わざはひ)” の例文
またそれが不意の風のやうに起つたわざはひであつたのであらうか。また自分のやうに靜かに襲つて來た病魔の仕業であつたかもしれない。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
それを聽いてからお道には暗い陰がまつはつて離れなかつた。どんなわざはひが降りかゝつて來やうとも自分だけは前世の約束とも諦めよう。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
いかなれば我心は君をえ忘れず、いかなれば君は我心と化し給ひて、幸ある時も、わざはひに逢へる時も、君は我心を離れ給はざりけん。
自分のふとした罵倒が、瑠璃子父娘に、どんなにわざはひしてゐるかと云ふことを聴けば、熱情な恋人は、どんな必死なことをやり出すかも分らない。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
おそらくわたくし想像さうぞうあやまるまい、じつてんわざはひ人間にんげんちからおよところではないが、今更いまさらかゝ災難さいなんふとは、じつ無情なさけな次第しだいです。
するとこの龍宮のお土産も、あの人間のもろもろのわざはひの種の充滿したパンドラの箱の如く、乙姫の深刻な復讐、或ひは懲罰の意を祕めた贈り物であつたのか。
お伽草紙 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
出やうがはやいと魔劫まごふれないから何時いつかはこれをもつて居るものにわざはひするものじや、一先ひとまづ拙者が持歸もちかへつて三年たつのち貴君あなた差上さしあげることにたいものぢや
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
〔評〕幕府ばくふ南洲にわざはひせんと欲す。藩侯はんこう之をうれへ、南洲を大島おほしまざんす。南洲貶竄へんざんせらるゝこと前後數年なり、而て身益さかんに、氣益さかんに、讀書是より大に進むと云ふ。
一二二けんぞくのなすところ、人のさいはひを見てはうつしてわざはひとし、世のをさまるを見てはみだれおこさしむ。
高木勇名といふ人が、伜を勘當したのも、わざはひの我が子に及ぶのを恐れたためだらう。萬一城彈三郎と生命のやり取りをして、勝てばいゝが、負けては取返しがつかない。
わざはひも悩みも昔と更に選ぶところない一ト色である。思想の進歩、道徳の進歩——何んにも無い。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
彼ものがれ難き義理に迫りて連帯の印捺いんつきしより、不測のわざはひは起りてかかる憂き目を見るよと、いたおのれに懲りてければ、この際人に連帯を頼みて、同様の迷惑をくることもやと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それいたちみちときしてすゝめばわざはひあり、やまくしちたるときこれけざればそこなふ。兩頭りやうとうへびたるものはし、みち小兒こどもいた亭主ていしゆれば、ことぶきながからずとしてあるなり
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぞくほつするところつてこれ(二五)あたへ、ぞくとするところつてこれる。まつりごとすや、わざはひつてさいはひし、やぶれをてんじてこうし、(二六)輕重けいぢうたつとび、權衡けんかうつつしめり。
本当に左様さうだ、先生を殺すものは先生の愛心だ、花ちやんを救ふ、すると直ぐ其れが先生にわざはひするのだ、其れに梅子さん——どうも不思議だ、何故なぜ社会は虚誕きよたんを伝へて喜ぶのだらう、が
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
世間の多くの人たちは何もかも神樣におまかせして安心しようとします。ですが神樣は私共が思慮かんがへ深くしてゐますときにはお惠みを下さいますが、神樣でもわざはひを防ぐ手だては下さいませんですから。
弟の義經、範頼にも碌に福を分たぬのみならず、卻つてわざはひを贈つたのである。頼朝の家の爲に死力を出す人は少く、平家に忠臣の多かつたのも、偶然では無い。奈破崙なぽれおんも亦能く福を分つた人である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
生れながらにして自然の形を完全に備へ、自然の心を完全に有せる者はわざはひなるかな、けれど、この自然児は人間界に生れて、果して何の音もなく、何のわざもなく、いたづらに敗績はいせきして死んで了ふであらうか
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
第二の幽霊 不朽もかうなつちやわざはひだね。(書物をはふり出す。)
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そも勇者には、忽然こつねんわざはひふくに轉ずべく
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
おそろしいわざはひでないでせうか。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さうして、これがの恐ろしいわざはひの來る前觸れではないかとも恐れられた。彼女の眼の前にもお文の姿がまぼろしのやうに現れた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
諸君しよくん好奇心こうきしんからわざはひまねいたばつとして、海底戰鬪艇かいていせんとうてい竣成しゆんせいしたあかつきにも、裝飾かざり船室せんしつ辛房しんぼうせねばなりませんよ。
するとこの竜宮のお土産も、あの人間のもろもろのわざはひの種の充満したパンドラの箱の如く、乙姫の深刻な復讐、或いは懲罰の意を秘めた贈り物であつたのか。
お伽草紙 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
われは敢て自家を以て否運の兒となさじ。神のわざはひを轉じてさいはひとなし給へるあとおほふ可からざるものあればなり。初めわれ不測の禍のために母上をうしなひまゐらせき。
が、その後伊之助はもう少し金が欲しくなり、殘して置いた迷子札を持つて、強請ゆすりがましく御當家へ來たのを、後のわざはひを絶つ爲、後閑こが樣が手に掛けた、——それとも、石澤樣かな
他の国にゆかしめば、必ずも後のわざはひとなるべしと、ねんごろに教へて、又商鞅をひそかにまねき、吾汝を一三四すすむれども王ゆるさざる色あれば、用ゐずばかへりて汝を害し給へと教ふ。
如此かくのごとやから出入でいりせしむる鴫沢の家は、つひに不慮のわざはひを招くに至らんも知るべからざるを、と彼は心中にはかおそれを生じて、さては彼の恨深くことばれざるをさいはひに、今日こんにち一先ひとまづ立還たちかへりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
必ず一点の汚涜をどくもありません——貴方の為めにわざはひの種となるのです、——篠田さん、我がつま、何卒御赦おゆるし下ださいまし、貴方の博大の御心には泣いて居るのです、私はう決心致しました
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
やつと自分を襲つたわざはひの前後を思ひ出したやうであつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そも勇者には、忽然こつねんわざはひふくに転ずべく
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
世に生れしはわざはひ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
呪はれた母と娘とは何方どちらが先にわざはひを受けるのであらうか。そんな恐れと悲しみとが彼女の胸一ぱいに擴がつて、あはれなる母は今年の白酒に酔へなかつた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
此樣こんわざはひおこらなかつたなら、今頃いまごろすで大佐たいさいへかへつてつて、あの景色けしきうるはしい海岸かいがんへんで、如何いか愉快ゆくわいむかへてるだらうとかんがへると
我は尊き愛の膏油を地上にくつがへして、これを焚いて光を放ち熱を發せしむるに及ばざりき。こは濫用して人にわざはひせしならねど、遂に徒費して天にそむきしことを免れず。
奉公大事ゆゑにうらみを結びて、憂き目にひし貫一は、夫のわざはひを転じて身のあだとせし可憫あはれさを、日頃の手柄に増して浸々しみじみ難有ありがたく、かれをおもひ、これを思ひて、したたかに心弱くのみ成行くほどに
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
八一何となくなやみ出でて、八二鬼化もののけのやうに狂はしげなれば、ここに来りて幾日もあらず、此のわざはひかかる悲しさに、八三みづからもものさへわすれて八四いだたすくれども、只八五をのみ泣きて
百のわざはひなに
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)