往來ゆきき)” の例文
新字:往来
こたびの道づれははしため一人のみ。例の男仲間は一人だになし。かく膽太く羅馬拿破里の間を往來ゆききする女はあらぬならん、奈何いかになどいへり。
往來ゆききれて、幾度いくたび蔦屋つたやきやくつて、心得顏こゝろえがほをしたものは、およねさんのこと渾名あだなして、むつのはな、むつのはな、とひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二階座敷の欄干にもたれて、川の中を往來ゆききする小舟を見たり、小旗の立つた蠣舟かきぶねに出入りする人を數へたりして、竹丸は物珍らしい半日を送つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「お前だつてそんな氣になるだらう。——ところで路傍みちばたに立つて話をして居ると、往來ゆききの人が變な顏をするよ。薄暗くなつたやうだ。歸るとしようか」
定宿ぢやうやどとなし年中たがひに往來ゆきき爲度者したきものなりと道々話しながら川崎宿なる萬屋へいたり同所にて酒飯しゆはんすまやがて別れをつげ夫より長兵衞夫婦は大師へ參詣さんけいしてぞもどりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかして火花焔のうちに見え、聲々のうちにわかたるゝ(一動かず一往來ゆききするときは)ごとく 一六—一八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
本郷の高臺にすさまじく燃え立つ夕陽ゆふひの輝き、其れが靜り返つた池の水に反映する強烈な色彩、散歩する人々の歩調あしなみ、話聲、車の往來ゆきき、鳥の啼く聲、蓮の葉のそよ
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
あたしはまた往來ゆききの人どほりを眺めるのが好きで、窓の外をじつと見てゐると、そこへひよつこり從僕が入つて來て、⦅チェプロフ樣のお越しでございます!⦆つて言ふの。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
お峰は車より下りて开處そこ此處こゝと尋ぬるうち、凧紙風船などを軒につるして、子供を集めたる駄菓子やの門に、もし三之助の交じりてかと覗けど、影も見えぬに落膽がつかりして思はず往來ゆききを見れば
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
十數町を隔てた小學校へ往來ゆききする外には、春にも秋にも殆んど一歩も門を出たことがないのみか、家の周圍にどんな騷ぎがしてゐようとも、滅多に窓の外へ顏を出したことがなかつたので
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
幾度も/\甲板を往來ゆききして足も心も踊るやうに思はれた。
絶頂ぜつちやうかいまでも、てんまでものぼ往來ゆききの道となりて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
丁度ちやうどわたしみぎはに、朽木くちきのやうにつて、ぬましづんで、裂目さけめ燕子花かきつばたかげし、やぶれたそこ中空なかぞらくも往來ゆききする小舟こぶねかたちえました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
北方の故郷に在りし間、常に我おもひ往來ゆききせしものはこの景なり、この情なり。嘗て夢裡に呑みつる霞は、今うつゝに吸ふ霞なり。
すぐるが如くやうやく東のかたしらみ人も通る故やれうれしやと立出たちいで往來ゆききの人に茲は何と申所なるやとたづねければ淺草御門なりと答るゆゑそれより東のかたひろ往來わうらいへ出て又町の名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これは能登のと越中ゑつちう加賀かがよりして、本願寺ほんぐわんじまゐりの夥多あまた信徒しんとたちが、ころほとん色絲いろいとるがごとく、越前ゑちぜん——上街道かみかいだう往來ゆききしたおもむきである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さきにはタツソオの詩をして聞せ給ひしが、その句は今も我おもひ往來ゆききして、時ありては獨り涙をおとすことあり。そはわが泣蟲なるためにはあらず。
たどりすぎ人の心にとげぞ有る殼枳寺からたちでら切道きりどほし切るゝ身とは知らずともやがて命は仲町と三次は四邊あたり見廻すにしのばずと云ふ名は有りといけはたこそ窟竟くつきやうの所と思へどまだ夜もあさければ人の往來ゆききたえざる故山下通り打過て漸々やう/\思ひ金杉と心の坂本さかもとどほこし大恩寺だいおんじまへへ曲り込ば此處は名におふ中田圃なかたんぼ右も左りも畔道あぜみちにて人跡じんせきさへも途絶とだえたる向ふは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
幾度いくたび越前街道ゑちぜんかいだう往來ゆききれて、ちんさへあれば、くるまはひとりで驅出かけだすものと心得こゝろえたからである。しかし、上下じやうげには、また隨分ずゐぶん難儀なんぎもした。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
口々くち/″\かはして、寂然しんとしたみちながら、往來ゆききあわたゞしいまちを、白井しらゐさんの家族かぞくともろともに立退たちのいた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……つてゐるのは、あきまたふゆのはじめだが、二度にど三度さんどわたしとほつたかずよりも、さつとむらさめ數多かずおほく、くもひとよりもしげ往來ゆききした。尾花をばななゝめそよぎ、はかさなつてちた。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
淺草あさくさでも、銀座ぎんざでも、上野うへのでも——ひと往來ゆききみせかまへ、千状萬態せんじやうばんたい一卷ひとまき道中だうちう織込おりこんで——また内證ないしようだが——大福だいふくか、金鍔きんつばを、かねたもとしのばせたのを、ひよいとる、早業はやわざ
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
旅費りよひすくないから、旦那だんな脇息けふそくとあるところを、兄哥あにいつて、猫板ねこいた頬杖ほゝづゑつくと、またうれしいのは、摺上川すりかみがはへだてたむか土手どてはら街道かいだうを、やまについて往來ゆききする人通ひとどほりが、もののいろ姿容なりかたち
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
じつひとみさだめると、其處そこ此處こゝに、それ彼處あすこに、かずおびたゞしさ、したつたものは、赤蜻蛉あかとんぼ隧道トンネルくゞるのである。往來ゆききはあるが、だれがつかないらしい。ひとふたつはかへつてこぼれてかう。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひと往來ゆききをどるがごとし。さけはさざんざまつかぜ
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)