悲慘事
(
ひさんじ
)
が
自分
(
じぶん
)
の
村
(
むら
)
で
起
(
おこ
)
つたことを
夢想
(
むそう
)
することも
出來
(
でき
)
ず、
翌朝
(
よくあさ
)
、
跡方
(
あとかた
)
もなく
失
(
うしな
)
はれた
村
(
むら
)
へ
歸
(
かへ
)
つて
茫然自失
(
ぼうせんじしつ
)
したといふ。
地震の話
(旧字旧仮名)
/
今村明恒
(著)
▼ もっと見る
その間、耳にもし眼にも見たいわゆる国家の大事というものは、勘定してみるとずいぶん少くないが、わたしの心の中には何の
跡方
(
あとかた
)
も残らない。
些細な事件
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
瑞木と花木が朝の涙などは
跡方
(
あとかた
)
もない顔して帰つて来た。滿と健も帰つて来た。何と思つたか健が手紙を涙を
零
(
こぼ
)
しながら書いて居る母の傍へ来て
帰つてから
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
合
(
あは
)
しては百年めと
言
(
いふ
)
者サア
何
(
なに
)
も彼も
決然
(
きつぱり
)
と男らしく言て
仕舞
(
しまへ
)
と
言
(
いふ
)
にぞ段右衞門コレ汝ぢは
跡方
(
あとかた
)
も
無
(
ない
)
拵
(
こしら
)
へ事を言
掛
(
かけ
)
我に
罪
(
つみ
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
あの
昔噺
(
むかしばなし
)
が
事実
(
じじつ
)
そのままでないことは
申
(
もう
)
すまでもなけれど、さりとて
全
(
まった
)
く
跡方
(
あとかた
)
もないというのではありませぬ。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
跡方
(
あとかた
)
は潰れてもそれまでと思いきり、国の
家
(
いえ
)
を出て江戸へめえりやしたが、頼るものはなく、仕様がなくって
塩原多助一代記
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
或いは狸の悪戯などという地方もあるが、本来
跡方
(
あとかた
)
もない耳の迷いだから、誰の所業と尋ねてみようもない。
山の人生
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
昨日
(
きのふ
)
の
晩方
(
ばんがた
)
、
受取
(
うけと
)
つてから
以來
(
いらい
)
、
此
(
これ
)
を
跡方
(
あとかた
)
もなしに
形
(
かたち
)
を
消
(
け
)
すのに
屈託
(
くつたく
)
して、
昨夜
(
ゆうべ
)
は
一目
(
ひとめ
)
も
眠
(
ねむ
)
りません。
艶書
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
とうとうおしまいにこの
日本国
(
にほんこく
)
の
皇子
(
おうじ
)
に
生
(
う
)
まれて
来
(
き
)
て、
仏
(
ほとけ
)
の
道
(
みち
)
の
跡方
(
あとかた
)
もない
所
(
ところ
)
に
法華
(
ほっけ
)
の
種
(
たね
)
を
蒔
(
ま
)
いた。
夢殿
(新字新仮名)
/
楠山正雄
(著)
情婦は、思い
余
(
あま
)
って、自殺の意を決し、自分の働いている工場の
熔融炉
(
キューポラ
)
に飛びこんで、ドロドロに
熔
(
と
)
けた
鉛
(
なまり
)
の湯の中に
跡方
(
あとかた
)
もなく死んでしまった。こんどは、若い男の番だった。
夜泣き鉄骨
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
つつましやかな氣持で
甲板
(
かんぱん
)
の
一隅
(
ひとすみ
)
にぢつと
佇
(
たゝず
)
みながら、今まで心の中に持つてゐた、人間的なあらゆる
醜
(
みにく
)
さ、
濁
(
にご
)
り、曇り、
卑
(
いや
)
しさ、暗さを
跡方
(
あとかた
)
もなくふきぬぐはれてしまつたやうな
処女作の思い出
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
あの沙門の
加持
(
かじ
)
を受けますと、見る間にその顔が
気色
(
けしき
)
を
和
(
やわら
)
げて、やがて口とも覚しい所から「
南無
(
なむ
)
」と云う声が洩れるや否や、たちまち
跡方
(
あとかた
)
もなく消え失せたと申すのでございます。
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
そして気がついて見ると、も一つのしゃりこうべの
跡方
(
あとかた
)
もなく崩れてしまったのを見て嘆いた。が、その
次
(
つ
)
ぎにはまだ自分がこのようにがっしりした形をもっていることを何より喜んだ。
しゃりこうべ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
彼等は地の底に避難の
室
(
へや
)
を作った為に助かったのだ。
尤
(
もっと
)
もこの研究所の入口に当たる設備は、悉く大熱火の為、大嵐の為、
跡方
(
あとかた
)
も無く
拭
(
ぬぐ
)
い去られた。それが為彼等は暗室の最下層に潜んでいた。
暗黒星
(新字新仮名)
/
シモン・ニューコム
(著)
この
墓
(
はか
)
は、その
後
(
ご
)
壞
(
こは
)
してしまつて、
今
(
いま
)
では
跡方
(
あとかた
)
も
殘
(
のこ
)
つてをりません。また
旅順
(
りよじゆん
)
の
東
(
ひがし
)
、
營城子
(
えいじようし
)
といふところにも、
漢時代
(
かんじだい
)
の
墓
(
はか
)
がありまして、
平壤
(
へいじよう
)
附近
(
ふきん
)
の
墓
(
はか
)
から
出
(
で
)
るのと
同
(
おな
)
じような
漆器
(
しつき
)
などが
出
(
で
)
ました。
博物館
(旧字旧仮名)
/
浜田青陵
(著)
「それは
跡方
(
あとかた
)
もないことじゃ、あれは
狐
(
きつね
)
か
狸
(
たぬき
)
が
憑
(
つ
)
いておる」
累物語
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
今は殆ど
跡方
(
あとかた
)
もないようになってしまった。
亡びゆく花
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
それらの音響とそれに伴う情景とが吾々の記憶から
跡方
(
あとかた
)
もなく消え去ってから、歳月はすでに何十年過ぎているであろう。
虫の声
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
笑いの影は二人の顔から
跡方
(
あとかた
)
もなく消え去り、互の烈しい視線が、火花を発して空中に斬りむすんでいた。
偉大なる夢
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
或いは生前に
貸
(
かし
)
ありといい、或いは約束ありと称して、家の貨財は
味噌
(
みそ
)
の
類
(
たぐい
)
までも取り去りしかば、この村
草分
(
くさわけ
)
の長者なりしかども、一朝にして
跡方
(
あとかた
)
もなくなりたり。
遠野物語
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
しかし少納言様の急に
御歿
(
おな
)
くなりになった御話は、前に一応申上げました通り、さらにそのような次第ではございませんから、その噂は申すまでもなく、皆
跡方
(
あとかた
)
のない嘘でございます。
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
私は自分自身の眼で見知るや
否
(
いな
)
や、彼女がその姿を絵に描いてみたいと言っていただけでもって、その跛の花売りに私の
抱
(
いだ
)
いていた、軽い
嫉妬
(
しっと
)
のようなものは、
跡方
(
あとかた
)
もなく消え去った。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
見ているうちに喧嘩となり、汝の父を討ったる刀、中身は天正助定なれば、是を汝に形見として
遣
(
つか
)
わすぞ、又此の
包
(
つゝみ
)
の
中
(
うち
)
には金子百両と
悉
(
くわ
)
しく
跡方
(
あとかた
)
の事の頼み状、これを
披
(
ひら
)
いて
読下
(
よみくだ
)
せば
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
以て主人の
居間
(
ゐま
)
の金百兩
紛失
(
ふんじつ
)
せしこと申立て候是は
跡方
(
あとかた
)
なき
僞
(
いつは
)
りに候へ共右樣申立るに於ては御上にても
佐
(
すけ
)
十郎郷右衞門の兩人に
疑
(
うた
)
がひ
掛
(
かゝ
)
らんにより藤五郎
兄弟
(
きやうだい
)
を盜み出せしは己等が罪を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
この
時
(
とき
)
大地
(
だいち
)
の
開閉
(
かいへい
)
によつて
土民
(
どみん
)
は
勿論
(
もちろん
)
、
彼等
(
かれら
)
の
飼
(
か
)
つてゐた
畜類
(
ちくるい
)
は
牛馬
(
ぎゆうば
)
、
駱駝
(
らくだ
)
等
(
とう
)
に
至
(
いた
)
るまで
盡
(
こと/″\
)
くそれに
吸
(
す
)
ひ
込
(
こ
)
まれ、
八千
(
はつせん
)
乃至
(
ないし
)
一萬
(
いちまん
)
の
人口
(
じんこう
)
を
有
(
ゆう
)
してをつたこの
部落
(
ぶらく
)
は
其
(
その
)
ために
跡方
(
あとかた
)
もなく
失
(
うしな
)
はれたといふ。
地震の話
(旧字旧仮名)
/
今村明恒
(著)
浅草寺境内
(
せんさうじけいだい
)
の
弁天山
(
べんてんやま
)
の池も既に
町家
(
まちや
)
となり、また赤坂の溜池も
跡方
(
あとかた
)
なく
埋
(
うづ
)
めつくされた。それによつて私は将来
不忍池
(
しのばずのいけ
)
も
亦
(
また
)
同様の運命に陥りはせぬかと
危
(
あやぶ
)
むのである。
水 附渡船
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
盲目縞の木綿の
単衣
(
ひとえ
)
のぼろぼろに破れたもので、殊に左の袖は
跡方
(
あとかた
)
もなくちぎれてしまって、ちぎれた袖の間から、黒く汚れたメリヤスのシャツに包まれた腕のつけ根が
悪霊
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
次の朝行きて見ればもちろんその
跡方
(
あとかた
)
もなく、また誰も
外
(
ほか
)
にこれを見たりという人はなかりしかど、その枕にしてありし石の形と
在
(
あ
)
りどころとは昨夜の
見覚
(
みおぼ
)
えの通りなり。
遠野物語
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
前の琵琶法師の語った事が、
跡方
(
あとかた
)
もない嘘だと云う事は、この有王が生きているのでも、おわかりになるかと思いますが、後の琵琶法師の語った事も、やはり
好
(
い
)
い加減の出たらめなのです。
俊寛
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それより
早々
(
そう/\
)
其の筋へ届けますと、証書もありますから、
跡方
(
あとかた
)
は
障
(
さわ
)
りなく春見の身代は清水重二郎所有となり、前橋竪町の清水の家を起しましたゆえ、母は
悦
(
よろこ
)
びて眼病も全快致しましたは
西洋人情話 英国孝子ジョージスミス之伝
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
浅草寺境内
(
せんそうじけいだい
)
の
弁天山
(
べんてんやま
)
の池も既に
町家
(
まちや
)
となり、また赤坂の
溜池
(
ためいけ
)
も
跡方
(
あとかた
)
なく
埋
(
うず
)
めつくされた。それによって私は将来不忍池もまた同様の運命に陥りはせぬかと
危
(
あやぶ
)
むのである。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
併し、その時分には、火の蜘蛛は、もう
跡方
(
あとかた
)
もなく闇の中へ溶込んでいたのです。
パノラマ島綺譚
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
丈「
跡方
(
あとかた
)
は清次どのお頼み申す早く此の場をお
引取
(
ひきと
)
りなされ」
西洋人情話 英国孝子ジョージスミス之伝
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
庭は
跡方
(
あとかた
)
もなく
伐開
(
きりひら
)
かれ本堂の横手の墓地も申訳らしく
僅
(
わずか
)
な
地坪
(
じつぼ
)
を残すばかりであった。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
彼等の死と共に、彼等の本拠、彼等の製造工場は、
跡方
(
あとかた
)
もなく焼きはらわれ、百年に一度、千年に一度の大陰謀も、遂に
萠芽
(
ほうが
)
にして刈られてしまった。人類の
為
(
ため
)
慶賀
此上
(
このうえ
)
もなきことである
猟奇の果
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
丹「
跡方
(
あとかた
)
の知れるような事が有ってはならんよ」
塩原多助一代記
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
しかし小林翁の
版物
(
はんもの
)
に描かれた新しい当時の東京も、僅か二、三十年とは
経
(
た
)
たぬ
中
(
うち
)
、更に更に新しい第二の東京なるものの発達するに従って、
漸次
(
ぜんじ
)
跡方
(
あとかた
)
もなく消滅して行きつつある。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
五六時間もたてば
跡方
(
あとかた
)
もなく
融
(
と
)
けてなくなって了う氷の
塊
(
かたまり
)
だったのである。
夢遊病者の死
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
まだしも自分とお
豊
(
とよ
)
の生きてゐる
間
(
あひだ
)
は、あの人達は
両人
(
ふたり
)
の記憶の
中
(
うち
)
に残されてゐるものゝ、やがて自分達も死んでしまへばいよ/\
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
煙
(
けむり
)
になつて
跡方
(
あとかた
)
もなく消え
失
(
う
)
せてしまふのだ………。
すみだ川
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
まだしも自分とお豊の生きている間は、あの人たちは
両人
(
ふたり
)
の記憶の
中
(
うち
)
に残されているものの、やがて自分たちも死んでしまえばいよいよ何も
彼
(
か
)
も煙になって
跡方
(
あとかた
)
もなく消え
失
(
う
)
せてしまうのだ……。
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
跡
常用漢字
中学
部首:⾜
13画
方
常用漢字
小2
部首:⽅
4画
“跡”で始まる語句
跡
跡形
跡目
跡取
跡絶
跡切
跡部
跡戻
跡押
跡先