参詣さんけい)” の例文
旧字:參詣
たまたま門前に一人の跛者があって、毎日匍匐ほふくして参詣さんけいし、「ドウゾ神様、この足をなおして下され」と一心をこめて祈願している。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
女房のおよねうちを閉め切って、子守女こもりのお千代に当歳の女のを負わせた三人連れで、村から一里ばかりあるH町の八幡宮に参詣さんけいした。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
朝のうち参詣さんけいの路で見た時には、あれほど生い茂ってどうしようかと思った田の草が、帰りに見るともう一つも残らずとってある。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
常陸介と山尾とは、疫病の原因を知っているため、かえって疫病が恐ろしく他人ひとにも増して神社仏閣へ熱心に参詣さんけいするのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この魚市場に近い、本願寺別院—末寺ととなえる大道場へ、山から、里から、泊りがけに参詣さんけいする爺婆じじばばが、また土産にも買って帰るらしい。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時参詣さんけいに来合せたものは、はじめ何事かとあやしみ、ようよう籤引の意味を知って、皆ひどく感動し、中には泣いているものもある。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「その安珍がまた、山伏のくせにばかに好い男なのだ、そうして熊野参詣さんけいの道すがら、清姫様のところで一夜の宿を借りたと思いなさい」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はこの人が仏弟子ぶつでしながら氏神をも粗末にしないで毎月朔日ついたち十五日には荒町あらまちにある村社への参詣さんけいを怠らないことを知っていたし
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
犠牲者の墓地を参詣さんけいして一歩外へ出るといきなり、山から落ちる奴がある。そうかと思うと落ちたとたんに代り合って登って行くのがある。
伊右衛門はますます恐れて雑司ヶ谷ぞうしがや鬼子母神きしもじんなどへ参詣さんけいしたが、怪異はどうしても鎮まらないで女房が病気になったところへ、四月八日
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
古美術の本を携えて夢殿見物に出かける人は多いが、たとえば親鸞しんらんの太子奉讃の和讃を心にとなえつつ参詣さんけいする人はまれであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その一つなるツァーリーに私は参詣さんけいする心算つもりであるが多分四ヵ月は掛るだろう。四ヵ月だけの食糧と学資金とを置いて行くから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
けるにしたがって、おどりのもちり、参詣さんけいの人もたえ、いつか、あなたこなたの燈籠とうろうさえ、一つ一つ消えかかってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど上元じょうげんの日であった。水月寺の尼僧達が盂蘭盆会うらぼんえを行ったので、その日はそれに参詣さんけいする女が四方から集まって来た。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
青空にはとびが一羽ぴょろぴょろ鳴きながら舞っていて、参詣さんけいのひとたちは大社様を拝んでからそのつぎに青空と鳶を拝んだ。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
村民をあつめて文珠菩薩の祭礼さいれいおこなひ、あはせて此一行をも招待せうたいすべし、而して漸次道路を開通がいつうここたつし、世人をして参詣さんけいするを得せしめんと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
氏子はその氏神へ参詣さんけいする位に過ぎない。息子や娘は参詣すべき神様の御名前も知らないでいる位神様の内容が弱って来た。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
探索に来ただか、加波山神社へ参詣さんけいに来ただかわからねえし、それに、早まって饒舌って、ひとに手柄を取られちゃいけねえと思ったもんだで
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
唖の巳代吉が裸馬はだかうまに乗って来た。女子供がキャッ/\さわぎながら麦畑の向うを通る。若い者が大勢おおぜい大師様の参詣さんけいに出かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
女の子の小さい時から私は特別なお願いを起こしまして、毎年の春秋に子供を住吉へ参詣さんけいさせることにいたしております。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ここすむ近在きんざい后谷村ごやむらといふあり。此村の弥左ヱ門といふ農夫のうふおいたる双親ふたおや年頃としごろのねがひにまかせ、秋のはじめ信州善光寺へ参詣さんけいさせけり。
芝の三田から中目黒の不動堂へ参詣さんけいして、ここまで尋ねて来るのに半日かかった。だがこの目黒というところはなかなか見どころの多いところだ。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おッとッと、そう一人ひとりいそいじゃいけねえ。まず御手洗みたらしきよめての。肝腎かんじんのお稲荷いなりさんへ参詣さんけいしねえことにゃ、ばちあたってがつぶれやしょう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いの一番に参詣さんけいして一年中の福徳を自分一人で受ける考え——朝はちょっと人が薄く、午前十時頃からまた追々雑踏するが、昼の客は割合にお人柄で
伊勢の大廟たいびょうから二見の浦、宇治橋の下で橋の上から参詣さんけい人の投げるぜにを網で受ける話や、あいの山で昔女がへらでぜにを受けとめた話などをして聞かせた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そして、ろうそくをってやまのぼり、おみや参詣さんけいして、ろうそくにをつけてささげ、そのえてみじかくなるのをって、またそれをいただいてかえりました。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
漢の高祖が魯を通った時これを祠った。この地方を治める諸侯卿相も、赴任するとともにまずここに参詣さんけいする。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「六時に起きて、七時半に湯から出て、八時に飯を食って、八時半に便所から出て、そうして宿を出て、十一時に阿蘇神社あそじんじゃ参詣さんけいして、十二時から登るのだ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今方いまがたそんな騒ぎのあったとも心附かぬ参詣さんけい群集ぐんじゅは相も変らず本堂の階段をあがりしていると、いつものように、これも念仏堂の横手に陣取った松井源水まついげんすい
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お師匠さんは乗物が嫌いで、取分け自動車と船とが苦手であったこと。それでも信仰心があつくて、毎月廿六日には欠かさず阪急沿線の清荒神きよしこうじん参詣さんけいしたこと。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
寛宝かんぽう三年の四月十一日、まだ東京を江戸と申しました頃、湯島天神ゆしまてんじんやしろにて聖徳太子しょうとくたいし御祭礼ごさいれいを致しまして、その時大層参詣さんけいの人が出て群集雑沓ぐんじゅざっとうきわめました。
菅笠すげがさ草鞋わらじを買うて用意を整えて上野の汽車に乗り込んだ。軽井沢に一泊して善光寺に参詣さんけいしてそれから伏見山まで来て一泊した。これは松本街道なのである。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
一昨々年さきおととしの九月、修禅寺の温泉に一週間ばかり遊んでいる間に、一日あるひ修禅寺に参詣さんけいして、宝物を見せてもらったところが、その中に頼家の仮面めんというものがある。
神詣かみまうでには矢張やは真心まごころひとつが資本もとででございます。たとえ神社じんじゃへは参詣さんけいせずとも、熱心ねっしんこころねんじてくだされば、ちゃんとこちらへつうずるのでございますから……。
七日まえにまず増上寺へ正式のお使者が立って、お参詣さんけいお成りのお達しがある。翌日、城内御用べやに南北両町奉行ぶぎょうを呼び招いて、沿道ご警衛の打ち合わせがある。
これは田畑に体を使つたためであつた。しかしそれまで幾度となく湯殿山に参詣さんけい道中だうちゆう自慢じまんであつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
誰もが少しずつ遣るものですから、参詣さんけいの多い日の夕方などには、もう下りて来ないとのことでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
あるとしあきなかばのことでした。保名やすなは五六にん家来けらいれて、信田しのだ明神みょうじん参詣さんけいに出かけました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
彼女もまた何十年となく、毎年今頃に参詣さんけいすることにしてゐて、その占ひを信じてゐるのであつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
河の氷がようやく崩れはじめ、大洋の果てに薄紫の濛靄もやけぶるころ、銀子はよその家の三四人と、廻船問屋かいせんどんや筋の旦那衆だんなしゅうにつれられて、塩釜しおがま参詣さんけいしたことがあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「それならば、遊山かたがた参詣さんけいに行け。おれも行くのだ。一日でも二日でも、土地が変われば気もちもあらたまる。わしに、麦田一八郎に、お前に、歌子に、大久保の——」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
護国寺前通り——参詣さんけいの善男善女、僧坊の大衆を目あてに、にぎわしく立ち並んだ町家が、今は、盛り場の観をさえなして、会席、茶屋なぞが、軒を接しているのみではなく
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
妙見様へ参詣さんけいの帰りに友達のところへよると、殿村南平とのむらなんぺいという男がきていた。その男が
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
さて句意は、初午すなわち二月の最初の午の日には、稲荷神社はもとよりのこと、大名その他大きな邸宅の中にある稲荷いなりにも多くの人が参詣さんけいするのでありますが、ふと足を踏まれた。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その頃は神仏参詣さんけいが唯一の遊山ゆさんであって、流行の神仏は参詣人が群集したもんだ。
忘れてしまへあきらめてしまへと思案はめながら、去年の盆にはそろひの浴衣ゆかたをこしらへて二人一処に蔵前くらまへ参詣さんけいしたる事なんど思ふともなく胸へうかびて、盆に入りては仕事にいづはりもなく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
清盛が厳島いつくしま参詣さんけいする道をなおくするために切り開かした音戸おんど瀬戸せとで、傾く日をも呼び返したと人は申しまする。法皇は清盛のむすめはらから生まれた皇子おうじに位をゆずられる、と聞いております。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そのコリント風の円柱の立った中には参詣さんけい人が何人も歩いていました。しかしそれらは僕らのように非常に小さく見えたものです。そのうちに僕らは腰の曲がった一匹の河童かっぱに出合いました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
(第四)三月十一日、勅使の芝上野参詣さんけいの接伴にあたった内匠頭は、その前日休息所の畳表をあたらしくすべきかどうかということについて上野介の意見を求めたところが、彼は立ちどころに
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
風の日も雨の日もいとうことなく、住居をる十町ばかりの築土八幡宮つくどはちまんぐう参詣さんけいして、愛児の病気を救わせ給えといのり、平生へいぜいたしなめる食物娯楽をさえにちたるに、それがためとにはあらざるべけれど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)