かへ)” の例文
私は門のところにためらひ、芝生しばふの上にためらつた。鋪石道を往きかへりした。硝子戸ガラスど鎧戸よろひどしまつてゐて内部を見ることは出來なかつた。
視力もとかへりてちひさきかゞやきに堪ふるに及び(わがこれを小さしといへるはしひてわが目を離すにいたれる大いなる輝に比ぶればなり)
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かへし給ふべし拙者も是より江戸見物致さんと思ふなれば江戸迄は御同道ごどうだう申べし先々まづ/\心置こゝろおきなく寛々ゆる/\養生やうじやうなすが專一なりとて眞實しんじつに申を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一日行程の道を往復しても、往きは長く、かへりは短く思はれるものであるが、四五十日の旅行をしても、さういふ感じがある。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いざといふ場合にると、基督の精神も何も有つたもので無い、婦人をんなの愚痴にかへつて、昨今世間に流行はやつてゐる煩悶に陥る。
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
話の波が、また中央まんなかかへつて来た。が、頭を青々と剃立そりたてた生若なまわかい坊さんは、勿体もつたいぶつた顔にちよいと微笑を浮べただけで何とも答へなかつた。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
梅原と内藤と三人で「炬火たいまつ」を観たが、愛情の生活から思想の生活にかへると云ふ筋の全体は甘く出来た作だが、部分に少しづつ面白い所を見受けた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
渇する者は飲を為し易く、飢へある者は食を為し易し、近来の傾向は歴史的也故に又回顧的也常感的也。マコレーに行きてく者はヱメルソンにかへる也。
凡神的唯心的傾向に就て (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
プラトンは奮然として受話器をかぎに掛けて、席にかへつた。それから五分も立たないうちに、又ちりん/\と鳴る。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
しかし、それもほんのわづかで、人間はそれが当り前のものだとぢき思つて了つて、やがてもとの平静な Indifferent な状態にかへつて了ふ。
現代と旋廻軸 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
病人は、まだ自分が生きて居たかといふ風に、頭をもちあげて部屋の内を見廻した。かすかなヒステリイ風のゑみが暗い頬に上つた頃は、全くの正気にかへつて居た。
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
すなはち彼は自ら罰せられてをるのぢやから、君は君としてうらみいて可からうと思ふ。君がその怨を釈いたなら、昔の間にかへるべきぢやらうと考へるのじや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
天道はかへすことを好むといふが、實に其通りで、我より福を分ち與ふれば、人も亦我に福を分ち與ふるものである。工業でも政治でも何でも一切同じ事である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
第三日に至りて、醫師我を診して健康の全くもとかへりたるを告げ、己れも我等の一行と共に歸途に就きぬ。
〔譯〕濁水だくすゐも亦水なり、一ちようすれば則ち清水せいすゐとなる。客氣きやくきも亦氣なり、一てんすれば則ち正氣せいきとなる。きやくふの工夫は、只是れ己に克つなり、只是れ禮にかへるなり。
折角の赤筋入りたるズボンをあたらだいなしにして呆然ばうぜんとしたまひし此方には、くだん清人しんじんしき事しつと云ひ顔にあわてゝ床のうへなるものをさじもてすくひて皿にかへされたるなど
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
さすがに性の順にかへりて、真面目の見へ初めしに、そのお覚はいよいよめでたく。国事の私事に忙しき御身も、今宵は珍らしく来客の絶えたればと、特に一郎を呼び入れたまふ。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
義雄はその往きにも、かへりにも、博物館わきの湧き水のそばにある、自分の好きな、例の幽靈の樣な枝を高く擴げたアカダモのそばを通つた。然しそれはもう立ち樹ではなかつた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
さて、それ迄は、彼の最も親しい肉親、及び其の右手のこととて、彼にのり移るのも不思議はなかつたが、其の後一時平靜にかへつたシャクが再び譫言を吐き始めた時、人々は驚いた。
狐憑 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
○同年四月廿日贈位正二位本官の右□臣にかへし玉ふ。(神さり給ひしより二十年。)
何うしたか往復の切符のかへりをなくし、またお金もなくし、飯田さんに汽車賃を借りて乗つて来たやうな訳なんだが、本郷の下宿へ帰つたのは多分十一時過ぎになつてゐたらうと思ふ。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
正月しやうぐわつ二日目ふつかめゆきひきゐ注連飾しめかざりみやこしろくした。んだ屋根やねいろもとかへまへ夫婦ふうふ亞鉛張とたんばりひさしすべおちゆきおと幾遍いくへんおどろかされた。夜半よなかにはどさとひゞきことはなはだしかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いつぞは正気にかへりて夢のさめたる如く、父様ととさま母様かかさまといふ折の有りもやすと覚束おぼつかなくも一日ひとひ二日ふつかと待たれぬ、空蝉うつせみはからを見つつもなぐさめつ、あはれかどなる柳に秋風のおと聞えずもがな。
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
聞て我輩おほいに驚けりおのれの心己れが嗜欲にかたざるを知り罪を犯せし後にくゆとも犯さゞる前にかへらざるを知り浪費せざる前に早く物と換へて其災ひを未前みぜんに防ぐ智といふべし歸りて父の温顏を見るを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
そこで死ぬと云ふことがない故、天命のまゝにして、天より授かりしまゝでかへすのぢや、少しもかはることがない。ちやうど、天と人と一體と云ふものにて、天命をまつたうしへたと云ふ譯なればなり。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
あはてゝ眼をけて「や!」と魂氣たまけた顏をして、恰で手に持ツてゐた大事なたま井戸ゐどの底へすべらし落したやうにポカンとなる。また數分間前すうふんかんまへの状態にかへツて、一生懸命しやうけんめいに名案をしぼり出さうとして見る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ふと大風おほかぜんだやうにひゞきんで、汽車きしやおともとかへつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「では宗教を原始時代にかへさうと云ふんだ。」
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
れつるは本にかへれ。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
されど古をもて今を責め、神の己をまさる生命いのちかへし給ふを遲しとおもふ三人みたりおきななほまことにかしこにあり 一二一—一二三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
仁孝天皇の御猶子ごいうしかへらせ給ふ。近衛局出仕にならせ給ふ。勲一等に叙せられさせ給ふ。妃山内氏光子をれさせ給ふ。
能久親王年譜 (新字旧仮名) / 森鴎外森林太郎(著)
吾はその悔の為にはかのいきどほりを忘るべきか、任他さはれ吾恋のむかしかへりて再びまつたかるを得るにあらず、彼の悔は彼の悔のみ、吾が失意の恨は終に吾が失意の恨なるのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かへさでは我あるべきか、今は一切世間の法、まつた一切世間の相、森羅万象人畜草木しんらばんしやうにんちくさうもく悉皆しつかいわがみあだなれば打壊うちくづさでは已むまじきぞ、心に染まぬ大千世界、見よ/\
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
欣之介から取上げられて再び小作人たちの手にゆだねられた裏の畑地は、何事も起らなかつたもののやうに、間もなく、以前と少しの変りもないもとの姿にかへつて行つた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
必定きつと思ひ直して下さるだらう、阿爺さんが正気にかへるも復らないも二人の誠意まごゝろ一つにあるのだからね
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ことわざに其事なんぢに出て爾にかへるとむべなる哉此言や所化しよけ願山の白状はくじやうに因て再度日野家の一件委さい吟味有るべしと大岡殿差※さしづあつて平左衞門を呼び出されしに平左衞門は又何を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
○同年四月廿日贈位正二位本官の右□臣にかへし玉ふ。(神さり給ひしより二十年。)
着なれない洋服なんか着て行つたので、何処どこのポケットへ入れて無くしてしまつたのか、そんなことでかへりの切符もなくしたんだ。が、たしか新潟県の方の小学校の先生だつたと思ふ。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
受話器を鉤に掛けた時には、常のやうに椅子へかへることが出来ないで、重い荷をしよはせられて、力の抜けた人のやうに、椅子の上に倒れた。そして目をねむつて、長い間ぢつとしてゐた。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
人はすべからく死を畏れざるの理を死を畏るゝの中に自得じとくすべし、性にかへるにちかし。
いつぞは正氣にかへりて夢のさめたる如く、父樣母樣といふ折の有りもやすと覺束なくも一日二日と待たれぬ、空蝉うつせみはからを見つゝもなぐさめつ、あはれ門なる柳に秋風のおと聞こえずもがな。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わが健康の漸くもとかへらんとする頃、公子夫婦は又我床頭にありて、何くれとなく語り慰め給ひき。夫人。アントニオよ。おん身の往方ゆくへまだ知れざりし程は、我等は屡〻おん身の爲めに泣きぬ。
急いでゐたのでかへりの時を約束して、その招待を斷わつた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
是故に神は己が道——即ちその一かまたは二——をもて、人をその完き生にかへしたまふのほかなかりき 一〇三—一〇五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
身を起すとともに貫一は落散りたる書類を掻聚かきあつめ、かばんを拾ひてその中に捩込ねぢこみ、さて慌忙あわただしく座にかへりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
十月二十七日京都を発せさせ給ひ、うるふ十月二日東京なる東伏見宮第に着かせ給ひ、いで有栖川宮第にうつらせ給ふ。能久の名にかへらせたまひ、伏見満宮と称へさせ給ふ。
能久親王年譜 (新字旧仮名) / 森鴎外森林太郎(著)
御怨恨おんうらみかへし玉ふべからむ、御忿恚おんいきどほりも晴らさせ玉ふべからん、さて其暁は如何にして御坐おはさんとか思す、一旦出離の道には入らせたまひたれど断縛の劒を手にし玉はず
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
敬之進はすつくと立つて、一礼して、やがて拍子の抜けたやうに元の席へかへつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いつぞは正氣しやうきかへりてゆめのさめたるごとく、父樣とゝさま母樣かゝさまといふをりのありもやすると覺束おぼつかなくも一日ひとひ二日ふたひたれぬ、空蝉うつせみはからをつゝもなぐさめつ、あはれかどなるやなぎ秋風あきかぜのおとこえずもがな。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
口へ吹込顏に水をそゝぎなどしければ漸々にして我にかへりホツといきつき乍ら今日こそは伊賀亮を閉口させんと思ひしにかれが器量のすぐれしに却つて予が閉口したれば餘り殘念さに氣絶きぜつしたりと切齒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)