日中ひなか)” の例文
ぱう小高こだか土手どてると、いまゝでいてかぜむだ。もやかすみもないのに、田畑たはたは一めんにぼうとして、日中ひなかはるおぼろである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
昼の日中ひなかたれはばかるおそれもなく茶屋小屋ちゃやこやに出入りして女に戯れ遊ぶこと、これのみにても堅気かたぎの若きものの目にはうらやましきかぎりなるべきに
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
於兎吉おときちどん! お前の言うなあ! そりゃ日野様の坊っちゃんのことだあ!」と叫んで「昼日中ひなかから人を呼び止めて莫迦べえぬかしやがって!」
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
我国の雪里地さとちは三月のころにいたれば次第しだい々々にきえあさ々はこほること鉄石の如くなれども、日中ひなかは上よりも下よりもきゆる。
十五日の日中ひなかを満願とし、大念仏を行ない、重盛自らもその列に加わって、極楽往生を願うのであった。重盛を灯籠大臣というのもここからきている。
その日中ひなか一日走り通したことを兵馬は覚えている。無論この間には立場立場たてばたてばで多少の息は入れるが、彼等は一生懸命で通しをやっているものに相違ない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こうして、おじいさんは日中ひなかむらから、むらあるきましたけれど、晩方ばんがたにはいつも、この城跡しろあとにやってきて、そこにあった、むかしもんおおきな礎石だいいしに、こしをかけました。
海のかなた (新字新仮名) / 小川未明(著)
今日昼の日中ひなかに、トニオ・クレエゲルのそばを通りすぎて行ったあの二人は。彼は二人を再び見た。しかもほとんど同時に二人を認めた時、喜びのあまり愕然としたのだった。
やはり「キの字」の片割かたわれらしいぞ。眼付き風付ふうつき何やらおかしい。非人乞食に劣らぬ姿で。道のほとりにかばんを投げ出し。駄声だごえはり上げ木魚をチャカポコ。昼の日中ひなかに外聞さらす。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それがなあ、晝日中ひなかでも、ちやあんと寢床ねまとらせて、やすんで行かはりまんがな。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ベッドはむしろ部屋へやの飾りの一つとなっている場合が西洋では多い、日本では昼の日中ひなかに寝床を見ては如何にもいやらしい、そこで西洋室に住む画家はいいとして、日本の長屋の二階
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
朝といつても日中ひなかの事ではあり、多分當身あてみか何か食はされて、一度目を廻したのを鈴の緒で縛り上げられ、後で氣が付いて口を利かうとしたので、匕首あひくち盲目めくら突きにされたものでせう。
日中ひなかまたてつしてあかつきまで僕の下宿の附近には音楽と歌がきこえると云ふ風である。初めて越して来た日に重いトランクを女中のマリイと二人で三階へ引上げる時は泣き出したくなつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
山越やまごえよ五浦少女、日中ひなかより影をつづりて、もてなしと我にまゐると、とと、瓶子かかへ、五器そろへ、お膳持て来る。一閑張・筆・墨・硯、さて紙帳、くくり枕や、夜のものとふすま持てる。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しぐるしちまた日中ひなか
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
暑い日中ひなかをしくしくと
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
夏の日中ひなかはねの音……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
はるる日中ひなか
(旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
日中ひなかでも
参詣群集さんけいぐんじゅ、隙間のない、宮、やしろの、フトした空地は、こうした水ある処に、思いかけぬ寂しさを、日中ひなかは分けて見る事がおりおりある。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我国の雪里地さとちは三月のころにいたれば次第しだい々々にきえあさ々はこほること鉄石の如くなれども、日中ひなかは上よりも下よりもきゆる。
朝といっても日中ひなかの事ではあり、たぶん当身か何か食わされて、一度目を廻したのを鈴の緒で縛り上げられ、後で気が付いて口を利こうとしたので、匕首で滅多突きにされたものでしょう。
ベンチに凭掛よりかゝつて昼日中ひなか居眠をして居る立派な服装の細君もある。れて来た五六匹の犬が裾の所で戯れて居るなどは呑気のんきだ。犬を婦人が可愛かあいがることは子供を可愛かあいがる以上とも云ひたい位だ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
わせ竹の若葉にらふ夏がすみ何か日中ひなかの音くるなり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
通道とおりみちというでもなし、花はこの近処きんじょに名所さえあるから、わざとこんな裏小路をさぐるものはない。日中ひなかもほとんど人通りはない。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わせ竹の若葉にらふ夏がすみ何か日中ひなかの音くるなり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はりに、青柳あをやぎ女郎花をみなへし松風まつかぜ羽衣はごろも夕顏ゆふがほ日中ひなか日暮ひぐれほたるひかる。(太公望たいこうばう)はふうするごとくで、殺生道具せつしやうだうぐ阿彌陀あみだなり。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そよろと風過ぎしとき日中ひなかの晝貌の花ぞ内ら見せたる
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
本人にも一向つかまえ処はない。いつも見る景色だけれども、朝だか、晩方だか、薄曇った日中ひなかだか、それさえ曖昧あいまいで、ただ見える。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そよろと風過ぎしとき日中ひなかの昼貌の花ぞ内ら見せたる
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
日中ひなかは梅の香も女のそでも、ほんのりと暖かく、襟巻ではちと逆上のぼせるくらいだけれど、晩になると、柳の風に、黒髪がひやひやと身に染む頃。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あまがへる日中ひなか啼きぎ声はや矢筈檀やはずまゆみの根にひびかひぬ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
輕便鐵道けいべんてつだう線路せんろ蜿々うね/\とほした左右さいう田畑たはたには、ほのじろ日中ひなかかへるが、こと/\、くつ/\、と忍笑しのびわらひをするやうにいた。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
穀倉はそと板壁のかぐろきが日中ひなかの堀に影映すのみ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「何が、叔母さん。この日中ひなかに何が恐いんです。大方また毛虫でしょう、大丈夫、毛虫は追駈おっかけては来ませんから。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだ日中ひなかゆゑ遊べよと。
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かつてりて、姉上と部屋にて人形並べて遊びしに、油こそ惜しけれ、しかることは日中ひなかにするものぞと叫びぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふともみはかまのように見えたのも稀有けうであった、が、その下ななめに、草堤くさどてを、田螺たにしが二つ並んで、日中ひなかあぜうつりをしているような人影を見おろすと
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうせ、絵に描いた相馬の化城ばけじろ古御所から、ばけ牛がいて出ようというぼろ車、日中ひなかいざりだって乗りやしません。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この春の日の日中ひなかの心持を申しますのは、夢をお話しするようで、何んとも口へ出しては言えませんのね。どうでしょう、このしんとしてさびしいことは。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何不足のない、申分もうしぶんのない、目をねむれば直ぐにうとうとと夢を見ますような、この春の日中ひなかなんでございますがね、貴下あなた、これをどうお考えなさいますえ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母様おつかさんはうそをおつしやらない、博士はかせ橋銭はしせんをおいてにげてくと、しばらくしてあめれた。はし蛇籠じやかごみんなあめにぬれて、くろくなつて、あかるい日中ひなかた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
片側は空も曇って、今にも一村雨ひとむらさめ来そうに見える、日中ひなかも薄暗い森続きに、うねり畝り遥々はるばると黒い柵をめぐらした火薬庫の裏通うらどおり、寂しいところをとぼとぼと一人通る。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いづみが、またはじめたぜ。」そのたゞひとつの怪談くわいだんは、先生せんせいが十四五のとき、うらゝかなはる日中ひなかに、一人ひとり留守るすをして、ちやにゐらるゝと、臺所だいどころのおへツつひえる。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鳴かずんば鳴かして見しょう、日中ひなか時鳥ほととぎすを聞くんだ、という触込ふれこみで、天王寺へ練込みましたさ、貴方。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日中ひなかのこのこ出られますか。何、志はそれで済むからこの石の上へ置いたなり帰ろうと、降参に及ぶとね、犬猫が踏んでも、きれいなお精霊しょうりょうが身震いをするだろう。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうの目からも、余りふわふわして見えたでござろう。小松の中をふらつく自分も、何んだかその、肩から上ばかりに、すそも足もなくなった心地、日中ひなかみょう蝙蝠こうもりじゃて。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「熱はお前さんを見て帰ったって同一おんなじだ、何暗いたッて日中ひなかよ、構やしない。きっとそこらにうろついているに違いない、ちょっと僕は。おい、姉さん帰りに寄ろう。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高い屋根は、森閑しんかんとして日中ひなか薄暗い中に、ほのぼのと見える材木から又ぱらぱらと、ぱらぱらと、其処そこともなく、のこぎりくずこぼれて落ちるのを、思わず耳を澄まして聞いた。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たか屋根やねは、森閑しんかんとして日中ひなか薄暗うすぐらなかに、ほの/″\とえる材木ざいもくからまたぱら/\と、ぱら/\と、其處そこともなく、のこぎりくづこぼれてちるのを、おもはずみゝましていた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)