綺羅きら)” の例文
そして、いわゆる鎌倉山の星月夜にもまごうといわれる群臣の綺羅きらや女房桟敷のあいだを縫って、やっと、高時の御座所まで近づいた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上は大名旗本から下は職人商人まで身分不相応に綺羅きらを張り、春は花見秋は観楓かんぷう、昼は音曲夜は酒宴……競って遊楽あそびふけっております。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それで三沢の事は忘れて、ただ綺羅きらを着飾った流行の芸者と、恐ろしい病気にかかったあわれな若い女とを、黙って心のうちに対照した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むか三軒さんげん両隣りやうどなりのおてふ丹次郎たんじらうそめ久松ひさまつよりやけにひねつた「ダンス」の Missミツス B.ビー A.エー Bae.べー 瓦斯ぐわす糸織いとおり綺羅きら
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
くだんの洋風の室数まかずを建て増したもので、桃色の窓懸まどかけを半ば絞った玄関わきの応接所から、金々として綺羅きらびやかな飾附の、呼鈴よびりん巻莨入まきたばこいれ、灰皿
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
義勇兵式の空色のユニフォームに金銀のモールをあしらった綺羅きらびやかなバンドで、歯切れのいい鮮かなピッチが満場をしんとさせていた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その他、私は貴女が男装して男の前でズボンを脱いでみせる芸当と、フォルベルゼエルの寄席の衣裳の綺羅きらを棄てた手踊と。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
まことに綺羅きらを飾って栄耀えいよう真似まねはしているけれども、これらの子女、いずれも好きこのんでこの里へ来ているものはない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こんな詩を口誦くちずさんで聞かせます。角の柳光亭の楼上ろうじょう、楼下は雛壇ひなだんのような綺羅きらびやかさを軒提灯の下に映し出しています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
東京のがやがやした綺羅きらびやかな境界きょうがいに神経を消耗しょうこうさせながら享受する歓楽などよりもはるかうれしいことと思っていた。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
綺羅きらびやかな群衆がそろそろ散りはじめ、もう人の顔の見分けがつかなくなり、風もすっかりいでしまったが、グーロフとアンナ・セルゲーヴナは
 花見の中にまじりて行けば美人が綺羅きらを着飾りて沢山出で来る故に、あのやうな女を我妻わがつまにしたい、このやうな娘も我妻にしたいと思ふといふことなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
またたうち女形おやま振袖ふりそでなびく綺羅きら音楽のちまたになったのかと思うと、この辺の土地をばよく知っている身には全く狐につままれたよりもなお更不思議なおもいがして
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
明子はすぐに父親と分れて、その綺羅きらびやかな婦人たちの或一団と一しよになつた。それは皆同じやうな水色や薔薇色の舞踏服を着た、同年輩らしい少女であつた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私は他人の綺羅きらをうらやむ気はありません。私は心に目に見えぬにしきを着ていると信じていますから。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ボラは綺羅きらを張り、荒い鱗を飛ばし、滑稽な口をして、どかどと悶えるがマルタは静かである。
魚美人 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
人生には悽惨せいさんの気が浸透している。春花、秋月、山あり、水あり、あか、紫と綺羅きらやかに複雑に目もあやに飾り立てているけれど、するところ沈痛悲哀の調べが附纏つきまとうて離れぬ。
その綺羅きらびやかな、そうして壮厳な仏事のありさまをよそながら拝もうとして、四方から群がって来た都の老幼男女も、門前を埋めるばかりにひしひしと詰めよせていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
劇場の外観は白っぽくつめたく、あまり好い感じがせぬ。内は流石に綺羅きらびやかなものであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ばあやのそのとそれらしい話をしているのを聞いたこともあるが、子供ごころになにか綺羅きらびやかに美しい罪という感じがしただけで、くわしいことはなにも覚えていない。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さわればぽろぽろとはげて落ちそうな粉飾に綺羅きらを尽くし、交代に順番に応じて、奉行ぶぎょうから差遣の同心に駆られ、ひき立てられて、丸山から出島へと練って行くのであった。
廣小路ひろこうぢよりながむるに、石段いしだんのぼひとのさま、さながらありとうつるがごとく、はな衣類きもの綺羅きらをきそひて、こゝろなくには保養ほやうこのうへ景色けしきなりき
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さて又白洲の縁側えんがはには町奉行下役郡方手代々官迄殘らず綺羅きらびやかに居並び今日は九助に切繩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あるかなきかのおしろいのなまめき——しっとりとしたれの色のびんつき、銀杏いちょうがえしに、大島の荒い一つ黒繻子くろじゅすの片側を前に見せて、すこしも綺羅きらびやかには見せねど
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
貴族院議員の愛娘まなむすめとて、最も不器量ふきりようきはめて遺憾いかんなしと見えたるが、最も綺羅きらを飾りて、その起肩いかりがた紋御召もんおめし三枚襲さんまいがさねかつぎて、帯は紫根しこん七糸しちん百合ゆり折枝をりえだ縒金よりきん盛上もりあげにしたる
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
堂内の粧飾 なぜなれば普通の時と違って本堂の内は綺羅きら錦繍きんしゅうで飾り付けられて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私は綺羅きら眼も射らんばかりの古代アラビヤンナイトの王子をそこに見たのであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
翌年の春、荘公は郊外の遊覧地籍圃せきほに一亭を設け、墻塀しょうへい、器具、緞帳どんちょうの類をすべて虎の模様一式で飾った。落成式の当日、公は華やかな宴を開き、衛国の名流は綺羅きらを飾ってことごとく此の地に会した。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
綺羅きらを尽してゐる。贅沢を尽してゐる。又これと反対に、膝をれる一室に粗衣、蠣食れいしよくをしてゐる。行くに車もなければ自動車もない。しかも、この二つのものは平等である。同じく幸福である。
自からを信ぜよ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
綺羅きらびやかに出陣した有様を日記で読むと、昔ホーヘンスタウフェン末路の皇族らが、イタリア恢復のために孤軍をもって見込なき戦闘をやったのと相対比して、無限の興味をひき起こさしめる。
「美しいな」と宗近君はもう天下の大勢たいせいを忘れている。京ほどに女の綺羅きらを飾る所はない。天下の大勢も、京女きょうおんなの色にはかなわぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自ら太政相国だいじょうしょうこくと称し、宮門の出入には、金花の車蓋しゃがいに万珠のれんを垂れこめ、轣音れきおん揺々ようようと、行装の綺羅きらと勢威を内外に誇り示した。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お松はそう言って、気のつかないように綺羅きらびやかなお君の姿を見直しましたけれど、どうもよく呑込めないような心持がするのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第二番に何屋のかれ綺羅きらを尽くした伊達だて姿が、眼の前を次から次に横切っても、人々は唯、無言のまま押合うばかり。眼の前の美くしさを見向きもせず。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それで、綺羅きらを張ったら、かつかつねえ。自動車だって一度乗ると、つい毎晩になってしまうし……。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女性の尻ばかり見て暮す男にとっても、売笑婦の心理的な綺羅きらによって飾られたくちびるから、下腹部にかけてのガリッシュな紅色の部分については特殊な魅惑を感じる。
戦争のファンタジイ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
飯田の町には綺羅きらを飾った沢山の人達が出盛っていた。どうやら祭礼でもあるらしく軒並のきなみに神灯が飾ってある。この土地は気候が温暖あたたかいと見えて町には雪も積もっていない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蘭麝らんじやの薫を漂はせた綺羅きらの袂をもてあそびながら、嫋々たよたよとしたさまで、さも恨めしげに歎いたは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
榮花えいぐわにしたしむすめにも綺羅きらかざらせてれも安心あんしん樂隱居らくいんきよねがはくは家運長久かうんちやうきうなれ子孫しそん繁昌はんじやうなれ兎角とかくうへ凶事きようじあらせじとの親心おやごゝろひきかへしねがひもさかさまながら今日けふ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
四十人の遊女がさはればボロボロと剥げて落ち相な粉飾に綺羅きらを尽し交代に順番に応じて、奉行から差遣の同心に駆られ、曳きずられて、丸山から出島へと練つて行くのであつた。
あまり綺羅きらびやかに最上級に洒落て居るのでかえって平凡に見える幾十組かが場の大部分を占めて居るので、慾一方にかかって居るかば色の老婆や、子供顔のうぶな青年が却って目立つ。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
頭中将重衡卿以下公卿、殿上人が綺羅きら星の如く並んでいる中で、維盛卿は、桜の花をかざして青海波せいがいはを舞われたのじゃ、天性の美貌と若さに加えて、ひく手、さす手の巧みさ、鮮やかさ
もうとくに、余所よそれっきとした奥方だが、その私より年上の娘さんの頃、秋の山遊びをかねた茸狩に連立った。男、女たちも大勢だった。茸狩に綺羅きらは要らないが、山深く分入るのではない。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いくら花魁の、太夫のと、うわべばかりに綺羅きらを飾っても、わたし達の身の果てはどう成り行くやら。仕合せに生まれた人たちと不仕合せに生まれた者とは、こうも人間の運が違うものか。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
キチンとした短衣ジャケットやネクタイは着けているが、それは学校の制服でそんななりをして——装はともかくも、足をきずって杖なんぞ突いて、この盛装綺羅きらびやかなお客様の中へ出て来られては困る。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もう一つの長閑のどかな例——奇妙な囚人服を着せられ道路工事に使役されている土人の囚人の所へ、日曜着の綺羅きらを飾った囚人等の一族が飲食物携帯で遊びに行き、工事最中の道路の真中に筵を敷いて
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
世俗の者共月卿雲客げっけいうんかくの任官謝恩の如くに、喜びくつがえりて、綺羅きらをかざりて宮廷に拝趨はいすうするなどということのあるべきでは無いから、増賀には俗僧どもの所為がことごとく気に入らなかったのであろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
宗助そうすけにはそれが意外いぐわいであつた。しかたいした綺羅きら着飾きかざつたわけでもないので、衣服いふくいろも、おびひかりも、夫程それほどかれおどろかすまでにはいたらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
清十郎は背が高くて、帯びている大小は綺羅きらびやかだし、年は三十前後の男の花の頃だし、名家の子として恥かしくない気品も実際あった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卓子テーブルの向うのほの暗い右側には、くろずんだ古代びな……又、左側には近代式の綺羅きらびやかな現代式のお姫様が、それぞれに赤い段々を作って飾り付けてある。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)