かせ)” の例文
皆何か彼かして、かせいでいる。僕の一席置いて隣りには海軍中将がいた。それから五六人飛んで三井銀行の支店長というのがあった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何がさて娘の頼みだ、聴いてらん法はないと、ミハイロは財布の紐を解いて、かせめた金の中から、十銭だまを一つ出して遣つた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
「そんな事がありましたよ、——板の間かせぎはよくあることですが、あんまり新しくない三尺を盜んで行くのは變ぢやありませんか」
つぎゆふべ道子みちこはいつよりもすこ早目はやめかせ吾妻橋あづまばしくと、毎夜まいよ顔馴染かほなじみに、こゝろやすくなつてゐる仲間なかま女達をんなたち一人ひとり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
その中で、逮捕者たちの苦労してかせぎ取った財産は、泥棒に等しい倉庫役人たちに盗まれるのでなければ、むなしく朽ちてゆくのです
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
らねえでどうするもんか。しげさん、おめえのあかしの仕事しごとは、ぜにのたまるかせぎじゃなくッて、色気いろけのたまるたのしみじゃねえか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「おつぎみんなでもめさせろ、さうしてわれめつちめえ、おとつゝあかせえでたから汝等わつられからよかんべえ」卯平うへいはいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それをおもふと、つくゑむかつたなりで、白米はくまいいてたべられるのは勿體もつたいないとつてもいゝ。非常ひじやう場合ばあひだ。……かせがずにはられない。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なぜのう学校を二年もやってから師範学校なんかへ行くのだろう。高橋君は家でかせいでいてあとは学校へは行かないと云ったそうだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そいつはとうから知っているが、と云って折檻しなかろうものなら、いつまでもしぶといこの女ども、かせごうなどとはよも思うまい」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あの万年橋という橋の下に、水車の小屋がありますそうな、そこでお米をいたり、粉をふるったりしてかせぐつもりでございます」
分けや丸、半玉と十余人の抱えのかせぎからあがる一万もの月々の収入も身につかず、辣腕らつわんふるいつくした果てに、負債で首がまわらず
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
場所は、稲荷いなり町の遊廓くるわの裏だった。お蔦は自前芸妓じまえげいしゃとして、なかの大坂屋とか、山の春帆楼しゅんぱんろうや風月などを出先にかせいでいるのである。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉里は二十二三にもなろうか、今がかせぎ盛りの年輩としごろである。美人質びじんだちではないが男好きのする丸顔で、しかもどこかに剣が見える。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
母のかせぎでは三人の米も満足には買えず、九つになる太市も八つのお民も、走り使いをし、子守りをし、水をみ、掃除の手伝いをした。
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「オイ橋だぞ」とみぞにかけし小橋に注意して「けれども全く見えなくちゃアこんなところまで来てかせぐわけにゆかんではないか」
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
柳吉に働きがないから、自然蝶子がかせぐ順序で、さて二度の勤めに出る気もないとすれば、結局稼ぐ道はヤトナ芸者と相場が決っていた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
苦労ある身の乳も不足なれば思い切って近き所へ里子にやり必死となりてかせぐありさま余所よそさえこれを見て感心なと泣きぬ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
(いや、その都度つどちがう変名で雑文を書いて、それで生活していた。それも最低生活費をかせぐだけで、それ以上何も書こうとしなかった。)
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
会社へ出たら自分で百円はかせげるんだから、そうしたら二百五十円になるじゃないの。まあ、見てて御覧よ、立派にやってって見せるから。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
先生だつてかへせればとうにかへすんだらうが、月々余裕が一文いちもんないうへに、月給以外にけつしてかせがない男だから、つい夫なりにしてあつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すみが工場でかせいで来る金が入らなくなった。一男の送金も来なくなったわけだ。その上、病人のために不断よりは余計に費用がかさむのだ。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
私が目でも見えてどしどしかせげたら、何ぞの事も出来るやろが、もう廃人なんやから、お君は、貴方ばかりをたよりにしとるんやさかいなあ。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
別にもうあの男にかせいでやる必要もない故、久し振りに古里の汐っぱい風を浴びようかしら。ああ、でも可哀想なあの人よ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
(よしよし、これで一分ばかりかせげたぞ。仮想犯人はもう証文をストーヴに投げ入れて、洋服ダンスに向っている時分だ)
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは又どの家の子供もかく十か十一になると、それぞれ子供なりに一日の賃金をかせいで来るからだと云うことである。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
又「両隣は明店あきだなで、あとは皆かせにんばかりだから、十時を打つときに寝るものばかりだから、安心してまア一杯りたまえ、寒い時分だから」
無理にいられると牛乳やパンを少しばかり取り、そのあとで、自分がかせいだものではないとみずからとがめたりして、一人で自分を苦しめた。
文ちゃんはかせにんで、苦しい中から追々工面くめんをよくし、古家ながら大きな家を建てゝ、其家から阿爺おやじの葬式も出しました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かせげるだけ稼がせないのは損だと云つたやうな了簡りようけんで、長い間無理な勤をせまして、散々にしぼり取つたので御座います。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
請けもどし度とかねて心がけ居たることなれば江戸へ出て一かせぎなさんと思ひ九郎兵衞とも種々相談なせし上女房お里にも得心とくしんさせ夫より九助は支度を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「旅費をかせぎ溜めるって、何か、仕事があんのか、金なら、百円は少し欠けるけども、持って来てやった。これで、どこへでも、落ち着くんだな。」
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
長いこと叔父さんのうちで探して居た田舎出の婆やが来て台所をかせぐやうに成つてから、お節は一層快活に成つて行つた。賑かな笑声が絶えなかつた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
冬の間かせぎに出れば、その留守に気の弱い妻が小屋から追立てを喰うのは知れ切っていた。といって小屋に居残れば居食いをしているほかはないのだ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこで、一家の主人が死にますと、息子たちはかせぎに他国へ出て行って、娘たちが夫を得ることができるように、全財産を彼女たちに残してやります。
正直しやうぢきかうべかみ宿やどる——いやな思をしてかせぐよりは正直しやうぢきあそんでくらすが人間にんげん自然しぜんにしていのらずとてもかみまもらん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
かせぎに身がはいらず質八しちばち置いて、もったいなくも母親には、黒米のからうすをふませて、弟には煮豆売りに歩かせ、売れ残りのくなった煮豆は一家のお惣菜そうざい
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
母親はよその家に雇われて、昼まだけかせぎに出ました。アパートの小さな安い部屋へと、なんども引っ越しました。そのうちに、母親は病気になりました。
街の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
下人 こゝに名前なまへいてある人達ひとたち見附みつけい! えゝと、靴屋くつやものさしかせげか、裁縫師したてや足型あしかたかせげ、漁夫れふしふでかせげ、畫工ゑかきあみかせげといてあるわい。
俺も掃溜の中にもぐ/\してゐる一人だ。田舎者の眞似じやないが、米の無い土地で米をかせがうとするんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
京の小民はもうあの頃から、秋の収穫の豊かな頃をうかがって、農村をかせぎまわってもうけてかえる色々の道を知っていた。それが現在までなお続いているのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そしたら、あの女がかせいで食はしてくれるからね。それで、ひもといふものは、お殿樣見たいに、お腹がすいてもひもじうないといふ顏をしてゐるものですよ。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
フム、ぢやア逐々おひ/\女がかせいで野郎は男妾をとこめかけツたことになるんだネ、難有ありがたい——そこで一つ都々逸どゝいつが浮んだ『わたしヤ工場で黒汗流がし、ぬしは留守番、子守歌』は如何どう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかしそんな者の母は多くは泥水かせぎを経た女故、騾の母たる牝馬が絶えて売笑した事なきに雲泥劣る。
彼は下町の大きい機械工場に働いていた技師だが、いつからともなく強盗をかせぐようになっていた。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目星めぼしいものはなさそうですが、「行きがけの駄賃だちんだ」という考えで、一とかせぎしようと思いました。
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
だが、弁公の看病から、薬代、その日その日の暮しのかせぎまで、おれ一人で稼がなければならなかったので、きに、いいようのねえ、みじめなことになってしまった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
某の娘は他国からかせぎに来てる男とれ合って逃げ出す所を村界むらざかいで兄におさえられたとか、小さな村に話の種が二つもできたので、もとより浮気ならぬ省作おとよの恋話も
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
鍛冶かじ屋の兄弟だったんですよ。親も妻子も無しで二人かせぎに稼いで居たんですよ。だが弟の腕がどうも鈍い。兄の方が或る時癇癪かんしゃくを起して金槌かなづちを弟に振り上げたんですね。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何かしら自分で働くことを考え自分の小遣い位は自分でかせいでいる、何といって取りとまったことはないが、ぜん申す如く、大体器用な人で手術てわざは人並みすぐれている所から