ねぶ)” の例文
「ハハハ。封印したビイドロ瓶の中味をば外からねぶって、塩か砂糖か当てよという注文じゃけになあ。臭いさえわからぬものを……」
汝かの犢をねぶって毒を取り去るか、それがいやならこの火に投身せよと言うと蛇答えて、彼この毒を吐いた上はまたこれを収めず
それは允成が公退した跡になると、女中たちが争ってその茶碗ちゃわんの底の余瀝よれきを指にけてねぶるので、自分も舐ったというのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼女は舌を出して障子の紙をねぶり、そっと穴を開けて隻方かたほうの眼をそれに当てた。そして、老女は其処に怪しい物を見つけた。
猫の踊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たいでいえばねぶりかすのあらみたいなもんだから、いい加減見切りをつけて、安く売ったらいいだろうって、私に五百円おいて行ったものなの。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まだあつ空氣くうきつめたくしつゝ豪雨がううさら幾日いくにち草木くさきいぢめてはつて/\またつた。例年れいねんごと季節きせつ洪水こうずゐ残酷ざんこく河川かせん沿岸えんがんねぶつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
身をなめらかならしむる獸のごとくしば/\頭を背にめぐらしてねぶりつゝ草と花とを分けてかの禍ひのひもぬ 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
文角は今まで洞口にありて、二匹の犬の働きを、まなこも放たず見てありしが、この時おもむろに進み入り、悶絶なせし二匹をば、さまざまにねぶいたはり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
もう迚も此処こゝうちには居られぬ、といって今更何処どこといってく処も無い新五郎、エヽ毒喰わば皿までねぶれ、もう是までというので、くそやけになる。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二人はその名を酒のさかなにして飲みました。その滑かな発音を、牛肉よりも一層うまい食物のように、舌で味わい、唾液だえきねぶり、そして唇に上せました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
世の中はそう思っておりません。なんの小説家がと、小説家をもってあたかも指物師さしものしとか経師屋きょうじやのごとく単に筆をねぶって衣食する人のように考えている。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
烏龍はその肉をわないで、眼を据え、くちびるをねぶりながら、仇の僕を睨みつめているのである。
あなが人丸ひとまろ赤人あかひと余唾よだねぶるでもなく、もとより貫之つらゆき定家ていか糟粕そうはくをしやぶるでもなく、自己の本領屹然きつぜんとして山岳さんがくと高きを争ひ日月と光を競ふ処、実におそるべく尊むべく
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
引斷ひきちぎりては舌鼓したうちして咀嚼そしやくし、たゝみともはず、敷居しきゐともいはず、吐出はきいだしてはねぶさまは、ちらとるだに嘔吐おうどもよほし、心弱こゝろよわ婦女子ふぢよし後三日のちみつかしよくはいして、やまひざるはすくなし。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は長々と床石の上にねそべって、石の上に頤をつけ、自分で作り出した音楽を口ずさみ、よだれを垂らしながら真面目まじめくさって親指をねぶっている。床石の間にある割目に見入っている。
死人をねぶれ、といわれや、ねぶります。料理つくって食え、といわれても、いわれたとおりします。役人の命令なんて、誰がきくもんか。権柄けんぺいずくなら、いやなこってす。……なあ、新公
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
猫がまたたびを持ったようにジャレたわむれながらねぶり食らっている様子なのだ。——李逵は怒りに燃えた。——畜生っ、畜生っ、おれのおふくろをあんなってしまやがった! ——。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
オシャブリと東京でいう人形を、上方ではねぶり人形とか、ネブリッ児とかいっている。私らの子供のころは、一個一厘で一文菓子屋で売っていた。円い木片の一方に顔が描いてあった。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこでこの二つの品を花聟の母は花嫁を始め送り迎えの人々に少しずつ遣りますと、彼らはいちいちこれを手の平に受けてねぶるです。其式それが終ってからその母の案内に従って堂内に入って行く。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いや、それよりも一層身の毛がよだつたのは、師匠の良秀がその騒ぎを冷然と眺めながら、徐に紙をべ筆をねぶつて、女のやうな少年が異形な鳥にさいなまれる、物凄い有様を写してゐた事でございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
僕は父がたんを煩つたときの子である。生薑しやうがの砂糖漬などをねぶつてゐたときの子である。さういふ時に生れた子である。ただ、どちらにしても馬胎ばたいでて驢胎ろたいに生じたぐらゐに過ぎぬとは僕もおもふ。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
頂の煙のみ覚めてその舌尖は淡く星の数十粒をねぶっている。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
乾燥かんさうした藁束わらたば周圍しうゐねぶつて、さらそのほのほ薄闇うすぐらいへうちからのがれようとして屋根裏やねうらうた。それが迅速じんそくちから瞬間しゆんかん活動くわつどうであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
爾時そのときかの駒ひざまずいて瓦師の双足をねぶったので可愛くなり受け取ってき帰ると、自分の商売に敵するものを貰うて来たとてその妻小言を吐く事おびただし。
我曰ふ、師よ、同囚なかまの誰よりも劇しく振り動かして怒りをあらはし猛き炎にねぶらるる者は誰ぞや 三一—三三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この時これを惜んで一夜ひとよを泣き明したのは、昔抽斎の父允成ただしげの茶碗の余瀝よれきねぶったという老尼妙了みょうりょうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
黄金丸はまづうやうやしく礼を施し、さて病の由を申聞もうしきこえて、薬を賜はらんといふに、彼の翁心得て、まづそのきずを打見やり、霎時しばしねぶりて後、何やらん薬をすりつけて。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
又首尾く山三郎を仕止めれば此の山は同類を集めて、毒をくらわば皿までねぶれで、飽くまでも遣り通します、貴方それでは余り尻腰しっこしえというもんだ、わたしいや
あながち人丸赤人の餘唾よだねぶるでも無くもとより貫之定家の糟粕さうはくをしやぶるでも無く自己の本ママ屹然として山嶽と高きを爭ひ日月と光を競ふ處實に畏るべく尊むべく覺えず膝を屈するの思ひ有之候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
それも、泣く子にあめねぶらすように、われわれを鎮撫ちんぶに来るというのだ。俺たちが、君家の名を重んじ、武士の第一義にじゅんじようとするのが、大石殿には、唯、無謀な血迷い事と見えるらしい。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一度ねぶられるとどんなものでもずたずたに切れてしまうという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかしながらあわてた卯平うへいかくごと簡單かんたんかつ最良さいりやうである方法はうはふひまがなかつた。またいかつてかれほゝねぶかれいた。かれくらんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
比丘犬の心を知って食を分ち与うると、狗喜んで慈心を生じ、比丘に向ってその足をねぶった。のちまた門外に臥すとかつて噛まれた人がその頭をって殺した。
汝は燃えて頭いためば、もしナルチッソの鏡だにあらば人のしふるをもまたで之をねぶらむ 一二七—一二九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いふさへ息も絶々たえだえなるに、鷲郎は急ぎ縄を噬み切りて、身体みうちきずねぶりつつ、「怎麼いかにや黄金丸、苦しきか。什麼そも何としてこの状態ありさまぞ」ト、かついたはりかつ尋ぬれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
永禪和尚は毒喰わば皿までねぶれと、死骸をごろ/\転がして、本堂の床下へ薪割で突込つきこみますのは、今に奉公人が帰って来てはならぬと急いで床下へ深く突入つきいれました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
共々、二年のあいだ、籠城中の皆のはたらきは、前代未聞みもんのことであった。草木の根を食い野鼠死馬の骨をねぶりおうて戦ったことも、今はなつかしくもあり、正しく武門のほまれといえるものぞ。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あながち人丸ひとまろ赤人あかひと余唾よだねぶるでもなく、もとより貫之つらゆき
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
わが耳をつんざくこと多し、かく語りて口を歪めあたかも鼻をねぶる牡牛の如くその舌を吐けり —七五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
永「毒喰わば皿までねぶれだ、むを得ぬ、えゝ悪い事は出来ぬものじゃ、怖いものじゃア無いか」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仏はなかなかの甘口で猴はそれを呑み込んで人間に転生したさに毎々つねづね蜜をねぶらせたと見える。
又市は無分別にも中根善之進を一刀両断に切って捨て、毒食わば皿までねぶれと懐中物をも盗み取り、小増にりました処の二十両の金は有るし、これを持って又市は越中国えっちゅうのくにへ逐電いたしました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その通りに伴れて来たのを窓より見て王大栗を放たしむると、馬商も強齶を放った。堅唾かたずを呑んで見て居ると、二馬相逢いて傾蓋けいがい旧のごとしという塩梅あんばいに至って仲よく、互いに全身をねぶり合った。
小蛇来りて、夜ごとにこの瑕を舐むる故に愈えたりと、また笑うべし、赤銅の性、年経てその瑕愈え合う物なり、竜宮の小蛇、鐘をねぶりて瑕を愈やす妙あらば、如何ぞ瑕付かざるようにはからざるや
いまだうを得ず、奴戸に当りって弓を張りを挟み刀を抜く、然、盤中の肉飯を以て狗に与うるに狗噉わず、ただひとみを注ぎ唇をねぶり奴をる、然、またこれを覚る、奴食を催すうたた急なり、然
その時貴人ゴタルズスの犬日々主家の麪包パンくわえ来ってこれを養い、またその患所をねぶり慰めた。主人怪しんで犬の跡を付け行きこの事を見て感心し、種々力を尽してついに尊者を元の身に直した。