証拠しょうこ)” の例文
旧字:證據
そのかわり、家来けらいたちは子ジカのしたと目を切りとって、それをむすこを殺した証拠しょうこしなとして、伯爵はくしゃくのところへもってかえりました。
ただ、その証拠しょうこに、もはや、このオルガンの音色ねいろうみうえをころがっても、さかなが、波間なみまねるようなことはなかったのであります。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そうだ。きっとそうにちがいない。なによりの証拠しょうこに、ベッドにいままで人がこしかけていたらしいくぼみができているじゃないか」
王子 兵卒へいそつ腰元こしもとった時は、確かに姿が隠れたのですがね。その証拠しょうこには誰に遇っても、とがめられた事がなかったのですから。
三つの宝 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もしあの童子どうじけましたらば、それこそ詐欺師さぎし証拠しょうこでございますから、さっそくくらいげて、かえしていただきとうございます。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
続いている証拠しょうこには、眼を開いて、身の周囲まわりを見た時に、「死ぬぞ……」と云う声が、まだ耳に残っていた。たしかに残っていた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぼく証拠しょうこというのはね、ゆうべお月さまの出るころ、署長さんが黒い衣だけ着て、頭巾ずきんをかぶってね、変な人と話してたんだよ。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
うそをつくつもりで言い出した話でない証拠しょうこには、椰子の果実の中が白く、皮を破って吸い出したという点だけを保存している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その証拠しょうこには、入口の扉を注意して見ていたまえ。ひとりでに、開いたり閉まったりしている。風もないのに、へんじゃないか。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分こそ、その磯五の女房である——こう一こといいさえすれば、何よりの生きた証拠しょうことして、それが、万事を解決するに相違ないのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あの夢のお告げのとおり、出雲の大神をおがんでおしるしがあるならば、その証拠しょうこにこの池のさぎどもを死なせて見せてくださるように」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
子供こどもあたまには、善良と馬鹿とは、だいたい同じ意味いみの言葉とおもわれるものである。小父おじのゴットフリートは、そのきた証拠しょうこのようだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
そうでない証拠しょうこがあるのだ。さいぜん明智は、「黒い糸」のことを言った。「黒い糸」が恩田にからみついて離れぬと言った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それに、自己完成への努力をあれほどまでに続け得ることそれ自体が、既に先天的な非凡さの何よりの証拠しょうこではないかと。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
うそだといいなさるのかい。証拠しょうこはちゃんとあがってるんだぜ。おせんのつめにおいは、さぞこうばしくッて、いいだろうの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その証拠しょうことして今日こんにちあるミカンのなえにははじめ三出葉がで、いで一枚の常葉じょうよう(単葉)が出ていることがたまに見られ
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
が、しかし——その勝頼公かつよりこうが世に生きているということは、はたして真実でござりますか? あなたはその証拠しょうこをにぎっておいでなさりますか?
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その証拠しょうこにはあの狐噲こんかいの唄の文句なども、子が母を慕うようでもあるが、「来るは誰故だれゆえぞ、さま故」と云い、「君は帰るか恨めしやのうやれ」と云い
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたしの弁護士べんごしは、犬がその日のうちに寺にまよいこんで、寺男が戸をめたとき、中へ閉めこまれたものであるということを証拠しょうこてようとつとめた。
乱箱みだればこたたんであった着物を無造作に引摺出ひきずりだして、上着だけ引剥ひっぱいで着込きこんだ証拠しょうこに、襦袢じゅばんも羽織もとこすべって、坐蒲団すわりぶとんわきまで散々ちりぢりのしだらなさ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
混乱と無秩序むちつじょの中で、不十分ながらも、何か自主的創造的な活動が始まっている証拠しょうこにはちがいなかったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そしてこの実験では念写は成功したのであるが、同時に乾板を入れた箱をだれかが開いたという証拠しょうこも両先生だけには分るように歴然と残っていたのである。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
こりゃ六兵衛、なんじ盗人ぬすっとでない証拠しょうこを見せるために、の手のひらに書いた文字を当ててみよ。うまくはんじ当てたならば、のぞみ通りの褒美ほうびをとらせよう。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
つまりあのかた見失みうしわないようにしてみんながくばってる証拠しょうこなの。さあさ、そんなにあしゆび内側うちがわげないで。
矢筈草は俗にげん証拠しょうこといふ薬草なること、江戸の人山崎美成やまざきよししげが『海録かいろく』といふ随筆第五巻目に見えたり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そんななかで大石先生は三人の子の母となっていた。長男の大吉だいきち、二男の並木なみき、末っ子の八津やつ。すっかり世の常の母親になっている証拠しょうこに、ねえさんとよばれた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「杉山が寝ている中に探して持ってきてしまうんだ。証拠しょうこがなければ、なんといわれても大丈夫だろう」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あのオトナしい角谷、今年ことし十九の彼律義りちぎな若者が——然し此驚きは、我迂濶うかつ浅薄せんぱく証拠しょうこてるに過ぎぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けれどもその家庭にはいつも多少の山気やまぎが浮動していたという証拠しょうこには、正作がある日僕に向かって、うちには田中鶴吉たなかつるきちの手紙があると得意らしくったことがある。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
葦はなんと言ったか覚えていますか——冬の来た証拠しょうこだ、まあ自分とした事が自分の事にばかり取りまぎれていておまえの事を思わなかったのはじつに不埒ふらちであった。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
やあ公がはらいっぱいたべた証拠しょうこにげっぷをしながら帰ってくると、加平はお客さんがおいていった十銭玉をわたして簡単かんたんにわけを話したきり、何もいわないのであった。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
こんなにいい子なのに悪いことをするのは、知らぬ間にあんなあながお前達に取憑とりついてしまうからよ。さあ、もう泣くのはお止め!……お前のその涙が立派な証拠しょうこだわ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
兵馬の心をつらぬく暗示。なんらの証拠しょうこがあるわけではないが、こう思いきたると、今すれ違ったのがどうも竜之助らしい。兵馬はきびすを廻して黒門の方へ取って返そうとすると
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人間にんげんらしい姿すがたのこってるようでは、まだ修行しゅぎょうんでいないなによりの証拠しょうこなのでございます。
その証拠しょうこには、われ知らず、男の心を試すような我儘わがままを言い出すようにもなりました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
併しこれだけの民謡を生んだのは、まさに世界第一流の民謡国だという証拠しょうこである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「これは同志会すなわち役場派の者が証拠しょうこ堙滅いんめつさせるために放火したのである」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それに、そうした噂がまんざら虚偽うそでないという証拠しょうこも時には眼にもうつった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
橄欖かんらんみどりしたたるオリムピアがすでにむかしに過ぎ去ってしまった証拠しょうこには、みんなの面に、身体に、帰ってからの遊蕩ゆうとう、不節制のあとが歴々と刻まれ、くもり空、どんよりにごった隅田川すみだがわ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その証拠しょうこに僕はいまだに独身だからね、西鶴さいかくの五人女に「乗り掛ったる馬」という言葉があるが、僕はこんなスリルを捨てて女に乗り掛ろうとは思わんよ……という話を聴きながら競走レースを見ている間
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
その証拠しょうこには、射的大会しゃてきたいかい招待しょうたいされたのでもわかります。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
安心あんしんなさい。きさきはまだ生きています。じつは、わたしはメジカをこっそりころさせて、ここにある証拠しょうこしなをとっておいたのですよ。
げるならいまのうちだと私たちは二人一緒いっしょに思ったのです。その証拠しょうこには私たちは一寸ちょっとを見合せましたらもう立ちあがっていました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あんな奸物の遣る事は、何でも証拠しょうこの挙がらないように、挙がらないようにと工夫するんだから、反駁はんばくするのはむずかしいね」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そのわけは、ちょっと簡単にいえない。が、要するに、ちょっとやれば、すぐこわれてしまうようなものは、不完全の証拠しょうこだ。わしは……」
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私が東海岸と言い出したのは、別に明白な証拠しょうことてないが、沖永良部島おきのえらぶじまや、与論島よろんとうの沿海なども、東西二つの道があったことを島の人は記憶している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その証拠しょうこにポート・ストウ村では、一日じゅう、ほうぼうの物かげやへいのそばを、金貨きんかがふわふわと飛んでいた。
さしも強情ごうじょう穴山梅雪あなやまばいせつも、ろんより証拠しょうこ民部みんぶのことばのとおり、味方がさんざん敗北はいぼくとなってきたのを見て、もうゆうよもならなくなったのであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弘子に違いない何よりの証拠しょうこはこの指環だ。これはいつかの晩、恩田が弘子の指にはめて帰った指環ではないか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おいおいまっつぁん、はっきりしなよ。おいらがかわものじゃァねえ。世間せけんやつらがかわってるんだ。それが証拠しょうこにゃ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)