いはほ)” の例文
旧字:
宛然さながら、ヒマラヤさんあたりの深い深い万仭の谷の底で、いはほと共に年をつた猿共が、千年に一度る芝居でも行つて見て居る様な心地。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『いかならんいはほの中に住まばかは』(世のうきことの聞こえこざらん)とばかり苦しんでおります間だけを隠してあげてくださいませ。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かのいはほの頭上にそびゆるあたりに到れば、谿たに急に激折して、水これが為に鼓怒こどし、咆哮ほうこうし、噴薄激盪げきとうして、奔馬ほんばの乱れきそふが如し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
このほこらいたゞく、鬱樹うつじゆこずゑさがりに、瀧窟たきむろこみちとほつて、断崖きりぎし中腹ちうふく石溜いしだまりのいはほわづかひらけ、たゞちに、くろがね階子はしごかゝ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこらにある火薬庫を灰色の絵具で塗り立てて、大きないはほのやうに、また平つたい野原のやうに見えるやうにする。
御食みけむかふ南淵山みなぶちやまいはほにはれる斑雪はだれのこりたる 〔巻九・一七〇九〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
されど今の御疑ひ一〇二僻言ひがごとならぬは、大師は神通自在じんつうじざいにして一〇三隠神かくれがみえきして道なきをひらき、いはほるには土を穿うがつよりもやすく、大蛇をろち一〇四いましめ、化鳥けてう一〇五奉仕まつろへしめ給ふ事
いはほの上の、綱渡り。
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
いはほとなりて」と
十五夜お月さん (旧字旧仮名) / 野口雨情(著)
青きいはほに流れ落ち
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
紫のこごしいはほ
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いはほすら
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ぐるりと一廻ひとまはりして、いつしよいはほえぐつたやうなとびら真黒まつくろつてはいつたとおもふと、ひとつよぢれたむかざまなる階子はしごなかほどを、灰色はいいろうねつてのぼる、うしまだらで。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
数歩すほを行けば、宮が命を沈めしそのふちと見るべき処も、彼がけたる帯をきしそのいはほも、歴然として皆在らざるは無し! 貫一が髪毛かみのけはりの如くちてそよげり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いはほの様な日下部君と芍薬の様な市子の列んで坐つた態、今夜は染直したから新しくなつたでせうと云つて、ヌツト突出した志田君の顔、色の浅黒い貧相な一人の芸妓が、モ一人の袖をいて
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
花崗のいはほ
鉄をつんざき、いはほを砕くのためし、ましてや家をめつし、人をみなごろしにすなど、ちりを吹くよりもやすかるべきに、可恐おそろしや事無くてあれかしと、お峯はひと謂知いひしらず心をいたむるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
……いはほそうは一まいづゝ、おごそかなる、神将しんしやうよろひであつた、つゝしんでおもふに、色気いろけある女人によにんにして、わる絹手巾きぬはんかちでもねぢらうものなら、たゞ飜々ほん/\してぶであらう。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みち大畝おほうねりに、乗上のりあが乗下のりさがつて、やがて、せまり、やまきたり、いはほちかづき、かはそゝいで、やつと砂煙すなけぶりなかけたあたりから、心細こゝろぼそさがまたした。はいまみどりに、ながれしろい。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
水源みなもと岩井沼いはゐぬまおこすとふ、浦川うらかはながれすゑが、ひろつてうみそゝところちかかつた。旅館りよくわんてまだいくほどもないところに——みちそばに、切立きつたてた、けづつた、おほきいはほの、矗々すくつのをた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
弓杖ゆんづゑ炎天えんてんいはほいて、たまなす清水しみづをほとばしらせて、かわきあへぐ一ぐんすくつたとふのは、けだ名将めいしやうことだから、いま所謂いはゆる軍事衛生ぐんじゑいせい心得こゝろえて、悪水あくすゐきんじた反対はんたい意味いみ相違さうゐない。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
卑怯ひけうなるかな土地祇とちのかみ、……まこと雪枝ゆきえ製作せいさく美人びじんもとめば、れいあつくしてきたはずや。もし代価だいかくるしむとならば、たまさゝげよ、あたはずんば鉱石くわうせきさゝげよ、あたはずんばいはほいてきたさゝげよ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つきはなほ半腹はんぷく累々るゐ/\たるいはほらすばかり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)