老人としより)” の例文
空家あきやへ残して来た、黒と灰色とのまだらの毛並が、老人としよりのゴマシオ頭のように小汚こぎたならしくなってしまっていた、老猫おいねこのことがうかんだ。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
老人としより子供こどもだから馬鹿ばかにしておもふやうにはうごいてれぬと祖母おばあさんがつてたつけ、れがすこ大人おとなると質屋しちやさして
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
舌長姥 (時に、うしろ向きに乗出して、獅子頭をながめつつあり)老人としよりじゃ、当やかた奥方様も御許され。見惚れるに無理はないわいの。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
病める老人としよりの用しげくおんなを呼ばるるゆえ、しいて「わたくしがいたしましょう」と引き取ってなれぬこととて意に満たぬことあれば
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
わしがこんなことを言つてわざと老人としよりぶつてゐるのだとお思ひかも知れんが、どうしてどうして、口に一本の歯も無くなつた今日
「それでもどうやら気が付いたらしい。いかにもあの時の船頭だ。……お前あの時罪もねえ可哀そうな老人としよりを締め殺したっけのう」
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「驚いた老人としよりだ。酒も強いが、何ていう芸人だろう。してみると、俺などは、極道ごくどうにかけると、まだまだくちばしが青いのかも知れねえ」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其夢といふのはうで。——村で誰か死んだ。誰が死んだのか解らぬが、何でも老人としよりだつた様だ。そして其葬式が村役場から出た。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
加藤の家の老人としより夫婦の物堅い気楽そうな年越しの支度したくを見て、私は自分の心までがめずらしく正月らしい晴れやかな気持ちになった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
これはお老人としよりが何かの楽しみになさるようにいって差し上げて下さいと、老人に下されたので、年寄としよりも非常な喜びでありました。
その老人としよりに逢わしてくれと云うんで、その時そのお二方は、手前とこまでお訪ね下すったが、私は外へ出ていてお目に掛りませんでした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「茜さんとおっしゃるか。……こういう老人としよりが来たからは、もう、何も心配はいりません。立派な赤ちゃんを生んで、お手柄をなさいよ」
医者は老人としより了解のみこめるやうに話すには、なか/\骨が折れた。大抵の真理といふものは、老人としよりのためには拵へてない場合が多かつたから。
殊に先々代の女將おかみは聲が美しく、天滿てんま村のきりぎりすと呼ばれて、村の老人としよりの中には今でも其の美しい聲色こわいろをつかふものがある。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
かたきたせるって是迄丹精したものを、おめえがフッと行ってしめえば、跡は老人としよりと子供で仕様がなえだ、ねえ困るからうか居てくんなよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老人としよりはにやにや笑つて答へないが、若者の一人が眞面目くさつて考へこみ、多少ためらつた末に「そりや、ごつつおうの方がええ」と答へ
(旧字旧仮名) / 島木健作(著)
福岡の方では今度のことを言ひがゝりにして、だから老人としよりに子供を任せては置けない、三人とも此方こちらへ寄越せときびしく云つて來るんだらう。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
野田のだ卯平うへい役目やくめといへばよるになつておほきな藏々くら/″\あひだ拍子木ひやうしぎたゝいてあるだけ老人としよりからだにもそれは格別かくべつ辛抱しんぼうではなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ほツほ、何を長二、言ふだよ、斯様こんな老人としよりをお前、なぶるものぢや無いよ、其れよりも、まア、何様どんな婦人ひとだか、何故なぜ連れて来ては呉れないのだ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
僕はこの気分に乗り移られるたびに、若い時分が突然老人としよりか坊主に変ったのではあるまいかと思って、非常な不愉快におちいる。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頼りにする者が多勢あるぞなし……行く行くはお前様の厄介に成ろうと思って、こうして働けるだけ働いている老人としよりもここに一人居るぞなし……
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
行列のそばにウロウロしていたのが悪いと云えばそれまでですが、老人としよりが倒れたのを見れば、一言位挨拶があっても然るべきではありますまいか。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
朝起あさおき老人としよりのくせさ。お前たちこそ今日は珍らしく早起をしたもんだな。それとも昨夜ゆうべの幕の引っ返しという図かね。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そなたってかうとおもって、今日きょうはわざわざ老人としより姿すがたけて出現てまいった。人間にんげん談話はなしをするのに竜体りゅうたいではちと対照うつりわるいのでな……。
馬はやみくもに駈けたばっかりだ、おいらはそれを追っかけて来たばっかりなんだ、老人としより子供こどもの一人にだって、怪我あさせたわけじゃあねえんだ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(わが刀を見る。)鍛へは國俊くにとし、家重代……。先祖はこれで武名をあげたと、老人としより共からたび/\聞かされたものだ。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
其翌日男真面目まじめ媒妁なこうどを頼めば吉兵衛笑って牛のしりがい老人としよりの云う事どうじゃ/\と云さして、元よりその支度したく大方は出来たり、善は急いで今宵こよいにすべし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わしの所じゃ、老人としより夫婦で泥鰌一匹捕ることやてできやせん。食べるものは、もう何にもなしになってしもうた。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「オオ、そうじゃったナ。いかに大声を出しても、言葉は通ぜぬのじゃったな。エイッ、世話のやける老人としよりじゃ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
不埒ふらちな奴だ、ひとに意見をしなくてはならない老人としよりが、不義のとり持をするとは、なんだ、何もかも判ってるぞ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
九十歳のお老人としよりのあなたが、海を越えてはるばるアメリカに来られ、そして私どものホテルに泊って下さった。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
そうすると又、妾の頭を担いでいた男が、老人としよりみたような咳をゴホンゴホンとしながら、こんな事を云ったの。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私の父の乳母めのとをしておりまして、今は老人としよりになっている者の家でございます。東山ですから人がたくさん行く所のようではございますが、そこだけは閑静です
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
マウパツサンの墓が見附からないので広い墓地を彷徨うろついて探して居ると、瑠璃紺るりこんの皺だらけのマントウをはふつた老人としよりの墓番が一人通つたので呼留よびとめて問うた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
寝ていた老人としよりも起きて出た。万吉は猛獣のように、一人の老人と子供を負った子守女とを追いまわして、十二三間はなれた畑の中で、すべてを斃してしまった。
惨事のあと (新字新仮名) / 素木しづ(著)
和女おまえなんぞも家にいて毎日色々なお料理を見ているから自然とお料理を覚えるけれどもこういうお料理は病人にいいとかこの御馳走は老人としよりに差し上げようとか
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私は、お前がいつもお前の老人としよりに愛情を持っていてくれたことを、よく知っていた。私の腰の下にこのくく蒲団ふとんを入れてくれるとは、何というやさしいことだろう。
其時そのときむらうち一人ひとり老人としよりがありまして、其塲そのばけてまいり、おあしんだとはなしきいたがついては、わたくし實驗じつけんがあるから、れをば何卒どうぞツてれ、其法そのはうまうすは
(生れて老人になつて病気になつて死ぬ)どうしても其のわけがわからない、人間が老人としよりにもならず、病人にもならず、死なない方法はないかと考へたが、わからないので
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
大塚の隣屋敷に広い桑畑くわばたけがあって其横に板葺そぎぶきちいさな家がある、それに老人としより夫婦と其ころ十六七になる娘がすんで居ました。以前は立派な士族で、桑園くわばたけすなわち其屋敷跡だそうです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いう人に似合わず解らない老人としよりだ。それだからあなたは子に不孝な人だというのだ。生きとし生けるもの子をかばわぬものはない、あなたにはわが子をかばうという料簡がないだなあ
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こんな宿命的なかんがへにも誘はれた。私は急に老人としよりじみた心持をいだくやうになつた。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
如何どうして此様こん老人としよりじみた心持になったものか知らぬが、あながち苦労をして来た所為せいでは有るまい。私ぐらいの苦労は誰でもしている。尤も苦労しても一向苦労にげぬ何時迄いつまでも元気な人もある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その勢にこれ見そなはせ、尾の先少しみ取られて、痛きことはなはだしく、生れも付かぬ不具にされたり。かくては大切なるこの尻尾も、老人としより襟巻えりまきにさへ成らねば、いと口惜しく思ひ侍れど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
これは弘化こうか年度に生れて今まで存在ながらえている老人としより言草いいぐさのように聞えます。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
老人としより臭い引っ込み思案な男だろう! と、お思いになるかも知れません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
すると、白いひげをはやした一人の老人としよりが、とぼとぼと歩いてきました。
街の子 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
老人としよりのくせにと私は意外に思った。山路をものの十分と行かぬうちに、後の方で声がする。振り返って見ると、老婆は店の品物でも入れたらしい大きな風呂敷包を肩にして、飛ぶように歩いてくる。
月夜のあとさき (新字新仮名) / 津村信夫(著)
二日程前から病にかゝつて、老人はその腰の曲つた姿を家の外にあらはさなかつたが、其三日目の晩に、あまり家の中がしんとして居ると言ふので、隣の者が行つて見ると、老人としより行火あんくわり懸つたまゝ
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
コエル わしは聖僧どるいどコエル……盲目めくら老人としより琴手ことひきコエルだ。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)