振舞ふるまい)” の例文
そういうことが分かれば、曾呂利本馬として、これまでにたびたびおかしな振舞ふるまいがあったが、それは探偵のための行動であったのだ。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見たまひし如く奇怪なる振舞ふるまいするゆゑ、狂女なりともいひ、また外の雛形娘と違ひて、人に肌見せねば、かたはにやといふもあり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
たまには、せんべいや蕎麦そば振舞ふるまいまでしているほどなのに、その好意に対しても、ここで取っ組みを初めるなぞは、不届き至極だ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方は我儘わがまま勝手の振舞ふるまいあれば一方は卑屈に縮むようでは政治の上にデモクラシーを主張してもこれ単に主張に終りて実益が甚だ少なかろう
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
女はたまらず顧みて、小腰をかがめ、片手をあげてソト巡査を拝みぬ。いかにお香はこの振舞ふるまいを伯父に認められじとはつとめけん。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近藤勇は、小野川の老いて稚気ちきある振舞ふるまいを喜んで話していると、芹沢は、さっきから席を周旋して廻るお松の姿に眼をつけて
背が馬鹿に高くて腕力があるうえに、父の庄八が、ちょっと睨みのきく親分株の男だったので、性来せいらい気の小さいわりに、横暴な振舞ふるまいが多かった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
自暴自棄の振舞ふるまいがあって職を奪われ、それから三十五歳でこの世を去るまで、モーツァルトには、職業らしい職業さえ与えるものがなかったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
関白殿のお振舞ふるまいにつきましては、愚僧がお城へ上りまする前からそのような噂がないこともござりませなんだ。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
三浦『そうだろう、ずいぶんそのくらいな振舞ふるまいはし兼ねない女だった。』私たちはしばらく口をつぐんで
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
峻厳である一方悟道ごどうの用心が慎重である。いたずら喝棒かつぼうなんぞと、芝居めいた振舞ふるまいにも出でない。そこにも好感が持たれる。殊にこの『正法眼蔵』は和文で物してある。
だが、明智ともあろうものが、何という向う見ずな振舞ふるまいをするのだ。それでは敵の思うつぼではないか。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのままの上へ芸術という着物を何枚も着せて、世の中にあるまじき悠長ゆうちょう振舞ふるまいをするからである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山口のハネトという家の主人、佐々木氏の祖父と竹馬の友なり。きわめて無法者にて、まさかりにて草をかまにて土を掘るなど、若き時は乱暴の振舞ふるまいのみ多かりし人なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
知らぬ男の闖入ちんにゅうしたのであれば、なんということをとも言って中の君を助けに出るのであろうが、この中納言のように親しい間柄の人がこの振舞ふるまいをしたのであるから
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
起居ききょ振舞ふるまいのお転婆てんばなりしは言うまでもなく、修業中は髪をいとまだにしき心地ここちせられて、一向ひたぶるに書を読む事を好みければ、十六歳までは髪をりて前部を左右に分け
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「はい、はい、ありがとうございます。」と答え、それから勿体もったいぶって考えこみました。ずらりとならんでいる家来けらいたちは、せきばらい一つせず、六兵衛の振舞ふるまいを見ています。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
文久錢ぶんきうせんともふべきおあしんだのです、恰度てうどわたくし其節そのせつ其塲そのばりましたが、なに心得こゝろゑませんからたゞあわてるばかり、なに振舞ふるまいのあツたときですから、大勢たいぜいひとりましたが、いづれもあをくなり
としずいわかけれどもきやくぶにめうありて、さのみは愛想あいさううれしがらせをふやうにもなくわがまゝ至極しごく振舞ふるまいすこ容貌きりよう自慢じまんかとおもへば小面こづらくいと蔭口かげぐちいふ朋輩はうばいもありけれど
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そういうお心からの政事方面の院のお振舞ふるまいは、私のあずかり知りえぬところである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
釣り場へ行って、魚の餌に当たる振舞ふるまいを、目印につけた鳥の羽の動くようすで眼にきくことを、鈎合わせの呼吸などを説いて聞かせた。そして私と並んで、糸を水の中層に流させたのである。
小伜の釣り (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
人生五十の坂も早や間近の身を以て娘同様のものいつも側に引付けしだらもなきていたらくはずかもなく御目にかけ候傍若無人ぼうじゃくぶじん振舞ふるまいいかに場所がらとはもうしながら酒めてははなはだ赤面のいたりに御座候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幕臣また諸藩士中の佐幕党さばくとうは氏を総督そうとくとしてこれに随従ずいじゅうし、すべてその命令に従て進退しんたいを共にし、北海の水戦、箱館の籠城ろうじょう、その決死苦戦の忠勇ちゅうゆう天晴あっぱれ振舞ふるまいにして、日本魂やまとだましいの風教上より論じて
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一生けんめい、こうさけびながら、ちょうど十人の子供こどもらが、両手りょうてをつないでまるくなり、ぐるぐるぐるぐる座敷ざしきのなかをまわっていました。どの子もみんな、そのうちのお振舞ふるまいによばれて来たのです。
ざしき童子のはなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのために今日までにも大分失敗したこともあるけれども、失敗したからとて断じて事を廃する様な意気地のない振舞ふるまいをしたことはない。何時でもいよいよ失敗すればいよいよ奮闘努力を続行する。
じぶんを逃がしてくれたお藤さんという女の振舞ふるまいとその言葉である。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
少しゆるやかにする位の事はむろんあるべきはずですが、あるいは博奕ばくちをしたり公々然こうこうぜん汚穢おわい振舞ふるまいをしたり、神聖に保たるべき寺の中の騒しい事なお市場いちばより甚しいというに至っては言語道断ごんごどうだんの次第で
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
上野介めが、無礼沙汰ぶれいざたは、この度ばかりではなく、遠江守どのが、大猷院様だいゆういんさまの御法事を勤められた折も、言語に絶した振舞ふるまいがあったと申す。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
プロペラを急に停めたのは、速度を下げるためだと思われたが、何という大胆な振舞ふるまいであろう。一体、何をしようというのか。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
? 茶釜ちゃがまでなく、這般この文福和尚ぶんぶくおしょう渋茶しぶちゃにあらぬ振舞ふるまい三十棒さんじゅうぼう、思わずしりえ瞠若どうじゃくとして、……ただ苦笑くしょうするある而已のみ……
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お膝元を怖れぬ振舞ふるまいじゃ。もし大きな頭があって、その指図とあらば、このままに置くは幕府の威信にかかわる」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鴉の群れを離れて、鴉の振舞ふるまいを憎んでいるのかと思われるように、かもめが二三羽、きれぎれの啼声をして、塔に近くなったり遠くなったりして飛んでいる。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
付けるように——が、万一の場合は、卑怯の振舞ふるまいのないように、とのシモン様の御言葉でございました
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
同時に彼はつとめを休んで、わざわざここまで来た男であった。紹介状を書いてくれた人、万事に気をつけてくれる宜道に対しても、あまりに軽卒な振舞ふるまいはできなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうでなくては、偽探偵がこんな大胆な振舞ふるまいをする筈がない。相手は三人だ。頼みに思う父の操一氏は麻酔に陥って死人も同然の有様。もう全く逃れる術はなくなった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自己発展の機会をとらえることは人天じんてんに恥ずる振舞ふるまいではない。これは二時三十分には東京へはいる急行車である。多少の前借を得るためにはこのまま東京まで乗り越せばい。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鵙屋もずやの夫婦は娘春琴が失明以来だんだん意地悪になるのに加えて稽古が始まってから粗暴そぼう振舞ふるまいさえするようになったのを少からず案じていたらしいまことに娘が佐助という相手を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
美登利みどりはかのはじめにしてうまれかはりしやう振舞ふるまいようあるをりくるわあねのもとにこそかよへ、かけてもまちあそことをせず、友達ともだちさびしがりてさそひにとけばいまいまにと空約束からやくそくはてし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さいわいこのところは、露路裏の、そのまた裏になっている袋小路ふくろこうじのこととて、人通りも無く、このあやしげな振舞ふるまいも、人にとがめられることがなかった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たとひ今は世に亡き人にもせよ、正に自分の恋人であればだけれども、可怪おかし枯野かれのの妖魔が振舞ふるまい、我とともに死なんといふもの、恐らく案山子かかしいだ古蓑ふるみの
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼が、大切な若殿の身を護衛するために、かく、側ぢかく侍しての根気は、まことに当然な振舞ふるまいであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いざ御主人忠作の前へ並べようとしてみるとその金が無いので、米友も色を変えてしまった、というわけで、思い当るのは昨晩の柳原へ出た奇怪な女の振舞ふるまいであります。
自分の馬鹿な振舞ふるまいかえりみる後悔よりも、自分を馬鹿にした責任者をうらむよりも、むしろ悪戯をした田口を頼もしいと思う心が、わが胸のうちで一番勝を制したのを自覚した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先の夜『ミネルワ』にておん身が物語聞きしときのうれしさ、日頃木のはしなどのやうにおもひし美術諸生の仲間なりければ、人あなづりして不敵の振舞ふるまいせしを、はしたなしとや見玉ひけむ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
弦三の乗りこんだ地下電車が、構内を離れて間もなく、不穏分子の振舞ふるまいは、露骨ろこつになって行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お君の振舞ふるまいはいつもとは違って、物狂わしいほどに動いてみえました。それでも入って来たところの障子は締め切って、そして能登守の膝元へ崩折くずおれるようにひざまずいて
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『必ず共、赤穂の旧藩士共に、挑戦いたすような振舞ふるまいは、屹度きっとつつしまねばならぬぞ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれはこれでも山嵐に一銭五厘奮発ふんぱつさせて、百万両より尊とい返礼をした気でいる。山嵐は難有ありがたいと思ってしかるべきだ。それに裏へ廻って卑劣ひれつ振舞ふるまいをするとはしからん野郎やろうだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
れば、虚空こくうを通りがかりぢや。——御坊ごぼうによう似たものが、不思議な振舞ふるまいをするにつて、大杉おおすぎに足を踏留ふみとめて、葉越はごしに試みに声を掛けたが、疑ひもない御坊とて、拙道せつどうきもひやしたぞ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
このしおらしき心根こころねから、おのずと丹後守に仕える心も振舞ふるまいも神妙になる——もともと竜之助はいやしく教育された身ではない、どこかには人に捨てられぬところが残っているのであろう