四方しほう)” の例文
それからは、ハムーチャのうわさがぱっと四方しほうに広がりました。ハムーチャの行く先々で、もうその地方の人々が待ちかまえていました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
甲州は四方しほう山の国、思いにつけぬ人が隠れているそうじゃ。そんなことはどうでもよいが、甲州といえば、わしが生国しょうごくはその隣り。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが独逸ドイツ文化の力はすべての方面に入り満ちているのである。これが四方しほうに敵を受けて今日こんにちなお防禦より攻勢を取っているゆえんである。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
終りには肩をすぼめて、恐る恐る歩行た。雨は満目まんもく樹梢じゅしょううごかして四方しほうより孤客こかくせまる。非人情がちと強過ぎたようだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある、小学校しょうがっこう運動場うんどうじょうに、一ぽんおおきなさくらがありました。えだ四方しほうひろげて、なつになると、そのしたは、日蔭ひかげができて、すずしかったのです。
学校の桜の木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そしてそれをみやこ四方しほう見晴みはらす東山ひがしやまのてっぺんにって行って、御所ごしょほうかおのむくようにててうずめました。これが将軍塚しょうぐんづかこりでございます。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
三宝さんぽう利益りやく四方しほう大慶たいけい。太夫様にお祝儀を申上げ、われらとても心祝こころいわひに、此の鯉魚こいさかなに、祝うて一こん、心ばかりの粗酒そしゅ差上さしあげたう存じまする。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
四方しほうやまかこまれた甲府こうふの町のことですから、九月になるともう山颪やまおろしの秋風が立ち、大きなテントの屋根は、ばさりばさりと風にあおられていました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
別に買った雛も無いから、細君が鶴子を相手に紙雛を折ったり、色紙いろがみの鶴、香箱こうばこ三方さんぼう四方しほうを折ったり、あらん限りの可愛いものを集めて、雛壇ひなだんかざった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
きよろ/\しながら四方しほう見廻みまはすと、「」の士官しくわん水兵等すいへいらはくす/\わらつてる、濱島武文はまじまたけぶみはから/\わらつてる、春枝夫人はるえふじん手巾ハンカチーフかげからそつとわらつてる。
「上って、四方しほうに気をつけて見たが、隠れてる人間も居なかった。なァ、源太げんた友三ともぞう雲的うんてき
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日本は四方しほう海に囲まれているから海のさちは利用しつくしているはずだが、たった一つフランスに負けていることがある。それは烏貝からすがいがフランスほど普遍的な食物になっていないことだ。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼はなにとは無しに起きあがって、蝋燭をてらしつつ四辺あたりを見廻すと、四方しほうの壁は峭立きったての岩石であるが、所々にこぶのような突出とっしゅつの大岩があって、その岩の奥には更に暗い穴があるらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すなはち、そこは灌木帶かんぼくたいといふところで、こと偃松はひまつにつくので、偃松帶はひまつたいともいつてゐます。偃松はひまつ地上ちじよう二三尺にさんじやくのところにうでばし、ひぢつたように、えだ四方しほうにひろげてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
そうしてようやくできあがったかねだから、四方しほうたにひとこうの村々むらむらひとこころもこもっているわけだ。だからごんごろがねをつくと、そのたにむらおともまじっているようにこえるのだよ。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その上には二メートル四方しほうもあるような鏡がはめこみになっています。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
子供たちは四方しほうへ逃げ散りました。中には余り狼狽ろうばいしたはずみに、みちばたの花壇へ飛びこんだのもあります。白は二三間追いかけたのち、くるりと子犬を振り返ると、しかるようにこう声をかけました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
四方しほう板囲いたがこいにして、わずかに正面しょうめん入口いりぐちのみをのこし、内部なかは三つぼばかりの板敷いたじき屋根やね丸味まるみのついたこけらき、どこにも装飾そうしょくらしいものはないのですが、ただすべてがいかにもかむさびて、屋根やねにも
われ四方しほうに遊びてこころを得ず、陽狂ようきようして薬を施す成都の
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うまれて 四方しほうの志あり
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
四方しほうすゞしき宮霧みやきり
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
昨夕あれほど登ったつもりだのに、まだ登るんだからうそのようでもあるが実際見渡して見ると四方しほうは山ばかりだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
刑事たちは、その言葉を聞いて、また四方しほうに散った。壺は床の上にほうり出されたままだった。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こずえにのみ一團いちだんがあつて、みき丁度ちやうど天幕てんまくはしらのやうに、數百間すうひやくけん四方しほう規則正きそくたゞしくならんで奇妙きめうはやししたくゞつたりして、みち一里半いちりはんあゆんだとおもころ一個いつこいづみそばた。
そして六にんかたなをぬいて、酒呑童子しゅてんどうじている座敷ざしきにとびこみますと、酒呑童子しゅてんどうじはまるで手足を四方しほうからてつくさりでかたくつながれているように、いくじなく寝込ねこんでいました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それがおもしろくて、やたらに小石を黄金にしては、四方しほうになげちらしました。
銀の笛と金の毛皮 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この噂がたちまち町々にひろがつて、見物人が四方しほうからあつまつて来た。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
煮え切れない雲が、頭の上へ靠垂もたかかっていたと思ったが、いつのまにか、くずして、四方しほうはただ雲の海かと怪しまれる中から、しとしとと春の雨が降り出した。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一同いちどう飛立とびたつて、四方しほう見廻みまわしたが、なにえない。さてこゝろまよひであつたらうかと、たがひかほ見合みあはとき、またも一發いつぱつドガン! ふと、大空おほぞらあほいだ武村兵曹たけむらへいそうは、破鐘われがねのやうにさけんだ。
彼所あすこ此所こゝに席を立つものがある。花道はなみちから出口でぐちへ掛けて、ひとかげすこぶいそがしい。三四郎は中腰ちうごしになつて、四方しほうをぐるりと見廻みまはした。てゐるはづひと何処どこにも見えない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)