嘆息たんそく)” の例文
『いや/\、わたくしかへつて、天外てんぐわい※里ばんり此樣こんしまから、何時いつまでも、君等きみら故郷こきようそらのぞませることなさけなくかんずるのです。』と嘆息たんそくしつゝ
その上あたりは墓の中のようにしんと静まり返って、たまに聞えるものと云っては、ただ罪人がつくかすか嘆息たんそくばかりでございます。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、言葉をつづけた。(妹は、わしより二倍は強い。男に生れたら、日本中に相手はないのだが……)と、嘆息たんそくした。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そうだったか——」私は深い嘆息たんそくと共に、あの死んだ金が素晴らしくもてていた其の頃の情景をハッキリ思い出した。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこらから小さな嘆息たんそくやいのりの声が聞こえジョバンニもカムパネルラもいままでわすれていたいろいろのことをぼんやり思い出してあつくなりました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
看送みおくすまし更に余がかたに打向いて「うしても藻西太郎の仕業しわざと認める外は無い」と嘆息たんそくせり。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
話といっても、ふつうのことばでなく、ただやさしい、しおらしい嘆息たんそくの声のようなものであった。
ふみ投出なげだして嘆息たんそくしけるが、じんすけむかひてはなほさらかなしげに、姉樣ねえさまはあくまで吾助ごすけくみて、あれほど御覽ごらんれしうたに一たびのお返歌へんかもなく、あまつさへ貴君あなたにまで
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あまりに多くありすぎるのを考えて愁然しゅうぜんとし、『人生は短かすぎる』と幾度いくども言って嘆息たんそくした。
牛のほうはぞうさないけれど、むすこは助かる見込みこみがない。おふくろが前掛まえかけでなみだをふきながら茶をだしたが、どこにもよいことばかりはないと、しみじみ糟谷かすや嘆息たんそくした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
さすがの田川大作も、大河無門の気魄がぐいぐいと全体の空気を支配して行く力には勝てず、とうとう「そうかなあ」という嘆息たんそくに似た言葉を最後にもらして、旗をまいたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
取候事なげきの中の喜びにして是ひとへに御上の御威光ごゐくわう有難ありがたき仕合せに存じ奉ると申し述けるていまことしやかに見えしかば傳吉は覺悟かくごのことゆゑたゞくびを下て嘆息たんそくの外なかりけり今日は皆々白洲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ああああ、いつになったら、お金がたまることだろう」と嘆息たんそくしながらも、ありったけのお金を酒の代にしてしまいました。雨が降って手品が出来ないと、水ばかり飲んでいました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と堀口生は両手で頭をかかえて嘆息たんそくした。ナカナカ愛嬌あいきょうがある。皆はまた笑った。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なみだをはらはらと流しながら嘆息たんそくをして、なんのことばの出しようもありません。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
姉のエルネスチイヌは腕にりをかける。ルピック氏は、両手を背中に組んで、物好きな他人みたいに、仕事の運びを見物している。ルピック夫人は、なさけない声で嘆息たんそくの叫びを発する——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「おはり出來できなくつちや仕樣しやうねえなあ」おつぎは何時いつでも嘆息たんそくするのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
同人どうにん嘆息たんそくした。——いまでも金魚麩きんぎよぶはう辟易へきえきする……が、地震ぢしん四日よつか五日いつかめぐらゐまでは、金魚麩きんぎよぶさへ乾物屋かんぶつや賣切うりきれた。また「いづみ干瓢鍋かんぺうなべか。車麩くるまぶか。」とつてともだちは嘲笑てうせうする。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
康頼 明日あしたはいよいよ雨だな。(空を仰ぎ嘆息たんそくす)あのしつこい。退屈な。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
嘆息たんそくは彼の癖であった。何事にまれ胸中を打ち割って他に語るとか、憂いを磊落らいらく霧散むさんしてしまうとかいうことのできない彼は、それを独り——ああという一語によってせめてもの自慰じいとしていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは、彼自身かれじしん足跡あしあとをふりかへつてしづかに嘆息たんそくするやうにつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
と、ミハイル、アウエリヤヌヰチは嘆息たんそくしてふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「いかにもそうだ」とゴルドンも嘆息たんそくして
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
と、おじいさんは、嘆息たんそくしました。
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『あゝ、みなわたくしわるいのだ、わたくし失策しくじつたばかりに、一同みんな此樣こん憂目うきめせることか。』とふか嘆息たんそくしたが、たちまこゝろ取直とりなほした樣子やうす
「われわれ人間は、古今ここんを問はず、東西を問はず、架空かくうの幸福を得るために、みづから肉体を苦しめることを好むものである」と嘆息たんそくしてゐる。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
えい、竹見は嘆息たんそくした。たしかにこの映画をみると、一同が日本人であることは、明白であった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゆくさきざきの乳屋で虐待ぎゃくたいされて、ますます本物ほんものになったらしい。じつにきのどくというて、このくらい悲惨ひさんなことはすくなかろうと、安藤は長ながと話しおわって嘆息たんそくした。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
最初の幻惑げんわくした印象のごとく、理想の桃源郷やフェアリイランドではなかった——後年彼は友人に手紙を送り、ここもまた我が住むべき里にあらずと言って嘆息たんそくした——けれども
「ああ、無念——これまでか」と龍太郎は天をあおいで嘆息たんそくした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こぼしゐればお金は不審とまゆしわ平常へいぜいからして親子中のよいと云のは音羽中へひゞいて親に孝行な其お光さんが何した譯でと問ど親子は嘆息たんそくの外に回答いらへもあらざれば一所に置ては面倒めんだうというてお金は無理やりにお光を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、ミハイル、アウエリヤヌイチは嘆息たんそくしてうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
(風と嘆息たんそくとのなかにあらゆる世界の因子いんしがある)
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
一同は走りでて、うらめしそうに嘆息たんそくした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
おもはず嘆息たんそくをしてつぶやいた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こうなればあらゆる商売のように、所詮しょせん持たぬものは持ったものの意志に服従するばかりである。犬もとうとう嘆息たんそくしながら、黍団子を半分貰う代りに、桃太郎のともをすることになった。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、芸術(表現)は、かかるイデヤに対するあこがれであり、勇躍への意志であり、もしくは嘆息たんそくであり、祈祷きとうであり、あるいは絶望の果敢はかなき慰め——悲しき玩具がんぐ——であるにすぎない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
嘆息たんそくともながめてると、さら奇怪きくわいなるは、その端艇たんていとうじたる一群いちぐんひと、それは一等船客いつとうせんきやくでもなく、二等船客にとうせんきやくでもなく、じつこのふね最後さいごまで踏止ふみとゞまはづ水夫すいふ火夫くわふ舵手かぢとり機關手きくわんしゆ
「この人間戦車は、性能が悪いなあ」一郎は、嘆息たんそくした。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宮内は双方そうほうの顔を見くらべて、つくづくとこう嘆息たんそくした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くみしは身の過失あやまりこの娘にして其病ありとは嗚呼あゝ人は見掛によらざる物かと嘆息たんそくなしてゐたりしが漸々やう/\にして此方こなたに向ひさる惡病のあると知らば假令たとへ若旦那わかだんながどの樣に戀慕こひしたひて居給ふとも決してお世話は致すまじきに全く知ずになせし事故不行屆ふゆきとゞきの其かどは平に御勘辨かんべん下さる可しさうして此上の御思案しあんは何の思案に及ぶ可きすぐ婚姻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
桃太郎はこういうかさがさねの不幸に嘆息たんそくらさずにはいられなかった。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
時々、牢天井へ、彼は弱々しい嘆息たんそくをあげて
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嘆息たんそく畏敬いけいの声が同時に起る。
足をやすめるたびに嘆息たんそくした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辻永は大きく嘆息たんそくをした。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)